<増えている事業所内保育施設>

 この数年、事業所内保育施設の増加傾向が続いている(図表1)。事業所内保育施設は企業等が従業員の子どもを対象として、事業所内または隣接地に設置する保育施設のことで、「認可外保育施設」に該当する。自社の勤務時間に合わせて、一般の認可保育所では対応できない深夜や休日等にも対応した保育運営を行っていることが特徴であり、企業の次世代育成支援の一つに位置付けられている。

 事業所内保育施設の増加の背景の一つに、次世代育成支援対策推進法において、2005年から一般事業主行動計画を策定することが義務付けられ、企業が次世代育成支援に関心を寄せるようになったことも挙げられよう。さらに、これまで、行動計画の義務付けは従業員が301人以上の企業が対象であったが、今年4月からは義務付けの対象が101人以上の企業に拡大された。これにより、さらに多くの企業が、次世代育成支援を意識しなければならないようになった。

 こうした社会背景のもと本稿では、経済産業省が昨年度実施した事業所内保育施設に関する調査研究事業の成果から、今後、従業員規模が小さい企業等でも、次世代育成支援の選択肢の一つとして事業所内保育施設の設置が可能となるための必要な支援策等について考える。

事業所内保育施設を設置しやすくするために
(画像=第一生命経済研究所)

<費用負担や利用者確保などが設置の壁>

 経済産業省では、子育て支援サービスの促進にあたっての制度環境のあり方についての課題等を明らかにすることを目的として、「平成22年度医療・介護等関連分野における規制改革・産業創出調査研究事業(子育て支援サービス創出事業)」を実施した。当研究所が同事業を受託して調査研究を行い、その一環として事業所内保育施設の設置促進の可能性等を検討した。この中で、民間企業が事業所内保育施設に対してどのような認識を持っているかを把握するため、民間企業5,000社に対するアンケート調査を2010年10月~11月に実施した(回答サンプル数1,148社、回収率23.0%)。

 調査の結果、事業所内保育施設をすでに設置・運営している企業は1.5%であった(図表省略)。図表1のように事業所内保育施設が増えているとはいえ、「院内保育施設」(病院内の事業所内保育施設)以外の「その他の事業所内保育施設」(民間企業等による事業所内保育施設)の数は2009年度1,537施設であり、設置率も企業数全体からみると高くない。

 他方、設置・運営していない企業に対して、過去に施設設置の検討経験があるかどうかをたずねたところ、7.7%の企業が検討経験が「ある」と回答している(図表2)。従業員規模別にみると、1,000人以上の企業では検討経験ありが約3割である。調査対象全体でみると、実際に設置した企業の5倍以上が検討経験ありと回答しており、検討段階で設置を断念した企業が多いことがうかがえる。

事業所内保育施設を設置しやすくするために
(画像=第一生命経済研究所)

 何が設置の壁になっているのか。事業所内保育施設の設置を検討したことがあるという企業に、検討の結果、設置をしなかった理由をたずねたところ、「設置・運営費用の負担」が69.0%で最も多い(図表3)。次いで「設置する場所の選定・確保」(35.6%)、「利用者の確保」(33.3%)の順となっている。設置・運営にかかる費用負担の大きさが、設置の大きな壁と認識している企業が多い。また、設置しても、実際に利用者が集まるかどうか、利用者確保を懸念する企業も少なくないことがわかる。

 そこで、本調査研究事業では事業所内保育施設の事例調査を行い、費用負担や利用者確保の問題を緩和する方法として、複数企業が共同で設置・運営をして利用するタイプの事業所内保育施設に注目し、次のような3つの設置・運営形態を紹介した。

事業所内保育施設を設置しやすくするために
(画像=第一生命経済研究所)

<共同設置・運営型の3つのタイプ>

 一つ目は、1社が設置した事業所内保育施設を、グループ企業や他社が法人契約料を支払って利用するタイプである(単独設置・共同運営型)。他社から徴収した法人契約料を運営費の一部に当てていることから「共同運営」とみなす。設置企業にとっては、運営費用の軽減、利用者の確保というメリットがある。利用企業にとっては、自社で事業所内保育施設を設置・運営しなくても、必要な保育ニーズが満たせるというメリットがある。このタイプでは設置・運営に関する助成要件を満たせば、設置企業に対し、国の助成金が支給される。

 二つ目は、最初から複数企業が共同で1つの事業所内保育施設を設置・運営するタイプである(共同設置・運営型)。設置・運営費用は各社の利用人数等に応じて分担するため、費用分散と利用者確保ができるというメリットがある。このタイプも設置・運営に関する助成要件を満たせば、各社に対し、国の助成金が支給される。

 三つ目は、保育事業者がオフィスビル内で運営する事業所内保育施設を、そのビル内や近隣の企業が利用するタイプである(保育事業者運営型)。利用企業にとっては、自社で事業所内保育施設を設置・運営しなくても、保育事業者に法人契約料を支払うことにより必要な保育ニーズが満たせるというメリットがある。このタイプは国の助成制度の対象外であるが、東京都が独自に実施している助成制度において、条件を満たせば保育事業者に助成金が支給される。

<共同設置・運営型の普及のために>

 これら3形態の特徴は、1社が単独で設置・運営するよりも、複数の企業が共同で設置・運営して利用する事業所内保育施設の方が、経済的負担や利用者確保の面で利点があると企業が認識していることである。従業員数が少なくて、1社では利用者が集まらないことが懸念される中小企業などの場合でも、共同設置・運営型であれば、事業所内保育施設の設置を行いやすくなると思われる。

 こうした事業所内保育施設の設置促進のためには何が必要か。前出の企業アンケート調査(調査対象全体n=1,148)により、企業が行政にどのような支援を求めているかをみると、「助成金の充実」が最も多く43.3%である(複数回答、図表省略)。次いで「共同設置、運営に必要な情報がある」が30.6%、「共同事業所内保育施設を運営したい保育事業者の情報を得られる仕組みがある」が29.3%、「助成を受けるための施設等の要件の緩和」が27.4%となっている。助成金の充実を挙げた企業が最も多いものの、共同で設置・運営する企業をどのように見つけるか、責任や費用負担を企業間でどのように分担するか、保育事業者をどのように選定するか等、実際に設置・運営するための「情報」を行政に求める企業も多いことがわかる。

 このようなことから今後、企業の次世代育成支援として、事業所内保育施設の設置促進を図るためには、助成金のみならず、行政が複数企業による共同設置・運営の実現可能性を高めるような情報を積極的に発信していくことが必要であると思われる。(提供:第一生命経済研究所

研究開発室 的場 康子