<女性のライフコースは多様化したのか?>

 働く女性の増加にともなって「女性のライフコースが多様化した」といわれる。確かに、仕事と家庭の両立を支援するための環境整備が徐々に行われてきた結果、いまや働きながら子育てをする女性は珍しい存在ではなくなった。

 女性の生き方に対する意識にも変化がみられる。図表1・2は、未婚の男女を対象として、国立社会保障・人口問題研究所が定期的に行っている調査の結果である。まず、図表1をみると、2005年時点で、未婚女性が理想のライフコースとして最も多くあげたのは「再就職型」(33.3%)で、「両立型」(30.3%)が僅差でこれに続き、「専業主婦型」(19.0%)は第3位にとどまっている。また、「両立型」の支持率をみると、1987年の18.5%から2005年には30.3%へと大幅に上昇したのに対し、かつて最も多かった「専業主婦型」は33.6%から19.0%に低下している。

 この背景には、経済情勢の変化によって、男性の収入や雇用が必ずしも安定的とはいえなくなったことも大きい。図表2は、先の調査で、未婚男性が女性に期待するライフコースについての意識を示したものである。これをみると、近年では、女性に「再就職型」や「両立型」のライフコースを期待する未婚男性も多く、「専業主婦型」を望む割合は急速に低下している。

地域移動と女性のライフコース
(画像=第一生命経済研究所)

<常勤の母親が出産7年後も常勤職を続けている割合は28.8%>

 一方で、厚生労働省が2001年に生まれた子どもの母親の就労形態を追跡した調査からは、女性のライフコースの多様化が、必ずしも一様な形で生じたわけではない可能性が浮かびあがってくる。

 同省が継続的に実施する「第7回21世紀出生児縦断調査」によれば、01年度に生まれた子どもの母親が、出産1年前から子どもが7歳になるまで常勤の仕事を継続している割合は28.8%であるという(図表略)。言い換えると、常勤職に就いて出産した女性の約7割は、依然、出産や子育てを機に仕事を辞めている、ということになる。

 また、図表3に示すように、子どもが7歳になった時点で常勤職に就いている女性の約9割(「子育てに大いに協力してもらっている(59.9%)」「ときどき協力してもらう(29.8%)」)は、子育てに関して祖父母の協力を得ていると答えている。ちなみに、祖父母の協力を得ている割合は、パート・アルバイト職の女性でも8割以上(同36.2%、47.9%)であるが、常勤職の母親の方がより多くの協力を得ている。いずれにしても、働く女性が子育てと仕事の両立をはかる上で、祖父母による育児への協力がきわめて大きな影響力をもっていることをうかがわせる結果といえる。

地域移動と女性のライフコース
(画像=第一生命経済研究所)

<祖父母による直接的支援の条件>

 では、祖父母は具体的に、どのような協力をしているのか。祖父母の協力内容をみると、「子どもの世話をしてくれる」「親の用事などで一時的に預けたいときにみてくれる」「子どもが病気のときみてくれる」といった項目で該当者が多くなっている(図表4)。残念ながら、この資料には祖父母の協力状況に関して祖父母との同別居状況別の結果が示されていない。しかし、子どもの世話といった直接的な支援を得る上で、同居や近居といった居住の近接性、あるいは、祖父母宅と母親宅の移動時間の短さといった側面が必要条件になっている可能性はかなり高いと推測される。

 つまり、ごく単純に考えると、出産1年前から常勤職に就いて実際に出産し、祖父母による子育てへの協力なしで7年後も仕事を継続している人とは、前述した常勤職を続けた28.8%の女性のうちの約1割にあたる、3%程度に過ぎないということになる(図表3、4でみた常勤職の母親には、途中で常勤職に転じた人等が含まれるため厳密ではない)。これだけ女性の社会進出が進んでいるようにみえても、祖父母による育児への協力なしに常勤職を続けながら両立型のライフコースを送る女性は、今のところほんの一握りに過ぎないことがわかる。

地域移動と女性のライフコース
(画像=第一生命経済研究所)

<地域移動と女性のライフコース>

 ところで、近年では、地域移動と女性のライフコースの関連性をめぐって、人生の早い段階で親元を離れねばならない場合とそうでない場合では学歴や持家を取得する機会に差がある、初婚前に大都市圏に移動してきた既婚女性には子どもが少ない、といった傾向が指摘されている(例えば、西野 2006、小池 2009など)。このような傾向は、過去の実態についての、女性に関する分析結果という限界をもつ。しかしながら、両立型のライフコースを望み、進学や就職の際に地域移動を要する女性のライフデザインでは、進学したり、就職する場所、居住地を移動するタイミングとそのための費用、出産の時期、住まいの選び方といったさまざまな選択が、いずれもきわめて重要なテーマになることがわかる。

 例えば、進学に際しては、自宅での通信教育をはじめ、居住コストが安い地域、学費や住居に手厚いサポート体制を備える高等教育機関への進学や留学といった方法が重要になるだろう。また、居住地に左右されず働き続けられる資格を取得すること、子育て支援制度が手厚く、民間の育児支援サービスを利用しやすい地域に住むこと、親元に近い場所に就職したり、親元の近くへ転居すること、場合によっては、子育てに際して親(祖父母)を自らの住まいやその近くに呼び寄せること、などが選択肢になるかもしれない。そして、祖父母の側が子育てを支える側でいられるのは限られた期間でしかないこと、誰もが祖父母からの協力を得られるとは限らないことをふまえれば、親子の双方が自立した生活を営めることを前提とするライフデザインを描いておくことが何より重要であることは言うまでもない。(提供:第一生命経済研究所

<参考文献>
西野淑美(2006)「女性の地域移動暦と教育・住宅所有の機会」『社会福祉』第47号:115-127
小池司朗(2009)「人口移動と出生行動の関係について-初婚前における大都市圏への移動者を中心として-」『人口問題研究』:3-20

研究開発室 北村 安樹子