取組推進のポイントは自社の特性を活かし、社内的な仕組みづくりを考えること
第一生命保険相互会社(社長 斎藤 勝利)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 小山 正之)では、従業員数30 名以上の上場企業3 千社を対象に、標記についてのアンケート調査を実施いたしました。
この程、その調査結果がまとまりましたのでご報告いたします。
子育てにかかわる地域貢献活動について ● 「子育てにかかわる地域貢献活動」を「実施した」企業と「全く実施していない」企業はほぼ半数ずつ。 ●「全く実施していない」理由は、「活動を行うための専門スタッフがいない」、「本業に精一杯で、余裕がない」、「情報やノウハウがない」が多い。 ● 活動分野は、「学校教育」(67.2%)が最も多く、次いで「スポーツ」(37.7%)、「キャリア教育」(27.9%)の順。活動形態は「インターンシップ」(65.6%)、「職場見学」(63.9%)、「出前授業」(39.3%)が上位。 ● 活動分野別に活動形態をみると、「学校教育」分野は「職場見学」、「出前授業」、「自社による自主企画イベントの実施」が多い。また「スポーツ」分野は、「グラウンド・体育館の開放」や「自社企画」、「金銭的寄付」が多い。
子育てにかかわる地域貢献活動を始めたきっかけと活動を実施した効果 ● 活動を始めたきっかけは「企業のトップによる自発的な意向」がトップ。 ● 活動を実施した効果は「地域社会との関係が深まった」、「社員が企業の社会的責任を意識するようになった」が上位を占める。
子育てにかかわる地域貢献活動を行うにあたっての問題点 ● 活動を行うにあたっての問題点は、「予算の確保が難しい」(63.6%)、「活動を統括する専門スタッフがいない」(39.4%)、「活動を実践する従業員が少ない」(33.3%)が多い。
子育てにかかわる地域貢献活動を実施するにあたっての今後の方向性 ● 今後の活動の方向性は、「従業員の自発的な活動を支えたい」、「本業に活かせるような活動を工夫して実施したい」、「行政(自治体)と連携して実施したい」が上位を占める。 ● 次世代育成支援に関して「従業員に対する両立支援策」と「子育てにかかわる地域貢献活動」についてどのようなバランスで取り組んでいくかと考えているかは、「両方とも取り組んでいく」が約5割を占めているが、「従業員に対する両立支援策を優先的に整備していく」も約4割であり、両者に回答が分かれている。
≪調査の実施背景≫
国を挙げて少子化対策として次世代育成支援対策に取り組んでいる現在、国や自治体だけでなく、企業にも子育て支援にかかわることへの期待が寄せられています。このような中、当研究所では、社会を構成する一員としての企業がいわゆる「企業市民」として、わが国の社会的課題の一つである少子化問題を解決するために、地域社会等において子育て支援にかかわる活動をどのように行っているのかを明らかにすることを目的として、企業を対象とした「企業による子育てにかかわる地域貢献活動」に関するアンケート調査を実施しました。
≪調査の実施概要、回答者の特性≫
アンケート調査は、会社四季報(2008 夏)に掲載されている全国の上場企業のうち、従業員30 人以上の企業から無作為抽出を行い、2008 年9月から10 月にかけて人事・総務関連の部署(3,000 社)に郵送し、125 社から回答を得ました。
回答企業の基本属性について、従業員数別に回答企業をみると、従業員301 人以上が約8割を占めています(図表1)。
業種別にみると、「製造業」が45.6%で約半数を占め、続いて「サービス業」と「小売業」が1割前後であり、以下、「建設業」「情報通信業」「卸売業」「金融・保険業」「運輸業」「不動産業」「電気・ガス」「食料品」の順で数社ずつ回答が寄せられました(図表省略)。
本社所在地別に回答企業をみると、「東京」に本社を持つ企業からの回答が52 社で約半数を占めています(図表省略)。次いで「大阪」や「愛知」に本社を持つ企業からの回答がそれぞれ11 社、10 社、そして「神奈川」と「兵庫」が6社ずつとなっており、その他、各県から数社ずつ、全27 都道府県から回答が寄せられています。
子育てにかかわる地域貢献活動の実施状況
「子育てにかかわる地域貢献活動」を「実施した」企業と、「全く実施していない」企業はほぼ半数ずつ。「全く実施していない」理由は、「活動を行うための専門スタッフがいない」、「本業に精一杯で、余裕がない」、「情報やノウハウがない」が多い。
アンケートの回答企業125 社のうち、「子育てにかかわる地域貢献活動」を「実施した」と回答した企業は61 社。「全く実施していない」と回答した企業は60 社と、両者はほぼ半数ずつという結果になりました(図表2)。従業員数別に実施状況をみると、従業員数が多い企業のほうが「実施した」と回答した割合が高い傾向があります。
また「全く実施していない」と回答した60 社に対し、その理由をたずねたところ、「活動を行うための専門スタッフがいない」(48.3%)、「本業に精一杯で、余裕がない」(38.3%)、「情報やノウハウがない」(33.3%)の回答割合が高くなっています(図表3)。
子育てにかかわる地域貢献活動の活動分野と活動形態
活動分野は、「学校教育」(67.2%)が最も多く、次いで「スポーツ」(37.7%)、「キャリア教育」(27.9%)の順。活動形態については「インターンシップ」(65.6%)、「職場見学」(63.9%)、「出前授業」(39.3%)が上位。
子育てにかかわる地域貢献活動の活動分野について複数回答でたずねた結果をみると、「学校教育」(67.2%)が最も多く、次いで「スポーツ」(37.7%)、「キャリア教育」(27.9%)の順となっています(図表4)。
また、その活動形態について複数回答でたずねたところ、「インターンシップの受け入れ(以下「インターンシップ」)」(65.6%)、「職場見学・工場見学の受け入れ(以下「職場見学」)」(63.9%)、「社員を講師として派遣(以下「出前授業」)」(39.3%)といった項目が上位を占めています(図表5)。
活動分野別にみた具体的事例
「学校教育」分野は「職場見学」、「出前授業」、「自社による自主企画イベントの実施」、「インターンシップ」が多い。「スポーツ」分野は、「グラウンド・体育館の開放」や「自社企画」、「金銭的寄付」といった形態が多い。
アンケート調査では、「活動分野」ごとに「活動形態」をたずねており、その中から具体的事例の記述があった主な回答を図表6にまとめました。活動分野別に、回答の多かった活動形態をみると、「学校教育」分野においては、「職場見学」、「出前授業」、「自社による自主企画イベントの実施(図表では「自社企画」)」、「インターンシップ」といった活動形態が多くなっています。「スポーツ」分野においては、「グラウンド・体育館の開放(図表では「グラウンド等の開放」)」や「自社企画」、「金銭的寄付」といった形態によって地域貢献活動を実施しているという回答が目立っています。「環境」分野においては「NPOとの協働・連携(図表では「NPO協働」)」や「出前授業」等、「経済的支援」分野においては「金銭的寄付」や「奨学金制度の設立」等の活動形態が多いという結果になっています。
地域貢献活動を始めたきっかけと活動を実施した効果
活動を始めたきっかけは、「企業のトップによる自発的な意向」がトップ。また活動を実施した効果は「地域社会との関係が深まった」、「社員が企業の社会的責任を意識するようになった」、「会社の知名度が向上した」が上位を占める。
活動を「実施した」と回答した61 社に対し、その活動を始めたきっかけをたずねたところ、「企業のトップによる自発的な意向」(63.9%)の回答割合が最も多く、次いで「地域の保育園や幼稚園、学校(小学校から大学)からの要請、働きかけ」(47.5%)、「自治体(行政)からの要請、働きかけ」(29.5%)と続いています(図表7)。なお、「その他」(13.1%)には、「社員からの働きかけ」や「株主からの働きかけ」により実施したという意見がありました。企業のトップの意向で実施したという企業が多いものの、地域の教育機関や自治体からの要請により実施したという企業も少なくないことがわかります。
また活動を実施した効果をたずねると、「地域社会との関係が深まった」(75.4%)、「社員が企業の社会的責任を意識するようになった」(55.7%)、「会社の知名度が向上した」(31.1%)が上位を占めており(図表8)、「地域社会との関係」を意識して活動を実施している企業が多いことがわかります。
活動を行うにあたっての問題点
活動を行うにあたっての問題点は、「予算の確保が難しい」(63.6%)、「活動を統括する専門スタッフがいない」(39.4%)、「活動を実践する従業員が少ない」(33.3%)が多い。
企業が活動を行うにあたって「問題点がある」と回答した33 社に対し、その問題点を具体的にたずねたところ、「予算の確保が難しい」(63.6%)の回答割合が最も多くなっています(図表9)。次いで「活動を統括する専門スタッフがいない」(39.4%)、「活動を実践する従業員が少ない」(33.3%)といった項目が続いています。
活動を実施し、問題点を感じている企業の多くは、活動を行うための予算や人材が少ないことを問題点として挙げており、地域との連携の困難さを挙げている企業は相対的に少ないことがわかります。
活動を実施するにあたっての今後の方向性
今後の活動の方向性をたずねたところ、「従業員の自発的な活動を支えたい」、「本業に活かせるような活動を工夫して実施したい」、「行政(自治体)と連携して実施したい」、「保育園や幼稚園、学校(小学校から大学まで)と連携して実施したい」が上位を占める。
