<企業で働く障害者の人数・割合はともに増加>
年度の変わり目は、入社・退社や転勤などの異動が多い季節だ。障害のある人の中にも、新年度から仕事についたり、新しい職場に配属されたりする人が少なくないだろう。また、障害のある人と一緒に働くことになる人もいると思う。
障害者の働く場は、作業所や授産施設などの福祉施設もあれば、一般の企業や自治体などもある。後者のうち、特殊法人を除く従業員数56人以上の民間企業(以下、「民間企業」)では2008年6月現在、32万6千人の障害者(身体障害者26万6千人、知的障害者5万4千人、精神障害者6千人)が雇用されている(図表1)。過去10年間の推移をみると、民間企業に雇用されている障害者は03年より増え続けており、これまでで最も多い。
こうした障害者雇用の状況に大きな影響を与えてきたのは、「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」である。この法律に基づき、民間企業は労働者数の1.8%(法定雇用率)に相当する数以上の障害者を雇用することが義務付けられている。従業員数301人以上の企業は法定雇用率に達しない場合、不足1人当たり月額5万円の納付金を支払わなければならない。この法律の遵守は近年厳しく求められる傾向にある。
図表2①をみると、08年における民間企業の障害者の実雇用率(雇用されている障害者数32万6千人が労働者数2049万9千人に占める割合)は1.59%であり、法定雇用率である1.8%には及んでいないが、05年から急速に伸びている。また、法定雇用率達成企業の割合は一時期減少傾向にあったが、05年からは法定雇用率と同様に上昇を続けている。その結果、08年における法定雇用率達成企業の割合は44.9%となり、いまだ半数に満たないものの99年の水準には回復した。民間企業で働く障害者は、数、割合ともに近年増えているといえる。
次に図表2②で企業規模別にみると、法定雇用率達成企業の割合は従業員数が300人未満の企業のほうが300人以上の企業よりも若干高いが、実雇用率は従業員数100~299人の企業で1.33%、56~99人の企業で1.42%と、300人未満の企業で特に低い。しかし、昨年12月に障害者雇用促進法の改正案が成立したことにより、これまで法定雇用率に達しない場合の納付金の支払いが猶予されてきた従業員数300人以下の民間企業の一部は、2010年7月から段階的に支払い義務が課せられるようになる。こうしたことも含め、企業の障害者雇用を促す動きは今後一層強まると考えられる。
<就労環境に対する障害者の評価は?>
では、障害のある人は、仕事をする環境についてどのように評価しているのだろうか。
内閣府は05年度より毎年、障害者を対象に「障害者施策総合調査」をおこなっている。06年度(07年2~3月)の調査では雇用・就業分野に焦点を当て、障害者1,430人から回答を得ている。
過去10年間で障害のある人が働きやすくなったと思うか、とたずねた結果を図表3でみると、「変わらない」(39.5%)と答えた人が最も多い。ただ、「とても働きやすくなった」(3.8%)、「やや働きやすくなった」(32.2%)を合わせた『働きやすくなった』と答えた人も36.0%であり、「変わらない」と同程度の割合となっている。
また、『働きやすくなった』と答えた人に対し、そう思う理由を複数回答でたずねたところ、「障害がある人の働く場(雇用機会)が増えたため」(45.6%)の割合が最も高かった(図表省略)。企業等での障害者雇用が増えたことにより、障害者自身も雇用機会の広がりを感じているのであろう。
しかし、働くことに関して障害を理由に差別を受けたと感じたことがあるか、という質問に対しては、図表4の通り「ない」と答えた人が22.5%にとどまり、「とてもある」(19.2%)と「少しある」(32.9%)を合わせた『ある』と答えた人が半数(52.1%)を超えた。また、差別を受けたと感じたことが『ある』と答えた人に対し、どのような時にそう感じたかを複数回答でたずねた結果では、「仕事を探している時」(47.0%)の割合が最も高かった(図表省略)。仕事を見つける段階での差別の存在を感じている障害者がまだ多いことがわかる。
また、障害のある人が働き続けるために職場では十分な配慮がされていると『思わない』人は54.8%(「そうは思わない」17.6%+「あまりそうは思わない」37.2%)と過半数を占め、『思う』人は25.5%(「とてもそう思う」5.3%+「ある程度そう思う」20.2%)しかいなかった(図表5)。働く時間や仕事の内容、人間関係などのソフト面と、職場の物理的環境などのハード面の双方での配慮が必要とされて いると考えられる。
かつてに比べれば就業機会は増えているが、仕事を探す上でも続ける上でも依然として差別はあるし配慮も十分でない―というのが、以上の調査結果からみえる障害者の実感だろう。周囲の理解や配慮が不足しているために、能力が正当に評価されず仕事につけない障害者や、せっかく仕事についても能力を発揮できない障害者がいるとすれば、障害者本人にとってはもちろん雇用する側にとっても望ましいことではない。雇用側である企業等やそれを支える行政にとっては、障害者のより積極的な雇用を推進するとともに、定着のための環境整備を図ることが、今後の引き続きの課題であろう。
また、従業員一人ひとりの意識も変わらなければならない。障害者は法律の義務があるから雇わなければならないのではなく、ともに働く仲間であり戦力であるという考え方が必要だ。景気の低迷により雇用情勢全体が悪化しており、障害者を含む従業員の解雇などもニュースとなっているが、今後、障害者雇用が減速しないことを願う。(提供:第一生命経済研究所)
研究開発室 水野 映子