『ライフデザイン白書2006-07』(2005 年12 月刊行)より
第一生命保険相互会社(社長 斎藤 勝利)のシンクタンク、株式会社 第一生命経済研究所(社長 石嶺 幸男)では、全国の18~69 歳の男女3,000 名を対象に、「今後の生活に関するアンケート」(隔年実施、今回で6回目)を実施し、その結果を『ライフデザイン白書2006-07』(監修 加藤寛)としてまとめ、12 月1日に刊行いたしました。
今回、この『ライフデザイン白書2006-07』の概要をまとめましたのでご報告いたします。
≪目次≫
Ⅰ.調査概要と構成 Ⅱ.主なトピックス Ⅲ.特集「シングル・ライフ」 Ⅳ.家族 Ⅴ.安全・安心・コミュニティ Ⅵ.消費生活 Ⅶ.就労意識・実態 Ⅷ.体と心の健康 Ⅸ.生活リスク・マネジメントとライフスタイル ●参考『ライフデザイン白書2006-07』CONTENTS
【調査概要と構成】
『ライフデザイン白書2006-07』のもとになる調査、「今後の生活に関するアンケート」は、当研究所が実施してきた生活定点調査で、人々の生活実態と意識を時系列で把握できるように設計されたものです。調査はこれまでに、1995 年、97 年、99 年、2001 年、03 年に実施しており、今回の第6回目は調査開始からちょうど10 年の節目となります。
調査方法は過去の調査と同様で、その概要は下記の通りです。
この調査結果をまとめた『ライフデザイン白書2006-07』は、「特集『シングル・ライフ』」「白書編」「データ編」「資料編」の4部構成となっています。このうち、調査結果の分析として、「特集」および「白書編」が本白書の核となっています。
「特集『シングル・ライフ』」では、未婚化・晩婚化が進み、増加するシングルの男女の生活像を多面的に明らかにするために、彼らの結婚意向、家族関係、消費行動、余暇行動、情報行動を分析しています。
「白書編」では、人々が生活し、人生設計を行っていくための基本的な分野である、①家族②安全・安心・コミュニティ ③消費生活 ④就労意識・実態 ⑤体と心の健康 ⑥生活リスク・マネジメントとライフスタイル の6つの領域について、過去6回の調査結果をもとに各領域を時系列で分析しています。
以下では、「特集『シングル・ライフ』」と6つの領域のそれぞれについて、特徴のある調査結果を取り上げながら、『ライフデザイン白書2006-07』の概要版としてまとめています。
【主なトピックス】
1.特集「シングル・ライフ ~未婚・晩婚化が進む若者たちのライフスタイル~」○シングルの約4分の1は、収入がありながらも親から金銭的援助を受けている。 ○独身でいることで感じるデメリットは、男女ともに「老後が不安である」が最も多い。 ○シングルの約4分の3は「結婚したい」と考えている。 ○女性は30 歳を過ぎると、結婚意向が弱まる。 ○生活全般の満足度については、男性シングルの満足度が最も低い。
2.家族 ~子育てしにくい社会~ ○8割以上の人が“今の社会は子育てしやすい社会ではない”と感じている。 ○父母の4割以上が、“子どもの最終学校終了後も生活費の面倒をみる”と考えている。 ○「事実婚」「夫婦別姓」などの多様な家族形態に対する男性の許容意識は年々低下している。
3.安全・安心・コミュニティ ~安全・安心のためのギブ・アンド・テイク~ ○約8割の人が「地震」(78%)に対する不安を感じている。 ○「子どもをねらう犯罪」(46%)や「詐欺、悪質商法」(44%)も4割以上と多い。 ○安全・安心のために最も必要だと思うことは、「日頃からの近所づきあい」(64%)。
4.消費生活 ~情報化の中で~ ○2003 年調査まで減り続けていた「経済的ゆとり感」は下げ止まり、わずかながら上昇に転じた。 ○低価格志向は終わりつつあり、商品を購入する際の決断のスピードも速くなってきた。 ○インターネットショッピングを利用している人は、「個人情報保護」に不安を感じている。
5.就労意識・実態 ~進む男性の長時間労働、増える女性のパート労働~ ○男性で職業生活の満足感が最も高いのは50 代(63%)で、低いのは30 代と40 代。 ○仕事に対する不満点で最も多いのは、男性は“忙しさ”(33%)、女性は“給料”(25%)。 ○企業に義務化されている「育児休業制度」と「介護休業制度」は、約3割が“制度がない”と回答している。
6.体と心の健康 ~30 代、40 代が危ない~ ○8割以上の人が肉体的疲れを感じており、特に感じることが「よくある」のは、30 代と40 代の女性(約4分の1)。 ○5分の1の人は、“生きがいがない”と感じることがあり、男性では“若年層”と“中年層”に多い。 ○人間関係や家庭内・職場での負担感で悩みを多く抱えているのは、男女ともに30 代と40 代。
7.生活リスク・マネジメントとライフスタイル ~価値観の変化が変えるライフスタイル~ ○生活リスクに対して最も高い不安は、男女ともに「自分や配偶者の病気やけが」。 ○生活価値観は、「競争志向」「経済的豊かさ志向」「将来社会への信頼度」が減少し、「非競争志向」「心の豊かさ重視志向」の時代に。
【特集「シングル・ライフ」】~未婚・晩婚化が進む若者たちのライフスタイル~
シングルの約4分の1は、収入がありながらも親から金銭的援助を受けている。独身でいることで感じるデメリットは、男女ともに「老後が不安である」が最も多い。シングルの約4分の3は「結婚したい」と考えているが、女性は30 歳を過ぎると結婚意向が弱まる。生活全般の満足度については、男性シングルの満足度が最も低い。
