目次

1.仕事と家庭生活の両立の問題
2.調査概要
3.両立支援策の現状
4.就労者が求める両立支援策
5.就労者が求める両立支援策と企業が実施している両立支援策のギャップ
6.両立支援策が仕事と家庭生活の両立に与える影響
7.両立支援策の課題と方向性

要旨

① 企業における仕事と家庭生活の両立支援策と男女就労者が求める両立支援策を比較した。分析の結果、産休や育休という一時的な子育ての支援策については比較的充実しているため両者のギャップが小さいが、仕事と毎日の子育ての両立を支える<ルーティンな施策>は実施率が低く、両者のギャップが大きい。就労者の両立支援策充実の優先的な課題は、ルーティンな両立支援策を充実させることである。

② 女性正社員と同様に男性正社員も、両立支援策の充実を求める者が少なくない。育休・勤務時間関連の施策の充実を求める割合は、男性正社員と女性正社員で同程度である。両立支援のために勤務地や担当業務を限定する制度、所定外労働の削減措置、年次有給休暇の取得促進は、女性正社員よりも男性正社員で求める割合が高い。

③ 企業が実施する両立支援策は主に正社員対象で、パートに対しても適用される両立支援策は少ない。しかしながら、正社員と同様にパートも、仕事と家庭生活の両立のために各種の両立支援策を必要としている。現在雇用の非正規化がすすんでおり、育児期に就労する女性の多くはパートで、この割合がさらに増える可能性があることもふまえると、パートに対する両立支援策の充実が求められる時代になっている。

④ 少子化の背景には、仕事と家庭生活の両立が難しいために、結婚・出産が先延ばしされていることがあるといわれる。本調査の結果では、自分が勤める企業で両立支援策が充実した場合に、現在予定している子ども数以上に子どもを産み・育てたいと思う者が、男女とも3割にのぼる。少子化対策のためにも、企業における両立支援策の充実が期待される。

キーワード:両立支援策、ワーク・ライフ・バランス、少子化対策

1.仕事と家庭生活の両立の問題

 本稿では、企業における従業員の仕事と家庭生活の両立支援策と就労者が求める両立支援策を調査・分析して、企業が整備する両立支援策が就労者のニーズに合致したものであるかということを明らかにする。また、企業における両立支援策の充実が、就労者の満足度やストレス、さらには出産意欲に与える影響を分析する。分析結果をふまえて、就労者の両立支援をすすめるための課題と方向性を提示する。

 人口動態統計の年間推計によると、2005年の出生数は106.7万人であり、2004年の111.0万人よりも約4.4万人減少した。わが国の出生数の推移をみると、1970年代の第二次ベビーブーム以降、減少傾向が続いている。2004年の合計特殊出生率は1.29で、わが国は先進諸国の中で最も低い国のひとつになっている。

 わが国の少子化の直接の原因は晩婚化と非婚化であるが、その背景に仕事と家庭生活の両立が難しいことがあるとみられている(人口問題審議会 1998・津谷 1999・前田 2004・男女共同参画会議 2005)。仕事と育児の両立が困難であれば、結婚・出産の際に女性が就業を中断することになり、それに伴い多額の逸失利益(就業を継続していれば得られたはずの所得、機会費用)が生じる。内閣府(2003)の試算によると、大卒女性(文系)が一生フルタイムで継続就業した場合、生涯の総所得額は約2億8,560万円だが、出産・育児のために退職し、フルタイムに再就職した場合は約2億円で、逸失利益は約8,500万円にのぼる。この逸失利益が大きいために、就業を継続したい女性が結婚・出産を先延ばしすることが、少子化の大きな要因になっているといわれる。

 一般の人々の間においても、少子化対策として仕事と家庭生活を両立しやすい雇用環境の整備を求める声は多い。総務省(2004)の調査によると、結婚・子育て期にあたる20~39歳の男女は、少子化対策として「教育に伴う経済的負担の軽減」「両立のための雇用環境」「教育費以外の経済的負担の軽減」等の充実を望んでいる割合が高い。仕事と育児の両立のための雇用環境整備は、希望の上位にあげられている。また、日本労働研究機構(2003)の調査によると、育児期の就労者は、仕事と家庭生活を両立しやすくするために、「保育所の整備や育児休業制度の充実」よりも、「労働時間の短縮など、働きながら育児をしやすい柔軟な働き方の推進」や「男性が育児に参加することへの職場の理解や社会環境の整備」をあげる割合が高い。男性の育児参加に対する職場の理解等も両立を支える就労環境の一環とみなすと、就労者の両立支援のためには、企業における両立支援策の整備が第一に求められているといえる。

