<団塊世代の大量退職を前に>

 団塊世代の大量退職が始まろうとしている。いわゆる「2007年問題」はすぐそこまで来ている。年金、医療、介護といった社会保険の制度改革はそれぞれ進行しており、高齢社会への対応が社会全体で進展している。そして、もう一つ重要な雇用の分野で、今年から大きな改革が始まろうとしている。将来的に公的年金の支給開始年齢となる65歳まで雇用を確保しようという政策である。「改正高年齢者雇用安定法」(以下「改正高齢法」という)はこの4月からいよいよ実施に移された。この法律は、①定年年齢の引き上げ、②継続雇用制度の導入、③定年の廃止、のいずれかの措置を採ることを企業に求めている。

<半数のサラリーマンは65歳までは働きたい>

 我が国の高齢者は仕事好きだと言われている。諸外国と比べて60歳以降も働いている人の割合、あるいは働く意欲を持つものの割合は高い。実際に、60歳以前のサラリーマンでも、「何歳まで働きたいか」という調査に対しては65歳以上と回答してくる割合は高い。団塊世代(調査時点で見ると、55~59歳)に着目すると、「65歳」と回答する割合が33.8%と最も高かった(図表1)。次いで「60歳」の27.5%であった。65歳あるいはそれより上の年齢まで働きたいと考えている人は、団塊世代で61.3%と半数を超えている。

運用が開始された改正高年齢者雇用安定法
(画像=第一生命経済研究所)

<導入見込み企業は98%>

 厚生労働省は、雇用確保措置の導入に対して大きな力を注いでいる。それは我が国の12,272社にも達する300人以上の企業の実に91%の11,169社に対して聞き取り調査をしていることからも分かる。この調査が行われた昨年の11月現在の雇用確保措置の導入状況は、図表2に見るように、23.6%の企業がすでに雇用確保措置を導入済みと回答している。また、導入予定の企業も63.1%に達している。さらに、この時点で導入予定がなかったと考えられる企業及び、調査を実施していない企業に対して、本年1月再度調査を行っている。その結果、両時点で調査した12,020社のうち、97.9%が導入予定、あるいは導入済みということになった。

運用が開始された改正高年齢者雇用安定法
(画像=第一生命経済研究所)

<雇用確保は再雇用制度が中心>

 65歳までの雇用を確保する方法は大きく3つに分かれる。まず、定年年齢を引き上げる方法、次いで「勤務延長制度」であり、60歳に達しても退職せずにそのまま継続的に仕事を続ける方法である。もう一つは「再雇用制度」であり、いったん退職させ、再度雇用するのである。前二者の方が継続性があり、雇用条件の変更は少ないと言える。再雇用制度は、退職して、再度雇用されるということから、雇用条件は大きく変わるのが一般的である。

 内閣府では、「高齢社会対策の総合的な推進のための政策研究会」を立ち上げ、高齢者の社会参画に関する政策を研究している。その中で、企業に対して、改正高齢法への対応方法を2005年1月に調査した。全体としては「定年の引き上げ」が9.9%あったが、最も多い回答は再雇用であった(図表3)。特に大企業では84.7%と高率である。定年の引き上げ、勤務延長制度は、企業側からの個々の高年齢者の処遇の自由度はきわめて低い。そういった意味では、裁量権の大きな再雇用制度が好まれていると考えられる。

運用が開始された改正高年齢者雇用安定法
(画像=第一生命経済研究所)

<実際には選別が行われる>

 改正高齢法では、65歳までの定年退職者の全員を雇用させる義務を企業に課してはいない。いくつかの制限はあるが、個々に選定していくこともできる。図表4は、勤務延長制度、再雇用制度でどういう人を対象とするかを調べた結果である。「希望者全員」としている企業は17.5%にしかすぎず、「基準を満たす者」(15.0%)、「会社が特に必要と認める者」(67.1%)と、かなり会社の恣意性、あるいは選別の余地が残されている結果となっている。大企業では「基準を満たす者」の割合が高くなっている。恣意性を排除し、分かりやすいルールで対象者を選んでいこうとする配慮であろう。いずれにしても、継続雇用制度が導入されたからといって、サラリーマンは安心はできない。さらに、具体的な運用となると、果たして65歳まで雇用が確保されるのか、といった点、あるいは自分に合った職場に配属されるのか、給料はどの程度か、などこれから実際に解決していかなければならない課題は山積していると言える。今後の推移に注目していきたい。(提供:第一生命経済研究所

運用が開始された改正高年齢者雇用安定法
(画像=第一生命経済研究所)

研究開発室 鈴木 征男