支援策が充実すれば、約3割が“今以上に子どもを産み、育てたい”、約6割が“出生率は上昇する”
第一生命保険相互会社(社長 斎藤 勝利)のシンクタンク、(株)第一生命経済研究所(社長 石嶺 幸男)では、全国の従業員数301 人以上の上場企業2,000 社と、小学生以下の子どもを持つ就労者400 人を対象に、標記についてのアンケート調査を実施いたしました。
この程、その調査結果がまとまりましたのでご報告いたします。
≪調査結果のポイント≫
企業の両立支援策の現状 ●企業調査によると、『産・育休の情報提供と支援』にかかわる支援策は多く、過半数が実施。 ●その一方で、『子育て支援』にかかわる支援策の実施割合は、3割未満と少ない。 ●個人調査によると、企業調査よりも全体的に回答割合が低く、支援策が認知されていない。 ●また、正社員に比べ、女性パートへの支援策が少ない。 ●両立支援策は、大企業ほど充実しており、規模が小さい企業では充実していない。また、支援策を必要とする女性や若い世代が多い企業でも、充実しているという関係はみられない。
就労者が求める両立支援策 ●男女正社員の約9割が「年次有給休暇の取得を促進させるための措置」を“必要”としている。 ●女性正社員とパートは、「法定を上回る子どもの看護休暇制度」を“特に必要”としている。
両立支援策における就労者のニーズと企業のギャップ ●「子どもの看護休暇制度」「事業所内託児施設」「勤務地、担当業務の限定制度」「短時間勤務や隔日勤務」における双方のギャップは大きく、就労者のニーズが満たされていない。
企業の両立支援策が充実すれば、仕事と子育ては両立しやすくなると思うか? ●男女ともに、8割以上が「しやすくなる」と回答。 ●最も強く肯定しているのは、「女性正社員」(88%)。
企業の両立支援策が充実すれば、今以上に子どもを産み、育てたいと思うか? ●男女ともに、約3割が「今以上に子どもを産み、育てたい」と回答。 ●最も強く肯定しているのは、「女性正社員」(36%)。
全ての企業の両立支援策が充実すれば、わが国の出生率は上昇すると思うか? ●男女ともに、約6割が「上昇する」と回答。 ●最も強く肯定しているのは、「男性正社員」(62%)。
☆本報告書のデータの一部は、当研究所から隔月発行している『ライフデザインレポート』7-8 月号(7/1 発行)にも掲載予定です。レポートご希望の方は、左記の広報担当、またはホームページからお申し込みください。
≪アンケート調査の実施概要≫
【企業調査】「次世代育成支援に関するアンケート」
1.対象者 上場企業の人事部長
2.標本抽出法 従業員数301 人以上の上場企業から無作為抽出
3.調査時期 2005 年9月
4.調査方法 郵送配布・郵送回収
5.標本数 2,000 社
6.有効回収数(率) 113 社(5.7%)
7.回答者の属性
【個人調査】「勤め先の仕事と子育ての両立支援に関するアンケート」
1.対象者 第一生命経済研究所の生活調査モニターのうち、有配偶で小学生以下の子どもを持つ正社員の男女および非正社員の女性
2.調査時期 2005 年9月
3.調査方法 郵送配布・郵送回収
4.標本数 400 人
5.有効回収数(率) 384 人(96.0%)
6.回答者の属性
企業の両立支援策の現状①
企業調査では、『産・育休の情報提供と支援』にかかわる支援策は多く、過半数が実施している。その一方、『子育て支援』は3割未満と少ない。個人調査では、企業調査よりも全体的に回答割合が低く、支援策が認知されていない。また、正社員に比べ、女性パートへの支援策が少ない。
企業が実施している『育休・勤務時間』『子育て支援』『産・育休の情報提供と支援』『働き方の見直し』の4分野に関する仕事と子育ての両立支援策20 項目について、その現状を企業・個人両方に尋ねました。ここにあげた両立支援策は、法的に実施が義務づけられた範囲を超えて、企業が自主的に取り組むものです。企業調査では、企業に対して各支援策の実施の有無を、また、個人調査では、就労者に対して各支援策が「勤め先にある」かどうかを尋ねました。
