<第1子出産前後の女性の継続就業率2020年までに55%>
わが国は今、国を挙げてワーク・ライフ・バランスの実現社会を目指している。そのために政府が策定した「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(2010年6月改定)における数値目標では、第1子出産前後の女性の継続就業率(第1子妊娠前に就業していた女性に占める第1子1歳時に就業していた女性の割合)を2020年までに55%と設定している。最新の数値は38%であるので、目標達成までにあと17ポイント増やす必要がある。本稿では、女性の就業動向を示した上で、出産後の女性の継続就業率を高めるための課題について考える。
<1980年代後半から増えていない継続就業率>
初婚同士の夫婦について、結婚年別に結婚前後の妻の就業変化を示した図表1をみると、1980年代後半以降、「就業継続」の割合は増加傾向であり、「結婚退職」の割合は減少していることがわかる。多くの人にとって、「結婚」は継続就業の壁となっていないようである。
一方、結婚前・妊娠時に働いていた女性に限定して、結婚ないし第1子の出生年別に就業状況を示したものが図表2である。結婚前に働いていた人のうち結婚後も働き続ける割合は増えているが、第1子出産前後での就業継続率は、1980年代後半から39%前後で推移している。
1985年に男女雇用機会均等法が成立して以来、育児休業制度や保育所の充実など、女性の就業のための環境整備が図られているが、出産後の女性の継続就業率はほとんど変化がみられない。目標値である55%まで継続就業率を増やすためには、今から10年ほどでこの状況を変えなければならないということである。
<出産を機に辞めてパートとして再就職する女性が多い>
実際、女性は出産のために退職をしても、その後はパート・アルバイトとして就業を再開している人が多い。図表1で使用した国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、末子が9歳以上の女性の就業割合は65.2%である(図表省略)。しかしながら、そのうち正規の職員は17.3%であるのに対し、パート・派遣が41.4%を占めており、パートや派遣として働き始める人が多い。当研究所が実施したアンケート調査では、パートとして働いている母親の就労理由としては、「自分の望む時間帯や勤務日で働けるから」(64.5%)、「家事や子育て等との両立がしやすいから」(53.8%)、「勤務時間や労働日数が短いから」(34.8%)が上位を占めている(図表3)。子育てとの両立ができるという理由でパートとして働いている母親が多いことがわかる。一方、パートとして働いている母親の就業履歴をみると、学校卒業後、結婚・出産までは正社員として働いていた人がほとんどである(的場康子「子育て期の女性の就業意識」『Life Design Report』Spring.2011.4)。実態としては出産後も働いている母親が多いが、一時辞める人が多いために「継続就業率」は増加していないという状況が続いている。
<育児休業は定着しているといえるか>
現在わが国では、仕事を辞めなくても育児のために長期休暇を保障する育児休業制度が整備されている。多くの人が仕事を辞める代わりに育児休業を選択できれば、継続就業率も高まる。しかし実際には、妊娠時に就業していた女性のうち、出産後、育児休業を利用して継続就業をした割合は24.2%である(図表2)。法的に整備されていても、現状ではまだ一部の女性しか利用していないという状況が続いている。
なぜ出産を機に辞めるのか。厚生労働省「平成22年版働く女性の実情」(2011年5月)から、妊娠・出産前後に退職した女性正社員の理由をみると、「家事・育児に専念するために自発的にやめた」の割合が39.0%で最も高いが、次に「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさでやめた」(26.1%)や「解雇された、退職勧奨された」(9.0%)が続いている(図表省略)。自発的に仕事を辞めた人が最も多いが、「両立の難しさ」と「解雇、退職勧奨」といった辞めざるをえなかった理由を合わせると35.1%となり、自発的に辞めた人の割合と同じくらいになる。
継続就業率の目標を達成させるためには、まずは各職場において、多くの女性が意思に反して出産退職を選択することなく継続就業ができるよう、育児休業を取得しやすくするなどの職場環境づくりを今一度見直すことが必要である。
<出産後の働き方の選択肢を広げる短時間勤務制度>
先述のとおり「仕事と育児の両立の難しさ」のために仕事を辞める人が26.1%であったが、出産後の働き方として、正社員のままでも短時間勤務が可能であるという見通しがあれば、出産を機に辞めるという選択をしなくてもすむ人も増えると思われる。そのための制度が短時間勤務制度である。2009年の育児・介護休業法の改正により、3歳に満たない子を養育する労働者が希望すれば利用できる短時間勤務制度(1日原則6時間)が、2010年6月30日から、従業員が常時101人以上の企業に対し義務化された。2010年10月1日現在、企業の導入割合は54.3%であり、前年の47.6%を上回っている(厚生労働省「平成22年度雇用均等基本調査」2011年7月)。また、図表3で示した当研究所のアンケート調査における自由記述意見には、「正社員でも短時間勤務制度が利用できれば非正社員にならなくてすむと思うし、家庭との両立がしやすいと思う」「その制度があれば、キャリアを重ねた会社を退職しなくてもすむ」「子どものために早く帰れる」など、短時間勤務制度利用のメリットがあげられている。
一方、勤務先に短時間勤務制度がある事業所について、2010年度の利用状況をみると、育児休業後の復職者に占める制度利用者の割合は35.5%となっている(前記「雇用均等基本調査」)。制度はあっても利用しない人の方が多いのが実態である。上記の当研究所アンケート調査では、同制度を利用しない理由として「収入が減る」(35.2%)が最も多く、次に「仕事内容・量が変わらないので短時間勤務ができない」(29.6%)が続いている(図表省略)(的場康子「育児のための短時間勤務制度の現状と課題」『Life Design Report』Autumn.2011.10)。この他、同アンケート調査の自由記述意見には、短時間勤務制度を利用すると「周りに迷惑をかけるので利用しにくい」や「人事評価にマイナスの影響があると思うので利用しがたい」などの意見もある。
<短時間勤務制度の義務化を機に、職場環境の見直しを>
短時間勤務制度の普及により、多くの人が出産後も仕事と両立できる働き方の見通しをもつことができれば、女性の継続就業率上昇にも大きく寄与すると思われるが、育児休業制度と同様、その利用のしやすさに課題があるようである。
2012年7月1日からは、常時100人以下の労働者を雇用する事業主についても短時間勤務制度が義務化されることになっており、さらに多くの人が利用できる環境が整うこととなる。これを機に各職場で従業員、会社双方にとって同制度の意義を共有し、活用しやすい、されやすいものにしていくよう職場環境を見直してみることが必要である。そのためには、同制度の利用に当たり、社員が望む働き方と、会社が期待する働き方や求める成果などについて、職場内で十分なコミュニケーションを図ることも重要と思われる。(提供:第一生命経済研究所)
研究開発室 的場 康子