目次
1.研究の背景と目的 2.調査概要 3.働く女性の健康 4.働く女性のストレスの要因 5.まとめと考察
要旨
① 女性就業者が増加し、勤続年数も延びる中、男性とは身体的に異なる働く女性の健康維持に関心が高まっている。本研究では、同じ職場で働く男性を比較対象としながら、フルタイムで働く女性の健康とストレスについて、その実態と対策を明らかにすることを目的とした。
② 健康上で心配なこととして上位にあげられた項目は、働く女性では、首や肩のこり、視力の低下、ストレス、体力の低下である。ストレスは、女性45.6%、男性40.0%が心配なこととしてあげている。女性の心配の上位にあげられた首や肩のこりや視力の低下は、いずれもストレスと関連している。
③ 働く女性で月経痛が重い女性は3割以上を占める。月経痛が重い女性では、約4割が市販薬で対処している。薬が効かないほど月経痛が重い女性であっても、生理休暇の取得は3割未満と低い。生理休暇の取得が進まない理由として、取得のしづらさをあげる女性は約4割と多く、生理休暇のかわりに年次有給休暇を代用している女性は約4人に1人となっている。
④ 仕事によるストレスを感じている働く女性の割合は74.6%で、同じ職場で働く男性(68.7%)よりやや高い。仕事によるストレスの主な要因は、上司や同僚との信頼感の弱さ、通勤・勤務時間の長さ、職場でのたばこによる不快である。就労女性の働き方や職場環境の改善が求められる。
キーワード:職場、働く女性の健康、ストレス
1.研究の背景と目的
近年、働く女性が増加し、勤続年数も長くなっている。男女共同参画社会が目指される中、女性には男性に比べて出産や家事・育児の負担、女性特有の健康上の問題があり、就労を継続していくためには、これらの問題を解決していくことが必要である。
これまで、働く女性の健康管理上の課題として、職場の健康診断が常勤の男性を中心とした内容であり女性のニーズにあってないこと、生理休暇が取りにくいこと、職場のサポート体制の不備などがあげられてきた(堀口 2002、女性労働協会 2004、下開 2006a)。勤務先で乳がんや子宮がん検診を実施している割合は事業所規模や業種によって差があり、実施している場合でも年齢制限があるなど、全ての女性が職場で検診を受診できる状況にはない(厚生労働省 2002)。
また、子宮がん検診が受けられないことは、特に妊娠・出産期の女性の場合、単に健康管理ができないということにとどまらない。働く女性を含めて晩産化が進んでいる中、職場で検診を受ける機会のない女性では、実際に妊娠を希望する時に初めて自分の健康上の問題に気づく場合がある(殿村 2007)。月経痛が重い場合には子宮内膜症や子宮筋腫などの疾患を伴っていることもあり、妊娠や出産への影響も懸念されることから、早めに自覚し対処することが必要とされている。
一方で、就労者のストレスも問題となっている。厚生労働省『平成14年労働者健康状況調査報告』によると、自分の仕事や職業生活に関して強い不安、悩み、ストレスがあると答えた割合は、男性63.8%、女性57.7%とともに6割前後を占めている。職場にストレスはつきものであり、発散させ、解消させるしかないという考えもある。しかし、「健康な会社・職場」とは、「職場の人々がストレス解消法に熱心に取り組んだり、安全のために常に細心の注意を払うように呼びかけている職場のことではなく、むしろ、過度のストレッサー(ストレスの原因)がないため、ストレス解消法に取り組む必要のない職場」(山崎 2007)ではないだろうか。そのためにも、ストレスの要因を明らかにし、対処することが重要といえる。
そこで本研究では、フルタイムで働く女性に焦点をあて、健康上の心配と女性に特有の月経・月経痛、仕事によるストレスとその要因について明らかにすることを目的としている。働く女性の職場でのストレスを軽減させ、健康に働き続けるための対処方法について、同じ職場で働く男性の調査結果との比較から明らかにしたい。
2.調査概要
今回の調査は、働く女性を対象とするため、フルタイムで働く女性が会員となっている有限責任中間法人日本ヒーブ協議会の協力を得て実施した。1978年設立の日本ヒーブ協議会は、生活者と企業のパイプ役となることを目的として主に企業の消費者関連部門で働く女性が会員となっている。今回の調査では、女性と同じ職場で働く男性の回答も同時に得ることで、職場環境が等しい男女の比較を可能にした。
アンケート調査の概要と回答者の基本的な属性は図表1、図表2のとおりである。
3.働く女性の健康
(1)健康上の心配
健康について心配なこととして、女性では、「首や肩のこり」(61.7%)、「視力の低下」(49.1%)、「ストレス」(45.6%)、「体力の低下」(41.5%)の順となっている(図表3)。これに対し、男性では、「体力の低下」(46.7%)、「ストレス」「体脂肪」(40.0%)、「視力の低下」(38.0%)、「首や肩のこり」「肥満」(33.3%)である。「体脂肪」と回答した人は「肥満」にも回答している割合が高く、男性の健康上の心配は、いわゆる生活習慣病にまつわる内容が中心となっている。
これに対して、女性の健康上の心配として上位の「首や肩のこり」「視力の低下」は、いずれも心配していると答えた人で、「ストレス」を心配している割合が高く、「ストレス」と関連している(図表4)。また、女性に特有の健康上の心配として「婦人病」があるが、「婦人病」を心配している人でも、「ストレス」を心配している割合が高い。
(2)月経・月経痛の状況
女性に特有の健康上の心配として「婦人病」をあげた割合は25.6%と、約4人に1人となっている(図表3)。以下では、「婦人病」の中でも、特に月経痛に注目し、職場での対応の状況をみたい。
まず、月経の状況をみると、順調と答えた割合は84.9%、不順と答えた割合は15.1%である(図表5)。月経痛の程度は、「月経痛はあるが我慢できる程度」(48.1%)が最も多く、次いで「ひどい」(27.1%)、「月経痛は感じない」(17.9%)の順となり、「かなりひどい」と答えた割合は6.2%となっている(図表6)。月経痛が重い(「かなりひどい」と「ひどい」の合計、以下同)と回答している割合は、33.3%と少なくない。
(3)生理休暇の取得
現在、月経を理由として就労が困難な女性には、労働基準法で生理休暇が認められている。しかし、過去1年以内に生理休暇を取得した割合は4.4%と低い。ただし、45歳未満の女性で過去1年間の生理休暇の取得率を月経痛の程度別にみると、「かなりひどい」と答えた女性では18名中5名(27.8%)、「ひどい」と答えた女性では79名中3名(3.8%)、「月経痛はあるが我慢できる程度」と答えた女性では140名中4名(2.9%)と差がある(図表省略)。
月経痛が重いと答えた女性(45歳未満)に、過去1年間に生理休暇を取得しなかった理由をたずねたところ、「取得しづらいため」が38.1%で最も多く、次いで「休むほどのことではないため」(33.0%)となっている(図表7)。薬を服用すれば出勤できることから、休むほどのことではない、という女性が少なくないようだ。生理休暇が取得しづらいためか、「生理休暇のかわりに年次有給休暇を使用するため」という回答も23.7%と少なくない。
(4)月経痛への対応
45歳未満で月経痛が重い女性では、「市販薬を使用した」(42.4%)、「産業医等健康管理部門に相談した」(7.6%)割合が、月経痛が重くない女性に比べて高い(図表8)。しかし、月経痛が重いと答えた女性でも、「先輩や同僚に相談した」「産業医等健康管理部門に相談した」割合はいずれも1割未満と、職場で相談する場のある女性はほとんどいない。「特に何もしなかった」と回答した女性も26.1%と、月経痛が重くても何も対応していない女性も約4人に1人いる。
4.働く女性のストレスの要因
(1)仕事でのストレスと生活満足感
仕事や職業生活でのストレスについて、ストレスを感じる(「とても感じる」と「感じる」の合計)と答えた割合は、女性(74.6%)の方が男性(68.7%)より高い(図表9)。性・年代別にストレスの程度をみると、女性は20代と40代で、男性は40代で、他の年代と比べてストレスを感じる程度が高い傾向にある(図表10)。
また、ストレスの程度と生活満足感(生活全体についての満足感)の関係をみると、男女ともにストレスを感じると答えた人で生活満足感は低い(図表11)。女性では、ストレスを感じる人で生活に満足している(「満足している」と「まあ満足している」の合計)と回答した割合は61.1%にとどまるのに対し、ストレスを感じない人では84.6%が満足していると答えている。
(2)ストレスの要因
仕事や職業生活によるストレスの要因として、「就業状況」に関する8項目、「生活状況」に関する6項目(うち2項目は女性のみ)を想定し、それぞれにストレスとの関連をみた(図表12)。
その結果、女性では、「通勤時間と勤務時間の合計が平均(10時間45分、以下同)以上」「職場でたばこの臭いや煙を不快に感じることがある」「上司との信頼感が弱い」「同僚との信頼感が弱い」「月経痛が重い」人で、そうでない人と比べてストレスを感じると回答した割合が高い。
一方、男性では、該当人数が十分でない項目もあるためか統計的な差はみられないが、「体調が悪い場合でも出社する」、「上司との信頼感が弱い」「同僚との信頼感が弱い」人でストレスを感じる割合が高い傾向がみられる。同じ職場でも、男女で就業状況や生活状況の項目とストレスとの関連に差がみられる。
次に、仕事や職業生活によるストレスの有無と統計的に有意な関連がみられた複数の項目がどの程度ストレスの要因となっているかを明らかにするために、ロジスティック回帰分析を行った。
分析の結果、女性全体では、「通勤時間と勤務時間の合計が平均以上」で平均未満の2.1倍、「職場でたばこの臭いや煙を不快に感じることがある」人で感じることがない人の2.9倍、「上司との信頼感が弱い」人で強い人の2.4倍、ストレスを感じることが明らかとなった(図表13)。
さらに、45歳未満の女性で月経痛の程度も含めて分析すると、「通勤時間と勤務時間の合計が平均以上」で平均未満の1.9倍、「職場でたばこの臭いや煙を不快に感じることがある」人で感じることがない人の3.0倍、「上司との信頼感が弱い」人で強い人の2.3倍、ストレスを感じることが示された。統計的に有意とまではいえないが、「月経痛が重い」人でも、重くない人に比べて1.8倍、ストレスを感じる傾向がみられる。
5.まとめと考察
(1)働く女性の健康上の心配への対応
フルタイムで働く人の健康について心配なことは、男女共に、「視力の低下」や「体力の低下」に加えて、「ストレス」をあげる割合が高い。「ストレス」を心配なこととしてあげている割合は、女性で45.6%、男性で40.0%を占める。また、女性の健康上の心配の上位を占める「首や肩のこり」「視力の低下」は、いずれも「ストレス」と関連している。
女性特有の月経痛への対応として、労働基準法では生理休暇が設けられているが、現状としては、薬が効かないほど月経痛が重いと答えた女性でも、生理休暇の取得は3割未満と低く、市販薬で対応している女性が約4割、産婦人科の受診は3割強にとどまっている。生理休暇の取得が進まない理由として、生理休暇の取得のしづらさを約4割の女性があげており、生理休暇の代わりに年次有給休暇を使用する女性も約4人に1人みられる。
これまで、月経痛をはじめとして女性特有の健康問題について、「きめ細かく相談にのってくれるような場が、職場にも医療機関にも、ほとんどない」(郷久 1999)といわれてきた。今回の調査でも、月経痛が重いと回答した女性で「産業医等健康管理部門に相談した」割合は7.6%と少ない。女性にとって婦人科の診察への抵抗感は高いことからも(下開 2006b)、必要に応じて受診の機会を設けることを積極的に指導するとともに、医療機関を受診しやすい職場環境を整備するよう努めることが求められるだろう。
(2)働く女性のストレスの軽減
働く女性と同じ職場で働く男性との比較調査から、仕事や職業生活でストレスを感じている割合は、男性よりも女性でやや高い傾向にあった。
仕事によるストレスと関連している項目は、女性で「通勤時間と勤務時間の合計が平均以上」「職場でたばこの臭いや煙を不快に感じることがある」「上司との信頼感が弱い」「同僚との信頼感が弱い」「月経痛が重い」と、職場環境や女性特有の身体的理由がある場合にストレスを感じる割合が高くなっていた。同じ職場であっても、男性に比べて女性の方がこれら就業状況によるストレスを受けやすいようだ。
これらのストレスと関連がみられた項目の中でも、「通勤時間と勤務時間の合計が平均以上」では、そうでない場合に比べて2.1倍、「職場でたばこの臭いや煙を不快に感じることがある」場合には、ない場合の2.9倍、「上司との信頼感が弱い」場合には、信頼感が強い場合と比較して2.4倍、ストレスを感じることがわかった。
以上から、働く女性にとってストレスを感じない環境を作るためには、長時間にならない働き方、分煙あるいは禁煙の徹底など、労働環境の整備が必要であると考えられる。
また、上司の性別にかかわらず、職場の上司や同僚との信頼感が弱い場合には、ストレスを感じる割合が高い。職場での人間関係がドライになっているといわれる今日であるが、上司や同僚との信頼感を築くことは、働く女性にとって、ストレスなく働くための重要なポイントといえるだろう。
男性と同じ職場環境の中、女性は様々な要因からストレスを感じており、職場でのストレス軽減に向けた取り組みが求められる。(提供:第一生命経済研究所)
【謝辞】 調査にご協力いただきました日本ヒーブ協議会関係者の皆様にお礼申し上げます。
【参考文献】 ・ 厚生労働省,2004,『平成14年労働者健康状況調査報告』. ・ 郷久鉞二,1999,「働く女性のストレスと健康」『教育と医学』47(8):636-644. ・ 下開千春,2006a,「女性の病気と検診受診の実態」『Life Design Report』2006年7-8月号:24-31. ・ 下開千春,2006b,「『女性の病気』に対する不安とその要因」『Life Design Report』2006年9-10月号:16-27. ・ 女性労働協会,2004,『働く女性の健康に関する実態調査結果』. ・ 殿村琴子,2007,「出生率の鍵を握る30代女性の出生力」『Life Design Report』2007年3-4月号:32-34. ・ 堀口雅子,2002,「働く女性の健康と母性保護」『へるす出版生活教育』46(7):9-12. ・ 山崎喜比古,2007,「健康・社会・生き方」『生き方としての健康科学』有信堂:1-14.
研究開発室 副主任研究員 下開 千春