<性別役割分業の趨勢的変化>

 夫が外で働き、妻が家事・育児に専念するという伝統的な性別役割分業は、わが国においても男女平等の理念の浸透や女性の社会進出に伴って少なくなり、これを支持する人々の性別役割分業意識も弱まっていくと考えられてきた傾向がある。事実、こうした見解を裏付けるように、内閣府の世論調査を時系列で比較すると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に対して賛成(「賛成」または「どちらかといえば賛成」)と答えた割合は、年々減少傾向にある(図表1)。2002年調査以降は、反対(「反対」または「どちらかといえば反対」)の割合が賛成の割合を上回り、性別役割分業が<少数派>になっている。しかしながら、ここにきて性別役割分業意識の変化の<常識>に異変が起きている。

性別役割分業意識の変化
(画像=第一生命経済研究所)

<若年女性にみられる新しい動き>

 性・年代別に「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に対して賛成と答えた割合の変化をみたものが図表2である。1997年から2002年にかけて、男女ともすべての年代で賛成の割合は低下した。同様に、02年から04年にかけても、多くの年代で総じて賛成する割合は低下傾向にある。ところが、02年から04年の変化をみると、20-30代の若年女性では、全体的変化の趨勢とは逆に、性別役割分業に賛成する者が増加している。20代女性の増加率は1.7ポイントと小さいが、30代女性の増加率は7.6ポイントと極めて大きなものである。すなわち、若年女性においては、性別役割分業に賛成する割合の低下傾向に歯止めがかかり、むしろ<再評価>する意識が高まっている。男性は女性よりも保守的で、性別役割分業意識に賛成する割合も男性の方が高いといわれるが、30代の男女については性別役割分業 に対する意識差はほぼなくなっている。

 若年女性の意識変化は、家族に関する意識の他の側面にもあらわれている。伝統的な分業が望ましいと考えられている場合、男性の生活は仕事優先が望ましく、女性の生活は家庭優先または仕事と家庭の 両立が望ましいという意見が多くなる。逆に、伝統的な分業が望ましくないと考えられれば、男性の生活は仕事優先という意識や女性の生活は家庭優先または仕事と家庭の両立という意識は低くなる。仕事と、家庭生活または地域活動への男女の望ましいかかわり方の調査結果をみると、男性の生活は仕事優先、女性の生活は家庭優先または仕事と家庭の両立という意見が多くなっている(図表3)。97年から04年の変化としては、男女の生活とも、仕事優先にすべきという回答が増えたことである。この背景には、雇用環境が悪化し、仕事を何よりも優先した生活をしなければ安定した雇用の確保や賃金の増加が望めなくなってきているということがあるとみられる。

性別役割分業意識の変化
(画像=第一生命経済研究所)
性別役割分業意識の変化
(画像=第一生命経済研究所)

 性・年代別にみても、男女とも仕事優先が望ましいという意識が高まっている傾向は変わらない(図表4)。だが、若年女性は、他の年代の女性よりも男性の生活は仕事優先が望ましいという割合が大幅に増加している。20代の男女を比較すると、女性の方が、男性の生活は仕事優先がよいと考えている。こうした意識は、男性は仕事…という性別役割分業の高まりと重なる。一方、女性の生活についてみると、若年女性においても仕事優先と答えた割合は高まっている。ただし、04年調査では、女性の生活は家庭・地域優先と答えた割合は、若年女性の方がその上の世代である40-50代の女性よりも高くなっている。

<保守化のきざしか>

 以上に示した若年女性の意識変化は、短い期間において観測されたものであるため、一時的な傾向である可能性はある。また、世論調査の質問内容自体が古くなっており、現代の若年層が本当に考えていることを把握できていない可能性もある。しかし、そうした点を考慮しても、若年女性において、従来低下する一方であった性別役割分業意識が増加傾向に転じたことは注目される。この変化に対してはさまざまな解釈が想定されるが、そのひとつは若年女性の保守化というものだろう。昨年は「負け犬」という言葉がブームになり、30代未婚の負け犬と既婚、中でも既婚で専業主婦の勝ち犬の生活がマスコミ等で対比されたことで、若年女性の間に勝ち犬志向が広がった可能性が考えられる。また見方を変えれば、若年女性の意識の保守化に合致したからこそ、負け犬が話題になったとも考えられる。意識のあり方は、行動の変化を促す要因になる。この変化が継続的なものか一過性で終わるものかが注目される。(提供:第一生命経済研究所

性別役割分業意識の変化
(画像=第一生命経済研究所)

研究開発室 松田 茂樹