要旨

① フルタイムで働く女性のうち、家族の将来的な介護について不安を感じることが「よくある」と回答した人は約4割を占めた。「たまにある」人を加えると、約9割が不安を感じることがあると回答した。20代と30代でも、3割近くが「よくある」と回答している。

② 家族の将来的な介護を不安に感じている人の具体的な不安内容は、「仕事との両立」が約8割で最も多かった。次いで、「介護費用」が約7割、「施設への入居」が約半数、「介護技術」が約3割となった。20代では「介護費用」が、30~50代では「仕事との両立」への不安が最も高い。

③ 仕事と介護を両立するための職場の介護休業制度について、「十分ではない」と感じている人が約3割を占め、「十分であるかどうかわからない」人も6割以上と多かった。

④ 働く女性の介護への不安を軽減し、仕事と介護の両立を支援していくためには、企業による介護のための両立支援が重要であり、介護の実態に即した柔軟な支援制度が、より多くの企業で整備されていくことを期待する。

1.仕事と介護の両立

(1)企業における仕事と介護の両立支援の実態

 団塊世代が後期高齢者となり、団塊ジュニア世代が介護を担う時代が近づいている。仕事と介護の両立が課題となる人々は今後増加していくと思われる。しかし、子どもを持ちながら仕事を続けるための両立支援制度は整ってきている一方、仕事と介護の両立に関する制度は十分に整備されていない。

 育児・介護休業法では、企業が従業員の仕事と介護を両立させる支援制度として、介護休業制度*1、介護のための勤務時間短縮等の措置の制度(短時間勤務制度、フレックスタイム制、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、介護に要する経費の援助措置)、時間外労働の制限、深夜業の制限、転勤についての配慮をあげている。

 これらの介護支援制度のうち、「介護休業制度」と「介護のための勤務時間短縮等の措置の制度」について、企業における制度導入の状況をみたものが図表1である。2008年の調査では、介護休業制度は約6割の事業所で規定が整備されている。また、介護のための勤務時間短縮等の措置の制度の中では、短時間勤務制度が約4割で最も多く、次いで始業・終業時刻の繰上げ・繰下げが約2割となっている。

若年未婚者の雇用と結婚意向
(画像=第一生命経済研究所)

(2)仕事と介護の両立支援制度の利用状況

 次に、企業における仕事と介護の両立支援制度の利用者割合をみると、介護休業制度は0.06%、介護のための勤務時間短縮等の措置の制度のうち、短時間勤務制度、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、介護に要する経費の援助措置はいずれも0.04%、フレックスタイム制度は0.02%となっている(図表2)。いずれも、05年から特に増加していない。また、介護休業制度の性別取得率は、男性0.03%、女性0.11%と、数値こそ低いが、女性の方が高い(図表省略)。日本労働研究機構(現 労働政策研究・研修機構)の「育児や介護と仕事の両立に関する調査」(2003年)によると、民間企業に勤める40~50代の男女のうち、過去10年間に家族介護を経験した人の割合は、男性11.1%、女性23.5%と、働く女性が介護を担う割合が高くなっている。

若年未婚者の雇用と結婚意向
(画像=第一生命経済研究所)

(3)働く女性に求められる仕事と介護の両立

 冒頭で述べたように、団塊世代が介護を必要とし、団塊ジュニア世代が介護を担う時代は近い。団塊ジュニア世代は、団塊世代に比べて一般的に兄弟姉妹数が少ないため、従来に比べて1人にかかる介護の負担は増えることが予測される。

こうした中、企業で働く夫婦が多い団塊ジュニア世代では、就労を継続しながら介護を担うことの難しさが問題となっている。とりわけ、女性は家族の介護が必要になったとき、男性に比べて仕事との両立を求められることが、前述の日本労働研究機構の調査をはじめ、様々な調査結果からも示されている。共働き夫婦では、妻が自分の親に加えて夫の親の介護も担う場合も少なくない。そのため、夫婦ともに一人っ子の場合には、妻が夫と自分の親の4人の介護を担うことも起こりうる。このように、家族や親族の中で女性が介護の担い手となりやすい背景には、男性に比べて女性の方が介護に向いているという従来からの考えがあるともいわれている。さらに、晩婚・晩産化が進んだ近年の傾向としては、仕事と育児に加えて、親の介護を同時に担うケースも出てきているという。

 働く女性が増える中、仕事と介護の両立を担う女性も今後増えていくことから、以下では働く女性に焦点を絞り、仕事と介護の両立に対する意識の実態をみていく。

2.調査の概要

 仕事と介護の両立について以上のような実態にある中、本稿では、フルタイムで働く女性に焦点を絞り、親の介護への将来的な不安の有無や具体的な不安内容について明らかにすることを目的とした。

 分析に使用したデータは、日本ヒーブ協議会(http://www.heib.gr.jp/ )が2010年1月に実施した「働く女性と暮らしの調査(第8回)」のデータである。

若年未婚者の雇用と結婚意向
(画像=第一生命経済研究所)

 日本ヒーブ協議会は、生活者と企業のパイプ役となることを目的として設立された。主に企業の消費者関連部門で働く女性が会員となっている。筆者は、同調査の調査グループメンバーであり、使用許可を得て調査結果を用いた分析を行った。アンケート調査の概要と回答者の基本的な属性は以下のとおりである(図表3、図表4)。

働く女性の仕事と介護の両立
(画像=第一生命経済研究所)

3.調査結果

(1)家族の将来的な介護への不安

 家族の将来的な介護への不安についてたずねると、全体では、不安を感じることが「よくある」人は35.5%を占めた(図表5)。「たまにある」(52.8%)と合計すると、約9割が不安を感じることがあると回答した。「ほとんどない」(9.3%)、「まったくない」(2.2%)と回答した人の合計は約1割にとどまった。

若年未婚者の雇用と結婚意向
(画像=第一生命経済研究所)

 次に、年代別にみると、家族の介護について不安を感じることが「よくある」と回答した割合は年代が高いほど高くなっている。「よくある」と回答した割合は、50代(46.0%)で最も高い。ただし、20代と30代でも約3割が「よくある」と回答している。このように、若い年代であっても、家族の将来的な介護について不安に感じている人が少なくない。

(2)家族の将来的な介護の不安内容

 家族の将来的な介護への不安を感じることが「よくある」「たまにある」と回答した人に、その不安内容をたずねた。全体で最も多かった回答は、「仕事との両立(仕事の継続)」(以下、「仕事との両立」)(80.8%)であった(図表6)。次いで、「介護費用」(70.6%)、「施設への入居」(48.8%)、「介護技術」(30.1%)の順となった。「介護技術」については、実際に介護が必要になった時に必要に迫られて対応する場合が多いため、回答率は低くなったと思われる。

若年未婚者の雇用と結婚意向
(画像=第一生命経済研究所)

 次に、年代別に介護の不安内容をみると、20 代と30 代では、「介護費用」と「仕事との両立」がいずれも7割以上と高い(図表7)。40 代と50 代では、「仕事との両立」が最も回答率が高い。また、「施設への入居」は年代が高いほど不安内容としてあげられる割合が高く、特に50 代(68.8%)で高い。年代が高いほど、介護費用だけでなく施設への入居といったより具体的な内容について不安に感じる傾向にある。

若年未婚者の雇用と結婚意向
(画像=第一生命経済研究所)

 同居家族別にみると、1人暮らしと夫婦のみの人では介護の不安内容に特に差はみられない(図表8)。これに対し、夫婦と未就学・就学児と同居している人では、「仕事との両立」(88.2%)が高い。いずれの同居家族でも「仕事との両立」は最も高いが、特に子どもと同居している子育て期の人にとっては、仕事と育児の両立に加えて、家族の介護が必要となることへの不安が高いためと考えられる。自分の親と兄弟姉妹と同居している人では、「介護費用」(76.8%)と「施設への入居」(40.8%)が、他の同居家族の場合に比べて回答率が高い。

若年未婚者の雇用と結婚意向
(画像=第一生命経済研究所)

 さらに、世帯年収別にみると、不安内容として「介護費用」をあげた割合は、世帯年収が500 万円未満(77.5%)や500~900 万円未満(74.2%)に対し、900 万円以上(65.2%)と、世帯年収が高いと介護費用への不安は低くなる傾向があり、経済的な事情は介護費用への不安を高めていると思われる(図表9)。

若年未婚者の雇用と結婚意向
(画像=第一生命経済研究所)

(3)職場の介護休業制度の認識

 介護と仕事の両立について、職場の介護休業制度が十分であるかどうか尋ねた。

 その結果、最も回答が多かったのは、「十分であるかどうかわからない」(63.9%)であった(図表10)。次いで、「十分ではない」が26.6%を占めた。「十分である」と回答した人は4.9%、「介護休業制度はない」は4.5%となった。

 介護休業制度を利用するには、対象家族や利用期間の制限など様々な制限がある。子どもの成長によって親の手が離れる育児とは異なり、介護の期間は、介護される側の介護状態に大きく依存し、介護する側が介護する期間を自ら選択することができない。このような事情からも、職場の介護休業制度は「十分ではない」と思う人は少なくないのではないかと思われる。

若年未婚者の雇用と結婚意向
(画像=第一生命経済研究所)

 一方、「十分であるかどうかわからない」と回答した理由としては、職場の介護休業制度は知っているが、制度の内容が十分であるかどうかは、実際に介護をする時にならないとわからない人が多いためではないかと推測される。あるいは、介護休業制度があることは認識していても、制度の利用上の条件などの詳細を知らないため、十分かどうか判断できない人も少なくないと考えられる。図表2のように、企業による両立支援制度の利用率は全般的に低いことから、職場で介護に関する制度を利用している同僚がいるケースは少なく、両立支援制度について認識されにくいことも理由の一つではないかと思われる。

4.まとめ

 近い将来、仕事と家族の介護の両立を求められる女性が増えることが想定されることを受けて、本稿では、働く女性の家族の介護に対する不安や職場の制度の認識について実態を探った。調査の結果、経済的、精神的負担が大きいとされる介護において、就労を継続しながら仕事と介護を両立していくことができるのかという不安を多くの働く女性が抱いていることが明らかとなった。企業による介護への両立支援はまだ十分に整備されていないといわれる中、実際に働く女性の不安は仕事と介護の両立にあることが示された。また、企業が仕事と介護の両立のために設けている制度として最も実施率の高い介護休業制度でさえも、十分ではない、あるいは十分かどうかわからないと感じている人が大半を占めていることも明らかとなった。

 政府は、今後更に増えていく高齢者の介護を支える柱として、在宅での介護を主軸に据えている。そうした在宅での介護を可能とするため、2000年には介護保険制度が導入され、要支援もしくは要介護にある高齢者が、在宅で介護にまつわるサービスを利用することができるようになった。しかし、介護保険制度だけでは、高齢者の介護を支えることが難しい場合もある。例えば、在宅で家族の介護を行う場合には、介護保険制度を利用しても、介護保険によるサービスを受けられない時間は、家族や親族が必要に応じて介護を担うことになる。また、家族が介護できない場合に施設への入居を希望したとしても、希望する施設に入居できるかはどうかわからない。このような事情から、働く女性が仕事を続けながら家族を介護していくためには、企業の果たす役割は決して小さくない。

 今後、働く女性の介護への不安を軽減し、仕事と介護の両立を支援していくためには、現在導入が進みつつある介護休業制度に加えて、介護のための勤務時間等短縮の措置の制度や今回改正された介護のための休暇制度*2など介護の実態に即した柔軟な支援制度が、より多くの企業で整備されていくことを期待する。(提供:第一生命経済研究所

【注釈】
1  育児・介護休業法において介護休業制度は、労働者が申し出ることによって、要介護状態にある対象家族1人につき、介護を要する状態に至ったごとに1回、通算して93日まで取得することができると定められている。対象家族には、配偶者(事実婚を含む)、父母及び子、配偶者の父母、同居しかつ扶養している祖父母、兄弟姉妹及び孫などが含まれる。
2  2010年の育児・介護休業法改正により、介護のための短期の休暇制度が追加された。要介護状態の対象家族が1人であれば年5日、2人以上であれば年10日の休暇が取得可能となった。今回の改正前から制度化されていた子の看護休暇と同様に、介護においても短期の休暇が可能となる。

【参考文献】
・ 厚生労働省,2005,「平成17年度女性雇用管理基本調査」.
・ 厚生労働省,2008,「平成20年度雇用均等基本調査」結果概要.
・ 日本ヒーブ協議会,2010,「働く女性と暮らしの調査(第8回)」.
・ 日本労働研究機構,2003,「育児や介護と仕事の両立に関する調査」.

研究開発室 副主任研究員 下開 千春