第一生命保険株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 長谷川 公敏)では、全国の20 歳から69 歳までの正社員として働いている人で、現在あるいは過去に親(配偶者の親を含む)の介護経験がある953 名を対象に、標記についてのアンケート調査を実施いたしました。その調査結果をご報告いたします。

≪調査結果のポイント≫

介護のために仕事を辞めたいと思うか
● 仕事を辞めたいと思うことがある人の69.0%が勤務先の両立支援制度に、51.2%が家族の中での介護分担に不満がある

介護ために仕事を辞めたいと思う理由
● 第1位は「働きながら、在宅介護は難しいから」39.5%、第2位は「親のため、介護に専念したいから」30.2%

介護生活における不安や悩み
● 第1位は「介護生活がいつまで続くのか不安である(であった)」80.2%、第2位は「介護のために自分の自由な時間がない(なかった)」65.1%

介護中の実際の働き方
● 第1位は「なるべく残業をしない」52.2%、第2位は「たびたび有給休暇を取得する」32.5%

介護中の希望する働き方
● 男性の1位は「フレックスタイム」19.2%、女性の1位は「介護休業を取得する」19.5%

介護と仕事との両立に関する意識
● 「会社(職場)は親の介護をしていることに理解をしてくれる(してくれた)」や「勤務先の介護との両立支援制度は充実している(していた)」と思っている人の方が、そうでない人よりも、「自分は介護と仕事との両立ができている(できた)」と思っている割合が高い

介護と仕事との両立のために必要な支援策
● 「介護保険制度における介護施設が充実すること」

☆本冊子は、当研究所から季刊発行している『ライフデザインレポート』Spring 2012.4 をもとに作成したものです。当該レポートは、下記のホームページにて全文公開しております。

≪調査の実施背景≫

 高齢者介護を社会全体で支える体制を整えるため、介護保険制度が2000 年に創設されてから12 年が過ぎました。この間、同制度により介護サービスの充実が図られています。しかしながら今後、高齢化の進展に伴い、ますます要介護者が増えることが見込まれており、介護問題は多くの人が直面する可能性の高いものとなります。そのため介護支援体制の更なる拡充が求められています。

 特に最近では、単身、共働き世帯等の増加に伴い、ワーク・ライフ・バランスの観点から、働きながら介護をしている人に対する両立支援策の充実への関心も高まっています。実際、介護と仕事との両立を支援するため、育児・介護休業法において、介護休業制度などが定められており、両立支援制度の整備が進みつつあります。

 しかしながら、育児との両立の場合に比べますと、育児休業よりも介護休業の方が男女ともに退職者の割合が高く、介護の場合特に、仕事との両立の厳しさがうかがえます。

 こうしたことを背景に、当研究所では介護と仕事との両立の実態と意識について明らかにするために、正社員として働きながら自分もしくは配偶者の親の介護を現在している、または過去にしたことがある人を対象としてアンケート調査を実施しました。

 この調査から、今回は、介護や働き方の実態や意識などについての分析結果を紹介します。

≪調査の実施概要、回答者の特性≫

1.調査地域と対象
全国の20~69 歳までの正社員として働いている人で、現在あるいは過去に、自分もしくは配偶者の親の介護をしている(したことがある)人が対象。

2.サンプル
953 人
本ニュースリリースでは、953 人のサンプルのうち、現在介護をしている472 人と、過去に正社員として働きながら介護をしたことがある377 人の合計849 人を対象にした分析結果を使用しています。
(尚、2011 年11 月7日に同953 人のサンプルのうち、介護保険制度を利用している587人を対象にした分析結果を「親の介護に関するアンケート調査」としてニュースリリースしています。http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/news/news1111.pdf

3.調査方法
株式会社クロス・マーケティングに委託してインターネット調査により実施。

4.実施時期
2011 年9 月22 日~10 月2日

5.本稿で使用した回答者の属性

全国の親の介護経験がある正社員953 名に聞いた 『介護と仕事との両立に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

介護のために仕事を辞めたいと思うか

仕事を辞めたいと思うことがある人の69.0%が勤務先の両立支援制度に、51.2%が家族の中での介護分担に不満がある

全国の親の介護経験がある正社員953 名に聞いた 『介護と仕事との両立に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

 現在、正社員として働きながら介護をしている人に、「介護のために、仕事(会社)を辞めたいと思うことがありますか」とたずねたところ、「辞めたいと思うことがある」が27.3%、「辞めたいと思うことはない」が72.7%でした(図表省略)。性別にみると、男性は「辞めたいと思うことがある」の割合は25.0%、女性は33.9%であり、女性の方が「辞めたいと思う」割合が高いことがわかります(図表省略)。

 「辞めたいと思うことがある」人と「辞めたいと思うことはない」人の間で、満足度がどのように異なるかをみたものが図表1です。「勤務先にある両立支援制度」と「職場の人々との人間関係」についての満足度をみると、「辞めたいと思うことがある」人の方が、ない人よりも「満足している」(「満足している」と「どちらかといえば満足している」の合計、以下同様)の回答割合が低いことがわかります。

