<地域の安全に対する不安>

 近年、子どもが巻き込まれる悲しい事件が相次ぎ、子どもの安全をいかに守るかが大きな課題となっている。

 実際、当研究所が小学生の親に対して子どもの生活環境に関する意識をたずねたアンケート調査の結果をみると、「子どもが安心して遊ぶ場所が少ない」や「1人で外出させるのは心配だ」、「地域が安全でなくなってきている」の項目への肯定割合(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計、以下同様)が約8割となっている(図表1)。また、「子どもだけで公園など屋外で遊ばせるのは不安である」や「学校が安全でなくなってきている」といった項目への肯定割合も6割以上であり、子どもの生活の場である地域社会に不安を抱いている親が多いことが示されている。おそらく、「子ども同士で自由にのびのびと遊ばせたいが、安全を考えると、子どもの行動を制約せざるを得ない」と感じている親も少なくないと思われる。

 このように、子どもの安全を求める親のニーズに応え、安心して遊べる「居場所」を確保し、のびのびと過ごすことが出来るよう「子どもの放課後対策」に、いよいよ国が力を入れて取り組むこととなった。それが、2007年度から厚生労働省と文部科学省の連携により実施される「放課後子どもプラン」である。

動き出した「放課後子どもプラン」
(画像=第一生命経済研究所)

<放課後子どもプランとは>

 従来の国(厚生労働省)の放課後対策には、親が就労等により家にいない家庭の児童を対象とし、放課後や週末等の時間を安全に過ごすための「放課後児童クラブ」(放課後児童健全育成事業)がある(図表2)。同クラブは、働く母親の増加を背景に全国的に拡充され、06年5月1日現在15,857カ所がある。それでも、「利用したくても利用できない」待機児童数が、06年現在、少なくとも12,189人いるとされており、まだまだ需要に追いついていない状況だ(図表2の資料より)。

 また最近では、このような多くの入所ニーズに対応するために、放課後児童クラブが大規模化される傾向がある。しかしながら、そうなると職員の目が十分に行き届かない等、安全面における問題点が指摘されている。そこで、厚生労働省では07年度から、人数規模の適正化(71人以上の大規模クラブに対し3年間の経過措置を経て補助を廃止し、分割を促す)を行い、かつ、原則として全ての小学校区(約2万カ所)への設置を目指すという、質・量ともの充実を図ることとしている。

 一方、文部科学省においては04年度から、親の就労の有無にかかわらず全ての児童を対象とした「地域子ども教室推進事業」が実施されている。これは、子どもの安全な居場所の確保と、地域の大人たちとの交流による「地域の教育力向上」をねらいとし、放課後や週末等に学校等を活用して、スポーツや工作、昔遊び等を地域の大人たちとともに行う活動である。06年度には、全国8,318カ所(7月末現在)で展開されているということだ。

動き出した「放課後子どもプラン」
(画像=第一生命経済研究所)

 例えば、名古屋市が実施する「地域子ども教室(トワイライトスクール)」では、学校の余裕教室で、平日は授業終了後から午後6時まで、土曜日や長期休業期間は午前9時から午後6時まで、自由な遊びや自主的な学習、ボランティアの指導による体験活動等を行っている。その他、東京都葛飾区(「わくわくチャレンジ広場」)や港区(「放課GO→」)等でも、同様の活動が行われている。

 文部科学省では07年度から、このような「地域子ども教室」をベースにしながら、新たに補習等の学習支援機能も付加し「放課後子ども教室推進事業」と改称して、全国への拡大を目指すこととしている。

 このように、「放課後児童クラブ」と「放課後子ども教室」の2事業は、管轄省が異なるものの、いずれも「子どもが安心して遊ぶことができる居場所の確保」という目的のために実施されているものである。そこで07年度から、厚生労働省と文部科学省との連携のもと、新たに市町村が実施主体となり「放課後子どもプラン」を推進することで、両事業の連携・協力を強化し、できる限り一体的な運営に発展させて、効率的な放課後対策を実現するという方向性が示されたのである*1。

<機能の違いを考慮し、適切な人員配置が必要>

 確かに、親の就労の有無にかかわらず、全ての子どもが安全に過ごすことができるための居場所づくりに行政が本格的に力を入れ始めたことは、次世代育成策として大きな前進である。

 しかしながら、留守家庭の子どものための「放課後児童クラブ」と、対象を絞らない「放課後子ども教室」とは、もともと役割が異なっている。前者は、利用する子どもにとって、家庭代わりの「生活の場」としての機能が強く、専任指導員の子どもへの安全面、健康面での目配りや家庭との連携が重要な意味を持つ。そのため、同事業の担い手として、質・量ともに適切な人員配置が必要である。

 また、「放課後子ども教室」の普及に当たっても、特に人材確保や育成面の課題が指摘されている*2。地域の大人たちとの交流による「地域の教育力の向上」を狙いとするという同事業の性格上、その主な担い手は地域の高齢者やPTA 関係者等のボランティアである。したがって、同事業の質を維持するためには、これを担う人材を確保するに当たり、研修等による育成に十分に力を入れることが必要である。

 したがって今後、両事業を一体的に行うにしても、コスト面の効率性ばかりに目を向けるのではなく、それぞれ異なる機能を考慮し、適切な人員配置を行い、何よりも子どもの豊かな成長や安全面を重視した運営がなされることが望まれる。今後の動きに注目したい。(提供:第一生命経済研究所

【注釈】
*1 例えば、東京都江戸川区(すくすくスクール事業)等のように、「放課後児童クラブ」の機能を合わせた「地域子ども教室」を実施しているところもある。このような先行事例を一般化し、普及を図ることが同プランのねらいであると思われる。しかしながら他方、すでに、文部科学省の「地域子ども教室推進事業」とは別に、それ以前から、地方自治体の独自事業として、「全児童対策事業」を実施し、「放課後児童クラブ」の機能を合わせた運営を行っている自治体(横浜市、東京都の品川区、世田谷区、豊島区等)もある。したがって、実際に策定される「放課後子どもプラン」は、地方自治体ごとに、その地域特性を活かしたものとなるであろう。

*2 文部科学省生涯学習政策局における「地域子ども教室推進事業普及委員会」が実施した「『地域子ども教室推進事業』実施状況調査報告書」(2005年8~9月調査)により、地域子ども教室推進事業の運営協議会(協議会数は47都道府県及び10政令指定都市の合計57)に対して、同事業の運営上の課題をたずねた結果をみると、「コーディネーターや指導員等地域の人材発掘や確保・育成が困難」が70.2%と最も高い割合が示された。

研究開発室 的場 康子