<夫の休日の育児参加があると出産増>
厚生労働省は2002年に当時20代から30代前半であった男女を対象に、その後の出産状況等を継続調査している。この調査から、夫の育児参加と出産の関係について興味深い結果が出された。それは、夫の休日の家事・育児時間が長いほど、新たに子どもが産まれることが多いというものである(図表1)。具体的には、既に子どもが1人いる夫婦の場合、夫の休日の家事・育児時間が「なし」の場合には子どもが産まれた割合は23.7%であるが、家事・育児時間が長くなるほど子どもが産まれた割合が高まり、「6時間以上」では85.5%になっている。既に子どもが2人いる夫婦の場合、家事・育児時間が「なし」の夫婦では子どもが産まれた割合は3.6%であるが、こちらも家事・育児時間が長いほど子どもが産まれた割合は高くなっている。
子どもがいない夫婦においては、家事・育児時間が「6時間以上」の場合に子どもが産まれた割合が高くなっているが、「なし」から6時間未満までをみると家事・育児時間と出産の間には明瞭な関係はない。
この調査は、調査期間内に出産した夫婦については出産前の家事・育児時間を、出産していない夫婦については前回調査の家事・育児時間を集計したものである。このため、出産した夫婦においては、出産を予定しているので父親が妻の家事・育児を手伝うようになったという逆の因果関係が含まれている可能性はある。厳密な分析は今後に期待したいが、平日ではなく、休日の父親の家事・育児への関わりが母親の出産を容易にするという結果は注目される。
<休日に子どもに関わる日本の父親>
わが国の父親の育児参加を語るとき、「休日」がキーワードになる。図表2は、東京、ソウル、北京、上海のアジア4都市の父親が子どもと過ごす時間である(図表2)。平日をみると、東京の父親は子どもと過ごす時間が最も短い。東京と並びその時間が短いのはソウルである。これに比べると、北京と上海という中国の都市に住む父親が 子どもと過ごす時間は長い。
一方、休日をみると、その傾向は平日と正反対である。東京の父親は4都市の中で最も子どもと過ごす時間が長い。ソウルの父親は東京に次いで長い(図表3)。
以上から、日本の父親には、平日に子どもと過ごす時間が非常に短いが、休日に相当長い時間子どもと一緒に過ごしているという特徴があるといえる。
日本の父親が子どもとしていることをみると、子どもが未就学児のうちは、大半の父親が子どもとよく会話をしたり、子どもと余暇や休日を一緒に楽しんだりしている(図表4)。日本の家庭は父親不在といわれることが多いが、それは子どもがもう少し大きくなってからである。
このような父親の家庭への関わり方の特徴が、平日ではなく、休日における父親の家事・育児時間が長い夫婦ほど子どもをもうけることが多いことにつながっているとみられる。
<なぜ休日に関わることが多いのか>
ここで疑問になることは、なぜ平日ではなく休日なのかということだろう。それは、父親の労働時間にある。6歳以下の子どものいる父親の平日1日の労働時間(休憩時間や通勤時間は含まない)は2009年時点で平均11.3時間である(図表5)。これに昼休みなどの休憩時間や往復の通勤時間を含めれば、父親たちの仕事関係の拘束時間は1日平均13時間以上にのぼるとみられる。これは朝8時に家を出た人が、夜9時に帰宅するというイメージである。この時間の長さだけでも、相当疲弊するはずである。これでは、普通の人には平日に家事・育児は無理だろう。
父親の平日の労働時間は過去10年間で短くなるどころか、長くなっている。2009年の調査結果はリーマンショック後の不況時のものであるが、それでもほとんど労働時間は短くなっていない。この不況期に製造現場等は生産を削減して従業員の労働時間も短縮したとみられるが、働く人全体でみたときは、ちょうど中堅社員にあたる年代の男性たちは以前と同様に長時間働いている(図表省略)。
平日の労働時間が長いことが、父親が育児をする日を限定している。過去10年間の父親の育児参加の週当たりの回数をみると、子どもの「世話」をすることも、子どもと「遊ぶ」ことも、週2~3回であまり変わらない。「世話」については、減った可能性すらある。週2~3回といえば、週休2日とすれば、週末2日と平日1日に子どもに関わっているという計算である。
<イクメンに休みはあるのか>
以上のように、日本の父親たちの労働時間は非常に長いため、平日は育児にはあまり関わっていない。その分を埋め合わせるように、休日には相当長い時間を子どもに関わる時間にあてている。これは立派な「イクメン」と呼べるのではなかろうか。イクメンといわれる人たちは、意外にもばりばり仕事をしている父親に多いが、ここにあげた調査結果にもそれはあらわれている。
少子化に悩むわが国は、父親の家事や育児への関わりが少ないことが出産を少なくしている要因のひとつとみて、父親の育児参加促進策を実施してきた。近年の「イクメンプロジェクト」という啓発活動も、厚生労働省が実施したものである。休日に育児に積極的に関わる父親たちをみると、こうした啓発活動が一定の効果をあげたとみられる。
しかし、イクメンたちは、平日は相当長時間働いている。昔の日本男性は長時間労働であったが、CM ソングとしてヒットした曲に歌われたように、週末には家でトドのように寝ていたことも少なくなかった。しかし、平日は仕事に、休日は育児に精を出す現代のイクメンたちには、十分な休息時間はあるのだろうか。(イクメンが休やす)メン(休めないメンズ)になってしまっては、そうした生活は長続きしないように思える。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 松田 茂樹