2008 年、新しい年を迎えた。昨年は参議院選挙における自民党の歴史的敗北、安倍政権の突然の崩壊、年金問題やテロ特措法をめぐる与野党の激しい攻防等、政治的にはきわめて波乱に富んだ年であった。経済面では緩やかな景気拡大が続いた年ではあったが、株価低迷やデフレは依然として続き、サブプライムローン問題に引きずられて世界の金融・資本市場が混乱するなど、あまり冴えない年であったと言える。

 今年は子年。十二支のはじめに数えられることから、新しいことに取り掛かるのに良い年のようである。新たな活気を呼び起こし、後日実ることが沢山起きる年とも言われている。昨年までの悪い流れを断ち切って、大いなる飛躍の年にしたいものである。

 当研究所ライフデザイン研究本部は、前身のライフデザイン研究所が発足してから数えると、今年は丁度20 年の節目を迎える。この間マクロ的な政策提言というよりもむしろ「生活者の視点」を重視し、家庭経済や健康、教育、家族、老後設計、余暇などの日常的な問題に取り組み、より良いライフデザインを提言する研究集団として活動を続けてきた。そして、少子高齢化・人口減少、IT化・グローバル化等、今日のわが国を取り巻く急速な環境変化によって、われわれの研究領域と国の重要な政策課題が次第に結びつきを強くしてきている、と感じている。

 昨年一年間に小誌「ライフデザインレポート」では、わが国にとって喫緊の課題とされる「少子化=次世代育成問題」、団塊世代の大量定年退職で注目される「高齢期のライフデザイン問題」、ニート・フリーター増加を背景とした「若年者の就労問題」など、核心的なテーマをとりあげた。

 たとえば「少子化=次世代育成問題」では、企業や自治体における次世代育成支援策の現状と問題点の分析を行い、あるべき支援策の方向を示したほか、情操教育や不妊治療問題に関する提言を行うなど、幅広い視点に立った次世代育成環境の整備を訴えた。「高齢期のライフデザイン問題」では、遺産相続や退職後の社会活動に焦点をあてて、豊かな老後についての研究を行い、また日常生活における宗教的行動についても、独自の調査をもとに分析している。「若年者の就労問題」については、NPOで働く若者の活動実態と生活意識に焦点をあてて、問題を分析した。このほか障害者雇用の問題、若者のコミュニケーションの問題などについても、いろいろな角度から分析・提言を行った。

 一方、このような研究成果などを踏まえて、企業・団体の従業員の方々に退職後を見据えたライフデザインを考えてもらう「洋洋人生のススメ」プログラムを開発し、セミナーを開催してきたが、平成3年以来受講者の数は、既に5万人を突破した。お陰様でセミナーは大変好評を博し、実施回数も年々増加基調にある。高齢社会を迎え、いかに多くの企業・団体が、従業員の退職後のライフデザイン問題を重視し、その支援に真剣に取り組んでいるかがよく窺える。

 マクロ的な視点で捉えるならば、急速な少子高齢化と人口減少は、これからの日本経済の成長を阻害する大きな要因であり、少子化対策は国を挙げて取り組むべき待ったなしの課題である。企業活力の維持、国民生活の向上という観点も含め、この問題を考える際のキーワードは、「ワーク・ライフ・バランス」である。決して新しい言葉ではないが、この問題についての取り組みはまだ始まったばかりであり、今後官民一体となった一層の推進が求められる。

 このワーク・ライフ・バランスの推進については、当ライフデザイン研究本部として本年も引き続き重点的に取り組み、職場や働き方、乳幼児の医療、定年退職者による子育て支援、等さまざまな角度から提言していく予定でいる。「働き方と家庭生活のバランス」をキーとして、日常的な社会の現象を捉え、それが政治的、経済的、社会的なマクロの問題とどう結びついていくか、そのような視点を持って調査研究活動を進めていくことが大事と考える。今後われわれを取り巻く環境が、ますます高度化・複雑化していく中、ミクロの問題をマクロの問題と結びつけながら研究していく作業が、シンクタンクには不可欠な要件となってきている。


 今月のレポートは、下開副主任研究員の「働く女性の健康とストレスの要因」と鈴木主席研究員の「サラリーマンにとってのリタイアの意味」である。下開レポートは、フルタイムで働く女性の健康とストレスに光を当て、働く女性のワーク・ライフ・バランスを考える点で貴重な示唆を行っている。また、鈴木レポートは、サラリーマンが仕事からリタイアする事の意義とその後の生活について、アンケート調査をもとに分析している。いずれもワーク・ライフ・バランスを考える上で参考にしていただければ幸いである。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 代表取締役社長
小山 正之