<増えている母子・父子世帯>

 母子世帯あるいは父子世帯といった「ひとり親世帯」が増えている。厚生労働省がほぼ5年ごとに実施している「全国母子世帯等調査結果報告」によれば、2003年現在、母子世帯は1,225.4千世帯であり、1983年から20年間に約50万世帯(70.6%増)も増えている(図表1)。父子世帯は世帯数、伸び率ともに、母子世帯ほど大きくないが、10年前の93年から10.4%増えて173.8千世帯である。

 また、ひとり親世帯となった理由をみると、母子、父子世帯ともに、「死別」によるものが減少する一方、離婚等によるものが増加している。母子世帯の約9割、父子世帯の約8割が、死別でなく「生別」によりひとり親世帯となっている。

増加する若い「ひとり親世帯」
(画像=第一生命経済研究所)

<離婚に対する意識の変化>

 このような、生別によるひとり親世帯増加の一つの背景として、結婚ないし離婚に対する意識の変化があることが指摘できる。

 内閣府の「男女共同参画社会に関する世論調査」によると、「結婚しても相手に満足できないときには離婚すればよい」という考え方に、1992年調査よりも2004年調査では「反対」する者が減少し、「賛成」する者が増加しており、2004年調査では「賛成意見」(「賛成」と「どちらかといえば賛成」の合計、以下同様)が51.0%と過半数に達している(図表2)。

 また、2004年調査において、年代別の回答割合をみると、特に若い年代層で賛成を表明する者の割合が高く、20代から40代までは6割以上が「賛成意見」である。

増加する若い「ひとり親世帯」
(画像=第一生命経済研究所)

<ひとり親世帯の親の若年化>

 実際に、ひとり親世帯になった時の親の年齢が低下傾向を示しているのも、このような意識と無関係ではないと思われる。図表3をみると、母子、父子世帯ともに、1998年調査に比べ、30代以下の割合が高まっていることがわかる。そのような傾向により親の平均年齢が、母子世帯は1998年調査の34.7歳から2003年調査の33.5歳に、父子世帯も同40.2歳から同38.3歳に若くなっている。

 また、このようなひとり親の若年化に伴い、子どもの年齢も低くなっている。すなわち、母子、父子世帯ともに、ひとり親世帯になったときの末子の年齢が「5歳以下」という世帯が増加しており、2003年調査では5割以上を占めている。末子の平均年齢についても、母子世帯は1998年調査の5.4歳から2003年調査の4.8歳に、父子世帯も同7.8歳から同6.2歳に若くなっている。

増加する若い「ひとり親世帯」
(画像=第一生命経済研究所)

<困っていること―母子世帯は「家計」、父子世帯は「家事」>

 このように、ひとり親世帯の多くが、離婚によりひとり親世帯となり、小さな子どもを育てながら生活している。この点は、母子、父子世帯ともに同じような傾向であるが、実際の生活において、親本人が困っていることをたずねた結果をみると、母子世帯では「家計」(43.7%)、父子世帯では「家事」(34.6%)の割合が最も高く、母親、父親という性別による違いがみられた(図表4)。

 世帯収入をみても、年間収入金額(生活保護法に基づく給付、児童扶養手当などの社会保障給付金、就労収入、別れた配偶者からの養育費、親からの仕送り等を含む全ての収入額)は、母子世帯が212万円、父子世帯が390万円となっており、父子世帯の方が高い(図表省略)。その背景の一つには就業状況の違いがある。父親の多くは常用雇用者であるが、母親の場合には、常用雇用者よりもパートや派遣社員等の非正規雇用者の方が多い(図表省略)。

増加する若い「ひとり親世帯」
(画像=第一生命経済研究所)

<ひとり親世帯への多角的支援の必要性>

 このような実態を踏まえると、母子世帯の多くが抱えている「家計に対する不安」を解消するためには、安定した就労収入が必要である。そのために、厚生労働省では、児童扶養手当の支給等の経済的支援のみならず、「母子家庭等対策総合支援事業」として、ひとり親世帯の生活の自立、安定のための就労支援の推進を図っている。例えば、パートで雇用した者を常用雇用に転換した事業主に奨励金(1人あたり30万円)を支給する「常用雇用転換奨励金事業」や、教育訓練の授業料の4割相当額(上限20万円、下限8千円)を支給する「自立支援教育訓練給付金事業」等があり、実施主体である自治体に対して、国庫補助を行っている。しかしながら実際に、このような支援事業を実施した自治体は、05年度現在(予定)、前者が全自治体の24.2%、後者が同53.6%に留まっている(厚生労働省第5回生活保護費及び児童扶養手当に関する関係者協議会児童扶養手当関係資料)。したがって、対象者全てが支援を享受できるような体制が構築されることが必要である。

 他方、父子世帯では、困っている内容への回答割合は「家計」も少なくないが、「家事」が第1位であった。また、日常生活における相談相手の有無についてきいたところ、「なし」への回答が、母子世帯では2割以下であったのに対し、父子世帯では約半数に及んでいる(図表省略)。このようなことから、父子世帯に対しては特に、生活の孤立を防ぎ、安心して働けるよう、育児を含めた生活支援が必要である。

 以上のように、ひとり親世帯の増加により、その必要とする支援も多岐にわたる中で、社会としてどのように支えるのか、行政のみならず、地域社会や企業も含め、支援のあり方を考えることが必要なときを迎えているように思われる。(提供:第一生命経済研究所

研究開発室 的場 康子