目次

1.景気と少子化
2.調査概要
3.景気と収入見通し
4.未婚者の結婚意欲
5.既婚者の出産意欲
6.子育てしやすい社会になっていくか
7.自由回答
8.景気の確実な回復と子育て支援の拡充を

要旨

① リーマン・ショック直後の2008年9月とその1年後の09年9月の調査を用いて、人々の景気見通しや結婚・出産意欲等の変化を分析した。世界的な不況が人々の結婚・出産意欲等に与えた影響を解明し、将来の景気後退時に備えた子育て支援・少子化対策のあり方を提示する。

② 09年9月時点では、08年9月時点に比べて、景気の先行きに対する不安感は大幅に後退した。勤め先の業績が「良くなる」と回答した者も増加した。しかし、収入はしばらく増えないとみる者は依然多かった。

③ 08年9月から09年9月にかけて、結婚したいと考える未婚者は増加した。既婚者の出産意欲も高まった。子どもが1人の者ではもう1人子どもを欲しいと回答した割合が77.9%から85.1%へ増加した。子どもが2人の者では、同41.1%から44.9%へ増加した。ただし、「経済的に子育てをすることが難しくなる」不安を感じる者の割合は減っていなかった。

④ 人々の結婚・出産意欲が高まった理由は、第一に景気の先行き不安が後退したこと、第二に政権交代により、子育て支援への期待感が高まったことがあると推察される。

⑤ 出生率が景気変動に極力左右されないようにするには、特に不況時において、経済的支援を中心とした子育て支援を厚くする政策の選択肢を備えておくべきである。それによって、景気後退による出生率の低下を和らげることができる。

キーワード:少子化、景気、出産意欲

1.景気と少子化 本稿では、リーマン・ショック直後の2008年9月とその1年後の09年9月に実施した25~39歳の男女個人に対する調査を分析することで、深刻な不況の開始時とそこからの回復時における人々の結婚・出産意欲等を把握し、この不況が少子化に与えた影響を解明する。景気には波があり、今後も周期的に不況は訪れる。本稿は、この世界的な不況が人々の結婚・出産意欲等に与えた影響を記録し、将来訪れるであろう景気後退時に備えた子育て支援・少子化対策のあり方を示唆するものである。

 欧州では景気と出生率の関係について一定の研究蓄積(Bradshaw & Hatland 2006、丸尾 2008、ビョルクルンド 2008)があり、「経済社会が活性化し、人々が将来に希望をもてるような社会では、出生率が上がる傾向」(丸尾 2008:27)があることなどが解明されている。一方、わが国では、この問題は十分実証的に研究されてこなかった。少子化の背景要因としては、子育てにかかる経済的・身体的な負担の大きさ、仕事と子育ての両立の困難さなど多様な要因がこれまでに指摘されているものの(内閣府2009、松田 2009a)、景気という要因についてはほとんど言及されてきていない。

 こうした中、松田(2009a)では、既存統計を分析すると過去半世紀におけるわが国の経済成長率と出生率の間には強い相関があることが見出された。また、松田(2009b)では、わが国において不況が深刻化した08年9月に実施した調査を分析した結果、景気が悪くなると思う者ほど結婚・出産意欲が低くなっていた。具体的には、未婚者の場合、景気が悪くなると思う者ほど、自分の収入は増えないと考えており、その結果、結婚意欲が低下していた。既婚者についてみると、子どもが1人の場合には景気見通しと出産意欲の間に有意な関係はみられなかったが、子どもが2人の場合には景気が悪くなると思う者ほど出産意欲が低くなっていた。これらは、景気およびその見通しが結婚・出産意欲を減退させ、出生率を低下させるという関係があることを示唆する知見であった。

 それでは、景気が回復しはじめたその1年後の09年9月時点において、人々の結婚・出産意欲はどのように変化したであろうか。使用する2つの調査が行われた時点におけるわが国の経済・雇用状況は次のとおりである。四半期別実質経済成長率をみると、08年7~9月は-1%、同10~12月は-2.7%のマイナス成長であった。09年4月以降はプラス成長に転じたものの、同7~9月においても+0.3%と低い水準にとどまっていた(国民経済計算より)。09年9月時点では景気の二番底の懸念もあった。完全失業率をみると、08年9月は4.1%であったが、09年9月には5.5%と両年通じて最も高かった(労働力調査より)。結婚・出産意欲が経済・雇用状況に影響を受けるものであれば、09年9月時点においても、厳しい経済・雇用状況を受けて人々の結婚・出産意欲も「回復」していなかった可能性が高いと推測するのが妥当だろう。果たして、そのような結果が得られたであろうか。

