第一生命保険相互会社(社長 斎藤 勝利)のシンクタンク、(株)第一生命経済研究所(社長 小山 正之)では、全国の50~79 歳の男女800 名を対象に、標記についてのアンケート調査を実施いたしました。
この程、その調査結果がまとまりましたのでご報告いたします。
孫との関係に対する意識 ●9割の祖父母が「孫がいることに、はりあいや生きがいを感じる」と回答。 ●「孫と接すると、身体的に疲れを感じる」祖母は約5割いる。
孫への子育て支援実態 ●6割以上の祖父母が、孫に衣類、おもちゃ、学用品などを買っている。 ●孫への子育て支援を行っていない祖父母は1割に満たない。 ●祖父母は、孫の母親の就労状況にかかわらず支援を行っている。 ●年齢が若く、孫と近居し、孫が小学生以下である祖母はより多くの支援をしている。
祖父母が孫の子育てを支援している理由 ● 孫の子育て支援の最大の理由は「孫がかわいいから」(祖父75.1%、祖母73.5%)。 ●「子どもや孫の生活をできる限り支えたいから」が約4割を占める。 ●孫の母親が働いている場合と無職の場合では、支援理由は大きく異なる。 ●孫の母親が働いている場合には「母親の両立困難」をあげる人が多い。 ●孫の母親が無職の場合には、とりわけ祖母で「親の子育てが大変」をあげる人が多い。
将来、孫が生まれた場合の支援 ●将来、孫が生まれた場合に孫の子育てや教育を「できるだけ支援したい」と答えた祖父母は7割近い。 ●娘(息子の妻)が働きながら子育てをすることの難しさに対しては、女性に比べて男性の共感がかなり低い。
☆本冊子は、当研究所から隔月発行している『ライフデザインレポート』5-6月号をもとに作成したものです。レポートご希望の方は、左記の広報担当、またはホームページからお申し込みください。
≪調査の実施概要≫
1.調査地域と対象 50 歳から79 歳までの全国の男女
2.サンプル数 800 名
3.有効回収数(率) 780 名(有効回収率 97.5%) ※うち孫がいると答えた416 名の回答を中心に分析
4.サンプル抽出方法 第一生命経済研究所生活調査モニター
5.調査方法 質問紙郵送調査法
6.実施時期 2007 年10 月~11 月
7.回答者の属性
孫との関係に対する意識
9割の祖父母が「孫がいることに、はりあいや生きがいを感じる」と回答。「孫と接すると、身体的に疲れを感じる」祖母は約5割いる。
祖父母と孫との関係をめぐるさまざま意識について、10 の問を設けました。
そう思うと答えた人(「そう思う」または「まあそう思う」と答えた人、以下同じ)の割合が祖父・祖母とも8割を超えたのは「孫がいることに、はりあいや生きがいを感じる」(祖父:95.2%、祖母:90.8%)、「親として子育てをした頃より、精神的なゆとりをもって孫に接している」(同92.5%、95.2%)、「孫と接するとき、けがをさせたり、体調を崩させないか気を使う」(同89.3%、85.2%)の3項目となりました。すなわち、ほとんどの祖父母は、孫の存在にはりあいや生きがいを感じながらも、孫との関係にはかなり気を使っているということになります。
これら10 項目のうち、そう思うと答えた人の祖父と祖母の差が最も大きかったのは「孫の子育てに、もう少しかかわりたい」であり、祖父(47.1%)が祖母(32.8%)を15 ポイント近く上回りました。祖母では「孫と接すると、身体的に疲れを感じる」(48.9%)という人も祖父(43.3%)に比べて多く、祖父に比べて孫と接することに必ずしも積極的ではない人や、孫とかかわることで身体的に疲労を感じる人の割合が高い傾向にありました。
孫への子育て支援実態①
6割以上の祖父母が、孫に衣類、おもちゃ、学用品などを買っている。孫への子育て支援を行っていない祖父母は1割に満たない。
孫がいる祖父母に対して、直近1年間に行った孫への子育て支援についてたずねました。
支援した割合が最も高かったのは、祖父母とも「孫に衣類、おもちゃ、学用品などを買う」(祖父:61.0%、祖母:62.9%)でした。祖父と祖母で順位は若干異なるものの、「数時間程度、孫を預かる」(同48.7%、50.2%)、「孫の病気や健康状態について相談にのる」(同47.6%、52.4%)、「孫のしつけや教育について相談にのる」(同33.2%、41.0%)が続きました。
