M&Aは売り手と買い手との間の契約である。M&Aの中で、もっとも典型的な手法は株式譲渡契約によるものだ。株式譲渡契約では、対象となる株式や譲渡金額などが重要な要素であり、またそれ以外にもM&Aならではの条件が定められる。本稿では、M&Aにおける株式譲渡契約ではどのようなことが記載されるのかについて説明する。

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(写真=PIXTA)

M&Aにおける株式譲渡契約は条件付の契約

株式会社では経営権はすべて株式に集約される。つまり、会社を第三者に譲り渡すには株式を譲渡すればよい。これがまさに株式譲渡契約の意味である。だからこそ株式譲渡契約では何株をいくらで譲渡するのかが一番重要な項目となるのである。

とはいえ、株式譲渡の交渉をしている過程においても、会社は常に活動を続けている。状況も刻一刻と変わり続けているのだ。そのため、株式譲渡を行うにあたっては一定時点を区切って、どういう状態であれば契約で定めたとおりの取引が実行できるのかという条件を織り込む必要がある。

これは、たとえば戸建て住宅を購入するときに融資特約付の契約を締結し、住宅ローンの審査が通ったことを条件に取引が実行されるといったケースに似ている。それでは、株式譲渡契約では具体的にどのような条件が付されるのであろうか。

株式譲渡契約に「表明保証」を入れるということ

売り手と買い手では情報量に差がある。売り手は自社のことを当然熟知しており、そのせいでときに買い手が不利な状態に置かれるおそれもある。たとえば、決算書には載っていない借入金が存在する場合などだ。このようなものを売り手だけが知っていて、買い手は知らないとすれば、それはフェアな取引とは言えない。

そこで、現在および将来の事実関係や法律関係に関する情報の正確性について、売り手が責任を持つという趣旨の条項を契約に入れる場合がある。こうした条項を「表明保証」と呼ぶ。

表明保証の例としては、たとえば、「提供された決算書が正確なものであって簿外負債などが存在しないこと」、「第三者との間で係争事件が生じていないこと」、「重要な資産について適切に所有権を有していること」などが挙げられる。

期日までに「誓約事項」を遂行してもらう

表明保証を契約に織り込んでもまだリスクは残る。株式譲渡契約が締結されたことを良いことに、取引を実行するまでの間に売り手が放漫経営を行い、会社の価値が下がってしまうといったケースがあるからだ。そこで取引が完了するまでの間、売り手が適切に会社を運営する義務を「誓約事項」として契約に取り入れることがある。

また、取引実行日までに改善してほしい項目を「誓約事項」とすることもある。M&Aでは、買い手が公認会計士や監査法人に依頼して、対象会社のデューデリジェンス(詳細な財務調査)を実施することは少なくない。そして、そこで検出された問題点などを取引の実行日までにクリアにしてもらうのだ。

さらに、取引実行後の「誓約事項」を契約に入れることも考えられる。典型的な例としては、売り手に対して「競業避止義務」を課すことが挙げられる。競業避止義務は、会社を買い手に引き渡してから同じ業種のビジネスを始めないことを指す。

条件が整ったことを確認して取引実行へ

以上のことから、M&Aにおいて取引が実行されるためには、取引実行日においても表明保証の内容が正しいこと、誓約事項に定められた義務を履行していることが必須だ。

また、取引実行日までに売り手および買い手で取締役会や株主総会での承認など、必要な手続きを完了しておくのは当然のことだ。

なお、契約には、上述のような表明保証や誓約事項が守れなかった場合の補償および損害賠償の方法などについても定めておける。ただし、売り手の義務やその不履行があった場合の補償ないし損害賠償があまりに過重になると、今度は売り手にとってリスクが高くなる。金額や期間に一定の制限を設けるなど、バランスの取れた契約内容になるよう注意する必要がある。