目次
1.研究の背景 2.調査の概要 3.NPO を通じた若者の社会参加の実態 4.NPO による若者の社会的包摂の可能性とその条件
要旨
① 近年台頭するNPO(特定非営利活動法人)は、若者の雇用の受け皿としてだけでなく、キャリア形成や社会参加の場として期待されている。本研究では、NPO を通じた若者の社会参加の実態を把握するため、全国のNPO 法人3,000団体を対象とするアンケート調査を実施した。
② 39歳以下のスタッフがいるNPO は48.0%で、その約7割では有給スタッフとしてかかわっている。また、39歳以下の参加者(スタッフ以外)がいるNPO は39.2%、代表者が39歳以下のNPO は15.2%となっている。NPO にかかわる39歳以下の男女の職業をみると、スタッフでは有給の専従職、参加者では学生、主婦(夫)、会社員が中心的である。
③ 39歳以下の非正規雇用者や無業者を含むNPO は全体の1割以下であるが、その接点はスタッフより参加者で、代表者が若い団体や年間事業規模の大きい団体でより多く生じている。若者の参加ルートは私縁が中心であるが、参加者がスタッフになった例、活動の対象者が参加者になった例は、代表者が若い団体や年間事業規模の大きい団体で多くみられる。
④ 39歳以下のスタッフが、NPO 内で無給から有給に転じたり、非常勤から常勤に転じた例、またNPO外から新卒就職したり、転職してきた例、およびNPO 外に転職したり、起業した例は、いずれも年間事業規模の大きい団体で多くみられる。
⑤ NPO が若者の働く場や社会参加の場としてさらに発展するには、NPO の財政的安定が不可欠である。また、NPO に関心を抱く若者とNPO を緩やかにつなぐマッチングの仕組みを整え、同世代を活動に巻き込む力をもつ若いリーダーを育成することが重要である。
キーワード:若者、NPO、社会的包摂
1.研究の背景
(1)深化する若年者の雇用問題
経済の回復基調を背景に、1990年代後半以降、著しく悪化した若者の雇用情勢にも一部で改善の兆しがみられる。例えば新卒者への求人倍率や、卒業予定者の就職内定状況をみる限り、新卒者の雇用情勢についてはかなり改善しているとみてよいだろう。しかし、若年期(成人期への移行期)の生活設計という観点からみると、必ずしも今後を楽観視することはできない。むしろ若者の雇用問題は、より本質的な社会的課題として深化したという方が適切ではないかと思われる。
例えば、若年層の失業率は、改善傾向を示しながらも、他の年齢層に比べると依然高水準で推移している。また、とりわけ90年代後半以降、日本では非正規雇用者の割合が大きく増加したが、その変化は若年層で特に顕著であった。若年労働者の非正規化と新規学卒採用の抑制は、日本では主として企業セクターが担ってきた若者の職業能力形成の機会が社会的に失われていったことを意味している(小塩 2006)。すなわちこれらの状況は、若年層のなかに、経済的な自立が難しいだけでなく、職業能力形成の機会を得られないままの状況に置かれている者がいる可能性を示唆している。
また、従業員の非正規化とともに、日本企業が進めた採用抑制と成果主義の導入は、正社員として就職する機会を得た若い世代の働き方にも、大きな影響を及ぼしている。厚生労働省『平成18年版 労働経済白書』によれば、若年層の労働時間には90年代以降二極化の傾向がみられ、出産・子育て期にあたる30歳代男性を中心に週60時間以上働く長時間労働者が増加する一方で、10歳代後半から20歳代後半の男女では週35時間未満で働く短時間労働者の割合が増加している。10歳代後半から20歳代後半の男女で非正規化が進んだ結果、30歳代の男性正社員層への負荷が高まっていると考えられる。
こうした状況は、メンタルヘルスの悪化という形で若い男性労働者の心身を蝕みつつあるが、それだけではない。ライフステージという観点からみれば、10歳代後半から20歳代後半は結婚までの経済的基盤の形成期、30歳代は出産・子育て期に重なる。しかし、前者に関しては経済的自立と結婚の困難、後者に関しては仕事と出産・子育ての両立の困難という形で若年期のライフデザインに大きな影響を及ぼしつつある。ここに、若者の雇用問題が単なる雇用問題の域を超えて、複合的な社会的課題であることの本質がある。
(2)NPOの隆盛と若者の社会的包摂
企業における若年労働者の働き方にこのような状況がある一方で、近年では社会のさまざまな領域において、いわゆるNPO*1(特定非営利活動法人、以下NPO と表記)による多様な社会的活動が活発に行われている。内閣府の集計によれば、2006年9月末時点における全国のNPO 法人数は、認証数(累計)で2万9千近くにのぼり、98年の特定非営利活動促進法(いわゆるNPO 法)の施行以来増加の一途を辿っている。
日本で若者の雇用問題に関する議論が本格化したのは90年代後半以降であるが、NPOの隆盛にともなって、若年失業者の増加や若者の経済的自立の困難といった現象にNPO が果たしうる役割をめぐっての議論も活発化した。そこではNPO が若者の直接的な雇用の受け皿となる可能性とともに、若者を雇用ないしは社会参加に橋渡しする役割が強調されてきた(例えば、小野 2005、中田・宮本 2004、藤本 2004、宮垣 2004、佐藤編 2004など)。これらの議論はそれぞれ分野を異にするが、NPO による若者の社会的包摂(social inclusion)2をめぐる議論という点では、共通の基盤をもつといってよいだろう。日本に先立って若者の失業が社会問題となってきたヨーロッパでは、若年失業者など、社会的に排除された人々の社会参加、あるいは職業訓練、雇用創出の場としていわゆる非営利組織が大きな役割を果たしている。各種社会保障制度や教育・雇用機会などへのアクセシビリティを失った人々の社会的包摂は、ヨーロッパの福祉政策における最重要課題の1つであり、NPO などの非営利組織を通じた就労・社会参加支援は、注目されている政策実践の1つといえる3。
なお、NPO を通じた若者の社会的包摂を模索する取組みは、数年前から日本でも行われている。例えば、厚生労働省が05年度から実施している「若者自立塾事業」は、主として35歳程度までの若年無業者を対象に、合宿形式での集団生活を通じて学習・労働体験やボランティア活動などを行うものであるが、全国25カ所(2006年度)にある自立塾の実施団体には、若者の社会参加支援に実績をもつ多くのNPO が含まれている。あるいは若者起業家型リーダーの育成を目的とする経済産業省の「チャレンジ・コミュニティ創成プロジェクト」事業 には、「地域」を切り口とする若者の社会的包摂という理念をみることができる*4。
2.調査の概要
(1)調査の目的と方法
以上の背景をふまえ、本研究ではNPO にかかわる若者5の実態を明らかにするため、全国のNPO 法人3,000団体6を対象とするアンケート調査を実施した。
調査は2005年11月~12月に郵送で行い、有効回収数(率)は421件(14.9%)であった。調査の主な目的は、NPO にかかわる若者とNPO の接点を詳細に捉えるとともに、それらがNPO の組織内外において、雇用をどのような形で架橋・媒介しているのかを探ることにある。
(2)回答団体の基本属性
回答団体の活動分野は、図表1の通りである。最も多かったのは「保健・医療・福祉」(54.9%)であり、「子どもの健全育成」(41.1%)、「まちづくり」(40.6%)、「社会教育」「環境保全」(32.1%)がこれに続いている。今回調査の約3カ月前に内閣府が集計した全国データと比べると、「社会教育」「他のNPO 団体の支援」の2分野で差が大きくなっているが、それ以外に関してはおおむね母集団の傾向を反映している。
なお、回答団体のその他の属性は図表2の通りである。
3.NPOを通じた若者の社会参加の実態
(1)若者の参加状況
1)NPO 関係者の概況 今回の調査では、NPO の関係者を事務局スタッフ(①有給・常勤 ②有給・非常勤③無給)と、それ以外の活動参加者(以下「④参加者」)の4つに分類し、人数や性別、年齢構成等をたずねた*7。その結果、スタッフでは③無給スタッフ(61.5%)がいる団体が最も多く、①有給・常勤スタッフがいる団体は48.5%、②有給・非常勤スタッフがいる団体は37.5%であった(図表3)。また、76.7%のNPO には、スタッフ以外に④参加者がかかわっている。
関係者の年齢をみると、①有給・常勤スタッフ、③無給スタッフ、④参加者については、いずれも50歳代、②有給・非常勤スタッフでは40歳代をあげる団体が最も多くなっている。20歳代と30歳代についてみると、スタッフでは①有給・常勤(16.4%、20.7%)をあげる団体が最も多く、②有給・非常勤(8.8%、17.3%)、③無給(6.9%、13.3%)の順となっている。なお、20歳代の参加者がいる団体は26.6%、30歳代の参加者がいる団体は30.6%となっている。
2)関係者に39歳以下の男女を含むNPO の割合 次に、NPO と若者の接点を探る1つの目安として、関係者に39歳以下の男女を含むNPO の割合をみる。まず、39歳以下のスタッフがいるNPO は48.0%であり、このうちおよそ7割の団体では有給スタッフとしてかかわっている(図表4)。一方、39歳以下の参加者がいるNPO の割合は39.2%、代表者が39歳以下のNPO は15.2%である。
代表者の年代やNPO の年間事業規模別にみると、39歳以下のスタッフや参加者がいる割合は、代表者が若く、年間事業規模が大きい団体で高くなっている。大規模NPOではスタッフや参加者の人数自体が多く、若い世代も含めて、必然的に多くの人々とのつながりが生まれることになる。また、後段でみるように、若いリーダーのもとには、私縁等を通じて同世代のメンバーが集まる傾向が顕著なためであると思われる。
(2)NPOに参加する若者の職業
39歳以下の関係者の職業をみると、スタッフについては「有給で専従」(23.5%)をあげる団体が最も多く、「主婦・主夫」(9.5%)、「パート・アルバイト」(8.3%)、「会社員」(7.8%)がこれに続いている(図表5)。一方、参加者では「学生」(17.8%)をあげる団体が最も多く、「主婦・主夫」(17.3%)、「会社員」(16.6%)がほぼ同じ割合でこれに続いている。NPO と39歳以下の男女との接点は、スタッフでは専従職、参加者では学生、主婦(夫)、会社員が中心となっている。
若年非正規雇用者、ないしは若年無業者の社会的包摂という観点からこれらの結果をみると、「パート・アルバイト」については8.3%、「無業者」については2.1%のNPOでスタッフに該当者がいる(図表6)。一方、参加者では「パート・アルバイト」が9.5%、「無業者」が4.8%のNPO に該当者がいる。すなわち、若年非正規雇用者や若年無業者とNPO との接点は、現段階では全体の1割以下とかなり小さいものの、スタッフという形よりも、参加者という形でより多く生じている。また、これらの割合は、代表者が若い団体や、年間事業規模の大きい団体で高い傾向にある。
(3)若者の参加ルート
1)スタッフの採用ルート 次に、39歳以下の関係者におけるNPO への参加の経緯をみる(図表7)。まず、スタッフについてみると、全体で最も多くみられたのは「団体創設当初から」(19.2%)のスタッフであり、「スタッフの友人・知人等」(16.6%)がこれに次いでいる。すなわち、スタッフの採用ルートは、関係者の私縁が中心といえる。なお、参加者からスタッフになった人がいる団体は9.3%となっている。
ここで、「スタッフの友人・知人等」「参加者」「活動の対象者」という3つのルートからのスタッフの採用状況を比較してみると、「スタッフの友人・知人等」「参加者」については、いずれも代表者が若いNPO や、大規模NPO で多くなっている(図表8)。
また、「活動の対象者」については、先の2ルートほど明確な関連性はみられないものの、年間事業規模が大きいNPO でわずかに多くなっている。なお、活動分野との関連をみた場合、「職業能力の開発・雇用機会の拡充」を直接の活動分野とするNPO(n=49)では、約1割が「活動の対象者」から39歳以下のスタッフを採用している(図表省略)。
2)参加者の参加ルート 次に、39歳以下の参加者における参加ルートをみる。図表7に戻ると、参加者の参加ルートとして最も多くの団体があげたのは「スタッフの友人・知人等」(23.5%)で、「参加者の友人・知人等」(19.0%)、「団体創設当初から」(15.2%)がこれに続く。すなわち、スタッフ・参加者とも主たる参加ルートは関係者の私縁となっている。
また、「活動の対象者」から参加者になった人がいる団体は10.9%で、「活動の対象者」がスタッフになった人がいる団体(5.9%)の倍近い水準となっている。
なお、参加者の参加ルートとして、「スタッフの友人・知人等」「参加者の友人・知人等」「活動の対象者」という3つのルートに注目すると、これらのルートを経た参加者は、代表者が若いNPO や大規模NPO で多くみられる(図表9)。
(4)スタッフにおける就労形態の移行実態
次に、39歳以下のスタッフに関する、就労形態の移行実態をみる。まず、NPO 内部での移行の実態をみると、39歳以下のスタッフに「無給→有給(無給スタッフから有給スタッフになった人)」および「非常勤→常勤(有給の非常勤スタッフから、有給の常勤スタッフになった人)」の例がある団体は、いずれも全体の5%前後となっている(図表10)。これらの割合は、年間事業規模が大きい団体で高く、年間事業規模が1,000万円以上のNPO では前者が12.4%、後者が15.9%でこのような事例がある。
次に、NPO 外部からの「流入」の実態についてみると、39歳以下のスタッフに「新卒就職」の人がいる団体は全体の7.1%、「転職→有給(収入のある仕事を辞めて、有給スタッフになった人)」がいる団体は全体の20.7%となっている。このような事例は、いずれも代表者の年代が若く、年間事業規模の大きいNPO で多くみられ、代表者が同世代の団体や年間事業規模が1,000万円以上の団体では、39歳以下のスタッフに「新卒就職」の人がいる団体が2割前後、収入のある仕事を辞めて有給スタッフになった人がいる団体が半数弱となっている。
一方、NPO 外部への「流出」という側面においては、「スタッフ→転職(NPO での活動経験をいかして転職したり、新たに別の職を得た人)」の例、および「スタッフ→起業(NPO での活動経験をいかして起業した人)」の例がある団体がそれぞれ全体の10.5%、3.8%となっている。前者に関しては、年間事業規模が大きい団体で特に高く、年間事業規模が1,000万円以上のNPO の23.0%でこうした事例がみられる。
4.NPO による若者の社会的包摂の可能性とその条件
(1)NPO を通じた若者の社会参加の実態
今回の調査では、NPO と若者の接点を探る1つの目安として、NPO が関係者に39歳以下の男女を含む割合に注目した。その結果、39歳以下のスタッフ(有給および無給、常勤および非常勤を含む)がいるNPO は48.0%であり、その約7割では有給職員としてかかわっていた。また、39歳以下の参加者がいるNPO は39.2%、代表者が39歳以下のNPO は15.2%であった。なお、これらの割合は、スタッフ、参加者のいずれにおいても、代表者の年代が若く、年間事業規模の大きいNPO で高くなっていた。また、39歳以下の関係者の参加ルートは私縁が中心的であるが、代表者が若いNPO ではこれに加えて参加者がスタッフになった例や、活動の対象者が参加者になった例が多く生じており、同世代を活動に巻き込みやすい傾向がみられた。
一方、スタッフや参加者に若年非正規雇用者や若年無業者を含むNPO は、全体の1割以下という小さい範囲にとどまっていたが、彼らとNPO の接点は代表者が若い団体や年間事業規模の大きい団体で、あるいはスタッフより参加者という関係性でより多く生じていた。また、活動の参加者という形のNPO との緩やかな接点は、NPO 内部での雇用やNPO 外部への転職、起業という形で雇用との連続性をもちうるが、こうした循環は、年間事業規模の大きい大規模NPO で顕著であった。
(2)NPO による若者の社会的包摂の可能性とその条件
以上の結果は、NPO と若者の接点が必ずしも雇用という関係性にとどまるものではなく、その諸相が多様であり、流動的であることを改めて示している。また、NPO を通じた若者の社会的包摂の可能性を高めるには、NPO の財政基盤を強化し、同世代を活動に巻き込む力をもつ若いリーダーの育成が重要であることを示している。
NPO の資金調達をめぐっては、個人や企業からの寄付を促進する「認定NPO 法人制度」、あるいは行政との協働を促す「指定管理者制度」といった諸制度が、NPO の財政基盤強化に資する側面をもつ一方で、寄付文化が急速に浸透することの難しさや、NPOが行政の安価な委託先になったり、NPO の行政依存が進むといった側面をもつことも指摘されている(川口 2004など)。こうしたなか、日本のNPO において、いわゆる「事業系NPO」と呼ばれるタイプのNPO が存在感を強めており、また一方ではNPO と企業の間で「非営利セクターから営利セクターへの接近、営利から非営利への接近」(塚本2006)などといわれる、新たな潮流が生じている。こうした流れが若い世代とNPO の接点をどのように変えるのか、今後の行方が注目される。
また、若いパート・アルバイトや若年無業者とNPO の接点は、雇用(スタッフ)より参加(参加者)という関係性で多くみられ、活動の対象者という形のNPO との接点がNPO 活動への参加に結びついた例は、NPO での就労に結びついた例より広い範囲の団体で生じていた。これらの結果は、若い世代の社会的包摂を考える上で「参加」という緩やかな接点を積極的に捉えることの重要性を示唆しているように思われる。政府の世論調査によれば、NPO に「参加したいと思う」と答えた人は、20歳代の56.1%、30歳代の54.2%を占め、定年前後の50歳代や60歳代を大きく上回っている(内閣府2005c)。これらの若者と、若い世代の参加を求めるNPO を結ぶマッチングの仕組みを整えること(北村 2006)は、社会との接点が少ない若者の社会的包摂を促すだけでなく、同世代を活動に巻き込む力を備えた、若いリーダーの育成にもつながるだろう。
(3)おわりに
今回の調査では、どのような層の若者にどのような形でNPO との接点が生まれているのかを詳しく探ってはいない。90年代後半以降、若年者の雇用情勢が厳しさを増し、若年層の格差が広がるなかで、企業の正規職を得られなかった若者にNPO との接点が生まれてきた可能性もある。この点は、若者への個人調査等を通じて十分検討する必要がある。また、NPO スタッフの労働問題も重要なテーマの1つであろう。
景気回復に伴う雇用情勢の好転は、短期的には若者の雇用問題を緩和するかもしれない。しかし、若い世代が感じている将来への不安は雇用という側面を超えた複合的なものである。この点において、ニートやフリーターなどのいわゆる若者問題には「格差」という新たな社会問題だけでなく、われわれの従来の働き方や生き方に対する積極的な問題提起が含まれている。すなわち、若者問題の本質は、若い世代が経済的安定を得ながら自己実現をはかれるような生き方の選択肢を社会にどう位置づけるのか、という点にある。そのためには企業での働き方の見直し=ワーク・ライフ・バランスの実現、あるいは正規雇用と非正規雇用の処遇格差の縮小、といった議論が不可欠であろう。一方で、若者とNPO の接点を増やしていくこともまた、若い世代の生き方の選択肢を拡げ、経済的自立を促す上での大きな可能性があるように思われる。(提供:第一生命経済研究所)
【謝辞】 アンケートにご協力いただいたNPO 関係者の皆様に記して感謝申し上げます。
【注釈】 1 NPO とは「Non-Profit Organization」の略であり、非政府かつ非営利の組織を意味する(山内編 2005)。NPO の範囲は国によって異なり、広義には公益法人や学校法人・社会福祉法人・宗教法人などを含む場合もあるが、本稿で主に取り上げているのは、いわゆる最狭義のNPO(特定非営利活動法人)である。 2 社会的排除とは、人々が失業その他さまざまな障害から自立の基盤を欠くことを指し、これに対して社会的包摂とは、そのような障害を除去して人々が自立し他の人々との対等で相互的な関係を回復することを指す。ただし、社会的包摂の概念は多義的であり、通常は労働市場への包摂が念頭におかれるが、他方で狭義の労働市場以外の多様な社会的活動の場を含む(宮本太郎 2004)。 3 これらの政策は「媒介的労働市場政策」とも呼ばれ、イギリスではそのプログラムの受け皿として非営利の社会的経済部門が広がった(川口 2004)。なお、ヨーロッパにおける若者の移行支援政策では、雇用を第一の目標とするワークフェアな方向性から、教育・訓練制度、社会保障制度、住宅政策などを含めた包括的で、多元的な方向性へと拡充がはかられてきた経緯があり(宮本みち子 2005)、いわゆる非営利組織はそのなかで大きな役割を果たしてきた。 4 チャレンジ・コミュニティ創成プロジェクト事業の事務局であるNPO 法人ETIC.の代表理事、宮城治男氏へのヒアリング(2006年10月11日)に基づく。 5 本研究における「若者」は、おおよそ18~39歳の男女を想定している。その根拠としては、①政府による若者の移行支援政策が30歳代を含む幅広い年齢層を想定している、②若者の雇用情勢が著しく悪化した90年代後半に入る前後に就職時期を迎えた世代の一部が30歳代を迎えている、③若年期の生活設計の不安定化は、非婚・晩婚化や少子化などの社会現象と関連しており、結婚や出産などのライフイベントを迎える時期が30歳代に移行しつつある、などの点があげられる。 6 2005年11月1日時点で内閣府および各都道府県のホームページに掲載されていたNPO 法人から3,000団体を無作為に抽出し、各団体の代表者に回答を依頼した。 *7 調査票では、スタッフとは「役職にかかわらず、貴法人の事務局で組織運営や団体の事務に関する仕事に携わっている人、インターンを含む」、参加者とは「スタッフ以外で貴法人の活動に参加する人、ボランティア、会員、サポーター等」とした。これらの定義にあたっては、内閣府(2005a,b)等を参考にした。
【参考文献】 ・ 小塩隆士,2006,「若者が結婚にたどり着けるために-「結婚力」回復のための方策はあるか-」『NIRA 政策研究』19(2):18-24. ・ 小野晶子,2005,『「有償ボランティア」という働き方』労働政策レポート3,労働政策研究・研修機構. ・ 川口清史,2004,「日本型NPO と社会企業」『政策科学』11(3):201-212. ・ 北村安樹子,2006,「若者の社会参加とNPO」『Life Design Report (2006年7-8月号)』第一生命経済研究所:16-23. ・ 厚生労働省,2006,『平成18年版 労働経済白書』. ・ 佐藤一子編,2004,『NPO の教育力―生涯学習と市民的公共性』東京大学出版会. ・ 塚本一郎,2006,「社会的企業:「営利」と「非営利」のハイブリッド」原田勝広・塚本一郎編著『ボーダレス化するCSR-企業とNPO の境界を超えて-』同文舘出版:237-258. ・ 内閣府,2005a,『平成16年度市民活動団体基本調査報告書』. ・ 内閣府,2005b,『高齢者の社会参画に関する政策研究報告書』. ・ 内閣府,2005c,『NPO(民間非営利組織)に関する世論調査』. ・ 中田喜文・宮本大,2004,「日本におけるNPO と雇用―現状と課題」『家計経済研究』61:38-49. ・ 広井良典,2006,『持続可能な福祉社会―「もうひとつの日本」の構想』筑摩書房. ・ 藤本隆史,2004,「NPO におけるキャリア展開」『就業形態の多様化と社会労働政策』労働政策研究報告書12,労働政策研究・研修機構:164-183. ・ 宮垣元,2004,「大学生の雇用情勢とNPO の役割―大学と仕事を架橋する組織へ-」『季刊中国総研』8-1(26):35-41. ・ 宮本太郎,2004,「社会的包摂と非営利組織」白石克孝編『分権社会の到来と新フレームワーク』日本評論社:117-137. ・ 宮本みち子,2005,「長期化する移行期の実態と移行政策」『社会政策学会誌』13:3-16. ・ 山内直人編,2005,『NPO 白書2004』大阪大学大学院国際公共政策研究科NPO 研究情報センター.
研究開発室 副主任研究員 北村 安樹子