2.調査概要

 本調査は、インターネット調査を専門とする株式会社クロス・マーケティングに委託して行った。調査概要は図表1のとおりである。

 08年9月調査は、学生を除く、25~39歳の未婚・既婚の男女800人が対象である。

 09年9月調査では、まず08年9月調査に回答した同一個人に対して調査を実施した。

 ここでは、08年9月に回答した者のうち、336人(残存率42.0%)が回答した。次いで、性・年齢・婚姻状態の条件が同一のサンプル561人を追加した*1。

 この調査の特徴は、08年9月調査に回答した個人に、09年9月時点においても調査を行っている点である。2時点で行ったインターネット調査の結果を比較する場合、両時点において異なる登録者が回答したことにより、時点間の変化ではなく、登録者の違いによる差があらわれてしまうことが懸念される。しかし、本調査のように2時点において同一個人にも調査を行うことにより、両時点に違いがみられた場合、それが単なる回答者の違いから生じたものなのか、それとも実際に両時点における回答が変化したものなのかを判別することができる。以下の分析では、①09年9月調査のサンプル全体の分析、②08年9月調査と09年9月調査の両方に回答した者の分析、の両方を行っている。特に断りのない限り、①と②の変化の傾向が矛盾しないことを確認した上で、調査結果の解釈を行っている。

景気の後退と回復に伴う結婚・出産意欲の変化
(画像=第一生命経済研究所)

3.景気と収入見通し

(1)景気見通し

 「1年前に比べて、現在の日本の景気は悪くなった」と思うか否かを尋ねた。そう思う(「全くそう思う」+「そう思う」、以下同じ)と答えた割合は、08年9月調査では78.0%であったが、09年9月調査でも76.7%であった(図表省略)。両時点を比較すると、景気が悪くなったと思う者の割合は変わっていなかった。

 一方、「これから数年間、日本の景気は、現在と比べて悪くなる」と思うかを尋ねた結果が図表2である。そう思うと答えた者は、08年9月時点では72.1%であったが、09年9月時点には47.1%へと大幅に減少していた。未既婚別に、回答傾向の差はみられない(図表省略)。

 以上から、人々は、09年9月時点でわが国の景気は底を打っており、今後は現在と比べて好転するとみていたといえる。

景気の後退と回復に伴う結婚・出産意欲の変化
(画像=第一生命経済研究所)

(2)勤め先の業績と今後の自分の収入

 次に、民間企業の雇用者を対象に、今後数年間の勤め先の業績の見通しを尋ねた結果が図表3である。09年9月調査では、前年調査よりも、今後勤め先の業績が悪くなる(「かなり悪くなる」+「やや悪くなる」)と回答した者の割合は、約10ポイント低下している。ただし、良くなる(「かなり良くなる」+「やや良くなる」)と回答した割合はほとんど増えていない。

 08年と比べたときの09年1年間の自分の収入をみると、約半数が「ほとんど変わらない」と回答している(図表省略)。しかし、残りをみると、「増加する」と答えた者よりも、「減少する」と答えた者の方が多い。中でも、9.1%の者は「50万円以上減少」、12.5%の者は「20~50万円未満減少」と大幅に収入が減少すると考えていた。雇用者を対象に今後数年間の自分の収入の見通しを尋ねた結果が図表4である。減る(「かなり減る」+「やや減る」)と回答した者は、08年9月から09年9月にかけて、約6ポイント増加している。

景気の後退と回復に伴う結婚・出産意欲の変化
(画像=第一生命経済研究所)

 以上から、会社業績は最悪期を脱しても、自分の収入はしばらく増えないとみている者が多いといえる。

景気の後退と回復に伴う結婚・出産意欲の変化
(画像=第一生命経済研究所)

(3)消費を減らしているもの

 続いて、「1年前と比べて消費を減らしているもの」を尋ねた結果が図表5である。全体的には、節約傾向が強まっている。「外食費」を減らしている割合は、08年9月には61.8%であったが、09年9月には63.0%へと微増している。「趣味・娯楽のための費用」「衣料費」「交際のための費用」は、いずれも節約している割合が高まっている。

 一方、「自動車にかける費用(ガソリン代を含む)」は、09年9月の方が08年9月よりも減らしている者の割合が減少した。この背景には、「1,000円高速」のために週末に車で遠出する人が増えたこともあるとみられる。

景気の後退と回復に伴う結婚・出産意欲の変化
(画像=第一生命経済研究所)

4.未婚者の結婚意欲

(1)結婚意欲

 前節までの分析で、08年9月から09年9月にかけて、人々は景気の最悪期は脱したとみてはいたものの、自分の収入見通しは依然として厳しく、消費行動も不活性である様子が確認された。それでは、結婚意欲はどのように変化しただろうか。

 未婚者に結婚意欲を尋ねた結果が図表6である。08年9月調査では結婚したい(「したい」+「なるべくしたい」)と回答した割合は53.0%であった。09年9月調査では、その割合が59.4%へと約6ポイント増加していた*2。未婚者の結婚意欲は高まったといえる。

 結婚意欲が特に強い層である結婚「したい」と回答した者の割合を性別にみると、未婚男性が11.7ポイント、未婚女性が4.7ポイントの増加であり、未婚女性よりも未婚男性の結婚意欲の方が上昇している(図表省略)。

景気の後退と回復に伴う結婚・出産意欲の変化
(画像=第一生命経済研究所)

(2)経済的に結婚が難しくなる不安

 次に、経済的に結婚することが難しくなる不安を尋ねた結果が図表7である。不安がある(「不安がある」+「どちらかといえば不安がある」)と答えた割合は、08年9月調査では62.0%であったが、09年9月調査では66.4%に増加している。

 性別にみると、不安を感じている割合は、08年9月調査で未婚男性が67.0%、未婚女性が57.0%であったが、09年9月調査ではそれぞれ75.3%、57.3%である。未婚男性において、経済的に結婚が難しくなる不安が大幅に増加した(図表省略)。

 以上から、結婚意欲は高まったが、併せて経済的に結婚が難しくなる不安も高まったといえる。景気は底を打っても、自分の収入はしばらく増加しないことが、結婚への経済的な不安を高めることにつながっていたとみられる。結婚意欲が高まっても、経済的な不安が強いままであれば、実際の結婚は増加しない可能性がある。

景気の後退と回復に伴う結婚・出産意欲の変化
(画像=第一生命経済研究所)

5.既婚者の出産意欲

(1)出産意欲

 続いて、既婚で子ども1人または2人の者の出産意欲の変化をみたい。既婚者の出産意欲を集計した結果が図表8である。子どもが1人いる者のうち、もう1人子どもを欲しい(「欲しい」+「どちらかといえば欲しい」)と回答した割合は、08年9月調査では77.9%であったが、09年9月調査では85.1%へと増加している。子どもが2人いる者においても、もう1人子どもを欲しいと回答した割合は41.1%から44.9%へと高まっている。

景気の後退と回復に伴う結婚・出産意欲の変化
(画像=第一生命経済研究所)

 以上は、08年9月調査において子どもが1人(または2人)の者と09年9月調査において子どもが1人(または2人)の者を比較した結果である。しかし、08年9月調査において子どもが1人(または2人)であった者の中には、次の調査までの間に既にもう1人を出産した者がいる。そこで、この点に考慮した分析も実施した。

 08年9月調査において子どもが1人であった者でかつ09年9月調査にも回答した者のサンプルを分析した。このサンプルでは、08年9月時点で出産意欲があった者の割合は78.7%であった。そして09年9月時点では、既に2人目の子を出産した者が17.7%、その時点においてもう1人子どもを欲しいと回答した者が68.1%であり、両者(出産経験+出産意欲あり)を合わせた割合は85.8%となった。これは、08年9月時点において出産意欲のあった者の割合の77.9%を7.1ポイント上回る。

 同様に、08年9月調査において子どもが2人であった者についてみると、09年9月時点までに出産した者の割合は2.8%であった。子どもが1人の場合と同様に、出産経験と出産意欲のある者を合わせた割合をみると、08年9月時点よりも09年9月時点の方が3.4ポイント高くなっている。