企業調査の結果からは、『育休・勤務時間』『産・育休の情報提供と支援』『働き方の見直し』の3つに関する両立支援策については、比較的実施割合は高いことがわかりました。
特に、『産・育休の情報提供と支援』に関する支援策の実施割合は全体的に高く、最も高い「13)育休や時間外労働・深夜業制限の周知・情報提供・相談」(79.5%)をはじめ、全ての項目において50%以上の企業が実施していました。
その一方で、『子育て支援』については、他の分野に比べてどれも実施割合が3割未満と低く、中でも、最も低い「7)事業所内託児施設」(2.7%)はほとんどの企業が導入していないようです。
個人調査の結果では、いずれの両立支援策についても、企業調査よりも「勤め先にある」と回答した割合は低くなりました。理由としては、勤め先に制度があることが「わからない」と回答した人が多く、これは制度の認知率が低いことを表しています。また、企業調査の対象が従業員数301 人以上の企業であるのに対して、個人調査には中小企業に勤める人も含まれるという違いもあげられます。
男女正社員では、『産・育休の情報提供と支援』と『働き方の見直し』に関する両立支援策について、「勤め先にある」と回答した割合は相対的に高い結果となりました。しかしながら、その中で回答割合が高い項目をみても、「14)産休後復帰のための業務内容や業務体制の見直し」や「15)育休後復帰のための業務内容や業務体制の見直し」が約4割、「13)育休や時間外労働・深夜業制限の周知・情報提供・相談」が約3割、「17)年次有給休暇の取得を促進させるための措置」が3割弱と、全てが半数を下回っていました。
女性パートの場合、両立支援策が受けられると回答した割合は正社員よりも全体的に低い結果となりました。同様に、企業調査においても、各種両立支援策の適用対象は正社員だけであり、パートも利用できる制度は少ないという結果も出ています(図表省略)。
企業の両立支援策の現状②
企業の「資本金」が大きいほど、また、「従業員数」が多いほど、両立支援策は充実している。その一方で、支援策を必要としている「従業員女性比率」が高い企業や、「従業員平均年齢」が若い企業では、支援策が充実しているという関係はみられない。
図表1の1~20 にあげた各支援策について、実施していれば1点、していなければ0点として、各企業の両立支援度を表す尺度を作成しました。この尺度は、得点が高いほど、その企業における両立支援策が充実していることを表しています。
主な企業属性(「資本金」「従業員数」「従業員女性比率」「従業員平均年齢」)と、この両立支援度の関係をみた結果、「資本金」が大きい企業ほど、また、「従業員数」が多い企業ほど両立支援度が高いことがわかりました。つまり、大企業ほど両立支援策が充実しており、規模が小さい企業では充実していないといえます。これは、大企業ほど経営的なゆとりがあるために各種両立支援策を導入しやすいことから、こうした差が生じるものと思われます。
一方、従業員の両立支援策へのニーズは、それを利用する可能性が高い女性や若い世代が多い企業において高いことが想定されます。しかしながら、「従業員女性比率」が高い企業や「従業員平均年齢」が若い企業において、両立支援策が充実しているという関係はみられませんでした。
以上の結果から、企業における両立支援策は、<従業員の必要性>よりも、<経営的なゆとり>から決まっている傾向が強く、両立支援を推進するためには、規模が小さい企業におけるこれらの支援策の導入が必須であるといえます。また、従業員の年齢構成等からみて必要性が高いと思われる企業において、次世代育成支援策の充実を進めることも課題です。
就労者が求める両立支援策
男性正社員の84%、女性正社員の94%が、「17)年次有給休暇の取得を促進させるための措置」を“必要”としている。女性正社員の50%、女性パートの62%が、「6)法定を上回る子どもの看護休暇制度」を“特に必要”としている。
各両立支援策について、個人が子育てをする上でどの程度必要かを「ぜひ必要」「必要」「それほど必要でない」「必要でない」の4段階で尋ねました。
複数回答で“必要”(「ぜひ必要」+「必要」)と回答した割合(左列)をみると、いずれの支援策についても、図表1の個人調査にある勤め先にある支援策よりも高い結果となりました。この傾向は、男性正社員、女性正社員、女性パート全てにおいて共通しており、これらの支援策が男女、および就労形態にかかわらず必要とされていることがわかります。
“必要”と回答した割合が比較的高い項目は、『子育て支援』を除いた、『育休・勤務時間』『産・育休の情報提供と支援』『働き方の見直し』の3つの分野に多くみられました。また、正社員の回答割合が最も高かった「17)年次有給休暇の取得を促進させるための措置」については、男性正社員の84.7%、女性正社員の94.1%が必要としています。さらには、“必要”と回答した割合が比較的低い『子育て支援』の中でも、「6)法定を上回る子どもの看護休暇制度」については、就労形態にかかわらず8割前後が必要としています。
次に、これらの支援策のうち、“特に必要”だと思うものを5つまで回答した結果が右列のとおりです。
複数回答で“必要”とした結果(左列)とは傾向が異なり、“特に必要”と回答した割合が全体的に高いのは、『育休・勤務時間』に関する支援策で、この分野については、「5)所定労働時間を制限する制度」を除き、男女とも3割前後が“特に必要”としています。複数回答で“必要”と回答した割合が高かった『産・育休の情報提供と支援』に関する支援策は、5つまで回答した場合には上位には入らず、就労者にとっての優先順位は低いことがみてとれます。
また、“特に必要”と回答した割合が最も高いのは、就労形態にかかわらず、「6)法定を上回る子どもの看護休暇制度」と「17)年次有給休暇の取得を促進させるための措置」で、両者ともに休暇の取得にかかわる支援策でした。さらに、「7)事業所内託児施設」については、男性正社員では“特に必要”とする割合は低い一方で、女性正社員、およびパート女性では回答割合が高い結果となりました。
両立支援策における就労者のニーズと企業のギャップ
「子どもの看護休暇制度」「事業所内託児施設」「勤務地、担当業務の限定制度」「短時間勤務や隔日勤務」におけるギャップは大きく、就労者のニーズが満たされていない。
前掲の図表1と図表3をもとに、就労者が求める両立支援策、つまり、就労者のニーズと、企業が実施している両立支援策のギャップを分析しました。
各両立支援策について、就労者(男女就労者全体)が必要と回答した割合から、企業が実際に実施している割合を引いた結果が図表4のとおりです。
その結果、この差が50%以上となり、ギャップが大きいとされる支援策は、「6)法定を上回る子どもの看護休暇制度」(52.5%)、「7)事業所内託児施設」(51.6%)、「11)勤務地、担当業務の限定制度の導入」(52.2%)、「18)多様な働き方を拡大するための短時間勤務や隔日勤務等」(50.1%)の4つでした。つまり、これらの支援策は、必要と考えている就労者が多い反面、企業で実施されている割合が低く、就労者のニーズが未充足となっているといえます。
一方、これらのギャップが小さい支援策は、「1)育児休業法を上回る育児休業制度」(15.6%)、「12)妊娠中や出産後の健康の確保・情報提供・相談」(11.0%)、「13)育休や時間外労働・深夜業制限の周知・情報提供・相談」(-1.8%)、「16)ノー残業デーの導入等、所定外労働の削減措置」(4.7% )、「17) 年次有給休暇の取得を促進させるための措置」(12.7%)などでした。
支援策が充実すれば、仕事と子育ては両立しやすくなるか?
男女ともに、8割以上が「そう思う」と回答している。その中で、最も強く肯定しているのは、「女性正社員」(88%)。
就労者に対して、「企業の両立支援策が充実した場合、仕事と子育ての両立はしやすくなると思うか」を尋ねました。
その結果、「男性正社員」「女性正社員」「女性パート」の就労形態にかかわらず、男女ともに8割以上が「そう思う」と回答し、その割合が最も高かったのは、「女性正社員」(88.4%)でした。
また、男性に比べて女性の方が「そう思う」割合は高く、企業の両立支援策の充実を強く求めている様子がみてとれます。
支援策が充実すれば、子どもを産み、育てたいと思うか?
