東京・丸の内にある弊研究所の一歩外に出て、様々な方々にお会いさせて頂くと必ず尋ねられることがある。「なぜ外務省を辞めたのですか」という問いである。その度に私はこう答えることにしている。
「真実を知った以上、それを語ることが使命だと考えたからです」
誤解無きよう申し上げおきたいのだが、これは何も、誰かのスキャンダルをあげつらおうというわけではないのである。私の目から見るとそうしたことは余りにも些末なのであって、外務省において対北朝鮮外交の最前線にいた私はその場で「世界の本当の構造」そのものに直面し、しかもそれが近未来において我が国そのものを大きく変えようとしていると気づいたのだ。だからこそ外交場裏を飛び出し、「この一点」だけに絞り込んだ弊研究所を設立したというわけなのである。そして毎週出している音声レポートを筆頭にそれをリアルタイムで分析し、共に考える場を提供し始めたのである。
こう聞くと読者は必ずや大変いぶかしく思われるに違いない。「世界の本当の構造」とは一体何か、というわけである。実はこうした当然の疑問にお答えするために絶好の例が最近注目を浴び始めている。それは地球の裏側のドイツ、そして我が国の隣国である北朝鮮をつなぐ密やかな線である。
ドイツでは今、長年にわたって安定政権を築き上げてきたはずのメルケル首相の座が危うくなっている。シリアを中心とした中東地域より大量の難民を受け入れたメルケル政権は猛烈な反発にあってもこれを跳ねのけてきた。ところがどういうわけか、ここに来て行われている州議会選挙でその政権与党であるキリスト教民主党(CDU)が連戦連敗なのである。地滑り的な敗北の連続という厳しい現実を前にして、メルケル首相は同党首の座を辞任、これによってドイツ政界は今、再び「戦国時代」に突入した感がある。
これを一過性の現象として考えてはならないというのが弊研究所の基本的な見解である。なぜか。その理由はドイツ、そしてEU全体で今起きている出来事は決して偶然ではないと考えるべきだからだ。無論、明確な根拠がある。
数年前のことだが、欧州を代表する国際金融資本の「日本代表」を長らく務めていた人物から告白されたことがある。「もう時効だから良いだろう」というわけである。それは1989年に発生した「ベルリンの壁」崩壊を巡る真実についてであり、それを支えたマネー・フローについてであった。
何を隠そうこの人物とその日本人チームこそが、大量の資金を東欧地域における当時の反体制グループに向けて運んだ張本人だったのである。詳しいことは紙幅の都合上述べることが出来ないが、その際、送金者はカトリックの総本山であるヴァチカンであり、経由地はパナマ、そして最初の受取人はポーランドの反体制組織「連帯」のトップを務めていたワレサ議長(後の大統領)だったのだという。その間で大量の米ドルを運ぶ役割をこの人物が率いる日本人チームが果たしたわけだが、彼らはその後、発注主からさらに衝撃的な話を聞かさることになる。
「今回のオペレーションの総監督はブレジンスキー。そしてシナリオを描いたのはライスだ」
前者はカーター政権で国家安全保障担当大統領補佐官を米国で務めた「あの」ブレジンスキーである。そして後者はコンドリーザ・ライスであり、彼女はこの功績を認められる形でアカデミズムから政界へと引き上げられ、最終的には米国務長官の座を射止めたのだという。
そして時代は下って今=2018年。ドイツは再び「政治の嵐の時期」を迎えつつある。余りにも唐突な展開である。しかもEU全体について見ると「ドイツ統一の父」であったコール首相(当時)が補佐官たちの制止を振り切って「そうすることになっているから」とユーロ圏への加盟を認めたイタリアが深刻な財政危機に陥っている。イギリスによる脱退(BREXIT)も重なる形で欧州全体が騒乱の時期を迎え始めている。
これらは一見ばらばらの出来事の様に見えるかもしれない。だが、そもそも「ドイツ統一」というプロジェクト自体がヴァチカンによるファンディング(資金提供)で始まったことを想い出せば、本当は何が起きているのか、理解することはたやすいのである。要するに「カネの切れ目は縁の切れ目」ではないが、そこでのプロジェクトに対する資金提供が終わったということなのである。だからプロジェクト終了のための最終フェーズに突入した。メルケル辞任の真相はそこにあると考えると大いに合点が行くのである。
そうした中で当のヴァチカンはというとローマ法王フランシスコが来年、東アジアを歴訪するとささやき始めているのだ。しかもここに来て南北朝鮮はいずれも「法王招致」を叫び始め、盛んにラブコールを繰り返している。中国も長年の懸案であった「上海司教選任問題」についてケリをつけ、ヴァチカンとの協定締結につき仮合意に至ったと報じられている。一見すると何げない出来事の連続の様に思えるかもしれない。だが、1989年に起きた「ベルリンの壁」崩壊を巡る真実を知ってしまえば決してそうは思えなくなることもまた確かなのである。
「世の中に偶然など一つもない。私は賭けても良い」とかつてF・D・ローズヴェルト米大統領は語ったという。そして歴史がフラクタル(冪)であり、繰り返しであるという真実を踏まえるならば、今回もまた「あの時と同じこと」が繰り返されていると考えるのが妥当なのである。つまり(1)残された分断国家である南北朝鮮を巡って今こそヴァチカン・マネーが(「ベルリンの壁」崩壊の際のドイツ・東欧においてそうであったように)激しく動いている可能性が濃厚なのであって、(2)だからこそ「これまで」それによって支えられてきたドイツはむしろ不安定化し、欧州全体も構造転換するのであり、(3)東アジアではヴァチカン・マネーの注入により構造が新たに創られていく、のだ。
グローバル・マクロ(国際的な資金循環)とそれを取り巻く国内外情勢の近未来に向けた見通しについて弊研究所は半年に1回、「予測分析シナリオ」を発表している。次回は来年1月に公表するが、ヴァチカン・マネーという「線」がつなぐドイツと言う「点」と北朝鮮という「点」がそこでの重大な焦点になることは間違いない。そして隣国である南北朝鮮がそこで起きる重大な出来事の舞台であることから、我が国においてもマーケット、社会、そして政治などそのもろもろがこれによって大きく揺さぶられることは間違いないのである。
実に「真実」とは不可思議なものなのだ。だが、それを知った以上、目を背けてはならないのである。なぜなら「真実の扉」の向こう側にこそ「本当の未来」という広大な世界が広がっているのであるから。
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。
原田武夫 (はらだ・たけお)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所代表取締役 (CEO)。社会活動家。
1993年東京大学法学部在学中に外交官試験に合格、外務省入省。アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に2005年3月自主退職。2007年4月同研究所を設立登記、代表取締役に就任。多数の国際会議にパネリストとして招かれる。2017年5月よりICC(国際商業会議所) G20 CEO Advisory Groupメンバー。「Pax Japonica」(Lid Publishing)など日独英で著書・翻訳書多数。