 以上から、出産経験を考慮しても、08年9月から09年9月にかけて既婚者の出産意欲は高まったといえる。

(2)経済的に子育てしにくくなる不安

 次に、経済的に子育てしにくくなる不安を尋ねた結果が図表9である。子どもが1人いる既婚者についてみると、不安を感じる(「不安を感じる」+「どちらかといえば不安を感じる」)割合は、08年9月調査では92.1%、09年9月調査では91.0%である。子どもが2人いる既婚者についてみると、不安を感じる割合は、08年9月調査では93.6%、09年9月調査では89.4%である。2時点を比較すると、不安を感じる者の割合は若干減ったものの、依然として大半の者が経済的な不安をかかえている。

景気の後退と回復に伴う結婚・出産意欲の変化
(画像=第一生命経済研究所)

 08年9月から09年9月にかけて出産意欲は高まったが、子育てへの経済的な不安は依然として高いままである。今後しばらく自分・家族の収入の増加が期待できないことが、子育てへの経済的な不安を高いままにしていたとみられる。

6.子育てしやすい社会になっていくか

 不況の開始期の08年9月時点から景気回復期の09年9月時点にかけて、経済・雇用状況は依然として厳しいものであった。人々の意識と行動をみても、景気の先行きや勤め先である民間企業の業績展望に関する不安は和らいだものの、自分の収入はしばらく増えないとみている者が多く、消費活動における節約志向は強まっていた。結婚や出産することへの経済的な不安感は高いままであった。

 それでは、なぜ、先述のように人々の結婚・出産意欲は高まったのであろうか。考えられる理由の1つは、上記のとおり景気の先行き懸念が和らいだことである。しかし、調査結果からもう1つの理由が浮かび上がる。それは、わが国が今後子育てしやすい社会になっていくという期待感が上昇したことである。

 わが国は子育てしやすい社会であるか否かを尋ねた結果、そう思う(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」)と答えた者は、08年9月調査と09年9月調査とも2割前後である(図表省略)。大半の者は、わが国が子育てしやすい社会であると思っていない。

 しかし、今後わが国が「子育てしやすい社会」になっていくか否かを尋ねたところ、そう思う(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」)と答えた者は、08年9月の20.8%から、09年9月の30.3%へと10ポイント近く増加していた(図表10)。未既婚別にみると、既婚者の方が、そう思うと回答した割合が高くなっていた(図表省略)。

 09年8月末の衆議院選挙で政権交代がなされた。政権をとった民主党は、子ども手当や高校授業料無償化等、子育て支援を大幅に拡充する公約を掲げた。これを受けて、人々の間で、今後わが国が子育てしやすい社会になっていくという期待感が高まり、結婚・出産を上昇させることにつながったと推察される*3。

景気の後退と回復に伴う結婚・出産意欲の変化
(画像=第一生命経済研究所)

7.自由回答

 アンケートでは、回答者に自由回答形式で子育てや生活についての意見を尋ねている。結婚・出産意欲や景気見通しなどについての主な回答を示す。

 未婚者では、働いても十分な収入を得ることができないために、結婚をして子どもをもうけることに困難を感じているという回答がみられた。このとき、未婚男性は自分の収入が十分でないために結婚することができないと答え、未婚女性は配偶者となる男性の収入が十分でないために結婚することができないと答えている。中には、経済的な苦境から、そもそも結婚など考えることができないという意見も寄せられた。

 既婚者でも、不況による収入減で生活や子育てが苦しくなっているという回答が多数みられた。出産・子育てのために、経済的支援を求める声も多く寄せられた。

景気の後退と回復に伴う結婚・出産意欲の変化
(画像=第一生命経済研究所)

8.景気の確実な回復と子育て支援の拡充を

 本研究では、米国の大手証券会社リーマン・ブラザースが破綻した直後の08年9月に実施した調査とその1年後の09年9月に実施した調査を比較して、人々の景気見通し、結婚・出産意欲等の変化を分析した。

 08年9月時点において、景気の先行きへの不安等から、人々は結婚・出産することに萎縮していた。09年9月時点においても、依然として経済活動は低迷しており、失業率は過去最悪の水準にまで上昇し、賃金も抑制されたままであった。ふつうであれば、この状況下において、人々の結婚・出産意欲は08年9月時点と同様に低水準であるか、あるいはその水準から低下しているところである。しかし、意外にも、この1年間に未婚者の結婚意欲と既婚者の出産意欲はともに高まっていることが見出された。

 その理由としては、次の2点が考えられる。第一は、08年よりも景気の先行き不安が後退したことにより、現在よりも生活水準が悪くなるという過度な不安感がなくなったことがあげられる。「これから数年間、日本の景気は、現在と比べて悪くなる」と回答した者の割合は大幅に低下した。

 第二は、衆議院選挙の影響である。そのとき各党は大幅な子育て支援を公約にかかげた。政権をとった民主党は、子ども手当や高校無償化等の公約とした。そのため、人々の間で、今後わが国が子育てしやすい社会になっていくと考える者が増加した。衆議院選挙と政権交代は、少なからず人々の出産意欲を高めることに寄与した可能性が高いといえる。この知見をふまえると、大きく掲げた子ども手当などの子育て支援の公約を撤回することは、人々の結婚・出産意欲を低下させかねない。少子化対策の観点からみると、いま子育て支援の確実な実施が必要であると考えられる。

 ただし、結婚・出産意欲は高まったとはいえ、依然として雇用情勢は厳しく、3人に2人の未婚者は「経済的に結婚することが難しくなる」不安を感じており、約9割の既婚者は「経済的に子育てをしにくくなる」不安を感じている。収入が増加するか、子育て支援が大幅に拡充されるかしなければ、折角高まった結婚・出産意欲も、実際の結婚・出産に結びつくことはないだろう。

 本稿の分析結果は、景気、結婚・出産、子育て支援・少子化対策の関係について、次の点を示唆する。人々の結婚・出産意欲は景気後退に伴って低下するものである。不況は出生率に低下圧力をかける。このとき、何も対策を打たなければ、その影響で出生率は低下する。しかし、そのタイミングにおいて「経済的支援等の子育て支援策」を行えば、景気後退による人々の結婚・出産意欲の減退を緩和する効果を期待することができる。今回の不況においては、09年8月に政権をとった民主党が大幅な子育て支援策を公約したことのアナウンス効果が、人々の結婚・出産意欲の減退を防ぐ一定の効果を果たしたと考えられる。それがなければ、わが国の出生率はさらに低下したことだろう。

 現在、わが国の子育て支援・少子化対策に、景気変動時にどのような対策をとるべきかという指針はない。しかし、景気後退というものは、今後も確実にやってくる。少子化にあえぐわが国は、今から、将来の景気後退時に経済的支援等の子育て支援策を拡充するという政策オプションを備えておくべきだろう。(提供:第一生命経済研究所

【注釈】
1  08年9月調査からの「残存サンプル」と09年9月調査の「追加サンプル」の属性を比較すると次のような違いがある。未婚者についてみると、残存サンプルと追加サンプルで性、年齢はほぼ同じであるが、残存サンプルの方が「パート・アルバイト」が多い。既婚者についてみると、残存サンプルと追加サンプルで性、職業はほぼ同じであるが、追加サンプルの方が年齢が若い。
2  08年9月調査と09年9月調査の両方に回答した「同一サンプル」についてみると、結婚したいと回答した割合は、それぞれ41.3%、48.6%である。追加サンプルよりも結婚したいという絶対的な割合は低いが、同一サンプルにおいても結婚意欲は高まっていた。
*3 わが国が今後「子育てしやすい社会」になっていくか否かという意識と結婚・出産意欲の間には有意な相関がある。

【参考文献】
・ 内閣府,2009,『平成21年版少子化社会白書』.
・ ビョルクルンド・アンデシュ,2008,「日本とスウェーデンの出生率-家族政策の役割」丸尾直美・カール・レグランド・レグランド塚口淑子編『福祉政策と労働市場-変容する日本モデル・スウェーデンモデル』ノルディック出版:135-154.
・ 松田茂樹,2009a,「これからの少子化対策に求められる視点」『Life Design Report(2009.3-4月号)』:16-23.
・ 松田茂樹,2009b,「不況と少子化―景気後退によって結婚・出産意欲は低下するのか」『Life Design Report(Summer 2009.7)』:16-23.
・ 丸尾直美,2008,「出生率のU字型転換を生む要因」丸尾直美・川野辺裕幸・的場康子編『出生率の回復とワーク・ライフ・バランス―少子化社会の子育て支援策』中央法規:22-35.
・ Bradshaw & Hatland, 2006, “Social Policy, Employment and Family Change in Comparative Perspective,” Edward Elgar.

研究開発室 主任研究員 松田 茂樹