「そのような経験はない」と答えた人は祖父・祖母とも1割に満たないことから、祖父母のほとんどが何らかの形で孫への支援を行っていると考えられます。
孫への子育て支援実態②
祖父母は、孫の母親の就労状況にかかわらず支援を行っている。年齢が若く、孫と近居し、孫が小学生以下である祖母はより多くの支援をしている。
孫への子育て支援実態を得点化してみると、祖父母の支援には孫の母親の就労状況による差がみられませんでした。つまり、祖父母は孫の母親が専業主婦の場合にも、働いている場合と同程度の支援を行っていると考えられます。
一方、祖母では祖母本人が若く、孫と近居し、孫が小学生以下である場合に多くの支援が行われていました。
小学生以下の子どもがいて、祖母と近居する子育て期の家族にとって、祖母はきわめて重要な子育て資源になっているとみてよいでしょう。
祖父母が孫の子育てを支援している理由①
孫の子育て支援の最大の理由は、「孫がかわいいから」(祖父75.1%、祖母73.5%)。「子どもや孫の生活をできる限り支えたいから」が約4割を占める。
祖父母が孫の子育てを支援している(していた)理由をたずねました。
支援理由として最も多かったのは「孫がかわいいから」であり、祖父では75.1%、祖母では73.5%を占めました。他の理由に比べてこの理由は圧倒的に多く、祖父母が孫の子育てを支援する上で孫への愛情が大きな理由となっていることがわかります。
2位以下には「子どもや孫の生活をできる限り支えたいから」(祖父:40.8%、祖母:37.4%)、「孫の親の子育てが大変そうだから」(同27.8%、28.3%)、「自分も子育てを親に助けてもらったから」(同21.3%、23.3%)などの理由が続きました。
孫への子育て支援の理由として孫への愛情は大きな位置づけを占めますが、そこには同時に他の多様な理由があると考えられます。
祖父母が孫の子育てを支援している理由②
孫の母親が働いている場合と無職の場合では、支援理由は大きく異なる。孫の母親が働いている場合には「母親の両立困難」をあげる人が多い。孫の母親が無職の場合には、とりわけ祖母で「親の子育てが大変」をあげる人が多い。
支援理由には、孫の母親が働いている場合と無職の場合で大きな違いがみられました。図表5は、「孫がかわいいから」「孫の親の子育てが大変そうだから」(以下、「親の子育てが大変」とする)、「孫の母親が仕事と子育てを両立するのが難しいから(以下、「母親の両立困難」とする)」の3つに注目し、これらの理由をあげた人の割合を性・孫の母親の就労状況別に示したものです。
これをみると、孫の母親の就労形態や祖父母の性別にかかわらず、「孫がかわいいから」をあげる人は最も多くなっています。しかし、孫の母親が働いている場合には「母親の両立困難」をあげる人が祖父では3割、祖母では4割近くを占めました。孫の母親が働いている場合には、母親の子育てと仕事の両立を支えることも祖父母の支援の大きな理由になっています。
一方、孫の母親が無職の場合には、とりわけ祖母で「親の子育てが大変」をあげる人が多くなっています。孫の母親が働いていない場合、祖母は子夫婦の子育ての大変さを祖父より強く感じており、そのことも支援の理由になっていると考えられます。
将来、孫が生まれた場合の支援①
将来、孫が生まれた場合に孫の子育てや教育を「できるだけ支援したい」と答えた祖父母は7割近い。
孫がいないと答えた男女328名に対して、将来、孫が生まれた場合に孫の子育てや教育にどのようにかかわりたいと考えているかをたずねました。
その結果、最も多かった回答は男女とも「できるだけ支援したい」であり、男性では6割弱、女性では半数強を占めました。
無回答者を除いて集計すると、「できるだけ支援したい」と答えた人は男女とも7割近くとなります(男性:69.7%、女性:66.9%)。「特に支援したいとは思わない」ないしは「わからない」という人も一部みられますが、孫のいない男女の多くが、将来的に孫の子育てを支援したいと考えているとみてよいでしょう。
将来、孫が生まれた場合の支援②
娘(息子の妻)が働きながら子育てをすることの難しさに対しては、女性に比べて男性の共感がかなり低い。
将来、孫が生まれた場合に孫の子育てや教育を「できるだけ支援したい」と答えた人について、その理由をみてみました。
実際に孫の子育てを支援している祖父母と同様に「孫がかわいい」という理由以外の多様な理由があることがわかります。
例えば、男性では「孫はかわいいと思うから」(64.2%)が最も多く、「親だけで子育てをするのは大変だから」(61.3%)が僅差で続きます。一方、女性では「親だけで子育てをするのは大変だから」(67.1%)が最も多く、「孫はかわいいと思うから」と「娘(息子の妻)に仕事を続けてほしいから」がいずれも45.6%でこれに続いています。つまり、女性では子育ての大変さへの共感が孫への愛情を上回る一方、娘(息子の妻)の就労継続を支えることが、孫への愛情と同等の理由としてあげられていることになります。
また、注目されるのは、「親だけで子育てをするのは大変だから」にみられる男女差が小さい一方で、「娘(息子の妻)に仕事を続けてほしいから」をあげた男性は6.6%に過ぎず、男女差が40 ポイント近くに及ぶ点です。換言すれば、子世代の子育ての負担に対する共感には男女で差がないが、娘(息子の妻)が働きながら子育てをすることの難しさに対しては、女性に比べて男性の共感がかなり低いということになります。
≪研究員のコメント≫
祖父母のほとんどは何らかの形で孫の子育てを支援しており、祖母では本人の年齢が若く、孫と近居し、孫が小学生以下である場合により多くの支援を行っていることが明らかになりました。また、祖父母が孫の子育てを支援するのは「孫がかわいいから」という単純な理由からだけではありませんでした。調査結果は、孫の母親が働いている場合には仕事と子育ての両立の難しさを、孫の母親が働いていない場合には帰宅時間の遅い父親に母親が子育てを頼れない状況を、祖父母が支えていることを示唆しています。
つまり、祖父母による孫の子育て支援は、子育て期の男女のワーク・ライフ・バランスの欠如という社会的課題と決して無関係ではありません。このようななか、いま、子育て期の家族とその親は近居戦略をとることでこの問題に対処しようとしているのです。しかし、これは若年未婚者が親と同居することで経済状況の安定化はかろうとしているのとまさに同じ構図といえるでしょう。子育て期の家族とその親の近居戦略には、これと同様の側面があることを見逃してはなりません。
未婚期から子育て期にかけての若者の経済的安定をはかり、ワーク・ライフ・バランスを改善することは、社会の持続可能性という観点からきわめて公共性の高い、喫緊の社会的課題です。若年層のライフデザインの可能性を家族の支え合いにこれ以上委ねることは、親を頼ることの難しい、私的資源が脆弱な若年層の生き方の選択肢を狭めることにもつながります。少子化の流れを変えることもできないでしょう。
子育て世代はいまや、社会の変化に対応するため、あるいは仕事や子育てに対する男女の意識の変化によって、働き方や子育てをめぐる男女の役割再編を現実にはからざるを得ない状況に置かれています。翻ってシニア世代は、総じて男性が稼得責任、女性が子育ての多くを担う人生を歩んできたのであり、子世代との間には親子という私的領域においても、世代という私的外領域においても大きなねじれが横たわっています。
今回の調査結果は、そのねじれにシニア世代の男性の意識が追いついていない可能性を示唆しています。なぜならシニア世代の女性は同世代の男性に比べて、働く母親のワーク・ライフ・バランスがいかに困難であるかを、孫がいる場合には実際の子育て支援を通じて、孫がいない場合には孫が生まれればそれが十分予想されることを、かなり切実に感じています。これらの結果は、若い世代で現実に生じつつある経済と子育てをめぐる男女の役割の変化を、シニア世代の男性が家族の内部の関係性においてでさえ十分には許容してはいない可能性を示しています。若年層のワーク・ライフ・バランスを進めていく上で、家族外領域――例えば企業や地域社会、社会保障政策――における世代間関係を再編していくにあたり、子育て期の男女の働き方や家族責任に対するシニア男性の意識改革は大きな課題になる可能性があります。(提供:第一生命経済研究所)
研究開発室 副主任研究員 北村安樹子
㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 広報担当(室井・新井) TEL.03-5221-4771 FAX.03-3212-4470 【アドレス】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi