要旨

① 近年台頭するNPO は、若者の雇用の受け皿としてだけでなく、キャリア形成や社会参加の場としても期待されている。当研究所では、NPO を通じた若者の社会参加の実態とともに、若者の参加に対するNPO 側のニーズを探るため、全国のNPO 法人3,000団体を対象とするアンケート調査を実施した。

② スタッフの中心に30歳代までの男女を含むNPO は38.7%、参加者の中心に30歳までの男女を含むNPO は20.7%となっている。これらの若者中心NPO には、代表者の年代が若い、所在地が都市部にある割合が高い、活動範囲が広い、事業規模が大きい、といった特徴がみられる。また、参加者の中心に30歳以下の男女を含むNPO や、代表者が30歳代以下のNPO では、活動分野に「子どもの健全育成」をあげる団体の割合が高くなっている。

③ 高校の新卒者、大学の新卒者、既卒の若年就労未経験者をスタッフとして採用することに積極的な意向をもつNPO の割合は、それぞれ16.9%、26.8%、28.5%となっている。ボランティアやインターンシップの受け入れも含めて、若者の参加に対するNPO のニーズは、総じて事業規模が大きく、代表者の年齢が若い団体で高くなっている。

1.はじめに

(1)調査実施の背景

 景気の回復基調を反映し、若年者の雇用情勢にも改善の兆しがみえつつある。しかし、一方では社会との接点を失ったまま社会的に孤立する若者も少なくないといわれる。ニートという言葉が話題になって久しいが、例えば内閣府の集計による若年無業者数は、2002年で213.2万人であり、10年前から増加傾向にある(内閣府 2005)。若者の間では、職業の面だけでなく、教育や結婚などをめぐって、人生に多くの選択肢をもつ者と、選択の機会すらもてない者の格差が広がっているという指摘も少なくない。

 このようななか、特定非営利活動促進法が施行された1998年12月以来、増加の一途を辿るNPO1は、若者の雇用の受け皿としてだけではなく、キャリア形成や社会参加の場としても期待されている。日本よりも早くから若者の失業が社会問題となってきたヨーロッパでは、若年失業者など、社会的に排除された2人々の社会参加を支援する上で、いわゆる民間非営利組織が大きな役割を果たしている。例えば、宮本(2004)は、非営利組織を通じた社会的包摂の一例としてスコットランドの「媒介的労働市場」アプローチ*3をあげ、中途離脱者の少なさ、再就職率や再就職後の継続在職率の高さなどの点で、そのパフォーマンスが通常の公的職業訓練プログラムなどを凌駕するという調査報告について紹介している

 また、内閣府が昨年8月に実施した「NPO(民間非営利組織)に関する世論調査」によれば、NPO への参加意向は、若い世代ほど高くなっている(図表1)。この調査によると、NPO に「参加したいと思う」と答えた人の割合は、20歳代では6割弱、30歳代では5割強といずれも半数を超えており、「参加したいと思わない」と答えた人の割合を大きく上回っている。

若者の社会参加とNPO
(画像=第一生命経済研究所)

(2)調査の概要

 以上のような背景をふまえた上で、当研究所ではNPO を通じた若者の社会参加の実態と若者の参加に対するNPO のニーズを探るため、全国のNPO 法人3,000団体を対象とするアンケート調査を実施した。調査の概要は図表2の通りである。

 本稿ではこのうち、スタッフや参加者の中心年齢層に30歳代以下の男女を含む「若者中心NPO」*4に関する特徴と、若者の参加に対するNPO の意向についての結果を中心に報告する。なお、NPO を通じた若者の社会参加の実態と若者の社会的包摂の可能性を検討した分析結果については、別の機会に改めて報告する予定である。

若者の社会参加とNPO
(画像=第一生命経済研究所)

2.若者中心NPO の特徴

(1)スタッフ・参加者の中心に30歳代以下の男女を含む割合

 はじめに、スタッフや参加者の中心年齢層に30歳代までの男女を含むNPO が、全体のどの程度の割合を占めるのかを確認する。

 図表3は、NPO のスタッフ、およびスタッフ以外の参加者に関する中心年齢層の構成割合を示している。まず、スタッフについてみると、中心年齢層に20歳代以下の男女を含むNPO は19.0%、30歳代の男女を含むNPO は19.7%で、計38.7%のNPO がスタッフの中心に30歳代までの男女を含んでいることになる。一方、参加者についてみると、中心年齢層に20歳代以下の男女を含むNPO は13.1%、30歳代の男女を含むNPO は9.3%で、計22.4%のNPO が参加者の中心に30歳代までの男女を含んでいる。

 このように、30歳代までの若い世代がNPO 関係者の中心年齢層に含まれる割合は、参加者よりスタッフにおいて高くなっている。なお、以下本稿では、スタッフの中心年齢層に30歳代以下の男女を含むNPO を「スタッフ若者中心NPO」、参加者の中心に30歳代以下の男女を含むNPO を「参加者若者中心NPO」と表記する。

若者の社会参加とNPO
(画像=第一生命経済研究所)

(2)若者中心NPOの特徴

1)代表者年代
 ここでは、「スタッフ若者中心NPO」及び「参加者若者中心NPO」に関する特徴をみる(図表4)。代表者の年代についてみると、代表者が30歳代以下のNPO の割合は、全体では15.2%(20歳代:5.5%、30歳代:9.7%)となっている。この割合は「スタッフ若者中心NPO」では36.8%(20歳代:12.9%、30歳代:23.9%)、「参加者若者中心NPO」では33.3%(20歳代:11.5%、30歳代:21.8%)であり、いずれも全体より大幅に高くなっている。すなわち、スタッフや参加者の中心に若いメンバーを含むNPO では、代表者が同世代である割合も高い傾向にある。

若者の社会参加とNPO
(画像=第一生命経済研究所)

2)活動分野
 ここからは、「スタッフ若者中心NPO」「参加者若者中心NPO」に加えて、代表者が30歳代以下のNPO(以下「代表者30歳代以下NPO」とする)に関する特徴についてもみていきたい。

 活動分野についてみると(図表5)、「スタッフ若者中心NPO」に関しては、全体に比べて「環境保全」を活動分野とする団体の割合がやや低くなっているものの、それ以外の分野では全体との大きな違いがみられない。一方、「参加者若者中心NPO」では、「代表者30歳代以下NPO」とともに「子どもの健全育成」を活動分野とする団体の割合が全体に比べて10ポイント以上高くなっている。30歳代以下の世代は、子育ての当事者世代とも重なる。これらの傾向は、30歳代以下の世代にとって、子どもの健全育成が参加しやすい身近なテーマであることを示す一方、自らのニーズを満たしうるような既存の社会サービスが不足しているがために、必要に迫られて活動に参加したり、事業を立ち上げる人が多いことを反映している可能性がある。

 なお、「参加者若者中心NPO」では、このほか「学術・文化・芸術・スポーツ振興」「人権擁護・平和推進」の割合が全体に比べてやや高く、「保健・医療・福祉」「まちづくり」をあげる割合がやや低くなっている。

3)所在地、活動範囲、事業規模

 次に、所在地、活動範囲、事業規模に関する特徴を示す(図表6)。所在地については、「スタッフ若者中心NPO」「参加者若者中心NPO」「代表者30歳代以下NPO」のいずれでも、全体に比べて「政令指定都市、県庁所在地、またはそれに準ずる都市」をあげる割合が高く、「その他の市町村」をあげる割合が低くなっている。こうした傾向は、とりわけ「参加者若者中心NPO」で顕著となっている。

 一方、活動範囲や事業規模をみると、全体に比べて若者中心NPO ではいずれも、活動範囲では「隣接する複数の都道府県の範囲内」を超える範囲に及ぶ割合が高く、事業規模では「1,000~4,999万円」あるいは「5,000万円以上」をあげる割合が高くなっている。すなわち、関係者の中心に30歳代以下の男女を含む若者中心NPO では、所在地は地方より都市部に多く、活動範囲については広い傾向が、事業規模については大きい傾向がみられる。

若者の社会参加とNPO
(画像=第一生命経済研究所)
若者の社会参加とNPO
(画像=第一生命経済研究所)

3.若者の参加に対するNPO のニーズ

(1)スタッフの採用意向

 先の図表1でもみたように、NPO への参加意向は、若い世代ほど高くなっている。それでは若者の参加に対するNPO 側の需要はどの程度となっているのであろうか。以下では、若者の参加に対するNPO の意向に関する結果を示す。

 今回の調査では、「①新卒学生(高校卒)」「②新卒学生(大学卒)」「③既卒の若年就労未経験者」の3つを提示し、若者の採用に関する姿勢をたずねた。その結果、スタッフとしての採用を「積極的に行いたい」と答えたNPO の割合(「積極的に行いたい」「どちらかといえば積極的に行いたい」の合計値、以下同)は、①新卒学生(高校卒)、②新卒学生(大学卒)、③既卒の若年就労未経験者の順に、それぞれ16.9%、26.8%、28.5%であった(図表7)。なお、これらの採用意向は、総じて事業規模が大きく、代表者の年代が若い団体で高い傾向にある。

若者の社会参加とNPO
(画像=第一生命経済研究所)

(2)ボランティア、インターンシップの受け入れ意向

 次に、若者をボランティアやインターンシップを通じて受け入れることに対するNPO の意向をみる(図表8)。

 まず、ボランティアの受け入れに対するNPO の意向は、現役大学生(61.3%)に対してもっとも積極的であり、既卒の若年就労未経験者(56.8%)、現役高校生(47.5%)の順となっている。こうした傾向は、インターンシップについても同様であり、「積極的に行いたい」と答えたNPO の割合は、順に現役大学生(49.2%)、既卒の若年就労未経験者(46.3%)、現役高校生(36.8%)となっている。

 なお、ボランティアやインターンシップの受け入れに関しても、スタッフの採用と同様、総じて事業規模が大きく、代表者の年代が若い団体ほど、積極的な意向をもつ団体の割合が高くなっている。

若者の社会参加とNPO
(画像=第一生命経済研究所)

4.まとめ

 本稿では、NPO に対するアンケート調査に基づいて、スタッフや参加者の中心に30歳代までの若い世代を含む「若者中心NPO」の特徴とともに、若者の参加に対するNPOの意向について分析した。その結果、NPO 全体の約4割がスタッフの中心に、約2割が参加者の中心に30歳代までの若い世代を含み、それらの若者中心NPO には、代表者の年代が若い、所在地が都市部にある割合が高い、活動範囲が広い、事業規模が大きい、といった特徴がみられることが明らかになった。

 また、若者の参加に対するNPO の意向については、新卒学生や既卒の若年就労未経験者をスタッフとして採用することに積極的な意向をもつNPO が全体の2~3割前後であった一方、事業規模が大きく、代表者の年代が若い団体ではこれらの割合が大幅に高くなっていた。加えて、現役の学生や既卒の若年就労未経験者をボランティアやインターンシップを通じて受け入れることについては全体の4~6割のNPO が積極的な姿勢をもっていた。

 これらの結果は、NPO が若者の雇用の受け皿としてさらに発展する上で、経営基盤の安定化が不可欠であることを物語っている。一方で、若い世代がNPO 活動に高い関心を抱く背景には、必ずしも雇用という関係性にとどまらない、社会とのつながりへの期待があるようにも思われる。したがって、NPO を通じた若い世代の社会参加を広げるには、NPO に接点を求める若者と、彼らの参加を求めるNPO のニーズをうまく結びつける、雇用にとどまらないマッチングの仕組みを整えることが重要になるだろう。(提供:第一生命経済研究所

【注釈】
*1 NPO とは「Non-Profit Organization」の略であり、非政府かつ非営利の組織を意味する(山内編 2005)。NPO の範囲は国によって異なり、広義には、公益法人や学校法人・社会福祉法人・宗教法人などを含む場合もあるが、本稿で取り上げるのは、いわゆる狭義のNPO(特定非営利活動法人)である。
*2 「社会的排除(social exclusion)」とは、人々が失業その他さまざまな障害から自立の基盤を欠くことを指し、これに対して「社会的包摂( social inclusion)」とは、そのような障害を除去して人々が自立し他の人々との対等で相互的な関係を回復することを指す。社会的包摂という言葉は、70年代のフランスで拡がり、EU 社会政策の基本理念になるとともに、イギリスなど欧州各国に伝播した。ヨーロッパでは社会的排除との闘いによって人々の社会的包摂を実現することが、福祉政策のもっとも重要な課題として浮上しつつある(宮本 2004・2006)。
*3 媒介的労働市場とは、長期的失業者あるいは就労上のなんらかの困難を抱え人々を主な対象として、彼らの雇用可能性を高め、労働市場への架け橋を提供することである。その方法は、短期契約による雇用労働を提供し、これに職業訓練や職業紹介を組み合わせる、というかたちをとる(宮本 2004)。
*4 本稿では、NPO と若者の接点を探る目安の1つとして、スタッフや参加者に30歳代までの若者を含む割合に注目している。その根拠としては、①政府による各種の若者自立支援政策のターゲットが、30歳代を含む広い年齢層を想定している、②若年者の雇用情勢が著しく悪化した90年代後半に入る前後に就職時期を迎えた世代の一部が、現在30歳代を迎えている、③若年期の生活設計の不安定化は、非婚・晩婚化や少子化といった社会現象とも関連しており、結婚や出産といったライフイベントを経験する平均的な時期が、20歳代から30歳代にシフトしつつある、などの点があげられる。

【参考文献】
・ 内閣府,2005,『若者の包括的な自立支援方策に関する検討会報告』.
・ 宮本太郎,2004,「社会的包摂と非営利組織」,白石克孝編『分権社会の到来と新フレームワーク』日本評論社:117-137.
・ 宮本太郎,2006,「ポスト福祉国家のガバナンス 新しい政治対抗」『思想』983,岩波書店:27-47.
・ 山内直人編,2005,『NPO 白書2004』大阪大学大学院国際公共政策研究科NPO 研究情報センター.

研究開発室 副主任研究員 北村 安樹子