第一生命保険株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 長谷川 公敏)では、首都圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)と近畿圏(京都、大阪、兵庫)の7都府県(政令指定都市・中核市を含む)に居住し、小学6年生以下の子どもを育てながら働いている女性800 名を対象に、標記についてのアンケート調査を実施いたしました。

 この程、その調査結果がまとまりましたのでご報告いたします。

≪調査結果のポイント≫

短時間勤務制度の利用実態
● 短時間勤務制度の認知率 正社員では約7 割 パートでは約3 割

短時間勤務制度の利用評価
● 短時間勤務取得者でも業務量や業務の性質上早く帰れない人が約半数

短時間勤務制度の利用意向
● 子どもが3~5歳や小学校低学年の親の約4割が「利用したい」

子どもが何歳まで利用を希望するか
● 子どもが小学生になっても利用したい人が約8割

短時間勤務制度のよかった点と期待すること
● 「継続就業」「育児と仕事との両立」ができる点を、利用者は評価し、利用希望者は期待している

企業からみた短時間勤務制度の導入効果
● 短時間勤務制度の導入効果として、企業の約9割が「女性が出産後も継続して働きやすくなる」と回答している

企業からみた短時間勤務制度導入にあたっての問題点
● 短時間勤務制度の導入にあたっての問題点の第1 位は「短時間勤務者の周りの従業員の業務負担が増えるので調整が難しい」

≪調査実施の背景≫

 2009 年6月の育児・介護休業法の改正により、3歳に満たない子を養育する労働者が希望すれば利用できる短時間勤務制度(1日原則6時間)が義務付けられました(2010 年6月30 日施行。ただし常時100 人以下の労働者を雇用する事業主は2012 年7月1日施行)。

 これを背景に当研究所では、短時間勤務制度に注目し、同制度が子育て期の働く女性のワーク・ライフ・バランスにどのように寄与するのか、その役割と効果について考えるためにアンケート調査を実施しました。

≪調査の実施概要、回答者の特性≫

1.調査地域と対象
首都圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)と近畿圏(京都、大阪、兵庫)の7都府県(政令指定都市・中核市を含む)に居住し、小学6年生以下の子どもがいて働いている女性。

2.調査方法 株式会社クロス・マーケティングに委託して、インターネット調査により実施。

3.標本数 800 名

小学生以下の子どもを育てながら働いている女性800 名に聞いた 『短時間勤務制度に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

4.実施時期
2010 年11 月5日~8日

5.回答者の属性(年代別)

小学生以下の子どもを育てながら働いている女性800 名に聞いた 『短時間勤務制度に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

短時間勤務制度の利用実態

短時間勤務制度の認知率 正社員では約7 割 パートでは約3 割

小学生以下の子どもを育てながら働いている女性800 名に聞いた 『短時間勤務制度に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

 短時間勤務制度を知っているかどうかをたずねた結果を就業形態別にみると、「正社員」では72.0%、「パート・アルバイト」では32.8%が「知っている」と回答しています(図表1)。以下、認知率がパート・アルバイトよりも高い正社員についての結果を中心にご報告します。

 短時間勤務制度を「知っている」と回答した288 人を対象に、勤務先における短時間勤務制度の有無をたずねた結果をみると、「ある」と回答した人は76.7%でした(図表2)

 勤務先に短時間勤務制度が「ある」と回答した221 人の利用状況については、「利用対象者であり利用している」が32.6%、「利用対象者であるが利用していない」が32.1%、「利用対象外なので利用できない」が34.4%であり、それぞれ約3割ずつとなっています(図表3)。

 ちなみに、「利用対象者であるが利用していない」という人は、なぜ利用しないのでしょうか。「利用しない理由」を複数回答でたずねたところ、「収入が減るから」(35.2%)、「仕事内容・量が変わらないので短時間勤務ができないから」(29.6%)、「保育所や学童保育を利用できるので短時間勤務の必要がないから」(22.5%)といった理由が上位を占めていました(図表省略)。短時間勤務の必要性がないということよりも、収入減や仕事内容及び量を理由とする回答が上回っています



短時間勤務制度の利用評価

短時間勤務取得者でも業務量や業務の性質上早く帰れない人が約半数

小学生以下の子どもを育てながら働いている女性800 名に聞いた 『短時間勤務制度に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

 短時間勤務制度の利用者(図表3における「利用対象者であり利用している」と回答した人)は、勤務先の同制度に対し、どのような評価をしているのでしょうか。

 まず、人事評価についての意識をみると、「就労時間が減った分の給与は減るが、人事評価は仕事内容に応じてなされている」の回答者が半数以上を占めており、人事評価について前向きに捉えている人が多いようです(図表4)。その一方、「就労時間が減った分の給与が減り、人事評価も通常勤務者と比べて低くなっている」の回答者も約3割です。短時間勤務制度を利用したために、人事評価を低くされていると思っている人もいるようです

 また、短時間勤務制度の利用に関する意識として、「自分は短時間勤務でも、実際には職場の雰囲気で所定の時間に帰れないことがある」に肯定的な回答をした人(「あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」の合計、以下同様)が30.6%、否定的な回答をした人(「あてはまらない」と「どちらかといえばあてはまらない」の合計)が69.4%です(図表5)。その一方、「自分は短時間勤務でも、実際には業務量が多くて、あるいは業務の性質上、所定の時間に帰れないことがある」に肯定的な回答をした人は48.6%です。職場の雰囲気で所定の時間に帰れないという人は少数派であるものの、仕事の量や内容により所定の時間に帰れないという、同制度のいわば運用面での課題を指摘する人が約半数にのぼっています

短時間勤務制度の利用意向

子どもが3~5歳や小学校低学年の親の約4 割が「利用したい」

小学生以下の子どもを育てながら働いている女性800 名に聞いた 『短時間勤務制度に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

 次に、短時間勤務制度を利用していない人(短時間勤務制度を知らない、同制度を知っていても勤務先に同制度がない、同制度があっても利用対象外で利用できないと回答した合計257 人)の利用意向をみましょう。

 短時間勤務制度の利用を希望するか否かをたずねた結果、「利用したい」が35.0%、「利用したくない」が8.9%、「利用する必要がない」が56.0%でした(図表6)。

 こうした利用意向は、子どもの年齢によって大きく異なります。実際、子どもの年齢別に利用意向をみますと、子どもが0~2歳の人は、サンプル数が少ないのであくまでも参考値ですが、6割以上が「利用したい」と回答しています。

 今回の法改正で短時間勤務制度が義務化された対象年齢は3歳未満ですが、やはりこの層の多くは同制度の利用意向が高いといえます。他方、子どもが3~5歳、及び小学1~3年生の人の約4割が「利用したい」と答えていることにも注目したいと思います。3歳以上の人でも利用を希望している人は少なからずいることがうかがえます。



子どもが何歳まで利用を希望するか

子どもが小学生になっても利用したい人が約8 割

小学生以下の子どもを育てながら働いている女性800 名に聞いた 『短時間勤務制度に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

 厚生労働省「平成22 年度雇用均等基本調査」(2011 年7 月)により、同制度を導入している企業における同制度の最長利用可能期間の状況をみると、子どもが「3歳に達するまで」が最も多く61.7%、次いで「小学校就学の始期に達するまで」が22.1%となっています(図表省略)。子どもの年齢が「3歳」を区切りとして利用を制限されることが多いのが同制度の現状のようです。

 他方、先に、利用していない人の利用意向をみましたが、子どもが3歳以上の人でも「利用したい」と回答した人(以下「利用希望者」)が少なからずいました(図表6)。おそらく利用者の中にも、子どもが3歳を過ぎても利用を希望している人もいるのではないでしょうか。そこで、短時間勤務制度の利用にあたり、子どもが何歳になるまで利用したいと思っているかをみてみましょう。

 同制度の利用者、利用希望者ともに、子どもが小学校を過ぎても利用を希望している人が8割以上を占めています(図表7)。子どもが3歳を過ぎても多くの人が、短時間勤務制度を必要としていることがうかがえます。



短時間勤務制度のよかった点と期待すること

「継続就業」「育児と仕事との両立」ができる点を、利用者は評価し、利用希望者は期待している

小学生以下の子どもを育てながら働いている女性800 名に聞いた 『短時間勤務制度に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

 短時間勤務制度の利用者に、同制度を利用してよかった点をたずねたところ、「育児休業から復帰した後も正社員として仕事を続けられる」(75.0%)や「家事や子育てと両立をしながら正社員として働くことができる」(66.7%)と回答した人が7割前後となっています(図表8左側)。利用者の多くが継続就業ないし育児と仕事との両立ができるという点を評価していることがわかります。

 他方、短時間勤務制度の利用希望者は、同制度にどのようなことを期待しているのでしょうか。質問項目を、同制度の利用者に対してたずねた「利用してよかった点」についての項目と同じ構成にして、両者の比較ができるようにしています。

 結果をみますと、利用者と同様、利用希望者においても、育児休業から復帰後の継続就業、及び子育てとの両立を短時間勤務制度に期待している人が多いことがわかります

 ただし、利用者に比べ、利用希望者の方が、「子どもの保育所や学童保育のお迎え時間が早くなる」や、「子どもの放課後が安心である」への回答割合が高い傾向があります。保育所や学童保育に迎えに行く時間が早くなる、ないし、子どもの放課後が安心できることを期待して、短時間勤務制度を利用したいと思っている人がいることが浮き彫りになりました。

企業からみた短時間勤務制度の導入効果

短時間勤務制度の導入効果として、企業の約9割が「女性が出産後も継続して働きやすくなる」と回答している

小学生以下の子どもを育てながら働いている女性800 名に聞いた 『短時間勤務制度に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

 これまでは働く母親の視点でしたが、次に、人事部長に対してたずねた企業アンケート調査(「企業における仕事と子育ての両立支援に関するアンケート」2010 年9月8日~10月1日実施)結果により企業の視点から短時間勤務制度をみてみましょう。この企業アンケートに回答した企業すべてが従業員数101 人以上ですので、法律上、子育てのための短時間勤務制度が義務付けられています。

 まず、短時間勤務制度を導入している企業は、同制度の導入効果をどのように認識しているのでしょうか。調査の結果、「女性が出産後も継続して働きやすくなる」が88.1%で第1位でした(図表9)。短時間勤務制度の効果について、多くの利用者が継続就業を挙げていましたが(図表8)、企業も同様の効果を認識しているようです。次いで「女性社員の勤労意欲の向上につながる」(54.1%)、「女性が働きやすい会社として社外にアピールができる」(40.4%)が続いています



企業からみた短時間勤務制度導入にあたっての問題点

短時間勤務制度の導入にあたっての問題点の第1 位は「短時間勤務者の周りの従業員の業務負担が増えるので調整が難しい」

小学生以下の子どもを育てながら働いている女性800 名に聞いた 『短時間勤務制度に関するアンケート調査』
(画像=第一生命経済研究所)

 企業アンケート調査により、短時間勤務制度の導入にあたっての問題点をたずねた結果をみますと、「短時間勤務者の周りの従業員の業務負担が増えるので調整が難しい」への回答が77.1%で最も多く、次いで「人事評価が難しい」が42.2%、「短時間勤務制度が利用できる職種・部門が限られている」が39.4%となっています(図表10)。

 他方、「賃金以外の労務コスト(福利厚生費用等)の負担が増える」への回答割合は1割以下と少ない結果でした。

 先に、利用者から「業務の量や性質上、所定の時間に帰れない」ことや、「短時間勤務制度を利用することで人事評価が下がる」など、同制度の運用面や人事評価に関する問題点が挙げられていることを示しましたが(図表4、図表5)、企業も同じ認識のようです。業務量の調整などの運用面や、同制度の利用者の処遇、人事評価面における課題を解決し、利用を希望する人が利用しやすい制度にすることが必要です



≪研究員のコメント≫

 以上、調査結果から、短時間勤務制度の利用者の多くは、継続就業や、子育てとの両立のために同制度は有効であるとの認識であり、利用にあたりおおむね満足していることがわかります。企業側も、同制度の導入によって、女性社員の継続就業や子育てとの両立を可能とし、ひいては勤労意欲の向上や人材確保のための社外アピールにつながることなどが期待できるとしています

 しかし他方、勤務先に導入されていなかったり、子どもの年齢によって利用が制限されているなど、利用したくても利用できない人も多いことも示されました。現行法において、同制度は3歳未満の子どもをもつ労働者を対象としていますが、3歳以上の子どもがいる人の利用ニーズも高いことも明らかとなりました。また、同制度の利用者の中には人事評価でマイナスに働くことや、業務量や内容により所定の時間に帰れないことを挙げた人もいます。さらに企業側も、その多くが業務負担の調整や人事評価の難しさ、職種や部門が限定されるといった問題点を指摘しています

 短時間勤務制度は、従業員の継続就業や子育てとの両立支援に寄与するものであり、ワーク・ライフ・バランスの実現のためにも広く定着を図ることが必要です。そのためには、まずは、現行法において定められている対象者の中で、業務内容や職種を問わず、同制度を利用したい人が利用できるような仕組みに整えることが肝要です

 例えば、人事評価について、短時間勤務者が短縮された時間内でフルタイム勤務者と同じ成果を挙げた場合、短時間勤務者を高く評価するという企業や、短時間勤務者の周りの従業員の業務負担増への対応として周りの従業員の評価を加点する企業、あるいは代替要員を採用するという企業もあります。このようなマネジメントの工夫により、同制度の利用者と非利用者のバランスを図り、業務分担や人事評価のあり方を整え、利用したい人が利用できるような制度にしていくことが必要です

 このようにして同制度の社会的定着を図った上で、子どもが3歳以上の人でも利用希望者が少なくなかったことを考慮して、年齢制限のあり方を見直し、将来的には同制度の利用対象者をさらに広げる方向で制度が充実されることが望まれます。(提供:第一生命経済研究所

(研究開発室 主任研究員 的場康子)

㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
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