男女ともに、約3割が「そう思う」と回答している。その中で、最も強く肯定しているのは、「女性正社員」(36%)。
就労者に対して、「企業の両立支援策が充実した場合、現在予定している子ども数以上に、子どもを産み、育てたいと思うか」を尋ねました。
その結果、男女ともに3割前後が「そう思う」と回答し、その割合が最も高かったのは、「女性正社員」(36.6%)でした。
わが国の2004 年の合計特殊出生率は1.29、つまり、1人の女性が生涯に1.29 人しか子どもを産まないという状況であることを考慮すると、企業の両立支援策が充実すれば、約3割の人が今以上に子どもを出産しようとする意識を持っているということは、わが国の出生数に与える影響は決して小さくはないと考えられます。
全ての企業の両立支援策が充実すれば、わが国の出生率は上昇すると思うか?
男女ともに、約6割が「そう思う」と回答している。その中で、最も強く肯定しているのは、「男性正社員」(62%)。
就労者に対して、「全ての企業の両立支援策が充実した場合、わが国の出生率は上昇すると思うか」を尋ねました。
その結果、男女ともに約6割が「そう思う」と回答し、その割合が最も高かったのは、「男性正社員」(62.7%)でした。
これらは、企業の両立支援策が充実したら、という仮定で尋ねたものですが、以上の結果からは、両立支援策を充実させることは、就労者の仕事と子育ての両立を支援するだけでなく、出生数の増加にも寄与することが示唆されています。
≪研究員のコメント≫
少子化対策の一環として、就労者に対する仕事と子育ての両立支援策の推進が企業に求められています。本調査結果からは、「資本金」が大きい企業ほど、また、「従業員数」が多い企業ほど両立支援度が高く、大企業ほど両立支援策が充実していることがわかりました。その一方で、両立支援策を必要とする女性や若い世代が多い企業においては、支援策が充実しているという関係はみられませんでした。これらから、企業における両立支援策は、“従業員の必要性”よりも“経営的なゆとり”から決まる傾向が強いといえます。よって、両立支援を推進するためには、規模が小さい企業や、従業員の年齢構成等からみて必要性が高い企業において、これら支援策の導入を進めることも課題だと思われます。
両立支援策の対象は、一般的に女性正社員が想定される傾向がありますが、調査結果をみると、女性正社員と同様、男性正社員でも両立支援策の充実を求める声は少なくありません。特に、育休・勤務時間関連の支援策の充実を求める割合は、男性正社員と女性正社員で同程度、また、勤務地や担当業務を限定する制度、所定外労働の削減措置、年次有給休暇の取得促進については、女性正社員よりも男性正社員の方が求める割合が高い傾向があります。
さらには、パートに対して適用されている両立支援策は少なく、この背景には、労働コスト抑制の他に、パートは労働時間が短く正社員よりも仕事と子育ての両立が容易であることや、両立支援策は長期にわたって人材育成を推進する性格のものであるため、契約期間が短いパートにはなじみにくいといった理由があると思われます。しかしながら、本調査結果によると、正社員と同様にパートも各種の両立支援策を必要としています。
以上の点をふまえると、男性正社員やパートに対する両立支援策の充実も求められる時代になってきているといえます。
企業が実施している両立支援策と就労者のニーズのギャップが大きいのは、『子育て支援』と『働き方の見直し』の分野で、具体的には、「子どもの看護休暇制度」「事業所内託児施設」「勤務地、担当業務の限定制度」「短時間勤務や隔日勤務等の充実」でした。また、産休や育休等の子育てにおける一時の支援策は、比較的充実しているためにギャップが小さい一方で、産休や育休が終了した後の日々の仕事と子育ての両立支援策ではギャップが大きい傾向があります。つまり、日々の両立を支える支援策の充実が求められているといえます。
少子化の背景には、仕事と子育ての両立が難しいために、結婚や出産が先延ばしされていることがあるといわれています。個人調査の結果では、8割以上の男女が、両立支援策が整備されれば仕事と子育ての両立はしやすくなると回答しています。また、勤め先の両立支援策が充実した場合、現在予定している子ども数以上に子どもを産み・育てたいと思う人が、男女とも約3割にのぼります。この結果は、企業における両立支援策を充実させることが、就労者の出産や子育てに与える効果が決して小さいものではないことを示唆しています。
少子化対策のためにも、企業における仕事と子育ての両立支援策の充実が期待されます。(提供:第一生命経済研究所)
(研究開発室 副主任研究員 松田 茂樹)
㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 広報担当(丹野・新井) TEL.03-5221-4771 FAX.03-3212-4470 【アドレス】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi