障害者雇用を今後増やす企業54%。CSR を重視している企業78%。聴覚障害者にとって働きやすい企業28%
第一生命保険相互会社(社長 斎藤 勝利)のシンクタンク、(株)第一生命経済研究所(社長 石嶺 幸男)では、全国の従業員数100 人以上の上場企業を対象に、標記についてのアンケート調査を実施いたしました。
この程、その調査結果がまとまりましたのでご報告いたします。
≪調査結果のポイント≫
障害者の雇用状況と今後の意向 ●9割以上の企業が、何らかの障害のある人を雇用している。 ●最も多くの企業が雇用している障害者は「肢体不自由者」(78%)で、「視覚障害者」(21%)や「精神障害者」(12%)を雇用している企業は少ない。 ●過半数の企業は、障害者雇用を今後「増やす」意向があり、従業員数が多い企業ほど、また、障害者雇用率が1.8%未満の企業ほど、「増やす」意向は強い。
障害者に関する啓発・教育活動の実施状況 ●従業員に対して、「研修」は10%、「マニュアルの配布」は4%の企業しか実施していない。 ●従業員数1,000 人未満の企業では8割以上、1,000 人以上の企業でも過半数が、障害者に関する従業員への啓発・教育活動を実施していない。
企業として重視している考え方 ●「CSR」を重視している企業は8割弱ある一方で、「ノーマライゼーション」や「ダイバーシティ」を重視している企業は4割前後しかなく、従業員数1,000 人未満の企業では特に少ない。
聴覚障害者の雇用状況 ●聴覚障害者の雇用形態は、「正社員」が7割以上と最も多い。 ●職種は、「事務」(55%)と「生産・労務」(50%)が半数以上で、「専門・技術」が34%。
聴覚障害者の職場でのコミュニケーションの現状と企業からの支援 ●コミュニケーションの手段は「手書きでの筆談」(75%)が最も多く、次いで「読唇」(66%)。 ●「電子メール」は過半数が使用している一方で、「パソコンでの筆談」(22%)や「チャット」(6%)は少なく、ITは十分活用されていない。 ●職場で実施している支援は「特にない」が約半数を占め、比較的多い支援は「手話通訳の派遣」(22%)と「手話講座・サークルの設置・支援」(18%)。 ●聴覚障害者にとって働きやすい職場か、という質問には、「どちらともいえない」(50%)が最も多く、「そう思う」(3%)と「どちらかといえばそう思う」(25%)をあわせても、3割にも満たない。
☆本報告書の一部は、当研究所から隔月発行している『ライフデザインレポート』3-4 月号に掲載しています。レポートご希望の方は、左記の広報担当、またはホームページからお申し込みください。
≪アンケート調査の実施概要≫
1.調査地域と対象 全国の従業員数100 人以上の上場企業 ※人事部長を通じ障害者雇用担当者(または人事担当者)に回答を依頼
2.サンプル数 3,269 社
3.サンプル抽出方法 従業員数100 人以上の上場企業を全件抽出
4.調査方法 質問紙郵送調査法
5.実施時期 2006 年11 月
6.有効回収数(率) 318 社(9.7%)
7.回答企業の特性
8.調査の目的 従業員数56人以上の一般の民間企業は、労働者の1.8%に相当する人数の障害者を雇用することが法律で義務付けられています。企業に雇用されている障害者の数は近年増加傾向にありますが、いまだ十分でない状況にあります。障害者雇用を進めるためには、企業が障害者雇用に取り組む姿勢を示し、従業員の理解を促すことが重要です。そこで、この調査では、企業の障害者雇用の方針や従業員の理解促進への取り組み、障害者雇用の背後にある考え方などについて探りました。
また、今回は、障害者の中でも特に、聴覚障害者に焦点を当てた質問項目も設けました。聴覚障害は“コミュニケーション障害”“情報障害”とも呼ばれており、聴覚障害者が円滑に働く上では、職場でのコミュニケーションや情報伝達のあり方がキーポイントになっていると思われます。そこで、企業における聴覚障害者のコミュニケーションの現状や企業の支援体制などについても調査しました。本報告書の前半では障害者雇用全般について、後半では聴覚障害者雇用についての調査結果をご報告します。
企業における障害者の雇用状況
9割以上の企業が何らかの障害のある人を雇用している。最も多くの企業が雇用している障害者は「肢体不自由者」(78%)で、「視覚障害者」(21%)や「精神障害者」(12%)を雇用している企業は少ない。
企業が雇用している障害者の種別をたずねました。
その結果、「障害者は働いていない」と回答した企業は5.7%に過ぎず、9割以上の企業では何らかの障害のある人が働いていることがわかりました。
障害の種別で最も多いのは「肢体不自由者」(78.3%)で、次いで内臓などに障害のある「内部障害者」(60.4%)でした。また、「視覚障害者」(21.1%)や「精神障害者」(12.3%)を雇用している企業は少ないこともみてとれます。
これらを従業員数別にみると、1,000人未満の企業に比べ、1,000人以上の企業の方がどの障害者を雇用している割合も高くなっています。また、従業員数による差が最も大きいのは「聴覚障害者」で、1,000人以上の企業は66.4%であるのに対して、1,000人未満の企業は24.1%と、40ポイント以上もの差がありました。
