<子どもが病気になった時の支援策>

 「子どもが病気になった時、できればずっと付き添って看病してあげたい。でも、仕事をもっていたら、そんなに長くは会社を休めない」。そのような働く親の苦しい心の葛藤を軽減し、仕事と育児の両立をサポートするのが、「子どもの看護のための休暇制度」であり、「病後児保育」である。

 本稿では、最近注目されている次世代育成支援策の中でも、特に、子どもが病気になった時の親に対する支援策の現状と課題を考える。

<子どもの看護のための休暇制度の義務化>

 まず、子どもが病気になった時に、その看護のための休暇を労働者に保障するのが「子どもの看護のための休暇制度」である。昨年秋の臨時国会で、育児・介護休業法が改正され、今年4月から、小学校に入る前の子どもの看護のための休暇制度(年次有給休暇とは別に、年間5日まで取得可能)が企業に義務づけられた。これまで同制度は努力義務であったこともあり、2003年10月時点における看護休暇制度の導入企業割合は16.9%(従業員30人以上企業対象)、約6社に1社に留まっていた(厚生労働省「平成15年度 女性雇用管理基本調査」)。それが今回の法改正により、全ての企業に適用される。共働き家庭に限らず、専業主婦家庭の父親も利用することにより、母親に偏りがちな育児負担の軽減に寄与することもできる。

 しかし、その使い勝手は企業によって異なるようだ。例えば、看護休暇を有給とするか無給とするかは、企業の判断である。また、そもそも「休みにくい雰囲気」のある職場では、どの程度取得を主張できるであろうか。このような制度が実際に従業員男女にとって利用しやすい職場環境づくりが企業に求められていると言える。

<働く母親からのニーズが高い病後児保育>

 一方、このような看護休暇制度があっても、仕事の都合上、実際に休める日数には限りがある。そのような場合、病気の子どもを病院や保育所の専用スペース等で一時的に預かって看護と保育をするのが「病後児保育」である。この制度は、厚生労働省の「乳幼児健康支援一時預かり事業」の一環として、1994年から、実施主体である市町村への補助事業として全国展開されている。同事業には、病院や保育所等の施設で実施される「施設型」と、看護師及び保育士等を児童宅等に派遣して実施される「派遣型」があるが、市町村の多くは「施設型」を実施している。

 同事業は、実施要綱等によれば、主に以下の児童を対象としている。まず、保育所に通所している児童等であって、病気の急性期及び回復期にあることから集団保育が困難な児童である。まさに、親の就労をサポートするためである。これに加えて、親の就労の有無にかかわらず、親の傷病や事故、出産、冠婚葬祭等の事由により家庭で育児を行うことが困難な児童も対象としている。このように同事業は、働く親のための両立支援のみでなく、ケアが必要な全ての子どもを対象としており、次世代育成支援の一環として位置づけられている。

 実際に、このような病後児保育に対するニーズは高く、中でも働く女性においては、そのニーズが「看護休暇制度」を僅差で上回っている(図表1)。

子どもが病気になった時の親への支援策
(画像=第一生命経済研究所)

<普及が進まない病後児保育>

 しかしながら、現段階ではこのような保育事業が十分に普及しているとは言い難い。厚生労働省によれば、04年4月時点で、病後児保育を実施している市町村の数は、全国で392(うち派遣型実施市町村数は15)である。これらの市町村に492の施設があるにすぎない。

 また、次世代育成支援対策が重視されている中で、今後、大幅に増える見通しがあるかといえば、そうでもない。厚生労働省では、次世代育成支援対策推進法に基づき、全国の市町村に、05年度以降の行 動計画を義務づけており、04年11月、全市町村から同省に報告された09年度までの目標値を公表した。これによると、09年度までに病後児保育事業を実施する予定である市町村は、1,053(うち派遣型実施市町村数は144)、施設数にして1,336である。5年後には、施設数は2.7倍に増える予定であるが、全市町村数(合併を考慮し2,724市町村が母数)に占める実施予定市町村の割合は4割にも満たない。

 この09年度における実施予定市町村について、都道府県別に見ると、大阪府(府内全市町村の86.4%)、東京都(同78.7%)、鳥取県(同73.7%)は実施予定市町村が多い。一方、和歌山県(同10.9%)、福島県(同11.1%)、北海道(同16.0%)は少なく、地域ごとに大きな差がある。

 このように、普及が進まない背景には、病後児保育においては看護師等の人件費負担による事業採算性の困難さや、親が看るべきだという価値観の存在等もあるようである。しかしながら、病後児保育は、仕事と家庭の両立のため、義務化された看護休暇制度を補完するものとしても必要なものである。また、親の就労の有無にかかわらず、次世代育成支援の観点から、子どもに必要なケアの一つの選択肢として用意されるべきものでもあろう。

<緊急サポートネットワーク事業の創設>

 このように、働く母親のニーズが高いにもかかわらず、既存事業の限定的な実施状況を踏まえ、厚生労働省では今年度、新たに「緊急サポートネットワーク事業」を創設した。同事業は国が、実際に病気の子どもの世話を行う団体(NPOや社会福祉法人等)を公募し、およそ各都道府県ごとに1団体ずつ選定の上、年間約1,400万円の事業費で委託し、人材確保などの支援を行う計画である。委託された団体はコーディネーター及びスタッフを揃え、緊急時に利用者から連絡を受けたコーディネーターがスタッフにサポートを打診すると、親に代わってスタッフが、子どもを保育所に迎えに行って、病院に連れて行ったり、預かって面倒をみたりする(図表2)。そのスタッフは例えば、保育士や看護師、子育て経験者等で構成され、サービスの報酬は当事者間で取り交わす、というような構想である。

 似たような既存事業として、すでに「ファミリー・サポート・センター」があり、04年4月現在、368市町村で事業展開がなされている。ただし、同事業は主に元気な子どもを対象としており、緊急時の対応はできない。これに対して、緊急サポートネットワーク事業は、この枠組みを活用しているが、主に病気の子どもを対象とするのが特徴である。

子どもが病気になった時の親への支援策
(画像=第一生命経済研究所)

 以上のように、子どもの看護のための制度としては、企業における看護休暇、市町村が実施主体の病後児保育、そして国の委託事業として緊急サポートネットワーク事業が用意されている。それぞれ実施主体は異なっても、これらが互いに連携し合うことにより、まさに育児支援の相乗効果が発揮されることになる。今後、このような制度の普及に当たっては、働く母親のための支援としてのみでなく、家庭で育児をしている親の育児不安解消に加え、子どもの心身の成長を十分に考慮した、全ての子育て家庭のための次世代育成支援としての機能を重視した展開も必要と思われる。今後の動きに注目したい。(提供:第一生命経済研究所

研究開発室 的場 康子