<人口減少の本格化>

 平成21年1月1日付で厚生労働省より「平成20年人口動態統計の年間推計」が発表された。これによると、平成20年のわが国の人口は過去最大となる5万1千人の自然減になるという。その内訳をみると、出生数が前年より約2千人増加し109万2千人となるのに対し、死亡数が前年よりも約3万5千人増え、戦後最多の114万3千人となる。2年連続して死亡数が出生数を上回るのは戦後初であり、人口減少の本格化を感じざるを得ない。

 こうした人口減少の背景にあるのは少子化である。合計特殊出生率は平成18年、19年と2年連続で上昇し、さらに平成20年も0.02上昇し1.36になるといわれている。しかしながら、人口を維持するのに必要とされる約2.1との差は依然として大きい。今や団塊ジュニアの年齢が30代後半となり、その下の若年層の人口も減少していくことが明確な状況のなか、少子化対策の早急な拡充と実行が必要である。

 少子化問題の背景として子育てをしにくい環境、すなわち仕事と生活の両立の問題が指摘されるが、その改善に向けて働き方に関する法の一部改正が昨年末になされたので、今回これについて取りあげる。

<次世代育成支援対策推進法の取組状況と改正のポイント>

 平成15年に成立した次世代育成支援対策推進法(以下、次世代法)は、政府・地方公共団体・企業等が一体となり、次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、育成される環境の整備を目的としている。次世代法では、これまで301人以上の従業員を雇用する事業主に対して、「一般事業主行動計画」(以下、行動計画)を平成17年3月31日までに策定し、同年4月1日以降、速やかな届け出を義務付けていた。行動計画は、従業員の仕事と子育ての両立を図るために必要な雇用環境の整備だけではなく、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備等の取組も盛り込むものとなっている。

 最短の計画期間となる2年後の平成19年4月からは行動計画の目標を達成し、育児休業取得等の基準を満たした事業主に対して、厚生労働大臣が基準適合の認定を行っている。厚生労働省の公表では同年4月末時点での認定企業数は128企業であったが、平成21年1月末時点で各都道府県労働局が公表している認定企業数は637企業となった(図表1)。認定企業数は増えているものの、届け出義務のある約1万3千企業からすれば、まだまだ少ない状況である。さらに、大企業が集中する東京都が約半数の337企業を占める一方、認定企業数が10企業に満たない県がほとんどである。各都道府県の労働局では、ホームページにおいて認定基準や認定企業の取組内容、認定によるメリットなどを掲載し、次世代法の取組推進を図っている。

 また、認定された企業は、認定マーク(愛称:くるみん)を企業の封筒・名刺等につけ、自社のPRに活用することができる(図表2)。くるみんは仕事と子育ての両立がしやすい企業の目印として、求人広告等で見かける機会が増えてきている。

障害者雇用は進んだが・・・
(画像=第一生命経済研究所)

 このような状況の中、昨年の11月26日に次世代法の改正が成立した。改正のポイントは2点あり、1点目は、従業員101人以上の企業に対し、平成21年4月1日以降に新規に策定または変更した行動計画の公表及び従業員への周知が義務化されたことである(図表3)。ただし、従業員101人以上300人以下の企業については猶予期間があり、平成23年3月31日までは努力義務となっている。

 この改正により、社内外に行動計画を示すことになり、事業主はその策定にあたって十分な検討が必要となる。効果としては、自社の両立支援策に対する事業主と従業員、また従業員間での共通認識を持ちやすくなり、社内一体となっての取組が期待される。また、社外の求職者にとって両立支援の整った企業を選びやすくなると同時に、企業は複数の求人者から選考できる利点も得られる。

 2点目は、行動計画の届出義務の対象が、これまでの従業員301人以上企業から従業員101人以上企業にまで拡大されることである(図表4)。従業員300人以下の企業でも、すでに届出を行い認定まで受けている企業もあるが、現行では届出が努力義務に留まるため、両立支援の取組に大きな差が生じている。次世代法対象の裾野が拡大することによって、一層の取組みの促進が期待される。施行日は2年後の平成23年4月1日となるが、効果的で実現可能な両立支援策を策定するには早めの着手が必要であろう。

障害者雇用は進んだが・・・
(画像=第一生命経済研究所)

<労働基準法の一部改正>

 労働基準法においても、両立支援に向けた一部改正が昨年の12月5日に成立した。その内容は、子育てをしにくくしている原因のひとつとして考えられる長時間労働の改善に向けて、時間外労働と年次有 給休暇に関するものである。

 まず、時間外労働については、1カ月の時間外労働時間の限度基準である45時間までは従来どおり25%以上の割増賃金のままであるが、60時間を超える場合、2倍となる50%以上の割増賃金の支給となる(図表5)。また、45時間を超え60時間以内の場合は、①25%を超える割増賃金率とするように努めること、②時間外労働をできる限り短くするように努めること、の2項目が労使協定の締結に必要となる。今回の改正によるコスト増は企業にとって小さくはなく、法改正による長時間労働の抑制効果に期待したい。いずれにしても労働時間の改善は、両立支援の趣旨はもちろん従業員の心身の健康面からもしっかりと取り組むべきものである。

 次に年次有給休暇(以下、有給休暇)については、これまで「日」単位での取得であったものが、年間5日分までは「時間」単位での取得が可能となる(図表6)。これにより、1日までは必要としない用事、例えば子どもの通院等で数時間の有給休暇を取るといった活用が見込まれている。すでに、半日公休制度を導入している企業もあるが、時間単位となればより柔軟な有給休暇の取得が可能となる。

障害者雇用は進んだが・・・
(画像=第一生命経済研究所)

 次世代法と労働基準法の一部が改正されたが、両立支援策の実施や長時間労働の抑制を推進していくためには、もちろん事業主のリーダーシップの発揮が必要である。しかし、職場の具体的な課題を解決していくためには、それだけでは不十分である。そこで働く従業員に事業主の考えがしっかりと伝わらないとならない。またその逆もしかりである。厳しい経済環境下ではあるが、事業主と従業員がしっかりと向き合い、両立支援に取り組んでいくことが、安定した企業経営と従業員の生活をもたらすものである。

 また、企業による子育てする従業員への対応や、生活時間の確保に向けた取組というと、大企業の福利厚生として捉える向きもある。今後の労働人口の減少を踏まえれば、大企業よりも中小企業の従業員確保がどんどん厳しくなっていく。こうした背景のなか、優秀な従業員の確保・採用に向けて、中小企業こそ法改正以上の対応を迫られているかもしれない。(提供:第一生命経済研究所

研究開発室 室井 謙一