要旨

① 東京都と千葉県の保育園を利用する育児期の共働き夫婦を対象に、ワーク・ライフ・バランスの現状を調査・分析した。夫の労働・通勤時間は1日約13時間、妻は約10時間である。特に夫の労働時間は長く、フレックスタイム制度等があっても、実際には時間管理の融通がききにくい就労環境のもとで働いている。

② 平日の家事・育児時間は夫が1.6時間、妻は5.7時間であり、妻が家事・育児の7割以上を担っている。保育時間は9時間に及ぶが、正社員の妻のうち3割強は保育時間が十分ではないと感じており、5割強は残業等で保育園の送り迎えができないことがある。 ③ 仕事から家庭生活へのコンフリクト(葛藤)を感じている者は、夫・妻とも多い。仕事と家庭生活の両立は妻の問題とみられがちであるが、実際には両立の問題は夫婦双方にあてはまるものである。

④ 一方、家庭生活から仕事へのコンフリクトを感じている割合は総じて低い。ただし、妻の場合は、育児のために仕事を制限せざるをえないというコンフリクトが高い。

1.仕事と家庭生活の両立の問題

 ワーク・ライフ・バランスとは、仕事と家庭生活をうまく調和させることをいう。家庭を持ちながら就労する者にとって、仕事と家庭を調和させることは非常に難しい問題である。日本労働研究機構(2003)が就学前の子どもをもつ男女就労者に対して実施した調査結果によると、「仕事と育児をうまく両立できている」と答えた者は約3割に過ぎず、多くの者が仕事と育児のいずれかが中途半端であったり、不満があると答えている。また、当研究所が夫婦共働きの男女就労者に対して仕事と家庭の両立に関する悩みを尋ねたところ、夫婦ともフルタイムの共働世帯では、「子どもの病気のときに休みをとりにくい」と答えた割合は男性で39.6%、女性で49.0%、「子どもの遊び相手、勉強をみる時間がない」という割合は同17.0%、29.4%に上っていた。また、仕事へ影響があるという悩みもあげられており、男性の20.8%、女性の27.5%が、「自己啓発や勉強が後回しになる」と回答している(第一生命経済研究所 2003)。

 しかしながら、就労する女性の増加に伴って、仕事と家庭生活の両立は大きな社会的問題として浮上してきている。また、仕事と子育てを両立できる環境整備の遅れが少子化の要因のひとつであるとみられており、ワーク・ライフ・バランスの推進は少子化社会対策大綱の重点課題のひとつとして位置づけられている(内閣府 2004)。厚生労働省は、ワーク・ライフ・バランスのとれた就労環境を普及させるために、両立指標を作成し、企業や労働者の意識の啓発を行っている。

 このような背景をふまえて、本稿では、ワーク・ライフ・バランスが最も問題になる育児期の共働き夫婦を対象に、彼らのワーク・ライフ・バランスの現状を分析する。

2.データと分析対象者の属性

 分析に使用したデータは、2004年10-11月に実施した「仕事と家庭生活に関するアンケート」のデータである。本調査の概要は以下のとおりである。

対象者:東京都と千葉県の13の保育園に子どもをあずけている父母

調査方法:保育園で配布、自宅で記入後に郵送で回収

標本数:配布数1,571世帯、有効回収数420世帯(有効回収率26.7%)

 以下の分析は、夫婦とも雇用者で、かつ父母両方が回答した者を対象にした。

 夫の年齢は、20代(10.6%)、30代(63.8%)、40代以上(25.5%)である。就労形態は、夫は93.7%が正社員(正職員を含む)であり、妻は正社員(49.8%)、派遣・契約・嘱託(7.6%)、パート(42.6%)である。末子年齢は0-2歳(47.3%)、3-6歳(47.7%)で、世帯構成は核家族世帯(86.1%)、三世代世帯(13.9%)である。

3.共働き夫婦の働き方

 はじめに、夫と妻の1日平均の労働時間と通勤時間を集計したものが図表1である。夫についてみると、労働時間が11.5時間、往復の通勤時間が1.9時間で、合計が13.3時間である。妻は、それぞれ8.2時間、1.3時間、9.5時間であり、労働時間、通勤時間とも夫よりも短い。妻の就労形態別にみると、正社員(派遣・契約・嘱託を含む)の方が、パート(アルバイトを含む)よりも、労働時間、通勤時間とも長い。

育児期の共働き夫婦のワーク・ライフ・バランス
(画像=第一生命経済研究所)

 過去1カ月間の残業の頻度をみると、夫の約8割が「週に3~4回程度」また「週に4回以上」と答えている(図表2)。夫よりも妻の残業の頻度は少ないが、正社員の妻の約4割は週1回以上残業している。休日出勤の頻度は、夫の方が妻よりも多い。

 職場にある子育て支援関係の制度が図表3である。夫は「子どもの養育費の支給」が50.6%と高く、次いで、「フレックスタイム制度」と「子どもの看護休暇」がともに25.3%である。妻の場合、正社員とパートで制度が大きく異なる。正社員の場合、夫よりも「短時間勤務制度」がある割合が高いものの、「フレックスタイム制度」「子どもの看護休暇」「子どもの養育費の支給」がある割合は低い。パートでは、正社員よりも「短時間勤務制度」「フレックスタイム制度」がある割合が高いが、これは労働時間を柔軟に決定できるパートという就労形態自体の特徴とみられる。

 最後に、職場における時間管理の柔軟性をみたものが図表4である。「出・退勤時間が、自分で柔軟に決められる」と答えた割合は男女とも低いものの、「休暇を取りやすい」「残業(超過勤務)を断りやすい」という項目は女性で比較的高い。

 夫と妻の働き方を比較した場合の特徴として、夫の方が仕事にコミットしている時間が長いことがあげられる。夫は、長時間労働で休日も会社に拘束されることが多く、また制度的にはフレックスタイム制度等が整備されていても、実際には時間管理の融通がききにくい就労環境のもとで働いている。

育児期の共働き夫婦のワーク・ライフ・バランス
(画像=第一生命経済研究所)
育児期の共働き夫婦のワーク・ライフ・バランス
(画像=第一生命経済研究所)
育児期の共働き夫婦のワーク・ライフ・バランス
(画像=第一生命経済研究所)

4.家事・育児の現状

(1)家事・育児

 次に、妻に平日における夫婦の家事・育児時間を尋ねた結果が図表5である。夫の家事・育児時間は1.6時間、妻は5.7時間で、分担割合は夫が22.5%、妻が77.5%である。妻の就労形態別にみても、夫の家事・育児時間はほぼ変わらない。

育児期の共働き夫婦のワーク・ライフ・バランス
(画像=第一生命経済研究所)

(2)保育園の利用

 保育園の利用時間は、1日平均9.1時間である(図表6)。妻の就労形態別にみると、妻が正社員の場合は9.6時間、パートの場合は8.5時間である。妻がパートの場合は、妻の労働時間8.4時間と保育園の利用時間の長さはほぼ同程度であるが、妻が正社員の場合は、労働時間10.4時間の方が保育園の利用時間よりも0.8時間長くなっている。

 残業や出張等で妻が保育園の送り迎えや育児ができないことがある人は、正社員で約5割、パート・アルバイトで約2割である(図表7)。

 延長保育を利用した場合にあずかってもらうことが可能な時間は、18時台が35.2%、19時台が42.3%、20時台が20.9%である(図表割愛)。残業や出張等で妻が保育園の送り迎えや育児ができないことがある場合に、延長して保育園に子どもをあずけやすいのは約6割で、残り約4割は保育時間を延長しづらいと回答している(図表8)。

 妻が保育園に子どもを迎えに行くことができない場合、夫が迎えに行く人は約5割である(図表割愛)。夫以外についてみると、妻方の両親が子どもを迎えに行くことが多く、友人やベビーシッターに子どもの迎えを頼む人は少ない(図表9)。

育児期の共働き夫婦のワーク・ライフ・バランス
(画像=第一生命経済研究所)
育児期の共働き夫婦のワーク・ライフ・バランス
(画像=第一生命経済研究所)
育児期の共働き夫婦のワーク・ライフ・バランス
(画像=第一生命経済研究所)
育児期の共働き夫婦のワーク・ライフ・バランス
(画像=第一生命経済研究所)

(3)仕事と家庭生活に関する規範意識

 図表10にあげる仕事と家庭生活に関する規範意識について、「そう思う」から「そう思わない」までの4段階で回答を求めた。「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」に賛成(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」)する割合は夫が30.5%、妻24.1%で、夫婦とも低いのに対して、「夫婦は、仕事も家事・育児も平等に行うべきだ」「家事・育児は、夫婦のうち手があいている方がやればよい」と答えた割合は、夫婦とも6~8割と高い。

 ただし、「夫は、家事・育児よりもまずは仕事を優先させるべきだ」と答えた割合は、夫、妻とも45%程度であるのに対して、「妻は、家事・育児よりもまずは仕事を優先させるべきだ」と答えた割合は極めて低い。すなわち、夫と妻がそれぞれ仕事と家事・育児の両方をこなす方がよいという意識は高いものの、夫は仕事第一に、妻は家事・育児第一にそれを行う方がよいと考えているといえる。

育児期の共働き夫婦のワーク・ライフ・バランス
(画像=第一生命経済研究所)

5.仕事と家庭生活のコンフリクト

 Greenhaus & Beutell(1985)によると、ワーク・ファミリー・コンフリクトとは、「ある個人の仕事と家族領域における役割要請が、いくつかの観点で、互いに両立しないような、役割間葛藤の一形態」と定義される。すなわち、それは、職業上の役割と家庭における役割をうまく両立できないことに対して感じる葛藤感である。このコンフリクトには、仕事から家庭生活へのコンフリクト(ワーク・ファミリー・コンフリクト:WFC)と家庭生活から仕事へのコンフリクト(ファミリー・ワーク・コンフリクト: FWC)の2種類がある。

 本調査では、Small & Riley(1990)を参考にした上で、WFCとFWCの各々について、仕事対夫婦関係(ア~ウ)、仕事対育児(エ~カ)、仕事対家事(キ~ケ)の3領域に対して合計9質問を設定した。図表11の数値は、各質問について「非常にあてはまる」~「全くあてはまらない」の5段階で尋ねた回答のうち、「非常にあてはまる」もしくは「あてはまる」と答えた割合である。

 WFCとしては、仕事対家事のコンフリクトを感じている割合が最も高い。特に高いのは、「ク)仕事が忙しくて、家事をする時間が少なくなる」であり、夫の48.5%、妻の48.3%がコンフリクトを感じている。また、仕事対夫婦関係のコンフリクトも高く、「イ)仕事のために、夫/妻と話したりゆっくり過ごす時間がない」のは、夫が42.1%、妻が31.0%にのぼる。仕事対育児のコンフリクトについても、「エ)仕事のために、子どもの世話ができない」ことを、夫の35.6%、妻の21.7%が感じている。

 一方、WFCに比べて、FWCを感じている割合は総じて低い。ただし、妻の場合、仕事対育児のFWCが、「エ)家庭で父/母親としての役割を果たすために、仕事を制限せざるをえない」(47.6%)、「オ)子育てのために、仕事量をおさえなくてはいけない」(53.6%)、「カ)子どもと過ごす時間をつくるために、長い時間働けない」(57.3%)と高くなっている。

 妻の就労形態別にみると、パート・アルバイトよりも正社員の方が、総じてコンフリクトが高い。正社員の妻と夫のWFCの感じ方は類似している。FWCのうち、仕事対育児のコンフリクトは、就労形態にかかわらず妻が感じている割合は高い。

育児期の共働き夫婦のワーク・ライフ・バランス
(画像=第一生命経済研究所)

6.仕事と家庭生活の両立の難しさ

 分析結果から、育児期の共働き夫婦の両立状況について、次の特徴を指摘できる。

 第一に、就労生活の特徴についてみると、今回の対象者は夫婦共働きであるが、夫の方が仕事によりコミットしていることがあげられる。夫の労働時間と通勤時間の合計は、妻よりも長く、1日あたり13時間に及んでいる。また、夫の方が、休日も会社に拘束されることが多く、また制度的にはフレックスタイム制度等が整備されていても、実際には時間管理の融通がききにくい就労環境のもとで働いている。

 第二に、共働きといえども、家庭生活は妻が中心的に担っている。平日の家事・育児時間は夫が1.6時間であるのに対して、妻は5.7時間に及ぶ。夫婦の分担割合は、夫が22.5%、妻が77.5%であり、妻が正社員であっても妻の分担割合は75%と多い。また、共働き世帯にとって、保育園は欠かせない存在であり、1日の保育時間は9時間に及ぶ。けれども、正社員の妻は、3割強が保育時間の長さが仕事をするために十分ではないと感じており、また5割強が残業等で保育園の送り迎えや育児ができないことがある。妻が正社員の家庭にとっては、保育時間の長さは十分とはいえない。

 第三に、仕事から家庭生活へのコンフリクト(WFC)を感じている者は、夫・妻とも多いことがあげられる。仕事と家庭生活の両立は妻の問題とみられがちであるが、実際には両立の問題は夫婦双方にあてはまるものである。家庭生活から仕事へのコンフリクト(FWC)は総じて低いが、妻の場合は仕事対育児のFWCが高い。夫婦のFWCの差は、共働きであるとはいえ、家事・育児を行う責任は妻が引き受けていることから生じているとみられる。

 分析結果から、育児期の共働き夫婦が日々高いコンフリクトを感じながら、仕事と家庭生活を何とかやりくりしている現状がうかがえる。ワーク・ライフ・バランスの推進は喫緊の課題であるが、現状から目標までの道のりはまだ長いようである。(提供:第一生命経済研究所

【参考文献】
・第一生命経済研究所,2003,『ライフデザイン白書2004-05』矢野恒太記念会.
・内閣府,2004,『少子化社会白書(平成16年版)』ぎょうせい.
・ 日本労働研究機構,2003,「育児や介護と仕事の両立に関する調査」.
・ Greenhaus, Jeffrey H. and Nicholas J. Beutell, 1985, “Sources of Conflict between Work and Family Roles,” Academy of Management Review, 10(1):76-88.
・ Small, Stephen A. & Dave Riley, 1990, “Toward a Multidimensional Assessment of Work Spillover into Family Life,” Journal of Marriage and the Family, 52:51-61.

研究開発室 副主任研究員 松田 茂樹