企業における障害者雇用の意向
過半数(54%)の企業が、障害者雇用を「増やす」意向を持っている。従業員数が多い企業ほど、また、障害者雇用率が1.8%未満の企業ほど、障害者雇用を「増やす」意向は強い。
障害者雇用に関する今後の方針をたずねました。
その結果、障害者雇用を「増やす」と回答した企業は過半数(54.7%)を占めました。また、「現状維持」は32.7%、「未定」は10.1%で、「減らす」と回答した企業は皆無でした(図表省略)。
従業員数別にみると、従業員数が多い企業ほど増やす意向が強く、「1,000人以上」の企業では6割以上(63.4%)が増やす意向を持っていることがわかりました。
障害者雇用率別にみると、「1.2%未満」67.0%、「1.2~1.5%未満」81.0%、「1.5~1.8%未満」67.3%と、障害者雇用率が1.8%未満、すなわち法定雇用率に達していない企業において、「増やす」割合が6割以上と高いことがわかりました。ただし、「1.2%未満」の企業が「増やす」割合は、「1.2~1.5%未満」や「1.5~1.8%未満」の企業より低いこともみてとれます。
障害者に関する啓発・教育活動の実施状況
「研修」は10%、「マニュアルの配布」は4%の企業しか実施していない。従業員数1,000 人未満の企業では8割以上(84%)、1,000 人以上の企業でも過半数(54%)が、啓発・教育活動を実施していない。
9割以上と多くの企業が障害者を雇用している中で、従業員に対して、障害者を理解するための啓発・教育活動を実施しているか、をたずねました。
その結果、「特にない」が71.7%と多数を占め、「研修の実施」(10.7%)や「マニュアルの配布」(4.4%)などはどれも少数に過ぎませんでした。
「特にない」と回答した企業の割合を従業員数別にみると、1,000人未満(84.0%)の企業は、1,000人以上(54.2%)の企業を約30ポイントも上回っており、規模が小さい企業ほど啓発・教育活動を実施していないことがわかりました。また、従業員数1,000人以上の企業をみても、「研修の実施」(19.1%)は約2割がおこなっている一方で、「マニュアルの配布」は8.4%と1割にも満たないことがみてとれます。
企業として重視している考え方
「CSR」という考え方を重視している企業は、約8割(78%)。その一方、「ノーマライゼーション」「ダイバーシティ」を重視している企業は4割前後しかなく、従業員数1,000 人未満の企業では特に少ない。
障害者雇用に関係すると思われる企業の考え方として、「CSR」(企業の社会的責任)、「ノーマライゼーション」(障害者が一般社会で普通に生活できるようにすること)、「ダイバーシティ」(多様な人材を活かす戦略)などがあります。そこで、これらの考え方をそれぞれ重視しているか、をたずねました。
その結果、「CSR」を重視している企業は、全体の78.0%と多数を占めていました。また、従業員数による差はあまりなく、従業員数1,000人以上、1,000人未満の企業、いずれも8割前後の企業が重視しており、「CSR」という考え方は幅広い企業に浸透しているといえます。
その一方で、「ノーマライゼーション」は43.1%、「ダイバーシティ」は38.4%と、それぞれ4割前後の企業しか重視していませんでした。また、これらにおいては、従業員数1,000人以上の企業に比べ、1,000人未満の企業の方が重視している割合はかなり低いことがみてとれます。
聴覚障害者の雇用形態と職種
聴覚障害者の雇用形態は、「正社員」(72%)が7割以上と最も多い。職種については、「事務」(55%)と「生産・労務」(50%)が半数以上で、次いで多いのは「専門・技術」(34%)。それら以外は1割にも満たない。
図表1において、「聴覚障害者」を雇用していると回答した企業に対し、雇用している聴覚障害者の雇用形態と職種をたずねました。
その結果、雇用形態で最も多いのは「正社員」(72.0%)で、7割を超えていました(図表5)。次いで多いのは「パート・アルバイト」(25.0%)で、以下「契約社員」(18.2%)、「嘱託社員」(15.9%)となっています。
職種で多いのは「事務」(55.3%)と「生産・労務」(50.0%)で、それぞれ半数以上を占めていました(図表6)。次いで多いのは「専門・技術」(34.1%)でしたが、それら以外の職種はいずれも1割にも達していませんでした。
聴覚障害者の職場でのコミュニケーション方法
「手書きでの筆談」(75%)が最も多く、次いで「読唇」(66%)。「電子メール」(51%)は過半数が活用している一方で、「パソコンでの筆談」(22%)や「チャット」(6%)は少なく、ITは十分活用されていない。
職場で働く聴覚障害者は、どのようなコミュニケーション方法を用いているか、をたずねました。
その結果、最も多かったのは「手書きでの筆談」(75.8%)で、次いで「読唇(聴覚障害者が話し手の口の形を読み取ること)」(66.7%)、「発話(聴覚障害者が声を出すこと)」(54.5%)でした。これらから、手書きの筆談と並び、口話(「読唇」と「発話」の総称)が職場での中心的なコミュニケーション方法になっているといえます。
「電子メール」(51.5%)も過半数を占めていますが、その一方で「パソコンでの筆談」(22.0%)や「チャット」(6.8%)は少なく、IT(情報技術)を活用した聴覚障害者のコミュニケーション方法は、主に電子メールのみであることがみてとれます。
また、一般的に聴覚障害者の代表的なコミュニケーション方法と考えられている「手話」は、40.9%の企業で使われていました。
聴覚障害者へのコミュニケーション支援
実施している支援は「特にない」(48%)が約半数を占める。比較的多いのは「手話通訳の派遣」(22%)と「手話講座・サークルの設置・支援」(18%)。
職場で働く聴覚障害者のコミュニケーションや情報入手を支援するために、会社としてどのようなことをおこなっているか、をたずねました。
その結果、「特にない」(48.5%)が最も多く、約半数を占めていました。聴覚障害者へのコミュニケーション支援で比較的多かったのは、「手話通訳の派遣」(22.0%)、「手話講座・サークルの設置・支援」(18.9%)などのように、手話に関する支援でした。また、次いで多いのは、「筆談用具の配布」(14.4%)、「電子メールでの聴覚障害者向けの情報提供」(10.6%)で、これら4項目以外は1割にも満たないことがみてとれます。
聴覚障害者にとっての働きやすさ
最も多いのは、「どちらともいえない」(50%)。「そう思う」(3%)と「どちらかといえばそう思う」(25%)をあわせても、3割にも満たない。
自分の会社は、聴覚障害者にとって働きやすい会社だと思うか、をたずねました。
その結果、最も多かったのは「どちらともいえない」(50.8%)で、半数を占めていました。また、「そう思う」(3.0%)と「どちらかといえばそう思う」(25.8%)は、あわせても28.8%と3割にも及ばないことがみてとれます。
≪研究員のコメント≫
この調査では、冒頭で述べた目的にしたがい、まずは障害者雇用全体の推進に関連する事項として、障害者雇用の方針、障害者理解のための啓発・教育活動の状況、CSRなどの考え方の重視度を取り上げました。
障害者雇用を増やすと答えた企業は半数を超えており、雇用率1.8%未満の企業で特に多い結果となりました。少なくとも、法定雇用率に達するまでは障害者雇用を増やさなければならない、という意識が全体としてはあるようです。ただし、従業員数の少ない企業では、障害者雇用を増やす意向が弱い場合も多く、企業規模による温度差がうかがえます。
研修の実施やマニュアルの配布など、障害者理解のための啓発・教育活動を従業員におこなっている企業は、3割にも達していませんでした。実践しやすい啓発・教育活動の方法を考え、普及させる必要があります。
「CSR」という考え方は、約8割もの企業が重視しており、かなり浸透しています。一方、「ノーマライゼーション」や「ダイバーシティ」という考え方を重視している企業は、4割前後に過ぎません。しかし、これらを重視している企業の障害者雇用率は比較的高いことから、こうした企業理念を打ち出すことが障害者雇用を進める可能性も示されました(『ライフデザインレポート(2007年3-4月号)』「企業の障害者雇用に対する姿勢」参照)。
次に、この調査で焦点を当てたのは、聴覚障害者の雇用に関連する事項です。事前に聴覚障害者に対するヒアリング調査をおこなった結果からは、聴覚障害者の働きやすさと特に関係しているのは、受け入れ側(企業)の意識とコミュニケーション手段であることが示唆されたため、アンケート調査でもその点に注目しました。
受け入れ側の意識に関しては、前述の通り、障害者への理解を促進するための啓発・教育活動の推進が望まれます。特に、聴覚障害者については、コミュニケーションに関する知識や心構えなどを他の従業員に理解してもらうための取り組みが必要です。
コミュニケーションの手段に関しては、現状では口話と筆談が中心になっていますが、口話は正確さなどの面で限界があり、筆談は会議などの場では十分な情報を得られない、といった点がヒアリング調査では指摘されています。こうした問題を解消する方法の一つは、「手話」でしょう。聴覚障害者が手話でのコミュニケーションを望む場合は、手話通訳の派遣等による情報保障をおこない、一般の従業員にも手話を普及することが理想的といえます。
もう一つ提案したいのは、パソコンなどのIT(情報技術)の活用です。ITは電子メール以外にはあまり使われていない実情が浮かび上がりましたが、ヒアリング調査などでは、電子掲示板やプロジェクタの活用、パソコン要約筆記などの具体的事例があげられました。こうした事例をヒントに工夫すれば、聴覚障害者のコミュニケーションはより円滑になります。また、ITを使って音声情報を文字などの視覚的な情報にすることは、聴覚障害者のみならず他の従業員にも役立つ、いわばユニバーサルデザイン的な方法といえるでしょう。(提供:第一生命経済研究所)
(研究開発室 副主任研究員 水野 映子)
㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 広報担当(丹野・新井) TEL.03-5221-4771 FAX.03-3212-4470 【アドレス】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi