要旨

① NPO法人(特定非営利活動法人)に従事する20~30歳代の男女を対象に、活動の実態や日常生活意識をたずねるアンケート調査を実施した。

② 若年NPO従事者の約4割は、他に収入をともなう「兼業」をしている。無給従事者のほとんどは兼業をしており、兼業が本業であると答えた人が6割強を占める。一方、有給従事者が兼業をしている理由には、NPO活動を通じて得ている「NPO収入」の少なさがある。

③ 有給従事者のNPO収入は平均で年収約160万円、全体の約3分の2は年収で200万円未満である。NPO収入は、兼業をしている人や小規模NPOに所属する人で低い傾向にある。

④ NPO活動への参加プロセスをみると、NPOを知ったきっかけは「友人・知人等」に集中している。有給従事者の前職で最も多いのは「正規職」(31.4%)で、「無職」であった人が有給従事者になったケースは全体の約1割である。

⑤ 日常生活のどのようなときに充実感があるかをみると、有給従事者、無給従事者とも「このNPOの仕事をしているとき」をあげる人が最も多い。兼業をしている人の場合、NPOの仕事の方が充実感があると答えた人が多く、こうした傾向は性別やNPO収入の有無にかかわらず共通している。

1.はじめに

 景気回復の流れを受けて、若者の雇用情勢も改善しつつある。政府の発表によると、この春卒業した大学生の就職内定率(4月1日現在)は96.3%で、前年同期を1.0ポイント上回っている(厚生労働省2007年5月15日報道発表資料『平成18年度大学等卒業者就職状況調査(平成19年4月1日現在)について』)。

 しかし、いわゆる民間企業における若者の働き方は、90年代後半以降、急速に二極化している。若者からみると、正規雇用を選べば一定の経済的安定は得られるものの、従来のように年齢とともに給与が上昇する見込みは薄く、長時間労働などによりワーク・ライフ・バランスの実現は難しい。他方、非正規雇用を選べば経済的自立や長期的な生活設計の見通しを立てにくく、職業能力を身につける機会も少ない。つまり、見方によってはいずれの働き方を選ぶにしても(正規雇用を選べない場合も含めて)、いわゆる民間企業での働き方には若者が魅力を感じられるような働き方の選択肢が見出しにくい状況にある。

 このようななか、近年ではいわゆるNPO(民間非営利組織)や社会的企業*1といった組織が、若者の関心を惹きつけている。内閣府の世論調査によると、NPO活動への参加意向は若い世代ほど高く、NPOに「人と人との新しいつながりを作る」あるいは「やりがいや能力を発揮する機会の提供」といった役割を期待する傾向にある(内閣府 2005)。この背景には、働くことを通じて、収入という経済的対価だけでなく、人とのつながりや自己実現を求めようとする若者の価値観の変化があると思われる。

 当研究所ではこれらの背景をふまえ、全国のNPO法人(特定非営利活動法人)に従事する20~30歳代の男女を対象に、活動の実態や仕事に対する意識を捉えるためのアンケート調査を行った。本稿ではこのなかから、若年NPO従事者の活動実態と生活意識に関する調査結果を報告する。なお、若年NPO従事者の働き方や仕事観を、企業で働く同世代の働き方や仕事への評価と比較したレポートは別の機会に報告する予定である。

2.調査概要と回答者の主な属性

(1)調査概要

 調査の概要は次の通りである。

NPOで働く若者の活動実態と生活意識
(画像=第一生命経済研究所)

(2)回答者の主な属性

 回答者182人の平均年齢は30.3歳、男性が81人(44.5%)、女性が101人(55.5%)である。また、婚姻状況については、未婚者が58.8%、既婚者が41.2%である。

 なお、回答者のうち140人(76.9%)は、NPO活動を通じて収入を得ている「有給従事者」で、41人(22.5%)が「無給従事者」である(1人は無回答)。また、回答者のうち30人(16.5%)は、団体の代表者の立場にある。

3.兼業の実態

(1)兼業をしている人の割合

 一般的に、若年NPO従事者にはNPOでの活動以外に、収入をともなう他の仕事(兼業)をもつ人が少なくない。そこで、はじめに、若年NPO従事者の兼業の実態をみる。

 回答者のうち、兼業をしている人は77人(42.3%)で、兼業のないNPOの専従者は104人(57.1%)である。なお、有給従事者では兼業をしている人が41人(29.3%)、専従者が98人(70.0%)で、無給従事者では兼業者が35人(85.4%)、専従者が6人(14.6%)である。つまり、無給従事者のほとんどは、兼業を通じて収入を得ている(図表省略)。

(2)兼業の数と就労形態

 兼業の数についてみると、兼業者全体の64.9%は兼業が1つとなっている。2つ以上の兼業をもつ人は29.9%である(図表省略)。

 兼業の就労形態で最も多いのは「企業等の非正規職員」(31.2%)で、「企業等の正社員・正職員」(23.4%)がこれに続いている(図表1)。

NPOで働く若者の活動実態と生活意識
(画像=第一生命経済研究所)

