要旨

①日本、韓国、アメリカ、フランス、スウェーデンを比較すると、日本の少子化の大きな要因は若い間のカップル形成の遅れと希望する数まで子どもを増やせない人が多いことである。

②日本においてカップル形成が遅いのは、増大する非正規雇用者が、他国以上に家族形成をしにくいためである。希望する数まで子どもを増やせない理由は、子育てや教育の経済的負担の重さや結婚時期が遅いために高齢での出産を諦める者が多いことである。

③わが国の少子化対策の優先課題は、第一に若年層の雇用対策を拡充して、希望すれば20代のうちから結婚できるだけの経済的基盤を彼らに与えること、第二に希望する数まで子どもを増やせない最大の要因である子育てや教育に対する経済的負担を軽減することである。

1.少子化の国際比較の視点

 日本の昨年の合計特殊出生率(以下「出生率」)は1.39であり、前年よりも上昇したものの、依然として人口を長期的に維持する水準である2.07を大きく下回る。わが国では1990年代以降相次ぐ少子化対策が行われてきた(内閣府 2010)が、いまだ出生率は低い。一方、諸外国の状況に目を転じれば、隣国の韓国が日本以上の少子化であるが、フランスとスウェーデンは一旦少子化を経験したもののその後出生率が回復しつつある(図表1)。アメリカは、先進国の中では異例であり、少子化に陥っていない。

 少子化に陥る国とそこから脱却した国の違いは何であろうか。出生率は1人の女性が一生の間に生むと想定される子どもの数のことだが、それは「結婚する人の割合」と「結婚した夫婦が生む子どもの数」に分解できる。わが国の場合、1975~2000年の出生率低下は、結婚する人の割合の低下、言い換えれば未婚化によって引き起こされた(津谷 2005)。2000年以降、未婚化がさらに進行している。1980年代までは男女とも生涯未婚率が5%を下回る皆婚社会であったが、その後上昇して2005年には男性が15.96%、女性が7.25%である。また、夫婦の完結出生児数(結婚持続期間15~19年夫婦の平均出生子ども数)は1970年代以降2.2人前後で長らく安定していたが、1980年代後半に結婚した夫婦の間では2.09人まで減少した(国立社会保障・人口問題研究所2007)。このため、近年は未婚化に加えて、夫婦の出生数の低下が少子化をすすめる要因になりつつある。わが国と比べて出生率が高い国は、「結婚する人の割合」と「結婚した夫婦が生む子どもの数」のいずれか又はその両者が高い・多いとみられる。

 わが国の未婚化の要因は、若年層における収入の伸び悩みや非正規雇用の増加、見合いや職場での結婚が減少したためなどとみられている(山田・白河 2008、佐藤ほか2010、松田 2010)。わが国の夫婦の出産数の減少には、子育てや教育にお金がかかりすぎることなどにより、理想とするだけの子どもを実際には産むことができないことがあるといわれている(国立社会保障・人口問題研究所 2007)。

 いまだ出生率が低迷するわが国だが、結婚・出産の状況を諸外国と比較することにより、わが国の出生率が回復しない理由を客観的に知ることができる。以上の点をふまえて、本稿では諸外国における結婚・出産の状況を比較分析することで、日本の少子化の特徴を明らかにして、求められる少子化対策を指摘する。

結婚と出産の国際比較
(画像=第一生命経済研究所)

2.データ

 本稿では、所定の手続きにより内閣府の許可を得た上で、内閣府が2005年と2010年に実施した「少子化社会に関する国際意識調査」(内閣府政策統括官 2011)の個票データを使用する。筆者は、2010年調査企画委員会の委員長として、この調査にかかわった。調査の概要は次のとおりである。

<調査対象者> 日本、韓国、アメリカ、フランス、スウェーデンの20~49歳男女個人

<調査方法> 各国とも1,000サンプル回収を原則とし、個別面接法により調査

<調査時期> 2005年10月~12月、2010年10月~12月

<標本抽出法・有効回収数>

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(画像=第一生命経済研究所)

3.結婚と同棲

 各国の婚姻状態が図表2である。日本では、過去5年間に既婚の割合が若干低下している。2010年の各国をみると、日韓は既婚が多く、日韓に比べてアメリカ・フランス・スウェーデン、特にフランス・スウェーデンは既婚が少なく、同棲が多い。

 この差は結婚制度の違いから生じる。フランスには、結婚(法律婚)の他に、同棲カップルに結婚に準じる法的保護を与えるPACS(連帯市民協約)という制度があり、この制度を利用する者が多い。結婚とPACS の大きな差異は、結婚が教会での挙式を伴うのに対して、PACS は裁判所に書類を提出するのみで関係が成立することと、離婚する場合は双方の合意があったとしても裁判を行うことが必要になるが、PACS を解消するには書類を提出するのみでよいなど手続きが簡略化されているという点にある。スウェーデンでは、同棲はサンボとよばれ、こちらも結婚に準じる法的保護を受けることができる。結婚とサンボの大きな差異は、結婚は教会等で行うものであるのに対して、サンボはその必要がない点にある(以上の詳細は、松田 2011参照)。

 わが国の場合、結婚をする際に宗教施設において挙式をしなくても、婚姻届を自治体に提出すればよい。協議離婚であれば書類を自治体に提出するのみである。このため、手続き的にはPACS・サンボと大差がない。日本の結婚は、PACS・サンボと同程度の手続きによって、カップルに全面的な法的保護を与えるものになっている。

 こうした違いをふまえると、結婚の割合を比較するだけでは、単に各国の結婚制度の差異を比較するにとどまる。少子化の分析のためには、実態としてカップル生活を経験する・した者を比較することが必要である。2010年の結婚・同棲経験率(過去に結婚生活をした者である離死別も含める)を比較すると、日本は70.2%、韓国は64.2%、アメリカは70.9%、フランスは74.2%、スウェーデンは72.5%である。わが国では未婚化が少子化の要因であるが、20~40代の全体平均でみると、日本の既婚・同棲経験率の水準は欧米と同水準であり、通説とは違った実態がみえる。

結婚と出産の国際比較
(画像=第一生命経済研究所)

4.子どもの数

 次に、各国の出産の状況を比較する(図表3)。わが国をみると過去5年間に現在子ども数と欲しい子ども数が微減であるものの、欲しい子ども数は欧米3カ国とほぼ同じである。日本の出生率は欧米3カ国と同水準まで上昇するポテンシャルがある。

 しかし、日本は欲しい子ども数は多いものの、「希望する数まで又は今よりも子どもを増やせない・増やさない割合」がアメリカなど3カ国よりもはるかに多い。このことは、日本には子どもを産み・育てることに対して高い障壁があることが示唆される。

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(画像=第一生命経済研究所)

5.少子化の背景

(1)年齢別にみた結婚・出産

 年齢別にみると、欧米3カ国に比べて、日本は20代における結婚・同棲経験率が極めて低い(図表4)。30代でも、日本の結婚・同棲経験率はこの3カ国よりも低い。40代では、日本の結婚・同棲経験率は米国並で、フランス・スウェーデンよりも高い。

 日本は未婚化がすすみ、生涯未婚率も上昇したが、現在の40代時点での結婚・同棲経験率は欧米並みに高い。国際的にみれば、わが国は結婚・同棲経験率の到達点は高いものの、カップル形成の立ち上がりが遅いといえる。なお、日本の20代は結婚・同棲経験率は低いものの、その人たちの子ども数は欧米3カ国の同年代よりも多い。この背景には、現在日本の若年層で増加している婚前妊娠の影響があるとみられる。

 欧米3カ国の特徴は、20代で結婚・同棲経験率が高いが、子ども数は少ないことである。そして、30代以降に出産が急増する。すなわち、欧米3カ国では、若いうちにカップルとしての生活を営み、その後子どもをもうけていくパターンである。出生率が低い韓国は、20代における結婚・同棲経験率が日本以上に低くなっている。

 以上から、日本の少子化は、若いうちのカップル形成の遅れからもたらされているといえる。

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(画像=第一生命経済研究所)

(2)属性別にみた結婚・同棲経験率

 属性別の結婚・同棲経験率が図表5である。男性の就労形態別にみると、男性の非正規雇用者が結婚・同棲しにくいことは、各国共通である。だが、特に日本は非正規雇用者が結婚・同棲しにくい。男性正規雇用者をみると、日本の結婚・同棲経験率はアメリカ・フランス・スウェーデンよりも若干低いものの、大きな差はない。

 女性就労形態別にみると、日本の女性においては正規雇用者の結婚・同棲経験率が低い。わが国の場合、結婚・出産後に正規雇用から非正規雇用になる女性が多いため、このことも正規雇用者の結婚・同棲経験率を低くしている。

結婚と出産の国際比較
(画像=第一生命経済研究所)

 男性の本人年収を、回答者数をおおよそ3等分するように高・中・低に3区分すると、各国とも年収が高いほど結婚・同棲経験率が高くなっている。日本は年収が「中」「高」の者の結婚・同棲経験率は他国と同等かそれ以上であるが、年収「低」の者の結婚・同棲経験率が、韓国と並び極めて低い。

(3)希望する数まで子どもを増やせない理由

 日本は欧米3カ国よりも希望する数まで又は今よりも子どもを増やせない・増やさないと考える人が多いが、その理由を尋ねた結果が図表6である。日本で最も多い理由は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」の41.2%で、以下「自分または配偶者が高年齢で、産むのがいやだから」などが続く。子育ての経済的負担の重さや結婚時期の遅れが、日本の少子化の強い要因である。

 他国をみると、日本以上に少子化の韓国では、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が76.0%と高いが、フランス・スウェーデンではこの理由をあげた割合は低い。

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(画像=第一生命経済研究所)

6.求める対策

 結婚を希望する人に対する施策として求めることをみると、日本では「雇用対策をもって、安定した雇用機会を提供すること」をあげた割合が2005年には33.8%であったが、2010年には48.8%へと増加して、最多になっている(図表7)。この点は前述の日本では非正規雇用者の結婚・同棲率が大幅に低いという結果に符合する。また、日本では、「夫婦がともに働きつづけられるような職場環境の充実」も45.0%と高い。他国をみると、求められている対策は国によって異なり、韓国では「結婚や住宅に対する資金貸与や補助を行うこと」が最多である。

 育児支援の施策として重要なことをみると、日本では「教育費の支援、軽減」が62.5%で最も多く、「小児医療の充実」「保育所の時間延長など、多様な保育サービスの充実」が続く(図表8)。「教育費の支援、軽減」をあげた割合は韓国・アメリカでも高い。

結婚と出産の国際比較
(画像=第一生命経済研究所)
結婚と出産の国際比較
(画像=第一生命経済研究所)

7.少子化対策の方向性

(1)国際比較からみる日本の少子化の特徴

 以上の本稿の分析結果をまとめると、日本の少子化の強い要因は、①若いうちにおけるカップル形成の遅れ、②希望する数まで子どもを増やせない・増やさない人が多いことであるといえる。そして日本においてカップル形成が遅れるのは、非正規雇用者及び収入が低い者が増大しつつあり、他国以上に彼らが家族形成をしにくいためである。また、希望する数まで子どもを増やせない理由は、子育てや教育の経済的負担の重さや結婚時期が遅いために高齢での出産を諦める者が多いことである。

(2)少子化対策の優先課題

 以上から、わが国に求められる少子化対策の優先課題を指摘したい。

 第一に、若年層の雇用対策を拡充して、希望すれば20代のうちから結婚できるだけの経済的基盤を彼らに与えることである。少子化対策というと出産後の対策が中心である印象があるが、今強く求められている対策は、出産以前に家庭を持つことを可能にすることである。若いうちのカップル形成が可能になれば、結婚時期が遅いことにより高齢での出産を諦めて希望するだけ子ども産むことができなることも少なくなる。

 なお、わが国では生涯未婚率も上昇したが、40代における結婚・同棲経験率は欧米3カ国と同程度以上である。結婚するか否かが自由になった先進国においては、生涯独身で生きる者が一定程度存在することは常態である。この点をふまえると、わが国の少子化対策の方向性は、かつての皆婚社会を目指すことではなく、希望する者が若い時期に結婚することができるように支えることである。

 第二に、既婚者が希望する数まで子どもを増やせない要因を取り除くことが必要である。その最大の要因は、子育てや教育に対する経済的負担の重さである。約2人に1人の子どもが大学等の高等教育まで進学する現代では、親の教育費負担は非常に重くなっている。昨年から高校授業料の無償化が実施されているが、大学等の高等教育の授業料負担をいかに軽減するかということが、次の課題である。また、子育ての経済的負担を軽減するために子ども手当が実施されたが、財源不足から継続が難しくなっている。本調査の結果をみても、少子化対策のために子育ての経済的負担の軽減は避けて通ることのできない課題である。制度設計の見直しや財源確保により、引き続き経済的支援の充実をすすめることが必要である。(提供:第一生命経済研究所

【参考文献】
・ 岩澤美帆,2002,「近年の期間TFR 変動における結婚行動および夫婦の出生行動の変化の寄与について」『人口問題研究』58(3):15-44.
・ 国立社会保障・人口問題研究所,2007,『平成17年第13回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)第Ⅰ報告書-わが国夫婦の結婚過程と出生力』.
・ 佐藤博樹・永井暁子・三輪哲,2010,『結婚の壁-非婚・晩婚の構造』勁草書房.
・ 津谷典子,2005,「少子化の人口学的背景と将来展望」社会政策学会編『少子化・家族・社会政策』社会政策学会誌第14号:3-17,法律文化社.
・ 内閣府,2010,『平成22年版子ども・子育て白書』.
・ 内閣府政策統括官,2011,『少子化社会に関する国際意識調査報告書』.
・ 松田茂樹,2010,「若年未婚者の雇用と結婚意向―少子化対策としても若年層の経済的自立支援の拡充を」『Life Design Report』(Summer 2010.7):28-35.
・ 松田茂樹,2011,「結婚」内閣府政策統括官『少子化社会に関する国際意識調査報告書』,81-104.
・ 山田昌弘・白河桃子,2008,『「婚活」時代』ディスカヴァー・トゥエンティワン.

研究開発室 主任研究員 松田 茂樹