<女性の育児休業取得率は9割以上>

 国を挙げて少子化対策が行われている中、企業に対しても仕事と家庭の両立のための環境整備が期待されている。2009年9月に厚生労働省が発表した「平成20年度雇用均等基本調査」の結果概要によれば、女性の育児休業取得率は前年度より0.9ポイント上昇し、90.6%と9割を上回った。企業による両立支援策の一つである育児休業制度はほぼ定着し、就業者に浸透しつつあることがわかる。

 本稿では、育児・介護休業法の改正の動き及び企業による両立支援策の現状等を踏まえ、子育て期にある人々のワーク・ライフ・バランス実現のための課題を考える。

<2004年育児・介護休業法改正後の両立支援制度利用状況>

 育児・介護休業法は、1991年に全ての労働者を対象とした育児休業法が成立して以来、度々改正を重ねている。これまでの法改正によって、子育て期の女性の働き方はどのように変わったのであろうか。

 先述の「平成20年度雇用均等基本調査」では、2004年の育児・介護休業法改正後の両立支援制度の利用状況をみることができる。2004年の改正(2005年4月1日施行)により、これまでは育児休業の取得は正社員に限られていたが、一定の要件を満たす有期契約労働者も取得できるようになった。その結果、2008年度では、女性の有期契約労働者の育児休業取得率は86.6%となり、施行直後の2005年度の51.5%を大きく上回った。

 また、育児休業をすることができるのは原則として子が1歳に達するまでであるが、同法改正により、保育所に入所を希望しているが入所できない等の場合、子が1歳6か月に達するまで育児休業を取得することができるようになった。これを反映してか、育児休業を取得して復職した人の取得期間をみると、2005年度に比べ2008年度では1年以上の割合が増加し、取得期間が伸びていることがわかる(図表1)。

改正育児・介護休業法に期待すること
(画像=第一生命経済研究所)

 このようなことから、2004年の法改正により、女性の育児休業制度利用については、ほぼ定着しつつあることがうかがえる。他方、育児との両立のためには、育児休業から復帰後の働き方も重要である。厚生労働省の「今後の仕事と家庭の両立支援に関する調査結果」(2008年5月)によれば、子どもを持つ女性正社員の、育児のための短時間勤務制度を「利用したいと思う」割合は64.5%である。ところが、前掲の「平成20年度雇用均等基本調査」によると、短時間勤務制度を導入している企業の割合は38.9%である。短時間勤務制度に対する従業員の利用意向に比べると、企業の導入割合は低い水準にとどまっている。育児休業制度がようやく定着した今、これからは育児休業復帰後の両立支援策の推進が課題である。

<2009年育児・介護休業法の改正>

 このような中、2009年6月24日、育児休業から復帰後、育児との両立がしやすいような働き方の実現を一つの目的として、育児・介護休業法の改正法(「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律」以下、2009年改正法)が成立し、7月1日に公布された。

 改正の主な内容を挙げると、まず、3歳までの子を養育する労働者について、短時間勤務制度(1日6時間)の措置が事業主に義務づけられることとなった。また、労働者からの請求があった場合、所定外労働の免除をする制度の設置も事業主に義務づけられた。さらに、子の看護休暇の付与日数について、現行では一律年5日であったが、2009年改正法では小学校就学前の子が1人であれば年5日、2人以上であれば年10日の看護休暇を取得できることとなった。これらの改正により、多くの企業で育児休業復帰後の両立支援制度の充実が期待できる。

 また、2009年改正法では、父親の育児休業取得の促進も一つの大きな柱である。女性の育児休業取得率は9割を上回ったのに対して、男性の取得率は1.23%にとどまっており、男性の育児休業取得がなかなか進まないのが現状である(前掲の「平成20年度雇用均等基本調査」)。父親も育児休業を取得することができ、子育てにかかわる環境を整えることは、母親の育児・家事負担を軽減させ、働きやすくなることにつながる。そこで、今回の改正法では、育児休業の取得可能期間について、現行は子が1歳までであるが、父母がともに育児休業を取得する場合、父母それぞれが1年を超えない範囲内で、1歳2か月に達するまで延長できる「パパ・ママ育休プラス」が新設された(図表2)。母親の職場復帰直後は、これまでの在宅育児から大きく生活リズムが変わるので、保育所に通い始めた子どもとともに、母親にとっても大変な時期である。しかしながら、その期間、父親が育児休業を取得し、子育てに協力できれば、母親の職場復帰後の生活をサポートすることができる。そのことは、父母が協力して子育てをしていく生活を始めるための第一歩として重要な意味を持つものと思われる。

改正育児・介護休業法に期待すること
(画像=第一生命経済研究所)

<「保育所整備」と「働き方の見直し」の制度間バランスの重要性>

 このように、この数年間にわたる育児・介護休業法の度重なる法改正により、育児と仕事を両立しやすい制度が整いつつある。有期契約労働者も育児休業を利用できるようになったので、多くの人が出産によって職を離れることなく、継続できるようになった。また、短時間勤務制度や所定外労働の免除が義務化され、子の看護休暇も拡充されたので、職場復帰後も育児がしやすい働き方の見通しが可能となった。

 一方、このように出産後も継続して働きやすい制度が整いつつあるということは、それだけますます保育ニーズが高まるということが指摘できる。実際、保育所の現状に目を向けると、保育所を利用したくても利用できない待機児童が25,384人であり、前年(19,550人)よりも5,834人増加したことが明らかとなった(厚生労働省「保育所の状況(平成21年4月1日)等について」2009年9月)。この増加幅は、同様の調査を行った過去8年間の中で最大である(図表省略)。横浜市等、保育所需要の多い自治体を中心に保育所の供給を高める取組を行っており、実際、受け入れ児童数を増やしているにもかかわらず「足りない」状態が続いている。それは、不況により共働きによって家計を支えようとして、保育所利用を求める人々が増えたことが一因と考えられる。また、先に述べたような育児休業制度等、企業による両立支援策が進む一方で、その受け皿としての保育所整備が追いついていないことにもよる。これまでも待機児童ゼロ作戦(2002年)等により、保育所整備の充実を図る取組を行ってきたが、保育所の整備状況をみる限り、なかなか進展していないことがわかる。

 そこで、こうした現状を乗り越えるため、「保育所整備」の取組と、両立支援制度等の「働き方の見直し」の取組、この2つの取組のバランスをとりながら、ともに促進させていくことの重要性をここで改めて指摘したい。「保育所整備」については、厚生労働省が2008年2月に新待機児童ゼロ作戦を打ち出し、家庭的保育や認定こども園、幼稚園の預かり保育等、提供手段の多様化により供給量拡大を図っている。特に、幼稚園等、既存の社会資源を有効活用することで、効率的に保育機能を有する施設を増やすことが出来れば、保育所の供給を強化させることにつながると思われる。

 他方、「働き方の見直し」については、例えば、育児休業の取得期間を柔軟に長くすることを可能としたり、父親の育児休業取得を促進させたりすることで、保育所の低年齢児の利用を抑えることができよう。2009年改正法は大きな前進ではあるが、たとえ法定化され制度が整っても、その制度の「利用のしやすさ」はそれぞれの職場によって異なる。したがって、各企業、各職場で、「利用しやすい」両立支援制度を整えることが重要であり、そうすることが子育て期の人々のワーク・ライフ・バランスの実現に寄与するものと思われる。(提供:第一生命経済研究所

研究開発室 的場 康子