 ただし、兼業の就労形態は、NPO収入の有無によって大きく異なっており、無給従事者では約半数(45.7%)が「企業等の正社員・正職員」となっている。これに対して、有給従事者では「企業等の正社員・正職員」(4.9%)が少なく、「企業等の非正規職員」(36.9%)や「自営業・経営者」(19.5%)が比較的多くなっている(図表省略)。

(3)兼業の理由

 兼業者が兼業をしている理由は、NPO活動を通じて収入を得ているかどうかで大きく異なっている(図表2)。有給従事者の場合、最も多い理由は「このNPOの収入だけではやっていけないから」(36.6%)であり、「勉強になるから」(31.7%)、「本業だから」(29.3%)が続いている。有給従事者では、NPO収入の少なさが兼業をする理由の1つとなっている。

NPOで働く若者の活動実態と生活意識
(画像=第一生命経済研究所)

 一方、無給従事者の場合には、「本業だから」(62.9%)が最も多く、「このNPOでは収入を得ていないから」(40.0%)がこれに続いている。「本業だから」をあげる割合には、有給従事者と無給従事者で大きな差がみられる。有給従事者では兼業を本業とは思っていない人の方が多いのに対し、無給従事者では兼業を本業だと考えている人の方が多い。

4.NPO収入の実態

(1)NPO収入の受け取り方

 続いて、有給従事者がNPO活動を通じて得ている収入(NPO収入)の実態をみる。

 まず、NPO収入の受け取り方をみると、有給従事者の86.4%は「月1回以上の頻度で、定期的に受け取っている」(図表省略)。「仕事が完成する都度、不定期に受け取っている」(8.6%)、ないしは「支払える状況が整った時点で不定期に受け取っている」(4.3%)と答えた人は全体の15%程度であり(図表省略)、今回回答した有給従事者の大半は比較的安定した形でNPO収入を受け取っている。

(2)NPO収入の額

 次に、NPO収入の額をみる。有給従事者のNPO収入は平均で年収約160万円であり、全体の約3分の2(64.3%)は年収200万円未満となっている(図表3)。

 また、NPO収入の水準は、兼業の有無、ないしは所属するNPOの年間事業規模によって大きく異なり、兼業をしている人よりしていない人(専従者)で、小規模NPOに所属する人より大規模NPOに所属する人で高い傾向にある。ただし、専従者の場合にも、NPO収入の平均は年収約186万円であり、半数以上は年収200万円未満という水準である。

NPOで働く若者の活動実態と生活意識
(画像=第一生命経済研究所)

5.活動への参加プロセス

(1)参加のきっかけ

 NPOを知ったきっかけで、最も多いのは「友人・知人の紹介」(52.0%)である(図表4)。2位以下の「大学・大学教員」9.9%)、 「求職活動」(7.9%)、「インターネット」「新聞・テレビ・雑誌」(5.9%)などは、「その他」(13.8%)を除いていずれも1割に満たない。若年NPO従事者がNPOを知ったきっかけは、友人・知人などの「私縁」に集中しており、それ以外はきわめて多様となっている。

NPOで働く若者の活動実態と生活意識
(画像=第一生命経済研究所)

 なお、「求職活動」をあげた人は、有給従事者であっても約1割に過ぎず、無給従事者では「友人・知人等の紹介」が約7割を占める(図表省略)。これらの結果は、NPOが有給で人材を求める場合であっても、供給源は私縁という限られた範囲に限定されていることを示している。

(2)有給従事者の前職

 次に、有給従事者の前職(現在もその職を続けている場合を含む)をみる。全体で最も多いのは「正規職」(31.4%)で、「非正規職」(27.1%)、「学生」(23.6%)が続いている(図表5)。なお、「無職」であった人が有給従事者になったケースは全体の約1割である。

 性別にみると、男性では「正規職」(39.0%)の割合が高い。また、年代別にみると、20歳代では「学生」が47.5%と半数近くを占める。

NPOで働く若者の活動実態と生活意識
(画像=第一生命経済研究所)

(3)直近3年間の状況

 次に、回答者の直近3年間の状況についてみる。直近3年間に「健康上の理由、あるいは家族の事情で、収入をともなう仕事をしない時期があった」または「収入をともなう仕事を探したが、自分の希望にあった仕事がみつからない時期があった」と答えた人の割合をみたところ、全体の17.6%となった(図表6)。若年NPO従事者の一部には、個人的な事情を抱えていて仕事ができなかった経験や、希望に合う仕事がみつからなかった経験を経てNPO活動にかかわるようになった人がいる。

 主な属性別に比較してみると(図表6)、こうした経験をもつ人は、無給従事者より有給従事者で多い。また、有給従事者のなかでも、兼業をしている人より兼業をしていない専従者で多い傾向にある(図表7)。なお、これらの経験のうち、兼業をしていない有給の専従者では、「収入をともなう仕事を探したが、自分の希望に合った仕事がみつからない時期があった」経験をもつ人が22.4%を占める。

NPOで働く若者の活動実態と生活意識
(画像=第一生命経済研究所)

6.日常生活の充実感

 若年NPO従事者に対し、日ごろの生活の中でどのようなときに充実感があるかをたずねたところ、NPO活動を通じて収入を得ているかどうかにかかわらず、「このNPOの仕事をしているとき」(有給:65.0%、無給:63.4%)をあげる人が最も多かった(図表8)。

 2位以下には、「友人や知人と一緒に過ごすとき」(有給:62.1%、無給:48.8%)、「趣味活動やスポーツをしているとき」(有給:51.4%、無給:39.0%)などが続いている。ただし、有給従事者では「このNPOの仕事」(第1位)と「友人や知人と一緒に過ごすとき」(第2位)がほぼ同じ割合であげられているが、無給従事者では両者の間に15ポイント近くの差がみられる。つまり、無給従事者では、「このNPOの仕事」が他の項目に比べて突出して多くあげられている。

 また、兼業をしている人について、「このNPOの仕事」と「このNPO以外の仕事」に充実感があると答えた人の割合を比較したところ(図表9)、性別やNPO収入の有無にかかわらず、前者をあげる人が後者を大幅に上回った。なお、有給従事者と無給従事者を比較すると、両者の差は無給従事者の方がより大きい。無給従事者がNPO活動にかかわる動機は、収入を得ている兼業では得られにくい、NPO活動の充実感にあると考えられる。

NPOで働く若者の活動実態と生活意識
(画像=第一生命経済研究所)

7.おわりに

 若年NPO従事者の活動実態と日常生活意識を捉えた今回の調査結果からは、「NPOで働く」という選択のポジティブな側面とネガティブな側面の双方がみえてくる。

 調査結果のうち最もポジティブといえる側面は、収入を得ているかどうかにかかわらず、若年NPO従事者がNPO活動からきわめて高い充実感を得ているという点であろう。今後、若い世代の間で、働くことに自己実現を求める傾向が強まっていくとすれば、これらの結果は、同じ有償労働の場である企業での仕事に若者がどうすれば充実感を得られるのかを考える上で重要な示唆を含む。

 若い従業員の働くモチベーションの向上は民間企業にとって重要なテーマであるが、当研究所が民間企業で働く同世代の男女に行った調査*2において「仕事をしているとき」に充実感があると答えた人は正規雇用者の35.8%、非正規雇用者の37.1%に過ぎない。企業での働き方や仕事が若者からみて魅力あるものに映らなければ、今後、NPOでの有償労働が若者のニーズを満たす働き方の選択肢としてさらに広がっていく可能性もあるだろう。無給従事者をみた場合にも、収入源であり、本業であると感じているはずの兼業の仕事から充実感を得ている人は少ない。無給従事者がNPO活動に本業では得られにくい充実感を求めているとすれば、なぜ本業に充実感を得られないのかという点も企業にとって重い意味をもつ。

 一方で、調査結果は「NPOで働く」という選択をめぐる、負の側面も示している。第一は、有給従事者の活動収入の少なさである。若年有給従事者のNPO収入は平均で年収約160万円、兼業をしている人や小規模NPOに所属する人ではさらに低い。有給従事者のなかには、NPO収入が少ないために兼業をしている人もいる。NPOによる社会貢献活動への期待が高まる中で、NPOでの有償労働が若者にとって魅力ある働き方の選択肢として育つには、NPOの財政基盤の弱さという本質的なテーマに直結する有給従事者への処遇が大きな課題となる。第二は、無給の場合に加え、有給の場合であっても、NPOの人材供給源が「私縁」という狭い範囲に限定されている点である。これにはNPO活動を通じて得られる収入の低さという点もあると思われるが、一方で必ずしも有給という条件にこだわらない形で社会貢献活動に関心をもつ若者と、NPOの人材ニーズをつなぐマッチングの場が十分広がっていないこともあるように思われる。(提供:第一生命経済研究所

【謝辞】
 調査へのご協力を賜りましたNPO関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。

【注釈】
1 「社会的企業」には、例えば「社会課題の解決をミッションとして、ビジネス手法や企業家精神を活用して活動する組織の総称。組織形態は多様であり、非営利組織や協同組合形態を基盤に形成されたものから、会社(営利法人)形態をとるものまである」(原田・塚本編 2006)といった定義がある。日本のNPOも一部はこの範疇に入る。
2 調査対象は全国の満18歳~69歳の男女3,000名、調査時期は2005年1月12日~27日。有効回収2,128名のうち、「正社員・正職員」「契約社員・嘱託社員」「派遣社員」「アルバイト・パート」として民間企業に勤務する20~30歳代の男女356名の回答結果に基づく。なお、正規雇用者はこのうち「正社員・正職員」を、「非正規雇用者」はそれ以外を指す。

【参考文献】
・ 内閣府,2005,『NPO(民間非営利組織)に関する世論調査』.
・ 原田勝広・塚本一郎編著,2006,『ボーダレス化するCSR-企業とNPOの境界を超えて-』同文舘出版.
・ 労働政策研究・研修機構,2006,『日本人の働き方総合調査結果-多様な働き方に関するデータ-』調査シリーズ(14).

研究開発室 副主任研究員 北村 安樹子