法的な婚姻関係にない男女の間に生まれた子供と父親との関係は、認知という手続きによって確定します。認知は生前に行うほか、遺言で行うこともできます。
遺言書に愛人との間に生まれた子供を認知する内容の記述があったとき、これは遺言認知として法的に有効です。相続人は遺言で認知された子供も含めて遺産分割の話し合いをしなければなりません。
この記事では、遺言で子供を認知することができる遺言認知についてお伝えします。
1.遺言認知とは?
法律上の婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子供は、出生届を提出することで法律上の父親と母親が確定します。
一方、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子供については、法律上の母親は出産の事実によって確定します。しかし、誰が父親であるかが明らかでも、法律上の父親を確定するには認知の手続きが必要になります。認知をすると、その効力は出生のときまでさかのぼります。つまり、認知された子供は生まれたときから認知した父親の子供であったことになります。
遺言認知は認知の方法の一つで、遺言によって子供を認知します。認知は生前でもできますが、何らかの事情で生前の認知ができない場合に遺言による認知が行われます。
認知する子供が成人している場合は本人の承諾が必要で、胎児を認知する場合は母親の承諾が必要です。
認知による法定相続分や相続順位の変動に注意
遺言で子供を認知すると、相続人が増えることになります。
たとえば、相続人が妻と子供である場合、子供一人あたりの法定相続分は遺産の2分の1を子供の人数で分けたものです。認知で子供が増えれば、子供一人あたりの法定相続分は目減りしてしまいます。また、認知をしなければ子供がいなかった場合では、妻と被相続人の親(または兄弟姉妹)が相続人であったものが、認知によって妻と認知された子供が相続人になります。
このように、遺言で子供を認知すると法定相続分や相続順位(誰が相続人になるか)が変わります。他の相続人はもらえる遺産が少なくなったり全くもらえなくなったりするため、トラブルになることが予想されます。
遺言認知をするときは、あわせて遺産の配分も指定して、相続人どうしのトラブルを未然に防ぐようにすることが大切です。
2.遺言認知をするときの遺言記載例
遺言で子供を認知するときは、遺言書に次の事項を明記します。
- 子供を認知する旨
- 子供の母親
- 子供の住所、氏名、生年月日、本籍、戸籍筆頭者
記載例は次のようになります。
遺言認知をするときは、遺言執行者を定めておく必要があります。遺言執行者が定められていない場合は、相続人が家庭裁判所で遺言執行者選任の手続きをしなければなりません。
3.子供を認知する遺言書が見つかった場合
子供を認知する遺言書が見つかった場合、遺言執行者は就任から10日以内に認知の届け出をしなければなりません。届け出は(1)遺言者の本籍地、(2)子供の本籍地、(3)遺言執行者の住所地のいずれかの市区町村役場で行い、認知届出書に遺言書など必要書類を添付して提出します。認知する子供が成人している場合は本人の承諾書が必要です。認知する子供が胎児の場合は母親の承諾書が必要で、届け出先は母親の本籍地の市区町村役場に限られます。
子供が認知されると、その子供は相続人となります。被相続人の配偶者や子供など相続人は、認知された子供も含めて遺産分割の話し合いをしなければなりません。認知された子供を除いて遺産分割することはできません。
4.参考:認知症になると遺言作成ができなくなる
認知症になると遺言書を作成することができなくなります。作成したとしても意思表示できる状態ではなかった、つまり遺言能力がなかったと判断されれば遺言は無効になってしまいます。遺言認知をお考えの場合は、できるだけ早く遺言書を作成することをおすすめします。
遺言者が認知症であったにもかかわらず遺言書が作成された場合、遺言能力があったのかどうかをめぐって相続人どうしで争いになることがあります。このようなときは、相続人が遺言無効確認の訴えを起こします。
遺言者に遺言能力があったかどうかは、医師の診断のほか、遺言の経緯、遺言をする前後の生活状況や精神状態も含めて判断されます。遺言書を作成した時点で遺言者に遺言能力がなかったと判断されれば、遺言は無効になります。自筆証書遺言だけでなく、公正証書遺言でも無効になることがあります。
5.まとめ
婚姻関係にない男女の間に生まれた子は、認知によって父子関係を確定することができます。生前に認知をするとトラブルになることがあるため、遺言で認知をすることもできます。遺言認知では、遺言書に必要事項をもれなく記載し、遺言執行者を定めておく必要があります。
なお、認知症で意思表示ができなくなると遺言作成ができなくなってしまいます。いつから認知症になるかは自分ではわからないものです。遺言認知をお考えの場合は、できるだけ早く遺言書を作成しておくようおすすめします。
(提供:税理士が教える相続税の知識)