 仕事と家庭生活の両立は、以下にあげる理由から、女性就労者のみならず、男性就労者においても問題とされる。Greenhaus & Beutell(1985)によると、ワーク・ファミリー・コンフリクトとは、「ある個人の仕事と家族領域における役割要請が、いくつかの観点で、互いに両立しないような、役割間葛藤の一形態」と定義される。すなわち、それは、職業上の役割と家庭における役割をうまく両立できないことに対して感じる葛藤感である。育児期の共働き夫婦を対象にこのワーク・ファミリー・コンフリクトの状況を調査した結果によると、仕事から家庭生活へのコンフリクト(葛藤)を感じている者は、夫、妻ともに多い(松田 2005)。仕事と家庭生活の両立は女性の問題とみられがちであるが、実際には男女双方にあてはまる問題である。また、労働時間が短いことや仕事における時間管理に柔軟性があることが、就労者のワーク・ファミリー・コンフリクトを低減させるという知見も見出されている(松田 2006)。

 就労者の両立支援のためには、就労者が必要としている施策が整備されることが望ましい。しかしながら、ファミリー・フレンドリー施策(仕事と家庭生活の両立ができるような多様で柔軟な働き方を、就労者が選択することを可能にする人事管理の仕組み)ともよばれる両立支援策が整備されている企業は多くない。また、両立支援策の中には、育児休業制度のように法的に実施が義務づけられ、企業においても導入・活用が進みつつある制度もあれば、そうでない施策もある。就労者が必要としている施策が十分整備されていない可能性もある。両立支援策整備の方向性は、就労者が必要としている施策と企業が提供する施策の乖離を少なくすることである。

 本稿の構成は次のとおりである。2章では、分析に使用する調査の概要を示す。3~6章では、分析結果を示す。最終章では、分析結果をふまえて、現在の両立支援策の課題と両立支援策を充実させるための方向性を提示する。

2.調査概要

 使用するデータは、第一生命経済研究所が2005年9月に実施した企業に対するアンケートと個人に対するアンケートである。各調査の概要は以下のとおりである。

<企業調査「次世代育成支援に関するアンケート」>

対象者 :上場企業の人事部長

標本抽出法 :従業員数301人以上の上場企業から無作為抽出

調査方法 :郵送配布・郵送回収

標本数 :2,000社

有効回収数(率):113社(5.7%)

 以下では、この113社を分析対象にする。分析対象企業の業種は、製造・建設・鉱業・水産67社、運輸・通信13社、商業19社、金融・サービス14社である。従業員数は、500人未満が24.8%、500-1,000人未満が28.3%、1,000人以上が46.9%である。

<個人調査「勤め先の仕事と子育ての両立支援に関するアンケート」>

対象者:当研究所の生活調査モニターのうち有配偶者で小学生以下の子どもをもつ正社員の男女および非正社員の女性

調査方法 :郵送配布・郵送回収

標本数 :400人

有効回収数(率):384人(96.0%)

以下では、このうち民間企業に勤める男性正社員154人、女性正社員34人、女性パート117人の合計305人を分析対象にする(正社員には派遣・契約・嘱託を含む)。平均年齢は男性が39.2歳、女性が37.4歳、子ども数は1人が26.9%、2人が57.8%、3人以上が15.3%、末子年齢は0~6歳が55.3%、6~12歳が44.7%である。

3.両立支援策の現状

 企業が実施している両立支援策の現状が図表1である。具体的な施策は、「育休・勤務時間」「子育て支援」「産・育休の情報提供と支援」「働き方の見直し」の4分野の全20項目である。企業調査では、各施策について実施の有無を尋ねた*1。ここにあげた施策は、法的に実施が義務づけられた範囲を超えて企業が自主的に取り組むものである。個人調査では、各施策について、「勤め先にある」「勤め先にない」「わからない」の3つの選択肢の中から該当するものを回答しており、以下ではこのうち「勤め先にある」と回答した割合を集計した。

 企業調査の結果をみると、育休・勤務時間、産・育休の情報提供と支援、働き方の見直しにかかわる両立支援策は、実施している割合が比較的高い。育休・勤務時間についてみると、「育児休業法を上回る育児休業制度」(52.8%)、「(3歳から小学校入学前の子どもをもつ社員が利用できる)短時間勤務制度」(47.7%)などの実施率が高い。産・育休の情報提供と支援の実施率は特に高く、「妊娠中や出産後の健康の確保・情報提供・相談」などいずれの項目も50%以上の企業が実施している。働き方の見直しについては、「ノー残業デーの導入等、所定外労働の削減措置」や「年次有給休暇の取得を促進させるための措置」の実施率が約7割と高い。

 個人調査の結果をみると、企業調査よりも、いずれの両立支援策についても勤め先にあると回答した割合が低い。男女正社員では、産・育休の情報提供と支援、働き方の見直しにかかわる両立支援策が勤め先にあると回答した割合は比較的高い。しかし、勤め先にあると回答した割合が高い「産休後復帰のための業務内容や業務体制の見直し」「育休後復帰のための業務内容や業務体制の見直し」がそれぞれ約4割、「育児休業法を上回る育児休業制度」が3割前後、「ノー残業デーの導入等、所定外労働の削減措置」や「年次有給休暇の取得を促進させるための措置」が2~3割に過ぎない。

 企業調査よりも個人調査の方が各種施策の実施率が低い理由としては、まず、勤め先に制度があることが「わからない」と回答した者がいることがあげられる。これは制度の認知率が低いことをあらわす。また、企業調査の対象が従業員数301人以上の企業であるのに対して、個人調査には中小企業に勤める者も含まれるという違いもあげられる。ちなみに、男性正社員について勤め先の企業規模が300人以上の者に限定して再集計すると、先にあげた主な支援策が勤め先にある割合は、「育休後復帰のための業務内容や業務体制の見直し」(56.1%)、「育児休業法を上回る育児休業制度」(37.8%)、「ノー残業デーの導入等、所定外労働の削減措置」(37.8%)などと、男性正社員全体の場合よりも高くなる(図表省略)。

 女性パートの場合、両立支援策がある割合は正社員よりも低い。比較的実施率が高い企業調査でも、各種両立支援策の適用対象は正社員であり、パートも利用できる制度は少ないという結果が出ている(図表省略)。

企業における仕事と家庭生活の両立支援策
(画像=第一生命経済研究所)

4.就労者が求める両立支援策

 次に、個人調査から、就労者が求める両立支援策を示す。調査では、各支援策について、子育てをする上でどの程度必要かを「ぜひ必要」「必要」「それほど必要でない」「必要でない」の4段階で尋ねている。必要な施策(「ぜひ必要」+「必要」)を尋ねた図表2左列の結果をみると、いずれの施策についても、先にみた現在勤め先にある施策の割合に比べて、必要と回答した割合が高い。回答結果の傾向は、男性正社員、女性正社員、女性パートの間で似通っており、これらの施策が男女および就労形態にかかわらず必要とされていることがわかる。

企業における仕事と家庭生活の両立支援策
(画像=第一生命経済研究所)

 必要と回答した割合が特に高い項目は、育休・勤務時間、産・育休の情報提供と支援、働き方の見直しの分野に多くみられる。育休・勤務時間については、「育児休業法を上回る育児休業制度」から「所定労働時間を制限する制度」まで総じて必要と回答した割合が高い。子育て支援については、「法定を上回る子どもの看護休暇制度」を必要としている割合が最も高い。産・育休の情報提供と支援については、いずれの項目についても必要と回答した割合が高い。働き方の見直しについては、「ノー残業デーの導入等、所定外労働の削減措置」や「年次有給休暇の取得を促進させるための措置」が必要と回答した割合が高い。

 これらの施策のうち、特に必要だと思うものを5つまで選択した結果が図表2の右列である。先にみた複数回答の結果とは傾向が大きく異なる。必要と答えた割合が高いのは、育休・勤務時間分野の施策と、「法定を上回る子どもの看護休暇制度」「事業所内託児施設」「年次有給休暇の取得を促進させるための措置」である。

 このうち最も必要とする割合が高いのは、「法定を上回る子どもの看護休暇制度」と「年次有給休暇の取得を促進させるための措置」である。両者とも休暇の取得にかかわる施策である。「事業所内託児施設」は、男性正社員では必要とする割合は低いが、女性正社員およびパートでは必要と回答した割合が高い。育休・勤務時間分野の施策については、「所定労働時間を制限する制度」を除き、男女ともおおむね3割前後が必要と回答している。複数回答では、必要と回答した割合が高い産・育休の情報提供と支援に関する施策は、5つまで選択する場合には上位には入らない。必要ではあるが、就労者にとって両立支援策としての優先順位は低いようである。

5.就労者が求める両立支援策と企業が実施している両立支援策のギャップ

 次に、就労者が求める両立支援策、すなわちニーズと企業が実施している両立支援策のギャップを分析する。まず、個別の施策について、就労者(男女就労者全体)が必要とする割合から企業が実施している割合を引いた結果が図表3である。この値が50%以上あるギャップが大きい支援策は、「法定を上回る子どもの看護休暇制度」「事業所内託児施設」「勤務地、担当業務の限定制度の導入」「多様な働き方を拡大するための短時間勤務や隔日勤務等」である。これらの施策は、必要と考えている就労者が多いが、企業で実施されている割合が低く、ニーズが未充足なものである。

 一方、ギャップが小さいのは、「育児休業法を上回る育児休業制度」や「妊娠中や出産後の健康の確保・情報提供・相談」「育休や時間外労働・深夜業制限の周知・情報提供・相談」「ノー残業デーの導入等、所定外労働の削減措置」などである。これらの施策は、企業で既に実施されている割合も高い。

 分野別に、就労者が求める施策と企業が実施している施策のギャップをみたものが図表4である。企業調査であれば各施策を実施している場合に1点、そうでない場合に0点、個人調査であれば各施策を必要と回答した場合に1点、そうでない場合に0点を与えた上で、分野別に得点を合計し、それを各分野の施策数で割った値を算出した。このギャップが最も大きいのは子育て支援に関する分野であり、逆に最もギャップが小さいのは産・育休の情報提供と支援の分野である。産休や育休という子育てにおける一時の施策については充実していることもあり、ギャップが小さいが、仕事と日々の子育ての両立を支える<ルーティンな施策>でギャップが大きい傾向がある。

企業における仕事と家庭生活の両立支援策
(画像=第一生命経済研究所)
企業における仕事と家庭生活の両立支援策
(画像=第一生命経済研究所)

6.両立支援策が仕事と家庭生活の両立に与える影響

(1)就労者のワーク・ライフ・バランスへの影響

 両立支援策の充実は、就労者がワーク・ライフ・バランスのとれた生活を営むことを可能にすることにつながると期待される。個人調査のデータを分析すると、男性正社員では、勤め先において両立支援策が全く実施されていない企業に勤める者よりも、両立支援策が実施されている企業に勤める者の方が、家庭生活や職業生活の満足度が高く、ディストレス(抑うつ傾向)が低い傾向がみられる(図表5)*2。女性パートでも、満足度については同様の傾向がみられる。

 また、「両立支援策が充実した場合、仕事と子育ての両立をしやすくなるか」と尋ねた結果、就労形態にかかわらず男女とも8割以上が「そう思う」と答えている(図表6)。

企業における仕事と家庭生活の両立支援策
(画像=第一生命経済研究所)
企業における仕事と家庭生活の両立支援策
(画像=第一生命経済研究所)

(2)就労者の出産意欲への影響

 個人調査で、「両立支援策が充実した場合、現在予定している子ども数以上に、子どもを産み・育てたいと思うか」と尋ねた結果が図表7である。男性正社員の33.9%、女性正社員の36.6%、女性パートの28.9%が「そう思う」と回答している。出産を予定している子ども数(現在子ども数+現状における追加出産予定がある子ども数)別にみると、この質問に「そう思う」と回答した割合は、予定子ども数が1人の者で38.3%、2人の者で29.8%、3人の者で31.5%である(図表省略)。わが国の2004年の合計特殊出生率は1.29、すなわち現在の平均的なパターンで出産すれば1人の女性が生涯に1.29人しか子どもを産まないという状況であることを考慮すると、予定子ども数1人の者の約4割、同じく2人または3人の者の約3割が、さらに1人多く出産することが、わが国の出生数に与える影響は小さいものではないと考えられる。

 また、個人調査で、「全ての企業の両立支援策が充実した場合、わが国の出生率は上昇すると思うか」と尋ねた結果が図表8である。「そう思う」と回答した割合は、男性正社員62.7%、女性正社員60.5%、女性パート55.4%である。

 これらは企業の両立支援策が充実したらという仮定で尋ねたものであるが、以上の結果からは、両立支援策を充実させることは、就労者の仕事と家庭生活の両立を支援するのみならず、出生数の増加にも寄与することが示唆される。

企業における仕事と家庭生活の両立支援策
(画像=第一生命経済研究所)

7.両立支援策の課題と方向性

(1)優先的な取り組みが求められるルーティンの両立支援策の充実

 少子化対策の一環として、就労者に対する両立支援策の推進が企業に求められている。両立支援策には、育休や勤務時間にかかわる施策から働き方の見直しにかかわるものまで各種施策がある。理想的には全ての企業においてあらゆる両立支援策が充実するに越したことはないが、経営資源に限りがある中では、現在就労者が求めていながら実施されていない両立支援策を優先的に実施していくことが次善の策である。