本白書では、毎回社会的に注目されているテーマで特集を組んでいます。近年増加している独身者が“どのような生活を送っているのか”“どのようなライフデザインを描いているのか”を明らかにすることは、これからの社会を考える上でとても重要と考え、今回の特集に「シングル・ライフ」を取り上げました。ここでは、学生を除く18~39 歳の独身者を「シングル」とし、既婚者と比較する形で分析しています。
親との関わり方では、親と同居しているシングルは、男性76.7%、女性82.8%と4分の3以上を占めています。しかし、親からの金銭的な援助を受けている割合は男女ともに27%程度であり、これは既婚者とあまり変わりません。ただし、援助を受けている内容をみると、シングルは「家電製品・自動車などの購入費」、既婚者は「子どもの教育費」の割合が高く、ライフスタイルの違いが背景にあると考えられます。
結婚に対する意識では、「なるべく早く結婚したい」「いずれは結婚したい」をあわせると、男性72.4%、女性74.6%と、大半が結婚を志向していることに間違いはありません。しかし、結婚志向度は、女性の場合は年齢が大きな要素となっており、年齢が高くなると結婚志向度が弱まるという関係が見出されました。
独身でいることのメリット・デメリットの感じ方と結婚志向度の関連では、男性は「異性と自由に交際できる」「配偶者や子どもに対して責任を持たないですむ」といったメリットを感じると結婚志向度は弱まり、男女ともに「精神的な安らぎを得られない」「子どもをつくれない」といったデメリットを感じると結婚志向度は強まります。さらに、女性の場合には、「親や親せきがうるさい」ことも結婚志向度を強めます。
生活のゆとり度では、精神的ゆとり度・時間的ゆとり度・経済的ゆとり度全てにおいて、男女ともに既婚者よりシングルの方がゆとり度は高く、このあたりに独身でいることに満足しているシングルのライフスタイルがみられます。しかし、最終的な生活全般の満足度では、男性シングルは既婚者より低く、女性は差がありませんでした。
その背景として、家庭生活満足度では、シングルよりも既婚者の方が男女ともに上回っていることが考えられます。確かに、シングルは様々な分野で自由度が高いですが、このことが結婚を遅らせる要因とはなってはおらず、むしろ、既婚者が感じている家庭生活の喜びや満足感がシングルには十分理解されていないことの方が重要なのかもしれません。育児・子育ては確かに大きな負担となっていますが、こうした障害を社会が取り除きながら家庭生活の喜びを理解させることが、結婚を促進することになり、ひいては少子化対策につながると考えられます。
(1)親から金銭的援助を受けているか?(図表1) 独身者が親から金銭的援助をどの程度受けているかをみるために、過去1年間で金銭的な援助を受けたことがあるかどうか、をたずねました。 その結果、シングルと既婚者、男女ともに同割合で、約7割が援助を受けておらず、その反対に、3割弱が援助を受けていたことがわかりました。このことは、シングルも既婚者も、自分たちの収入がありながら親から援助を受けている割合が、4分の1以上存在していることを示しています。
(2)独身でいることのデメリット(図表2) 独身者が独身でいることにどのようなデメリットを感じているかをみると、ここでは、女性シングルで「特にない」が18.0%と他を大きく引き離している点が特徴的でした。つまり、これは、独身女性は独身であることのデメリットを感じていない人が多いことを示しています。 男女を比較すると、男性は「社会的信用を得られない」「家事の負担が大きい」「生活が不規則になる」にデメリットを感じる割合が高いのに対し、「経済的な安定を得られない」「老後が不安である」では女性の方が不安感は高いようです。また、「親や親せきがうるさい」に関しては、女性の4分の1があげており、他のグループと比較すると最も割合が高くなっています。
(3)独身者の今後の結婚意向(図表3・図表4) 独身者の結婚意向を探るために、今後の結婚についてどのように考えているのか、をたずねました。 その結果、男性シングルでは、「なるべく早く結婚したい」は16.4%、「いずれは結婚したい」は56.0%となっており、両者をあわせた結婚意向率は72.4%でした。また、女性シングルでは、「なるべく早く結婚したい」14.8%、「いずれは結婚したい」59.8%、合計74.6%とほぼ4分の3が結婚の意思を表しています。一方、「結婚するつもりはない」という明確な拒否反応を示す割合は4.1%にすぎません。また、女性学生の場合は、シングルよりさらに結婚願望は強く、83.1%が結婚したいと考えています。 また、女性の今後の結婚意向を詳細にみるために、年齢を30 歳で区切ると、29 歳以下に比べ30 歳以上の女性の方が「結婚するかどうかわからない」「結婚するつもりはない」の割合が高いことがわかります。
(4)生活全般の満足度(図表5) 生活全般の満足度についてみると、男性シングルの満足度が低い点が指摘できます。また、女性については、シングルでも学生や既婚者とほとんど同一のパターンとなっており、特に目立った違いはみられませんでした。
【家族】 ~子育てしにくい社会~
8割以上が“今の社会は子育てしやすい社会ではない”と感じている。父母の4割以上が、“子どもの最終学校終了後も生活費の面倒をみる”と考えている。「事実婚」「夫婦別姓」などの多様な家族形態に対する男性の許容意識は年々低下している。
過去10 年間において、男性の雇用は不安定になり、失業率も高まる一方、女性の社会進出が進むなど、家族をとりまく環境は大きく変化しました。しかしながら、調査結果からは、社会環境が変わった割には家族関係は変わっていないことが示されました。
男性の雇用不安と女性の社会進出という動きが重なれば、夫は仕事をし、妻は家事・育児に専念する伝統的な家族関係を維持することは難しくなります。ところが、依然として、男女の役割関係に大きな変化はみられません。妻が夫を経済的に頼りにする割合は相変わらず高く、夫が妻を経済的に頼りにする割合は低い。また、夫の家事分担割合も増えてはいません。つまり、“夫が仕事をし、妻が家庭を支える”という伝統的な家族関係は、依然として維持されているといえます。
家族に関する規範意識についてみると、「夫は仕事、妻は家庭」という意識や「夫は家庭よりも仕事優先」の意識が高まる傾向がみられ、これらの意識は、特に若年女性において高まっています。「事実婚」「夫婦別姓」「婚外子」「子どもを持たない」などの様々な家族形態を許容する意識も男性では低下しており、家族をめぐる意識からも、「家族の変容」という方向をみることはできませんでした。
子育てに目を転じると、現代社会における子育てのしにくさが浮かび上がりました。子育てのしにくさは、“育児や教育にかかる経済的負担”“治安の悪化で安全な子育てができないこと”“仕事と子育ての両立の困難さ”などから生じています。また、子育てをしにくいという思いは、既に子育てを経験している広範な世代に広がっており、さらに深刻なことは、今後結婚・出産を控えた独身期と新婚期の男女においても、子育てにネガティブなイメージを持つ人が多いことです。
彼らは実際に子育てをした経験はありませんが、子育てでその辛さや困難を経験した上の世代をみることで、子育てに希望を持てなくなっていると思われます。子育てしにくいというイメージは、未婚化・晩婚化、少子化を助長している可能性があり、このままでは、若い世代の結婚・出産意欲はなえ、少子化を改善することは望めません。従って、子育てをしやすい環境づくりが求められているといえるでしょう。
(1)今の社会は「子育てしやすい社会」だと思うか?(図表1) 今の日本社会は、「子育てしやすい社会」だと思うか、をたずねました。 男女ともに、そう思う(「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計)と答えた割合は約15%で、そうは思わない(「そうは思わない」「どちらかといえばそうは思わない」の合計)と答えた割合は80%以上でした。つまり、8割以上の人が今の社会は子育てしやすい社会ではないと感じていることになります。
(2)子育てしにくい理由(図表2) 続いて、今の社会は子育てしやすい社会だと思わないと答えた人に、その理由をたずねました。最も多い理由は「育児や教育にかかる経済的負担が大きい」(男性68.7%、女性74.4%)で、次いで「治安の悪化で安全に子育てできない」「仕事と子育ての両立が難しい」「受験・進学競争がはげしすぎる」でした。また、「治安の悪化で安全に子育てできない」「仕事と子育ての両立が難しい」という理由については、男性よりも女性の方がかなり多い結果となりました。
(3)子どもが何歳になるまで親は経済的に面倒をみる必要があるか?(図表3) 子どもを持つ親に対し、子どもが何歳になるまで生活費の面倒をみる必要があると思うか、をたずねたところ、「義務教育終了まで」と答えた親は父母ともにほとんどおらず、最も多いのは「義務教育終了後、大学・短大・専門学校等を卒業するまで」(父親48.9%、母親54.2%)と、約半数の親は最終学校を終了するまでを1つの目安と考えているようです。 しかし、最終学校終了後も親が生活費の面倒をみることになると考えている親も少なくありません。「学校卒業後、正社員・正規職員など安定した職業につくまで」と答えた割合は、父親28.9%、母親22.4%、「子どもが安定した職業について、経済的にゆとりができるまで」と答えた割合は、父親11.5%、母親8.7%にのぼり、これらに「子どもが別居(離家)するまで」と「子どもが結婚するまで」もあわせると、父母ともに4割以上が子どもの最終学校終了後も親が生活費の面倒をみることになると考えているといえます。 子どもが最終学校を終了した後まで生活費の面倒をみる必要があるということは、親が“子育て”をしなければならない期間が現代ではきわめて長いということを示しています。
(4)多様な家族形態を許容する意識(図表4) 多様な家族形態を許容する意識について、過去の意識の変化をみると、この傾向は男女で異なり、男性の場合は「事実婚」「夫婦別姓」「結婚しても子どもを持たないこと」「離婚」のいずれについても、許容する意識が低下している傾向がみられます。また、最も変化が大きいのは離婚についての許容意識であり、99 年調査の85.8%から05 年調査の78.8%へと7ポイントも低下しました。女性の場合は、99 年調査から03 年調査までは、全ての家族形態について許容意識が高まる傾向でしたが、03 年調査と05 年調査を比較すると、許容意識の高まりは一段落しており、離婚と婚外子については、許容する意識は03 年調査と05年調査で同程度ですが、それ以外の項目については、いずれも許容意識が下がっています。 以上に示した男女の意識変化からは、全体的に“標準的な”家族形態を良しとする意識が高まりつつあり、特に男性では、多様な家族形態に対する許容意識が年々低下していることがみてとれます。
【安全・安心・コミュニティ】~安全・安心のためのギブ・アンド・テイク~
約8割が「地震」(78%)に対する不安を感じており、それに次いで、「子どもをねらう犯罪」(46%)や「詐欺、悪質商法」(44%)も4割以上と多い。安全・安心のために最も必要だと思うことは、「日頃からの近所づきあい」(64%)
犯罪や火災、天災に対する不安は高く、中でも地震については約8割の人が不安を抱いています。また、犯罪や火災に対して、不安を抱く人も4割以上を占めています。しかしながら、このように不安が高い状況の中、家庭での対策は十分に行われていません。地震を中心として、天災への不安を抱きながらも、「まさか」「きっと大丈夫」という甘えが、人々の不安と対策の実態のギャップにみてとれます。
火災や犯罪について家庭での対策が十分と評価している人と不十分と評価している人でその違いをみてみると、十分と評価している人では、戸締りや火の用心といった基本的な対策を行う以外に、留守中の見回りを頼んだり、隣近所と連絡をとるなど、家庭では対処しきれない部分を隣近所などの人とのつながりで補っている傾向がみられました。このことは、家庭の対策だけで安心を得られるわけではなく、地域コミュニティによるサポートをプラスすることで、さらなる安心が得られることを意味しています。
防犯・防災として必要とされる対策の第1 位は“日頃からの近所づきあい”であり、これが“警察によるパトロール”よりも必要と考える人が多いことがわかりました。しかし、過去1 年間の地域コミュニティによる防犯・防災対策に参加した人は全体の2割に過ぎず、防犯・防災対策として近所づきあいが重要と思いながらも、現実として家庭での対策や地域コミュニティによる対策への参加は進んでいません。
さらに、地域コミュニティの防犯・防災対策が十分だと感じている人は、対策活動に参加している人に多く、“自らが誰かの役に立つことによって安全・安心が得られている”ことが示されています。つまり、地域コミュニティとかかわることは、結果的に自分の生活の安全・安心につながっており、ギブ・アンド・テイクの関係にあるといえます。地域コミュニティの限られた人、時間、資源の中で何ができるのか、家庭でできること、隣近所にしてあげられること、周囲の人と協力できること、を探し出すことが、安全で安心な地域コミュニティを形成する第一歩といえるでしょう。
(1)日頃から不安に思っていること(図表1・図表2) 犯罪・火災・天災などで、日頃から不安に思っていることは何かをたずねました。最も多いのは「地震」(78.6%)で、約8割の人が不安を感じていました。次いで「子どもをねらう犯罪」(46.1%)や「詐欺、悪質商法」(44.7%)も4割以上と多い結果となりました。 地域別にみると、「地震」への不安度が高かったのは、東海大地震に対して危機感が高い静岡県を含む中部(89.4%)で、次いで、人口が集中し、地震が起きた場合の被害が大きく、避難が困難であることが予測される大阪(87.8%)と東京(84.4%)などでした。「水害(台風を含む)」と「過失などによる火災」は、北陸(それぞれ50.5%、45.4%)と南九州(同47.6%、42.9%)で、また、「水害」に関しては近畿(47.9%)でも高い結果となりました。「放火による火災」は、東京(45.5%)や大阪(35.4%)、「暴行、傷害などの凶悪犯罪」に関しても東京(44.9%)や大阪(44.2%)で不安度が高く、犯罪に対する不安は大都市で高い状況です。一方、「子どもをねらう犯罪」は、南九州(53.3%)や大阪(53.1%)、北海道(51.4%)で過半数となりました。「詐欺、悪徳商法」は、東北(54.6%)や北海道(53.3%)、関東(52.8%)、中国(51.6%)、北陸(50.5%)など、広範囲において過半数となっており、近年孫や子どもを装った電話や架空請求などによる詐欺が全国的に横行し被害があったためか、不安を持つ人は多いようです。
(2)安全・安心のために必要だと思うこと(図表3) 地域の安全・安心の実現のためには、人々は何が必要と考えているのでしょうか。必要と思うことで最も多かったのは、「日頃からの近所づきあい」(64.8%)で、次いで、「警察のパトロールの強化」(54.3%)、「街路灯の設置や公園の見通しなどの整備」(49.0%)などといった警備対策や地域の整備が続きます。 「一人暮らし高齢者宅などの訪問や見守り活動」は、実施しているかどうかさえわからないという回答が多かった項目ですが、43.0%が必要と考えています。他にも、「火災警報器、消火器など防災機器の設置」(38.0%)、「地域の盗難の発生状況や被害防止の方法の連絡や広報」(34.9%)、「防犯警報器など防犯機器の設置」(32.3%)など、家庭での設備による対策や広報の充実があげられています。また、「防犯・防災意識を高めるための啓発活動」(27.6%)や「住民による見回り活動(パトロール)」(26.5%)、「防犯運動や防災訓練」(23.2%)など、住民主体の活動や参加を必要と感じている人は3割未満となっています。
【消費生活】 ~情報化の中で~
2003 年調査まで減り続けていた経済的ゆとり感は下げ止まり、わずかながら上昇に転じた。低価格志向は終わりつつあり、商品を購入する際の決断のスピードもやや速くなっている。インターネットショッピングを利用している人は、「個人情報保護」に強く不安を感じている。
景気の低迷が叫ばれて久しく、本調査における消費者の意識も長い間停滞傾向を示していました。しかし、2年前の調査と比べると、経済的ゆとり感はわずかながら上昇し、それまでの下降傾向に初めて歯止めがかかりました。また、経済的ゆとりができたら支出を増やしたいという意向もやや高まり、気持ちの上では若干の余裕が生まれ始めているのかもしれません。ただし、支出を減らそうと思っている人の割合も増えており、財布のひもが実際に緩むにはまだ時間がかかりそうな気配もあります。
消費に対する意識の年代差も顕著であり、30~40代を中心とする層は経済的ゆとり感に乏しく、たとえゆとりができても貯蓄などの財産づくりに回そうとする意向が強いことがわかりました。この世代は、子育てや長時間労働などの負担が重く、精神的・肉体的なつらさを感じていることが他の章では指摘されていますが、同様に経済的にも苦しい状況にあることが浮き彫りになりました。
情報化の普及度合を知る指標の1つとして取り上げた携帯電話、およびパソコンの活用率は、それぞれ5割、4割に達していましたが、年代間で大きな差がみられました。また、これらの利用を難しいと感じている人は高年齢層で特に多く、その背景には、機器を使いこなすことができるかという能力(リテラシー)の差、あるいは職場や家庭などで教えてくれる人がいるか、という学習環境・機会の差などがあることが示唆されています。そうした学習資源をあまり持たない人々を情報化の流れから取り残さないようにすることは、今後ますます重要になると思われます。
さらに、インターネットショッピングという新しい商品購入形態の利用状況にも注目しましたが、過去1年間にインターネットショッピングを利用した人の割合は2割弱であり、まだ多くはありませんでした。ただし、若い世代やパソコンの利用頻度の高い人などには比較的よく利用されており、インターネットの普及とともにインターネットショッピングの利用者層が今後広がる可能性もうかがえます。消費者の評価としては、時間節約などのメリットとともに、商品や売り手の顔を直接みることができない不安や個人情報保護に対する不安というデメリットもあげられました。インターネットを通じた商取引に絡む犯罪や個人情報漏洩などが他人事でなくなった現代においては、消費者の不安解消は必須の課題といえるでしょう。
(1)経済的ゆとりがあるか?(図表1) 好きなことをしたり欲しいものを買ったりする経済的ゆとりがあるかどうか、という質問は、1995年の調査開始時から毎回設けています。経済的ゆとりがある(「かなりゆとりがある」「ある程度ゆとりがある」の合計)人の割合の経年変化をみると、前回調査の2003年までは一貫して減り続けていました。しかし、今回の調査においてはその割合が46.4%となり、わずかではありますが上昇に転じました。このことから、経済的ゆとり感は下げ止まったといえます。
(2)モノの購入に関する考え方(図表2) 99年調査以降、モノの購入に関する考え方を複数回答でたずねています。 最も顕著な変化が現れた項目は、「とにかく価格の安いモノを選ぶようにしている」でした。この割合は、03年調査までは増え続けていたのに対し、05年調査では激減しています。その一方、「ある程度高くても良質のモノを購入するようにしている」割合は、01年調査から03年調査にかけては大きく減りましたが、今回の調査では03年調査から微増しました。“何でも安いものが良い”といった低価格志向は、終わりつつあるのかもしれません。 また、05年調査で「よく考えてからモノを買うようにしている」割合は、99年調査、01年調査ほど低くはないものの、03年調査に比べると減っており、商品を購入する際の決断のスピードもやや速くなっていることがうかがえます。なお、「買い物をするのが好きだ・楽しい」や「好きなブランドにこだわる」といった買い物好きの傾向を示す項目の割合は、いずれも01年調査時から低下し続けています。
(3)インターネットショッピングのメリットとデメリット(図表3) インターネットショッピングをこの1年間に利用した人と利用しなかった人について、それに対する評価がそれぞれどのように異なるか、を比較しました。 メリットに関する4項目のうち、「商品を安く手に入れられる」割合は、利用しなかった人では22.9%なのに対し、利用した人では64.3%と40ポイント以上の差があります。また、他の3項目「買い物の時間を節約できる」「品揃えが良い」「商品を選ぶのが楽しい」を肯定した割合も、利用しなかった人より利用した人の方が40ポイント弱も高く、利用した人はその利点を強く感じていることがわかります。 一方、デメリットについては、「買い方が難しい」「売り手の顔が見えないので不安である」割合は、利用した人に比べて利用しなかった人の方が、それぞれ24.9 ポイント、15.2 ポイント高いですが、「商品を実際に見て買えないので不安である」割合には、利用状況による差がほとんどありません。また、「個人情報が保護されるか不安である」に関しては、利用した人の割合の方が高く、利用したことのある人は、そのメリットは十分認めているものの同時にデメリットも感じているといえます。
【就労意識・実態】~進む男性の長時間労働、増える女性のパート労働~
男性では、職業生活の満足感が最も高いのは50 代(63%)で、低いのは30 代と40 代。仕事に対する不満点で最も多いのは、男性は“忙しさ”(33%)、女性は“給料”(25%)。企業に義務化されている「育児休業制度」と「介護休業制度」は、約3割が“制度がない”。
この10 年間において、男性は30 代と40 代で長時間労働化が進んでおり、女性は30 代で就労率が伸びているという実態が浮き彫りになりました。男性は仕事が忙しくて家庭をかえりみる余裕がなく、女性は結婚・出産を先延ばしして、就労を続けています。このような子育て世代の男女の就労をめぐる状況が、結果として、わが国の出生率低下をもたらすこととなった1つの要因と考えられます。
また、95 年調査以来、女性の就労率そのものの変化は大きくありませんが、女性の就労形態に占めるパート・アルバイトの割合が増加しており、着実に女性のパート労働化が進んでいるということもいえます。しかしながら、パート労働化は進んでいても、就労意識としては女性も「生計を維持するため」に働くという人が増えており、まさに、厳しい経済情勢の下、夫婦で働くことによって家計を維持しようとしている様子がみてとれます。
他方、職業生活に対する満足度をみると、95 年調査以降一貫して、男性よりも女性の方が「満足している」という回答割合が低く、これには、女性が多くを占めるパート・アルバイト等の非正社員の満足度が、正社員に比べて低いこともその背景にあると思われます。
労働者のライフステージにおけるニーズにあわせ、家庭との両立が可能となる働き方を実現するためには、まず、勤務先における理解が必要です。実際に、両立支援制度の実施割合や利用しやすさの状況をみると、勤務先の規模や職種によって大きく異なります。従って、雇用主側も含め、職場を構成する生活者がそれぞれの立場で働き方を見直し、家庭との両立が可能となるような職場環境を構築していくことが必要です。そのことによって、男女ともに、どのようなライフステージにあっても、就労においても家庭においても満足ができる生活を実現できれば、多くの人々の潜在能力を発揮し、生産性を高めることに寄与し、これからの人口減少社会を乗り切る道がひらかれると思われます。
(1)職業生活に対する満足感(図表1) 職業生活に対する満足感をみると、男性においては、50 代(63.6%)が最も「満足合計」(「満足している」「まあ満足している」の合計)の割合が高く、30 代(45.2%)と40 代(43.5%)が低い結果となっています。本調査結果の中には、30 代と40 代の男性が最も長く働いていることを示すデータもありますが、このことも職業生活の満足度に影響を及ぼしている可能性があります。また、29 歳以下は、「満足合計」が56.5%を占めているものの、「不満合計」(「不満である」「どちらかといえば不満である」の合計)も25.8%となっており、全年代の中で最も「不満合計」の割合が高い状況です。 女性においては、「満足合計」が最も低いのは29 歳以下(41.0%)で、40 代(48.0%)がこれに続きます。また、29 歳以下は、男性同様「不満合計」(19.0%)も最も高くなっていました。
(2)仕事に対する不満点(図表2) 仕事に対する不満点をみると、男女とも、01 年調査以降、「仕事が忙しすぎる」(以下、「忙しさ」)と「仕事に見合った給料が得られない」(以下、「給料」)への回答割合が高く、05 年調査でも、男性の1位は「忙しさ」(33.0%)であり、女性の1 位は僅差で「給料」(25.6%)となっています。 全体的に、過去の調査よりも回答割合が低くなっている項目が多い中で、男性の「忙しさ」の回答割合のみ、前回よりも若干高くなっています。効率的な経営が叫ばれ、人員削減が推進された結果、男性正社員に仕事の負荷が高まってきているといわれていますが、これは、そのことを示す結果となっています。 また、「特にない」への回答割合は、男女ともに01 年調査以降増加傾向にありますが、とりわけ女性の場合に大きく増えており、05 年調査では4割以上(43.7%)が回答しています。厳しい雇用情勢の中で、仕事に就いていること自体に満足すべきという意識の表れなのかもしれません。
(3)両立支援制度に対する意識(図表3) 勤務先において仕事と家庭の両立をしやすくするための制度である代表的な8つの制度について、それらの制度が実際に利用しやすいかどうか、についてたずねました。 「利用しやすい」への回答割合が相対的に高かった制度は、「子どもや家族が病気になった時の休暇制度」「半日単位又は時間単位の休暇制度」「育児休業制度」で、3割前後の回答割合を占めています。他方、「勤務先にはそのような制度がない」との回答が多かった制度は、「在宅勤務制度」「フレックスタイム制度」「短時間勤務制度」でした。育児・介護休業法により、「育児休業制度」と「介護休業制度」は全ての企業に義務化されているにもかかわらず、約3割が「勤務先にはそのような制度がない」と回答していることは、制度が十分に認知されていない状況にあると思われます。
【体と心の健康】 ~30 代、40 代が危ない~
8割以上が肉体的疲れを感じており、特に「よくある」のは、30 代と40 代の女性(約4分の1)。全体の5分の1は、生きがいがないと感じることがあり、男性では若年層と中年層に多い。人間関係や家庭内・職場での負担感で悩みが多いのは、男女ともに30 代と40 代。
世界保健機構(WHO)は、健康について、「単に病気あるいは病弱でないということだけでなく、肉体的・精神的・社会的に良好な状態である」と定義しています。つまり、病気でなくてもストレスを抱え、心身ともに疲労し、あるいは生きがいがないという状態は、健康であるとはいえないことになります。
今回の調査から、家庭や職場での人間関係や負担の大きさで悩んでいる人は30 代、40 代に多いことがわかりました。この世代は肉体的にも疲労しているうえ、精神的なゆとりもなく、WHO が定義するところの健康な状態にある人が、他の年代に比べると少ないことがわかります。特に、女性は、共働きやパートなどの仕事を持っていても、家庭内での負担が大きすぎることに悩んでいる人が多く、夫の家事分担が進んでいないことがうかがえます。
このように、特定層に過度なストレスや負担がかかっているという事実は、家庭や社会の中で、真の意味での共生ができていないことを示唆しているのではないでしょうか。また、全体の2割もの人が「生きがいがない」と感じることがあるという実態も問題だと思われます。身体的に良好であるということはもちろんですが、みんなが生きがいを持てる健全な社会を実現することも、生活者の健康を推進するうえで重要な課題です。
(1)肉体的な疲れを感じることはあるか?(図表1) 日頃、肉体的に疲れを感じることがあるかどうか、をたずねた結果、全体では、「よくある」人が19.1%と約5分の1を占めました。これに「時々ある」(64.6%)人をあわせると、83.7%とほとんどの人が多かれ少なかれ肉体的疲れを感じていることがわかりました。 性・年代別にみると、男性の30 代と40 代、女性の30 代から50 代で「よくある」人が多く、中でも30代と40 代の女性では約4分の1が肉体的な疲れを感じています。その一方、肉体的疲れを感じることが「あまりない」、または「ほとんどない」と回答した人が多いのは、男女ともに60 代でした。 性・共働き状況別にみると、男性については妻パート家庭で「よくある」(20.8%)人が多く、女性については共働きやパートなど仕事を持つ人の方が、専業主婦より「よくある」と回答した人が多い結果となりました。
(2)生きがいがないと感じることはあるか?(図表2) 日頃、生きがいがないと感じることがあるかどうか、をたずねた結果、全体では、「よくある」(2.9%)、「時々ある」(18.8%)をあわせると21.7%で、5分の1の人は感じていることがわかりました。 年代別にみると、男性は若年や中年層で生きがいを感じない人が多く、29 歳以下では20.5%(2.6%+17.9%)、40 代では21.7%(2.1%+19.6%)と2割を超えていますが、50 代以降になると減少します。女性の場合は、どの世代も20%以上おり、年代による特徴はあまりみられませんでした。 性・ライフステージ別にみると、男性では独身期(23.1%)、家族成長中期(21.8%)、子どものいない中高年(26.9%)で2割を超えています。女性の場合は、家族成長中期(27.4%)が最も多いものの、家族成長前期(24.9%)や家族成長後期(24.3%)でも生きがいがないと感じる人が多く、家族形成期(18.7%)では比較的少ないことから、子育てに手がかからなくなるにつれ生きがいを感じない女性が多くなるのではないかと推察されます。
(3)人間関係や家庭・職場の負担度合いに悩みが多い人(図表3) 日常生活における人間関係や負担感などで悩みが多い属性を、年代別・ライフステージ別・共働き状況別にまとめました。 年代別にみると、男性では30 代と40 代で家族や職場の人間関係に悩むことがある人が多く、同じく職場での負担を感じる人も多いことがみてとれます。また、女性では、40 代で子どもとの関係や親との関係に悩む人、家庭内での負担が大きいと感じる人が多いことがわかりました。 ライフステージ別にみると、夫婦関係や子どもとの関係に悩むことが多いステージは、子どもがまだ小さい家族形成期や家族成長前期となっており、同時にこの層の女性は家庭内での負担も強く感じていることがわかりました。 共働き状況別にみると、夫婦関係や子どもとの関係に悩む女性は、パートや専業主婦に比べて共働きでは少ないですが、家庭内での負担を感じている人は共働きやパートなどの仕事を持つ人に多いことがわかりました。 全体的に、職場以外の生活においては、男性よりも女性の方が悩みが多いことがみてとれます。
【生活リスク・マネジメントとライフスタイル】~価値観の変化が変えるライフスタイル~
生活リスクに対して最も高い不安は、男女ともに「自分や配偶者の病気やけが」。生活価値観は、「競争志向」「経済的豊かさ志向」「将来社会への信頼度」が減少。
「わが国は『個人がリスクを負う社会への変容』を進めており、自己責任意識による自律的生活リスク・マネジメントが求められる社会になってきている」という問題意識について、1995 年以来本白書の主要なテーマとして取り組んできました。
今回の05 年調査においても、生活リスク不安の増加や社会保障・企業保障に対する重視度の低下という点において、その傾向は確かめられます。しかし、「自己責任意識」は年を追って低下しており、人生設計実施率が微増はしているものの低い割合にとどまっているという状況は、必ずしも個々人がその問題意識を持って自律的に生活リスク・マネジメントを行う方向に変容してはいないのが実態といえます。
前回の03 年調査時点から比較して、今回の05 年調査では、企業のリストラがピークアウトし、雇用不安が後退、個々人にも経済的な余裕が回復傾向にあります。これを反映して、「失業」や「給与の低下」に対する不安が低下したり、生活リスク不安に対する経済的準備が回復したり、人生設計を実施しない理由として「現在の生活で精一杯だから」という理由が減少したりしていました。
また、生活価値観という点では、非競争的志向の増加、心の豊かさ重視傾向の増加、将来社会への信頼性の減少などの兆候が現れています。また、その一方で、“若年男性の堅実化”や“「自己責任意識」にかかわらず人生設計実施率が上昇している”など、「スロー志向ながら堅実」「自己責任意識という強い意思はないが計画的」という傾向もみてとれます。
(1)生活リスクに対する不安(図表1) 生活に対する不安や心配を感じているかどうかについては、不安が最も多い項目は、男女ともに「自分や配偶者の病気やけが」(男性84.5%、女性88.5%)で、次いで「配偶者の万が一(死亡)」(男性82.5%、女性85.2%)でした。また、「自分や配偶者の老後費用」「配偶者の老後の介護問題」「親の老後の介護問題」にも7割台の人が不安を感じており、非常に高い状況になっています。 さらに、これに加え、「配偶者の万が一(死亡)」「自分や配偶者の病気やけが」における男性の不安の増加が顕著となっています。このことは、「経済的に夫が家族を支えるという家族形態から、妻が夫の健康に大きな不安を持つ」という一方通行の不安であったものが、家族のあり方の変化に伴って、夫の妻の役割に対する期待が増加したため、両方向の不安になってきたといえるのかもしれません。 他方、「自分の失業」「自分の給与の低下」の不安については、前回の調査に比べて全ての項目で減少しました。2004 年以降みえ始めた景気の回復傾向や企業業績の改善は、企業のリストラへの取り組みを抑制し、従業員の雇用や給与に対する不安を低下させたと考えられます。しかし、その低下幅は少なく、依然として「失業」についての不安は5割を超え、「自分の給与の低下」では6割以上になるなど、まだまだ不安は高いといえる水準にあります。
(2)生活価値観の状況(図表2)
生活価値観についての回答結果では、「競争志向」「経済的豊かさ志向」の減少と「将来社会への信頼度」に対する微妙な態度がみてとれます。「競争志向」についてみると、「自分の子ども(孫)は、苦労しても有名校を卒業させたい」という競争志向の高いAの意見に近い(「Aに近い」「どちらかといえばAに近い」の合計、以下同)割合は、05 年調査では19.9%と少なく、03 年調査から1ポイント低下とあまり変化はありません。一方、「これからの競争社会になんとしても勝ち残るために努力すべきだ」というAの意見には、05 年調査では30.2%と、03 年調査から6.3 ポイント低下し、「あくまで仕事が生活の中心である」には、05 年調査では23.3%と、03 年調査から3.1 ポイント低下しています。いずれも「競争志向」が高いAの意見への回答割合は少数派であり、かつ減少している状況にあります。 「豊かさ志向」については、「経済的に豊かな生活を重視したい」というAの意見には、05 年調査で46.3%と、03年調査から4.7 ポイント減少しています。経済的豊かさを重視するか、心の豊かさを重視するかという点では「競争志向」ほどの格差はありませんが、この2年間の変化は心の豊かさ志向に傾いているともいえます。 これに対して「将来社会への信頼度」では、「努力すれば報われる社会だと思う」というAの意見には、05 年調査で46.3%と、03 年調査から2.1 ポイント減少し、信頼度はわずかながら低下しています。しかし、「10 年後は今より経済的に豊かな生活をしていると思う」とするAの意見には、05 年調査で42.9%と、03 年調査から3.2 ポイント増加しています。これは、景気の回復傾向が将来の経済的予想を幾分楽観的にしたのかもしれません。しかし、「大きな住宅ローンを抱えてもマイホームは持つべきだ」というAの意見には、05 年調査で32.1%と、03 年調査から5.0 ポイント減少しています。景気回復傾向が必ずしも長期的な資産・収入に対する安心感を回復させてはおらず、将来の負担に対する不安感は依然高いと考えられます。
【おわりに】
今回の調査結果をみると、人々のライフデザインも最悪期を脱した様子がうかがえます。
バブル経済崩壊後の失われた十数年は、個々人がライフデザインを考え、行う上で苦しい時期でした。年々失業や給与低下の不安は高まり、経済的ゆとりは減少し、人生設計を考えることすらできなくなりました。しかし、今回の調査から、ライフデザインのそうした状況は止まった、すなわち「底入れ」したといえるでしょう。景気回復の恩恵は、ようやく人々の生活に及んだといえます。
しかし、人々のライフデザインには明るさが戻ってきましたが、年代別にみると、30~40代のミドルをとりまく環境は依然として厳しいようです。
30~40代といえば子育て中の人が多い年代ですが、今の社会は子育てをしにくい社会です。育児や教育のための親の経済的負担は大きく、仕事と家庭の両立は難しく、受験・進学競争は厳しいのが現状です。また、治安の悪化で安心して子育てをすることができず、地域の安全・安心を支えるコミュニティのつながりも弱くなっています。
さらに、30~40代の男性は、その前後の男性よりも長時間労働で、かつ、彼らの労働時間は一層長くなる傾向があります。こうした就労環境では、男性が豊かなライフデザインを描くための時間的余裕はありません。
また、健康面についてみると、30~40代の男女は肉体的な疲れを感じている人が多く、精神的なゆとりがある人も少ないことがわかります。
パラサイト・シングルやフリーター、ニートの問題で若年層が、年金や介護の問題で高齢者層が、それぞれ社会的な注目を集めています。しかしながら、現実には、若年層と高齢者層の中間の年代が、仕事、子育て、健康などで多くの問題を抱えています。つまり、わが国の仕事と子育てを最も支えているこの年代が、最も支えを必要としているのです。
人々のライフデザインには、明るさが戻ってきました。しかし、この傾向は今後も続くのでしょうか。
明るい材料としては、日本経済が長く続いた不況を脱して回復基調にあり、雇用情勢や賃金も改善しつつあることがあげられます。95 年から実施してきた本調査の結果、人々のライフデザインは、経済環境に大きく左右されるものであることがわかりました。したがって、経済の回復が続けば、個人の雇用と収入は安定して経済的なゆとりが生まれ、好きな消費活動をし、長期にわたる人生設計も立てやすくなるとみられます。
ただし、不安材料も多く、企業の経済活動は回復基調にあるとはいえ、激しい国際競争の中でいつまでこの好況が続くか、という問題があります。また、間もなく始まる人口減少が、経済活動の足かせとなって景気後退を生んだり、年金等の社会保障制度をゆるがすなどして、人々にライフデザインをしにくくさせる時代が再び来る可能性もあります。
人々がライフデザインを行いやすくなる状況が今後も続くか、それとも再びライフデザインをしにくくなる時代が到来するか、いまはその分岐点にあるのかもしれません。(提供:第一生命経済研究所)
株式会社 第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 広報担当:丹野・新井