要旨
① フルタイムで働く女性のうち、将来的に家族の介護が必要になったときに自分が介護しなければならないと感じている人は、30代後半~40代後半で5割~7割を占めた。
② フルタイムで働く女性の介護休業制度の取得の課題として、企業内で認知が進んでおらず取得しづらい、取得のタイミングが難しいことなどがあげられた。
③ 介護をしながら働くために必要な制度として、有給の介護休暇を求める回答が約4割を占めた。次いで、時差出勤・時差退社、在宅勤務制度の導入など、仕事と介護の両立のための柔軟な働き方を求める回答が多くなっている。
④ 今後の更なる高齢人口の増加に向けて、働く女性の仕事と介護の両立支援に目を向けていく必要がある。
1.働く女性と介護
2007年は団塊世代が大量に定年を迎えはじめる「2007年問題」の年である。これから高齢期を迎えていく団塊世代の介護を、団塊ジュニア世代が担う日はそう遠くはない。現在30半ばの団塊ジュニア世代の多くが、近い将来、親の介護と直面することになるだろう。
仕事と介護を両立するための企業の支援制度として、短時間勤務制度やフレックスタイム制度、介護サービスの費用の助成、介護休業制度などがある。この中で法的に義務づけられているのは介護休業制度であり、その他の制度の有無は事業所によって異なっている。そのため、介護を行う勤労者は、勤務先の制度の有無に応じて、これらの制度を使い分けているのが実態である。介護の担い手として中心となってきた女性の就労率が高まり、勤続年数が延びている中、仕事と介護の両立が課題となる女性が今後増加していくことが予測される。
このような中、働く女性が仕事と介護をどのように両立させているのか(させてきたのか)、その実態や課題を明らかにすることが必要となってきている。そこで本稿では、フルタイムで働く女性に着目し、介護についての意識と介護休業制度の利用実態と課題を中心に、仕事と介護の両立のために何が必要とされているのかを明らかにすることを目的とする。
2.調査の概要
分析に使用したデータは、有限責任中間法人日本ヒーブ協議会が2006年4月に実施した『働く女性と暮らしの調査―女性が生き生きと働き続けるために―』(06年)のデータである。78年設立の日本ヒーブ協議会は、生活者と企業のパイプ役となることを目的として主に企業の消費者関連部門で働く女性が会員となっている。筆者は、同調査の調査グループメンバーであり、使用許可を得て調査結果の一部を再分析した。アンケート調査の概要と回答者の基本的な属性は以下のとおりである(図表1・2)。
3.介護経験と将来の介護の予定
(1)フルタイムで働く女性の介護経験
フルタイムで働く女性に、介護経験の有無と将来の家族の介護に関する意識をたずねた。
はじめに、年代・婚姻形態別に、現在と過去の介護経験の有無をみてみたい。「過去に介護したことがある」割合は、年代があがるにつれて高くなっており、40 代前半では既婚(8.4%)、未婚(6.7%)、40 代後半以上では既婚(9.9%)、未婚(13.8%)となっている(図表2)。「現在、介護している」割合も、年代があがるにつれて高くなり、現在介護している割合は、40 代後半以上で既婚(6.9%)、未婚(8.6%)となっている。
現在と過去の介護の経験がある割合をあわせた割合を介護経験率とすると、40 代後半以上で既婚(16.8%)、未婚(22.4%)とも最も高かった。
(2)将来の家族の介護
次に、図表2の中から、過去および現在ともに介護経験がない人の将来の家族の介護に関する意識について、より詳しくみていきたい。
まず、婚姻形態・親との同居の有無別にみてみた。既婚女性で、自分または配偶者の親と同居している場合には、「現在、介護の必要はないが、将来的に介護が必要になった場合、自分がしなければならない」と回答した人は95.0%と大半を占めた(図表3)。これに対し、自分および配偶者の親と同居していない既婚女性では、同割合は68.0%とやや低い。その代わりに、「将来、自分が介護することになるかどうかわからない」と回答した割合が29.0%を占めている。既婚では自分だけでなく配偶者の親についても想定しているためと考えられる。
一方、未婚女性で、親と同居している場合には「現在、介護の必要はないが、将来的に介護が必要になった場合、自分がしなければならない」と答えた割合は63.9%となっている。親と同居していない未婚女性では、同割合は43.2%とさらに低い。代わりに、「将来、自分が介護することになるかどうかわからない」(51.5%)が約半数を占めている。未婚は既婚に比べて若い年代が多いために親の年齢も低く、介護について考える機会が少ないためと考えられる。
次に、年代・婚姻形態、親との同居の有無別に、将来の家族の介護への意識をみてみたい。
まず、既婚女性では、自分および配偶者の親と同居していない場合、「現在、介護の必要はないが、将来的に介護が必要になった場合、自分がしなければならない」と回答した割合は、40代前半までは年代が高いほど高くなっている(図表4)。20代と30代前半では約半数であるが、30代後半以上では7割以上を占める。
未婚女性では、家族の介護を自分が担うという意識を持つ女性の割合が高いのは、いずれの年代でも自分の親と同居している女性である。親と同居している場合には、自分が介護しなければならないと30代後半以上で7割以上が回答している。サンプル数は少ないが、40代前半では約9割、40代後半以上では全員が、将来的に家族の介護は自分がしなければならないと回答している。
4.介護休業制度の利用とその理由
次に、現在または過去に介護を経験した女性に、介護休業制度の利用の有無をたずねた。介護休業制度とは、育児・介護休業法に基づき、1999年4月に全企業に導入が義務づけられた制度である。勤労者が要介護状態にある対象家族(事実婚を含む配偶者・父母・子・同居しかつ扶養している祖父母・兄弟姉妹および孫・配偶者の父母)を介護するために休業する制度である。原則として、対象家族1人につき、要介護状態に至るごとに1回、通算(勤務時間の短縮等の措置が講じられている場合はそれとあわせて)93日を上限としている。現実の介護休業制度の取得率は低く、東京都の「改正育児・介護休業法への対応等企業における女性雇用管理に関する調査」では、04年4月から1年間に介護休業取得者がいた企業は、8.4%にとどまる*1。
今回の調査では、過去に介護したことがある女性で「介護休業制度を利用した」と回答した割合は4.7%と低く、「介護休業制度を利用しなかった」割合が51.2%を占めた(図表5)。「介護休業制度がなかった」と回答した割合は34.9%となっている。
介護休業制度を利用しなかった理由を自由回答からみてみた。回答が最も多かったのは、「他の家族との協力でまかなえた」で、次に多かったのは「そこまで必要でなかった」であった。また、「制度を使って休むよりヘルパーを頼むほうが自分に負担にならない」と回答する女性もいた。その他には、「休暇をとらなくても有休でまかなえた」と、取得に際してより自由度の高い有給休暇で代替しているという回答もあった。これに対し、制度を利用したくても、「タイミングをはかっているうちに亡くなった」という回答や、「制度の存在を知らなかった」という回答もみられた。
一方、現在介護している人では、制度を利用している人は8.0%、利用していない人が80.0%となった。現在は、法律で全企業に義務づけられているにもかかわらず、制度がないと答えた割合も12.0%みられる。
現在介護している女性で、介護休業制度を利用していない理由を自由回答からみてみると、「休める雰囲気ではない」という回答がみられた。過去に介護休業制度を利用しなかった女性で「制度の存在を知らなかった」という回答があったが、前述のように介護休業の取得例が少ないために、企業内で認知されていない、介護休業の取得が一般的になっていないことなどが背景にあるためと考えられる。また、前述した東京都の調査では、育児・介護休業法で指針とされている介護休業の規定が就業規則等に記されていない事業所が15.6%みられた。このように、規定のない企業があることも理由の一つと考えられる。
その他、「介護休業の取得期間が決まっているのでいざとなったら使う」という回答も寄せられた。05 年の法改正前は、介護休業の取得は対象家族1人につき1回限り、期間は連続3カ月となっていたが、改正後は通算93 日の上限はあるものの、対象家族1人について要介護状態に至るごとではあるが分割しての休業が可能となった。それでも、介護はいつまで続くか分からないものであり、いつ介護休業を取得するかというタイミングを考慮することが、利用者側にとって大きな問題となっているようだ。
5.介護をしながら働くために必要な制度やしくみ
最後に、介護をしながら働く人のために必要だと思う制度やしくみについてみてみたい。図表6に示す14項目から、特に必要だと思われる制度やしくみについて3つを選択してもらった。
介護経験の有無にかかわらず「有給の介護休暇」の回答率が最も高く、いずれも4割近くを占めた。休業期間中の賃金について育児・介護休業法に規定はなく、事業所によって状況は異なっている。次いで、「時差出勤・時差退社」「在宅勤務制度の導入」の回答率が高い。介護をしながら働くために、柔軟な働き方を可能とする制度やしくみが求められる傾向にある。
介護経験がある人で、経験がない人より回答率が高く、両者の回答率に差がみられた項目として、「介護休業期間の延長」(介護経験あり26.5%、なし17.1%、以下同)、「ショートスティ・通所サービスの充実」(25.0%、17.1%)、「家事支援サービス」(25.0%、12.8%)があげられる。
6.おわりに
フルタイムで働く女性のうち、介護経験者は40代以上で多く、40代後半までに介護を経験した割合は2割前後みられた。また、現在介護している割合は、40代後半以上で1割弱となっている。
介護を経験していない者であっても、親との同居の有無や婚姻形態により差はみられるものの、将来の家族の介護を覚悟している割合は30代後半~40代後半の5割~7割を占めている。このように、多くの働く女性たちにとって、親を中心とした家族の介護は将来起こりうる課題として認識されている。親の高齢化が進むにつれて、仕事と介護の両立を問題とする女性は今後増加していくことが予測される。
一方、仕事と介護の両立支援のために法制化されている介護休業の取得率は、現在介護している女性の1割に満たなかった。介護休業の取得率が低かった理由として、家族で分担できた、取得するまでもなかった、有給休暇で対応したという回答の一方で、取得したくても取得しづらい、介護はいつまで続くか分からず取得のタイミングが難しいことなどがあげられた。
介護休業制度の課題がいくつか指摘された一方で、フルタイムで働く女性にとって仕事と介護の両立に必要な制度としては、介護経験の有無にかかわらず、有給の介護休暇を求める声が約4割と多かった。次いで、時差出勤・時差退社、在宅勤務制度などが多く、柔軟な働き方を求める女性が少なくない。また、介護経験者からは、介護休業制度の延長を求める声も少なくなかった。
前述の東京都の調査によると、介護休業後の復職率は女性の場合に全体では85.3%であるのに対し、従業員が100人未満の企業では60.0%と低くなっている。大企業の場合には柔軟な働き方を可能とする制度が充実している割合が高く、復職率も高いと考えられる。企業規模などによる仕事と介護の両立支援の格差が、今後問題となってい くだろう。
これまで、少子化問題から働く女性の仕事と育児の両立支援は注目されてきたが、今後は、更なる高齢人口の増加に向けて、働く女性の仕事と介護の両立支援についても目を向けていく必要があるだろう。(提供:第一生命経済研究所)
【注釈】 *1 2005年度東京都男女雇用平等参画状況調査結果報告書。調査時期は2005年9月。調査対象は、都内全域(島嶼を除く)の従業員規模30人以上の建設業、製造業、情報通信業、運輸業、卸売・小売業、金融・保険業、不動産業、飲食店・宿泊業、医療・福祉、教育・学習支援業、サービス業、合計2,500事業所。回収数796事業所。回収率は31.8%。
研究開発室 副主任研究員 下開 千春