 企業が実施している両立支援策と就労者のニーズのギャップが大きいのは、子育て支援と働き方の見直しの分野の施策である。具体的な施策では、看護休暇制度、事業所内託児施設、勤務地・担当業務を限定する制度、短時間勤務や隔日勤務の充実等である。産休や育休という子育てにおける一時の支援策については充実していることもあり、ギャップが小さいが、仕事と日々の子育ての両立を支える<ルーティンな施策>でギャップが大きい傾向がある。日々の両立を支える施策の充実が求められている。

(2)男性正社員とパートに対する両立支援策

 両立支援策の対象としてはもっぱら女性正社員が想定される傾向があるが、調査結果をみると女性正社員と同様、男性正社員でも、両立支援策の充実を求める者は少なくない。育休・勤務時間関連の施策の充実を求める割合は、男性正社員と女性正社員で同程度である。勤務地や担当業務を限定する制度、所定外労働の削減措置、年次有給休暇の取得促進は、女性正社員よりも男性正社員の方が求める割合が高い。

 また、パートに対して適用されている両立支援策は少ない。この背景には、労働コスト削減の他に、パートは労働時間が短く正社員よりも仕事と家庭生活の両立が容易であることや、両立支援策は長期にわたる人材育成を推進する性格のものであるため契約期間が短いパートにはなじみにくいという理由があるとみられる。しかしながら、本調査結果によると、正社員と同様にパートも各種の両立支援策を必要としている。育児期に就労する女性の多くはパートであり、雇用の非正規化に伴いこの割合はさらに増える可能性がある。両立支援の対象=正社員という図式では、企業は雇用の非正規化という流れに今後対応しきれなくなるとみられる。

 以上の点をふまえると、男性正社員やパートに対する両立支援の充実が求められる時代になってきているといえる。

(3)少子化対策としての両立支援策

 少子化の背景には、仕事と家庭生活の両立が難しいために、結婚・出産が先延ばしされていることがあるといわれる。個人調査の結果では、勤め先の両立支援策が充実した場合、現在予定している子ども数以上に子どもを産み・育てたいと思う者が男女とも3割にのぼる。また、8割以上の男女が、両立支援策が整備されれば、仕事と家 庭生活の両立をしやすくなると回答している。この結果は、企業における両立支援策を充実させることが、就労者の出産・子育てに与える効果が小さいものではないことを示唆する。少子化対策のためにも、企業における両立支援策の充実が期待される。(提供:第一生命経済研究所

【謝辞】
 本調査にご協力いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。

【注釈】
*1 企業調査では、各施策が次世代育成支援対策推進法にもとづく「(一般事業主)行動計画に含めた内容」「行動計画にはないが、既に実施済みの施策」「行動計画になく、未実施の施策」の3区分のいずれに該当するかを尋ねた。このうち前2者に回答した場合、実施しているとみなしている。

*2 家庭生活および職業生活の満足度は、それぞれに対して「満足している」から「不満である」までの5件法で尋ね、この回答に5点から1点を配点した尺度である。ディストレスは、日本版CES-D のうち「ふだんは何でもないことをわずらわしいと感じたこと」など10項目に対する回答に、「まったくなかった」(1点)から「ほとんど毎日」(4点)を与えた上で、全項目を合計した尺度である。

【参考文献】
・ 人口問題審議会,1998,『人口減少社会,未来への責任と選択-少子化をめぐる議論と人口問題審議会報告書』ぎょうせい.
・ 総務省,2004,「少子化対策に関する政策評価書-新エンゼルプランを対象として」.
・ 男女共同参画会議少子化と男女共同参画に関する専門調査会,2005,『少子化と男女共同参画に関する社会環境の国際比較報告書』.
・ 津谷典子,1999,「出生率低下と子育て支援政策」『季刊社会保障研究』34:348-360.
・ 内閣府,2003,『経済財政白書平成15年版』.
・ 日本労働研究機構,2003,「育児や介護と仕事の両立に関する調査」.
・ 前田正子,2004,『子育てしやすい社会―保育・家庭・職場をめぐる育児支援策』ミネルヴァ書房.
・ 松田茂樹, 2005,「育児期の共働き夫婦のワーク・ライフ・バランス」『Life Design Report』2005.7:16-23. ・ 松田茂樹,2006,「仕事と家庭生活の両立を支える条件」『Life Design Report』2006.1-2:4-15.
・ Greenhaus, Jeffrey H. and Nicholas J. Beutell, 1985, “Sources of Conflict between Work and Family Roles,” Academy of Management Review, 10(1): 76-88.

研究開発室 副主任研究員 松田 茂樹