 また、「家族の中での介護の分担」と「利用している介護サービス」についても、「辞めたいと思う」人の方がそうでない人よりも「満足している」の割合が低いという結果です。

 介護のために仕事を辞めたいと思うことがあるか否かは、職場の制度や人間関係、家族の中での介護の分担や介護サービスに対する満足度が関係していることがうかがえます。



介護のために仕事を辞めたいと思う理由

第1位は「働きながら、在宅介護は難しいから」39.5%
第2位は「親のため、介護に専念したいから」30.2%

全国の親の介護経験がある正社員953 名に聞いた 『介護と仕事との両立に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

 現在働きながら介護をしている人のうち、介護のために仕事(会社)を「辞めたいと思うことがある」と回答した人に、辞めたいと思う理由をたずねたところ、全体では「働きながら、在宅介護は難しいから」(39.5%)、「親のため、介護に専念したいから」(30.2%)が上位2位を占めていました(図表2)。介護のために仕事(会社)を辞めたい理由として、「在宅介護」と仕事との両立の難しさを挙げた人が最も多いことがわかります

 ただし性別にみると、女性で第2位の項目は「自分自身の体力に自信がないから」であり、男性の回答割合を20 ポイント以上も上回っています。「育児と介護の両方は大変だから」や「会社に迷惑がかかるから」といった項目も女性の回答割合の方が男性よりも高くなっています。特に女性の場合は、普段から家事や子育ての負担もあり、それに加え介護をしながら働くことの負担の大きさを感じている人が多いようです

 反対に、「親のため、介護に専念したいから」や「この先、介護の終わりの見通しがたたないから」などは男性の回答割合が女性を上回っており、男性の場合は現状の働き方を維持することの難しさを感じている人が多いことがうかがえます



介護生活における不安や悩み

第1位は「介護生活がいつまで続くのか不安である(であった)」80.2%
第2位は「介護のために自分の自由な時間がない(なかった)」65.1%

全国の親の介護経験がある正社員953 名に聞いた 『介護と仕事との両立に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

 正社員として働きながら介護をしている人の不安や悩みをたずねたところ、「介護生活がいつまで続くのか不安である(あった)」に「あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」と回答した合計割合(以下同様)が80.2%と多くを占めていました(図表3)。介護がいつまで続くのか、不安を感じながら生活をしている人が多いことがわかります

 性別による回答傾向の違いはあまりみられないものの、「介護のために自分の自由な時間がない(なかった)」と「自分だけが介護を押し付けられていると思うことがある(あった)」の回答割合は女性の方が男性よりも高くなっています。自分が主に介護を担う場合には介護の負担感を強く感じると思われますが、女性の場合、そういう境遇にある人が多いことが推察できます。男性では「どこで(要介護者の家、介護者の家、親族の家、施設など)介護をするのか悩んでいる(悩んだ)」や「家族または親族の中で誰が主に介護をするのか悩んでいる(悩んだ)」の回答割合が女性よりも高くなっています。男性の場合、実際の介護の場所や担い手について、女性よりも悩んでいる人の割合が多いことがわかります



介護中の実際の働き方

第1位は「なるべく残業をしない」52.2%
第2位は「たびたび有給休暇を取得する」32.5%

全国の親の介護経験がある正社員953 名に聞いた 『介護と仕事との両立に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

 本調査の対象はすべて正社員として働きながら介護をしている人ですが、実際にどのような働き方をしているのかをたずねた結果が図表4です。

 全体では「特に制度を利用せず、通常通り働く」への回答割合は15.2%であり、何らかの制度を利用しながら働いている人が多いことがわかります。中でも「なるべく残業をしない」(52.2%)と「たびたび有給休暇を取得する」(32.5%)が上位を占めています。なるべく残業をしないで、有給休暇を取得するなどして、介護との両立生活を乗り切っている人が多いようです

 性別にみますと、「1日の所定労働時間を短くする(短時間勤務)」の回答割合は女性が27.9%であり、男性よりも10 ポイント以上高くなっています。女性の約3割は短時間勤務をしているようです。先に述べた上位項目「なるべく残業しない」「たびたび有給休暇を取得する」「短時間勤務」の他、「介護休業を取得する」「1週間または1か月の所定労働日数を短くする(短日勤務)」の回答割合も、大差ではありませんが女性の方が男性よりも高い傾向がみられ、女性の場合は、様々な制度を活用しながら働いていることがわかります



介護中の希望する働き方

男性の1位は「フレックスタイム」19.2%
女性の1位は「介護休業を取得する」19.5%

全国の親の介護経験がある正社員953 名に聞いた 『介護と仕事との両立に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

 介護中の働き方について、図表4の項目の中から最も希望するものを一つだけ選んで回答してもらった結果について、上位7項目までを示したものが図表5です。

 全体では、「一定の範囲において出社・退社時刻を自由に決める(フレックスタイム)」が18.3%で最も高い結果となっていますが、この他の項目についても回答割合が1割台の項目が多く、回答者の選択が分散しています。それは介護の状況や職場環境など介護者の生活事情によって、望ましい働き方が異なることを示していると思われます。

