<ファミリーサポート制度とは>

 1994年、厚生労働省(当時労働省)所管補助事業である「仕事と育児両立支援特別援助事業」として「ファミリーサポート制度」が開始された。これは、仕事と家庭の両立を支援すべく、育児や介護を地域で支えていこうとするシステムである。子どもの送迎や一時的な預かり、介護の援助などについて、援助を頼みたい「依頼会員」と、依頼を請け負う「援助会員」を行政が調整し、支援する。ファミリーサポート制度は、特に2000年以降、導入する市町村が増加している(図表1)。

「助育」としてのファミリーサポート制度
(画像=第一生命経済研究所)

 ファミリーサポート制度は育児と介護の両方を対象としたものだが、現在、育児方面でこの制度を導入している市町村がほとんどである。よって、ここでは育児におけるファミリーサポート制度について考察する。

<ファミリーサポート制度のしくみ>

 ファミリーサポート制度は、原則として人口5万人以上の市町村に設置が認められ、補助金が交付される。ファミリーサポート制度は市町村ごとに細かい点がそれぞれ異なるが、仕組みとしては同じである。まず援助会員が各自治体のファミリーサポート制度に関わる事務局(ファミリーサポートセンター、以下「センター」)に会員登録を行い、センター主催の事前研修を受ける。一方でセンターは、依頼してきた会員を依頼会員として登録し、ニーズに合う援助会員をマッチングする(図表2)。その後、依頼会員は援助会員に対して、いつ何をお願いしたいのかなどのアポイントをとる。利用料金も各自治体によって異なるが、大体平日1時間あたり700円前後で利用できるところが多い。

 依頼できる内容は様々で、育児であれば「保育所の送迎」「保育所の開始前や終了後、学校の放課後や学童保育終了後、学校の夏休みなどの子どもの預かり」「保護者等の病気、急用、冠婚葬祭、買い物等外出の際の子どもの預かり」などである。対象年齢や宿泊の可否、病児や障害児の預かりの可否等はセンターによって異なっている。

 援助会員は40代、50代の女性が多く、「育児の援助をしたいため」「子どもが好きだから」という理由で援助会員になった人が多い(図表3)。依頼会員と援助会員の両方に登録している会員や、依頼会員から援助会員になったという人もいる。

「助育」としてのファミリーサポート制度
(画像=第一生命経済研究所)

 また、センターは援助活動中の事故等のリスクに備えて、援助会員が援助活動中に傷害を被ったときの補償や、援助会員が援助活動中に身体または財物に損害を与えたことにより生じた賠償金等の補償、さらに依頼会員の子ども等が援助活動中に傷害を被った場合の補償等について、保険に加入している。これについて、依頼会員・援助会員ともに保険料等の負担が課されることはない。

<ファミリーサポート制度のメリットとデメリット>

 ファミリーサポート制度のメリットとしては、まず依頼会員において、①市町村ベースということで比較的近隣の地域に密着した「依頼-援助」の関係を築くことができ、ちょっとした依頼をしやすい、②地理的な情報が共有されているので、保育所や幼稚園の送迎や散歩など屋外での活動も依頼しやすい、③安い利用料金で育児支援が受けられ、育児者の負担を軽減することができる、④自宅だけでなく援助会員の家でも援助を受けられる、⑤援助会員は、業務ではなく「援助」という位置づけであり、いわば「有償ボランティア」なので、民間事業者に委託するのとはまた違った信頼関係を構築できるなどの点があげられる。もちろん、援助会員は報酬を受けるが、実際に援助を収入目的で行っている人は少ない(図表3)。

 また、援助会員においても、援助活動はこれまで培ってきた育児の経験やノウハウを生かす機会となり、やりがいが生じることに加え、地域のネットワークが広がるきっかけとなる。さらに行政面からみ れば、地域の人材を活用することで、自治体の支出を抑えながら育児支援ができるという側面がある。地域全体としても、地元のつながりの強化やネットワークの活性化が期待できる。

 その一方で、民間事業者とは異なり、確実にその日のその時間に誰かを充当するということができず、あくまで援助会員と依頼会員の都合が折り合わなければ成立しない等のデメリットもある。また、相互の意識のずれや相性の不適合、トラブル等が発生した場合、センターが仲介に入ったり再調整をすることになるが、もともと近隣の地域密着型の関係であるがゆえに、かえって難しい一面があるのも事実である。民間事業者などの地域外の人間とのドライな関係を前提に、育児を支援してほしいという人には、不向きなシステムともいえるだろう。

<これからの育児環境とファミリーサポート制度>

 こうした制度は育児従事者の物理面での負担を軽減するとともに、精神面でのサポートに大きく貢献すると考えられる。特に、育児負担によるノイローゼや乳幼児虐待が頻繁にニュースになる昨今、ファミリーサポート制度に期待される部分は大きいのではないだろうか。

 現況では、主に共働き世帯の子ども等、「保育に欠ける」子どものみが保育所に入所し、それ以外の子どもは3~4歳で幼稚園に通うようになる。しかし、幼稚園に通うようになるまで子どもを育てるにあたっては、たとえ母親が専業主婦であっても多大な負担がかかる。とはいえ、1杯のコーヒーで息抜きをするために民間のベビーシッターを雇うのは、敷居が高いのが実情だ。施設に預けるほどではなく、シッターに依頼するまでもなく、ファミリーサポート制度はちょっと子育てを介助する、いわば「助育」という形で気軽に依頼できる。一昔前、同居する祖父母が担っていたような役割といってもよいかもしれない。こうしたネットワークが、以前はそうであったような「地域で子育て」という動きへの布石となるかもしれない。治安の悪化を懸念する声が高い中、地域による「見守り」への期待が高まっているが、ファミリーサポート制度は、こうした「地域力」を高めていく1つのヒントにもなるだろう。

 育児のスタイルは多様である。子どもの個性や親の主義、タイプ、ライフスタイル等によっても異なる。これに対し、包括的な対策はなくても、選択肢が増えることで育児環境は大きく前進する。通常国会にも、「幼保一元化」として「認定こども園(仮称)」を設立する、「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法案」が提出された。これは、現在定員割れが進む幼稚園と、待機 児童の多い保育所との調整を図り両者の特性を生かしつつ一元化するもので、親の就労の有無に拘らず誰でも保育施設を利用できるようになるとして期待が高まっている。

 育児サービスには、民間型/行政型、施設型/非施設型、国家主導型/地域主導型と、それぞれに特性がある。必要なのは、複数のサービスの特性を見極め、自らのライフスタイルに合うように、それらを複合的に組み合わせて使い分ける目である。様々なタイプの育児サポートを確保することで、育児の負担を物理的にも精神的にも軽減していく道が開けるように思える。今後、より多くの市町村がファミリーサポート制度等を導入し、地域で子育てを支えるシステムとしての「選択肢」を増やすことが期待される。(提供:第一生命経済研究所

研究開発室 宮木 由貴子