要旨

① 上場企業、および特例子会社を対象にアンケート調査を実施し、障害者雇用の方針や社員の理解促進への取り組み、障害者雇用の背後にある考え方などについてたずねた。

② 調査に回答した上場企業のうち、障害者雇用を「増やす」と答えた企業は全体では過半数であり、障害者雇用率1.8%未満の企業や従業員数1,000人以上の企業で特に多い。

③ 障害者理解のための啓発・教育活動をおこなっていない企業は、上場企業で7割強、特例子会社で4割強にのぼる。また、障害者を雇用している企業でも、その障害に関する啓発・教育活動をおこなっている割合は低い。

④ CSRという考え方を重視している上場企業は約8割である。一方、ノーマライゼーション、ダイバーシティという考え方を重視している上場企業はそれぞれ4割程度に過ぎない。これら2つの考え方を重視していない上場企業の障害者雇用率は低い。

1.調査の背景と目的

 「障害者雇用促進法」にもとづき、従業員数56人以上の一般の民間企業(以下、「企業」)は、1.8%(法定雇用率)に相当する人数の障害者を雇用することが義務付けられている。厚生労働省「平成18年6月1日現在の障害者の雇用状況について」(以下、「厚生労働省調査」)によると、企業に雇用されている障害者の数は28万4千人、雇用率は1.52%であった。近年、これらは増加傾向にあるものの、法定雇用率の1.8%に達している企業の割合は、いまだ43.4%に過ぎない。

 障害者雇用を進めるためには、企業が障害者雇用に取り組む姿勢を示し、社員の理解を促すことが重要である。そこで本稿では、図表1に示す企業を対象に実施したアンケート調査の結果から、障害者雇用の方針や社員の理解促進への取り組み、障害者雇用の背後にある考え方などについて探ることとした。

 なお、このアンケート調査では、本稿で述べる障害者雇用全般に関する質問のほかに、聴覚障害者の雇用に限定した質問も設けた。その回答結果については、別の機会に述べる。

企業の障害者雇用に対する姿勢
(画像=第一生命経済研究所)

2.回答企業の特性

(1)従業員数

 調査に回答した上場企業の従業員数は、1,000人未満が約6割、1,000人以上が約4割である(図表2)。調査対象の上場企業(従業員数100人以上の全上場企業)に比べても、前述の厚生労働省調査の対象企業に比べても、調査に回答した上場企業は大規模な企業がかなり多い。

 特例子会社の親会社の従業員数は、1,000人以上が9割以上を占める。また、特例子会社そのものの従業員数は、20人未満が過半数となっている。

企業の障害者雇用に対する姿勢
(画像=第一生命経済研究所)

(2)業種

 上場企業に対し、業種(日本標準産業分類の大分類)をたずねた。最も多いのは「製造業」(46.2%)であり、次が「卸売・小売業」(19.5%)である(図表省略)。その他の業種はいずれも1割に満たない。調査対象の上場企業に比べると業種の偏りはあまりないが、厚生労働省調査の対象企業に比べると、製造業がやや多くサービス業がやや少ないといった傾向がある。

3.障害者雇用の現状

(1)障害者雇用率

 上場企業の障害者雇用率は、1.2%未満が30.5%、1.2~1.5%未満が18.2%、1.5~1.8%未満が16.4%、1.8~2.1%未満が22.3%、2.1%以上が9.7%である。つまり、法定雇用率1.8%に達している企業は32.1%である(図表3)。

企業の障害者雇用に対する姿勢
(画像=第一生命経済研究所)

 特例子会社の親会社の障害者雇用率は、1.2%未満が17.5%、1.2~1.5%未満が12.7%、1.5~1.8%未満が19.0%、1.8~2.1%未満が31.7%、2.1%以上が17.5%であり、49.2%が法定雇用率に達している。

 上場企業について従業員数別にみると、法定雇用率に達している割合は従業員数の多い企業ほど高く、厚生労働省調査とは傾向が異なる。

(2)障害種別の雇用状況

 雇用している障害者の障害種別は、上場企業では肢体不自由者(78.3%)が最も多く、次いで内部障害者(60.4%)となっている(図表4)。特例子会社でも最も多いのは肢体不自由者(84.1%)であるが、その次が知的障害者(79.4%)である点は上場企業と異なる。また、聴覚障害者(76.2%)も上場企業に比べてかなり多い。

 上場企業について従業員数別にみると、1,000人以上の企業の方がどの障害者を雇用している割合も高い(図表5)。従業員数による差が最も大きいのは聴覚障害者である。

企業の障害者雇用に対する姿勢
(画像=第一生命経済研究所)

4.障害者雇用にかかわる企業姿勢

 ここでは、障害者雇用の推進に関係していると思われる事項として、(1)障害者雇用の方針、(2)障害者理解のための啓発・教育活動、(3)CSRなどの考え方を取り上げる。

(1)障害者雇用の方針

 障害者雇用の今後の方針をたずねた。上場企業では「増やす」が過半数の54.7%を占め、次いで「現状維持」が32.7%、「未定」が10.1%となっている(図表6)。特例子会社では、「増やす」が69.8%、「現状維持」は23.8%、「未定」が6.3%であり、上場企業よりも増やすと答えた割合が高い。上場企業、特例子会社ともに、「減らす」と答えた企業はない。

企業の障害者雇用に対する姿勢
(画像=第一生命経済研究所)

 上場企業で障害者雇用を増やすと答えた割合を、従業員数別、障害者雇用率別などに図表7に示す。

企業の障害者雇用に対する姿勢
(画像=第一生命経済研究所)

 従業員数別では、従業員数が多い企業ほど増やすと答えた割合が高い。

 また、障害者雇用率別では、1.8%未満の企業で増やすと答えた割合が高い。ただし、1.2%未満の企業が増やすと答えた割合は、1.2~1.5%未満や1.5~1.8%未満の企業より低い。

 さらに、従業員数が1,000人未満と1,000人以上の企業に分けて、障害者雇用率が1.8%未満の企業とそれ以上の企業の違いをみる。従業員数1,000人以上の企業が障害者雇用を増やすと答えた割合は、雇用率が1.8%未満の企業では89.7%、1.8%以上の企業では34.4%となっている。一方、従業員数1,000人未満の企業が障害者雇用を増やすと答えた割合は、雇用率が1.8%以上の企業ではわずか9.8%であり、1.8%未満の企業でも61.9%にとどまっている。つまり、従業員数1,000人未満の企業では、法定雇用率1.8%に達していないにもかかわらず障害者雇用を増やす意向のない企業が、4割近くも存在している。

(2)障害者理解のための啓発・教育活動

1)啓発・教育活動の実施状況
 障害者への理解を促すために社員に対しておこなっている啓発・教育活動をたずねた。上場企業では、「研修の実施」が10.7%、「マニュアルの配布」が4.4%、「その他」が11.6%に過ぎず、「特にない」が71.7%と多数を占める(図表8)。

 特例子会社では、「研修の実施」が33.3%、「マニュアルの配布」が11.1%、「その他」が22.2%であり、上場企業に比べると啓発・教育活動を実施している割合が高いが、それでも「特にない」は4割を超えている。

 なお、「その他」の回答としては、会議や朝礼などでの口頭による説明、障害者の配属先での説明会、社内LANや社内報、通達での情報発信などがある。

 上場企業の従業員数別にみると、「特にない」の割合は、1,000人未満の企業では8割を超えており、1,000人以上の企業を約30ポイントも上回っている。一方、「研修の実施」「マニュアルの配布」「その他」をおこなっている割合は、1,000人以上の企業の方がいずれも高い(図表9)。

企業の障害者雇用に対する姿勢
(画像=第一生命経済研究所)

2)啓発・教育活動の障害種別
 何らかの啓発・教育活動をおこなっている企業に対し、どのような障害に触れているかをたずねた。上場企業では、「障害は特定していない」(46.8%)が半数程度を占め、続いて「知的障害」(31.2%)、「聴覚障害」「肢体不自由」(いずれも29.9%)がそれぞれ3割前後となっている(図表10)。特例子会社では、「知的障害」(61.8%)と「聴覚障害」(50.0%)の割合が高い。

 次に図表11には、各障害者を雇用している企業において、その障害に関する啓発・教育活動をおこなっている割合を示す(ただし、精神障害者を雇用している企業は少ないため、参考としてデータを提示するにとどめる)。

 上場企業では、知的障害者、聴覚障害者を雇用している企業で、それぞれの障害に関する啓発・教育活動をおこなっている割合が比較的高いが、それでも2割には満たない。

 特例子会社でも同様に、知的障害者、聴覚障害者を雇用している企業では、各障害に関する啓発・教育活動をおこなっている割合が他の障害に比べて高い。どの障害に関する啓発・教育活動をおこなっている割合も、上場企業を上回っている。

企業の障害者雇用に対する姿勢
(画像=第一生命経済研究所)

(3)重視している考え方

 「CSR」「ノーマライゼーション」「ダイバーシティ」*という考え方を、それぞれ重視している(「重視している」+「どちらかといえば重視している」)と答えた割合を、図表12に示す。上場企業では、「CSR」(78.0%)は8割近いが、「ノーマライゼーション」(43.1%)や「ダイバーシティ」(38.4%)はその半分程度に過ぎない。特例子会社では、「CSR」(79.4%)は上場企業とほぼ同じであるが、上場企業に比べ「ノーマライゼーション」(81.0%)は非常に高く、「ダイバーシティ」(46.0%)もやや高い。

 図表13で上場企業の回答について従業員数別にみると、「CSR」は従業員数による違いがあまりない。「ノーマライゼーション」と「ダイバーシティ」は、1,000人未満の企業に比べ、1,000人以上の企業で重視している割合がかなり高い。

 ここで、上場企業において重視されている割合の低い「ノーマライゼーション」と「ダイバーシティ」の考え方が、障害者雇用率とどのような関係にあるかを分析する(図表14)。まず全体をみると、「ノーマライゼーション」や「ダイバーシティ」を重視している企業の方が重視していない企業よりも法定雇用率に達している割合が高い。

  さらに、従業員数別に分けると、1,000人未満の企業では、考え方の重視度による障害者雇用率の差があまりない。しかし、1,000人以上の企業では、考え方を重視していない企業より、重視している企業の障害者雇用率の方がかなり高い。

企業の障害者雇用に対する姿勢
(画像=第一生命経済研究所)
企業の障害者雇用に対する姿勢
(画像=第一生命経済研究所)

5.考察

 ここでは、上場企業の障害者雇用に関係すると思われる方針・考え方について考察する。

 障害者雇用を増やすと答えた割合は、全体では半数を超えており、雇用率1.8%未満の企業で特に高い。少なくとも法定雇用率に達するまでは障害者雇用を増やさなければならない、という意識が全体としてはあるようだ。ただし、従業員数の少ない企業では、法定雇用率に達していないにもかかわらず障害者雇用を増やす意向がない企業も多い。企業規模による障害者雇用に対する温度差がうかがえる。

 障害者理解のための啓発・教育活動をおこなっている割合は、従業員数1,000人未満の企業では1割程度でしかなく、従業員数1,000人以上の企業でも半数に達していない。

 また、障害者を雇用している企業ですら、個別の障害に関する啓発・教育活動をおこなっている割合はかなり低い。企業規模にかかわらず実践しやすい啓発・教育活動の方法を考え、普及することが必要であろう。

 CSRという考え方を重視している企業の割合は、企業規模には関係なく、8割前後を占めている。CSRは幅広い企業に浸透したといえる。一方、ノーマライゼーションやダイバーシティという考え方を重視している割合は、従業員数1,000人未満の企業では3割前後、1,000人以上の企業でも6割前後でしかない。ただ、これらの考え方を重視している企業、特に1,000人以上の企業では、障害者雇用率が高い。このような企業においては、ノーマライゼーションやダイバーシティという理念を打ち出すことが、障害者雇用を進める可能性がある。一方、規模が比較的小さい企業においては、理念の普及とともに、別の要素も必要であることが示唆される。(提供:第一生命経済研究所

【謝辞】
 アンケート調査にご協力いただいた企業に、誌面を借りて心よりお礼申し上げます。

【注釈】
* 一般に、CSR(Corporate Social Responsibility)は「企業の社会的責任」と訳される。また、ノーマライゼーション(Normalization)は「障害者を特別視するのではなく、一般社会の中で普通の生活が送れるような条件を整えるべきであり、共に生きる社会こそノーマルな社会であるとの考え方」(障害者基本計画)、ダイバーシティ(Diversity)は「多様な人材を活かす戦略」(日経連)といった説明がされている。

【参考文献】
・厚生労働省,2001,「身体障害児・者実態調査」.
・厚生労働省,2004,「平成15年度 障害者雇用実態調査」.
・厚生労働省,2006,「平成18年6月1日現在の障害者の雇用状況について」.
・高齢・障害者雇用支援機構,2006,『障害者雇用ガイドブック 平成18年版』.
・内閣府,2006,『障害者白書 平成18年版』東京コロニー.
・日本経営者団体連盟,2000,『大企業における障害者雇用促進に関するアンケート調査結果報告』.
・日本経営者団体連盟,2002,『原点回帰-ダイバーシティ・マネジメントの方向性』.
・日本経済団体連合会,2004,『特例子会社の経営・労働条件に関するアンケート調査結果報告』.

研究開発室 副主任研究員 水野 映子