今後、企業は、どのように子育てにかかわる地域貢献活動を進めていきたいと思っているのでしょうか。活動を実施している企業に、今後の活動の方向性をたずねたところ、「従業員の自発的な活動を支えたい」(49.2%)と「本業に活かせるような活動を工夫して実施したい」(47.5%)、「行政(自治体)と連携して実施したい(37.7%)、「保育園や幼稚園、学校(小学校から大学まで)と連携して実施したい」(36.1%)が上位を占めています(図表10)。
従業員の自発性や自社の特性を活かして活動を実施していくという方向性を示した回答が若干多いものの、地域社会との連携を意識して活動を進めていくという企業も少なくないことがわかります。
次世代育成支援に関する取組についての今後の方向性
「両方とも取り組んでいく」が約5割を占めているが、「従業員に対する両立支援策を優先的に整備していく」も約4割であり、両者に回答が分かれている。
今回のアンケート調査では、企業による「子育てにかかわる地域貢献活動」に焦点を当てて調査を行いましたが、今後、企業は次世代育成支援として、「従業員に対する両立支援策」と「子育てにかかわる地域貢献活動」をどのようなバランスで取り組んでいこうと考えているのでしょうか。最後に、こうした企業の次世代育成支援に関する取組の方向性についてたずねた結果をみます。
「上記の両方とも取り組んでいく」(50.8%)が約5割を占めていますが、「従業員に対する両立支援策を優先的に整備していく」(37.7%)も約4割であり、両者に回答が分かれています(図表11)。
多くの企業は「従業員に対する両立支援」を基本的に取り組むこととしていますが、子育てにかかわる地域貢献活動も軽視せず、「社外の子どもに対する次世代育成支援」も同時に取り組んでいこうとしている企業も少なくないことがわかります。
≪研究員のコメント≫
(1)子育て支援の担い手として期待される企業の役割
国を挙げて少子化対策に取り組んでいる今、子どもの「健全育成」という「教育」よりも広い概念で子どもの「育ち」を支えるという意味において、「行政」や「地域社会」とともに社会を構成している「企業」にも、一定の役割が期待されるようになっています。
ところが実際には企業によって実態や認識の違いがあります。調査結果では、従業員数が少ない企業に比べて多い企業で、子育てにかかわる地域貢献活動を実施している割合が高い傾向がみられました。しかし、従業員数が多い企業で、全ての企業が実施しているというわけではありません。実施の有無は、それぞれの企業の「考え方」、特に、企業トップによる意向に大きく左右されるようです。また、「地域との連携」も重要な鍵となっているようであり、企業がいわゆる「企業市民」として、日常的に地域社会とのコミュニケーションを図る努力も必要であることが示唆されました。
さらに最近では、日本経済団体連合会や経済同友会等の経済団体が、企業に対して、子どもの教育や健全育成のための取組を行うことを呼びかけています。多くの企業が、このような要請に応えて、子育て支援のための活動への取組を実行するようになることも望まれます。
(2)自社の特性にあった、活動をおこなうための「仕組みづくり」を考える
一方、活動を行うにあたって「人材不足」が問題となっています。また、活動をするための「情報・ノウハウがない」という回答も多く寄せられています。
最近では、内閣府がホームページを通じて、企業の子育て支援のための活動に関する「事例集」の公表を行っています。こうした事例集は、これから取組を始めようとしている企業にとって参考になるものと思われます。
また、本調査結果からも、自社の特徴を活かして、「できること」を工夫して行っている企業が少なくないことがわかりました。例えば、巨額な資金を投入しなくても、自社の資源(グラウンド、社屋等)を活用することで、子どもの健全育成に寄与する活動を実施できることが示されています。また、地域のNPOとの連携によって地域貢献を果たすこともできます。さらに、従業員の自発的な活動を支援する制度(例えば、社会活動休暇制度等)を整えることで、「人材不足」を緩和することができると思われます。
他方、「子育て支援」という目的に限らず、伝統的に「芸術分野」や「環境分野」における社会貢献活動に実績のある企業が行う「得意分野」をいかした活動、例えば、「子どもを対象としたクラシックコンサートの開催」や「美術館における子どもを対象としたワークショップの開催」、「環境についての出前授業やワークショップ」等が注目されています。
このように、企業における子育て支援のための活動には様々なものがあり、必ずしも「巨額な投資」を行わなくても、自社の特徴を活かし、社内的な仕組みづくりを考えることで、子育て支援の一翼を担うことができると思われます。今後の企業の取組に期待しています。(提供:第一生命経済研究所)
研究開発室 主任研究員 的場康子
㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 広報担当(田代・新井) TEL.03-5221-4771 FAX.03-3212-4470 【アドレス】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi