<若い世代の父親たちの両立志向>

 「仕事と子育ての両立」というと、働く母親たちの話と思われやすい。わが国では子育ての主な担い手は母親で、父親のかかわりは少ない。6歳未満の子どもをもつ家庭についてみると、1日あたり育児に費やす時間は、母親が187分であるのに対して、父親は32分である(総務省統計局 2006 「平成18年社会生活基本調査」)。だが、この数字から来る印象とは異なり、いまどきの父親たちは子育てや家庭生活に目を向けていないわけではなさそうである。

 男性に対して「望ましいと思う男性の生き方」を尋ねると、仕事優先が67.3%、仕事も家庭もが25.1%、家庭優先が5.1%である(日本労働研究・研修機構 2008 『JIL-PT 調査シリーズNo.41 第5回勤労生活に関する調査』)。この考え方は年代による差が大きく、仕事優先と答える割合は年齢があがるほど高く、逆に仕事も家庭もと答える割合は若い年代ほど高い。具体的には、仕事も家庭もという割合は、50代男性は25.0%であるのに対して、20代男性は36.7%にのぼる。

 同じ調査から、有職者について「仕事と家事・育児・介護の両立が難しく、悩むことがある」と回答した者の割合をみたものが図表1である。この割合は、未婚者が多い20代男性では21.5%と低いが、子育て中の者が多い30代や40代の男性ではおよそ3人に1人にのぼる。有職の男性と女性の回答を比較すると、同じ年代では総じて女性の方がこの回答割合は高いものの、女性のみが両立に悩んでいるわけではないことがわかる。

 もちろん、父親が「両立志向」という場合、毎日の仕事をした上で、母親と同じ内容・時間の子育てを行うことを求めているとは限らない。子育て期には母親が専業主婦である家庭が多いことも考慮すれば、両立志向をもつ父親たちの多くは、母親を補佐するあるいはその役割を補完するかたちで子育てにかかわろうとしているとみられる。

父親が子育てしやすい会社
(画像=第一生命経済研究所)

<両立志向であるのに長い労働時間>

 このように、若い世代の父親たちは仕事と子育てを両立した生活を求めている。しかし、実際の育児時間はというと、先述のとおり1日平均32分と短い。なぜこのようなギャップが生じるのだろうか。

 答えは、長い労働時間にある。当研究所が2005年に行った全国調査によると、男性のうち1日10時間以上働いている者の割合は、20代が39.5%、30代が55.4%、40代が46.7%、50代が35.1%である(第一生命経済研究所 2005 『ライフデザイン白書2006-07』)。世界的にみて日本の男性の労働時間は長いが、その中でも特に長いのがちょうど子育て期にあたる30~40代なのである。この年代の労働時間が長くなるのは、中堅社員として業務の中核を担うことや中間管理職として上と下の調整に忙殺されることなどのためである。

 2001年の同調査では、男性のうち1日10時間以上働いている者の割合は、20代が38.9%、30代が40.3%、40代が42.2%、50代が16.8%であった。実は、近年子育て期にあたる年代の男性の労働時間は、さらにのびている。この背景には、これまで企業が新卒の正社員の採用は抑制し、非正規雇用を増やしたことにより、30~40代を中心とする少なくなった正社員に負荷がかかるようになったことがある(松田茂樹2008 「追い詰められる育児世代―雇用の変化がもたらす育児の困難」『三田評論』慶應義塾)。ちなみに、20代男性で長時間労働の者がほとんど増えていないのは、雇用の非正規化がすすんだからである。

 いまの若い世代の父親たちは、おそらくその上の世代の父親たちよりも、子育てや家庭生活に目が向いている。だが、皮肉なことに、彼らは上の世代以上にハードワークなのである。

<父親が子育てしやすい会社=皆が働きやすい会社>

 父親たちを取り巻く厳しい就労環境であるが、一筋の光明はある。男性社員も子育てや家庭生活をしやすいように就労環境の改善をすすめる企業があらわれてきている。NPO 法人ファザリング・ジャパンと当研究所は共同で、従業員数301人以上の上場企業を対象に「父親が子育てしやすい会社アンケート2008」を行い、「我こそは父親が子育てしやすい会社」という67社から回答をえた。この調査では、企業における労働時間、休業制度、子育て支援、仕事と子育ての両立等にかかわる啓発・研修活動についての約40項目の質問で、制度と利用実績の両方を調べている。

 回答した企業の平均像は次のとおりである。残業時間を含む従業員1人当たりの年間労働時間は2,052時間であり、正社員の割合が約8割と高いにもかかわらず、それほど長くない。ノー残業を実施している企業は61%である。育児期のための短時間勤務制度についてみると、子どもが7歳まで取得することができ、選択できる最短の勤務時間(昼休みなどの休憩時間を含む)は6時間で、男性の取得者がいる企業が22%である。配偶者出産休暇は平均3日ある。育児休業制度については、約3分の1の企業が取得日数の一部を有給化しており、半数の企業で昨年度取得した男性がいる。在宅勤務を導入している企 業は約2割ある。

 具体的に制度の整備と利用実績の両面が充実している企業をみると、例えば、製造業A社は、ワーク・ライフ・バランスの観点から、育児・介護支援、勤務形態の多様性を実現する制度を拡充している。育児のための短時間勤務制度や在宅勤務制度は、小学校卒業まで利用可能である。配偶者出産休暇は5日で分割取得可能であり、昨年度の男性取得者は約160人(前年比150%)にのぼる。製造業B社では、業務の生産性向上とワーク・ライフ・バランスの両立をめざして、間接部門全般に在宅勤務制度を導入している。この制度は男性の活用が多く、利用者からは「家族と一緒にご飯が食べられる」「子どもの勉強を見てやれる」という声が出ているという。情報通信業C社では、子(高校3年生まで)の学外活動等への同行や配偶者の出産等のためのライフプラン休暇をもうけている。また、全社員をエントリー対象とした在宅勤務制度も導入している。

 なぜ、これらの企業は、ここにあげたような就労環境の整備をすすめているのだろうか。調査企業に「男性社員が子育てしやすい会社にすることの効果」を尋ねた結果が図表2である。「優秀な人材確保」をあげた割合が73.1%で最も高く、以下、「(社員の)士気向上」(67.2%)、「企業のブランドイメージ向上」(64.2%)、「退職率低下」(50.7%)などとなっている。先述したように、いまどきの若い男性の間では、仕事も大切だが、家庭生活も大切にしたいと考える者が少なくない。父親になれば、仕事と子育ての両立に腐心している。そのため各社は、こうした若い世代の男性をひきつけ、彼らが両立に悩むことなく仕事に集中できるように、就労環境の整備をすすめている。

 また、分析すると、各企業は決して自社を「父親のみ子育てのみしやすい会社」にしようとしているわけではないことがみえてくる。社員の子育てに配慮した環境整備を通じて、幼い子どもを抱えた社員も介護を必要とする家族を抱えた社員も、男性社員も女性社員も、つまり様々な背景をもつ社員がそれぞれの持てる力を発揮できる職場づくりを目指している。

 わが国で父親といえば、どちらかといえば仕事中心の生活を送る人が多く、子育てから遠い存在であった。若い世代の意識は変わってきているが、全体的にはいまもその傾向がある。その父親でも望めば子育てをしやすい会社ということは、それは父親にとって、もちろんそれ以外の社員にとっても、就労環境が整備された「働きやすい会社」なのではないだろうか。(提供:第一生命経済研究所

父親が子育てしやすい会社
(画像=第一生命経済研究所)

研究開発室 松田 茂樹