 性別にみますと、男性では「フレックスタイム」が19.2%で最も高くなっています。また、男性の場合、「特に制度を利用せず、通常通り働く」への回答割合が12.3%と、女性の回答割合よりも約5ポイント上回っており、できれば通常通り働きたいと思っている人が女性よりも多いことがうかがえます。女性では「介護休業を取得する」が19.5%で最も高い結果となっています。



介護と仕事との両立に関する意識

職場の理解や制度が充実している人の方が両立していると思っている

全国の親の介護経験がある正社員953 名に聞いた 『介護と仕事との両立に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

 自分の生活をかえりみて、介護と仕事との両立についてどのように感じているかをたずねた結果が図表6です。「自分は介護と仕事との両立ができている(できた)」に対し、「あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」と回答した合計割合(以下同様)は60.3%です。「会社(職場)は親の介護をしていることに理解をしてくれる(してくれた)」には53.2%が回答しており、特に女性の回答割合が62.8%と男性を上回っています。他方、「勤務先の介護との両立支援策は充実している(していた)」の回答割合は34.4%と上記に比べ低くなっています。勤務先の両立支援制度に対する評価はあまり高くないようです。

 次に、「自分は介護と仕事との両立ができている(できた)」の回答割合と、他の項目との関連をみますと、「会社(職場)は親の介護をしていることに理解をしてくれる(してくれた)」人の方が、また「勤務先の介護との両立支援制度は充実している(していた)」人の方が、それぞれあてはまらない人よりも「両立ができている(できた)」人の割合が高いことがわかります(図表7)。介護と仕事との両立が可能であるためには、職場の介護に対する理解や両立支援制度の充実度合いが関係していることがうかがえます



介護と仕事との両立のために必要な支援策

介護保険制度における介護施設や在宅介護サービスの充実が上位

全国の親の介護経験がある正社員953 名に聞いた 『介護と仕事との両立に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

 介護をしながら働いている人が仕事を続けるにあたり、介護面、仕事面を含め、どのようなことを必要としているかについてたずねた結果が図表8です。

 第1位は「介護保険制度における介護施設が充実すること」(57.8%)、第2位は「介護保険制度における在宅介護サービスが充実すること」(43.6%)、以下「介護休業取得中の所得保障が充実すること」(21.9%)、「高齢者向けのサービスつき住宅が充実すること」(21.0%)の順となっています。上位2位は介護保険制度の充実を望むものです。介護保険制度による介護サービスが、介護をしている人を支える重要な社会資源であると多くの人が認識しており、その充実に対する期待の大きさがうかがえます

 他方、勤務先への要望は第5位からあげられていますが、そのトップは「会社(職場)が介護休業制度を取得しやすくしてくれること」、次いで「介護のために一度辞めても、同じ会社への再雇用が保障されること」となっています。

 介護と仕事との両立のためには、「介護」に対する支援と「仕事」に対する支援の両方が不可欠ですが、多くの人は、まずは介護を支える制度の充実を期待しており、介護サービスの活用により、仕事との両立生活を乗り切りたいと思っていることがうかがえます



≪研究員のコメント≫

 以上、正社員として働きながら親の介護をしている人の介護や働き方についての意識や実態を紹介しました。本調査結果から、介護をしながら働き続けるためには、まずは介護保険制度の充実を望む人が多いことがわかりました。介護保険制度による介護サービスが、介護をしている人を支える重要な社会資源であると多くの人が認識しており、その充実に対する期待の大きさがうかがえます

 また、企業における両立支援制度の充実とともに、介護をしながら働いている職員に対する職場の理解、すなわち勤務先における職場環境も重要なポイントであることもわかりました。育児・介護休業法により介護休業制度等が整いつつあり、介護休業の利用を希望する人が多いのですが、その運用は各職場に任されています。実際、利用したくても利用できないという人もおり、勤務先における「介護休業の取得のしやすさ」への期待が小さくありません。こうしたことから、職場においても、介護に対する理解を深めるための取り組みが両立支援体制の拡充のための視点として重要であると思われます

 本調査の自由記述回答に、「(介護は)いつまでという期限が見えないことの不安が大きい(女性58 歳既婚)」との意見がありました。また「介護後の自分の生活を考えると、仕事を辞めることができない(女性43 歳未婚)」「両立は難しいが、施設利用のための利用料や生活費を考えると退職できない(女性49 歳未婚)」など、終わりが見えない不安を抱えつつ、生計を維持するために介護をしながら働き続けなければならないことを感じている人も少なくないことでしょう

 したがって今後、遅かれ早かれ誰でも介護問題に直面することが見込まれる中、行政における介護保険制度の充実とともに、企業においても介護のワーク・ライフ・バランスの充実は重要な課題となります。職員の介護事情に合わせて利用できる両立支援制度等の充実、またそれらを利用しやすいような職場環境づくりを行い、介護をしながらでも働き続けやすい社会の早期実現が望まれます。(提供:第一生命経済研究所

(研究開発室 上席主任研究員 的場康子)

㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
研究開発室 広報担当(安部・新井)
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