目次

1.はじめに
2.事業所内保育施設に対するアンケート調査結果
3.まとめ-事業所内保育施設の意義・課題・今後のあり方

要旨

① 少子化対策の一環として、企業に、仕事と子育ての両立が可能となるような雇用環境整備のための取り組みが求められている。このような企業による両立支援策の一つとして、事業所内保育施設(企業等が従業員の子どもを対象として、事業所内または隣接地に設置する保育施設)がある。本稿では、事業所内保育施設に対するアンケート調査結果により、事業所内保育施設の運営実態、効果、及びその普及のための課題を明らかにし、今後のあり方について考察を行う。

② アンケート調査の結果から、事業所内保育施設は概ね、経営者トップの経営的な判断から、人材の確保・定着を目的として設立されていることが明らかになった。また、その社内評価として、「女性従業員の出産を理由とした退職が減った」「入社希望者の応募が増えた」への回答割合が高いことから、当初の設立目的に適い、人材確保としての効果が認識されていることがうかがえる。

③ 事業所内保育施設は、3歳未満児を多く受け入れており、かつ、開所時間も認可保育所なみか、あるいは施設によってはそれ以上の体制で運営をしており、いわば、行政が整備を図っている認可保育所の補完として機能している面がある。

④ しかしながら、運営上の問題点として、企業にとっては、事業所内保育施設の運営にかかる負担が大きく、質を維持しながら安定的な運営をすることが大きな課題となっている。したがって、両立支援策としての事業所内保育施設の普及を図るためには、既存の助成制度における支給条件の緩和や、自治体における補助事業の推進等、公的支援の拡充が必要である。

⑤ また、保育の質を維持するために、事業主による自己管理もさることながら、行政による事業所内保育施設に対する監視・監督機能を強化することが必要である。その上で、事業所内保育施設を、親の勤務に派生する「託児施設」的な性格のものから、従業員のニーズに柔軟に対応し、「子どもの健全育成」を促す「次世代育成支援施設」に発展させることが望ましい方向性といえる。

キーワード:事業所内保育施設、次世代育成支援策、保育政策

1.はじめに

 少子化の流れを変えるために、厚生労働省では、2003 年7月に成立した「少子化社会対策基本法」と「次世代育成支援対策推進法」に基づき、2005 年から10 年間は、重点的に少子化対策を推進することとしている。その一環として企業も、仕事と子育ての両立が可能となるような雇用環境整備のための取り組みが求められている。このような企業による両立支援策の一つとして、事業所内保育施設がある。

 事業所内保育施設とは、企業等が従業員の子どもを対象として、事業所内または隣接地に設置する保育施設のことである*1。少子化対策の一環としても、事業所内保育施設の設置は奨励されており、厚生労働省の外郭団体である(財)21 世紀職業財団や(財)こども未来財団等を通じた助成制度もある。しかしながら、厚生労働省の調査によると、事業所内保育施設の数は全国に979 施設(内、会社による設置が500 施設、医療法人・社会福祉法人による設置が416 施設)であり、企業の数に比べると、その設置率は極めて低いのが実態である。

 他方、働く母親の意識に目を向けると、日本労働研究機構が実施した就学前児童のいる雇用者を対象にした調査によれば、育児支援制度の中でも、特に事業所内保育施設に対するニーズが高いという結果が示されている(図表1)。実際に、筆者が事業所内保育施設の利用者に対して実施したアンケート調査によると、その利用者の多くは、「小さな子どもがいても、安心して働くことができる」点を評価しており、事業所内保育施設は両立支援策の一つとして大きく貢献していることがうかがえる(的場2005)。

事業所内保育施設の今後のあり方について
(画像=第一生命経済研究所)

 当然ながら、保育所の整備は、主に国や自治体の責任によって進められるべきものであり、実際に「新新エンゼルプラン」等、整備推進のための施策が図られている。しかしながら、主に都市部等において、保育所不足が解消されておらず、そのことが、子どもを預けて働きたいと思っている女性の就労を妨げていることが指摘されている。そのため、企業による事業所内保育施設設置の普及を図ることは、保育所整備の底上げを図り、多くの人にとって、仕事と子育ての両立を可能とすることにつながる。

 そこで本稿では、事業所内保育施設に対するアンケート調査結果を踏まえて、事業所内保育施設の運営実態、効果、運営上の問題点等を明らかにし、今後の事業所内保育施設のあり方について考察を行う。

2.事業所内保育施設に対するアンケート調査結果

(1)アンケート調査の概要

 本アンケート調査の目的は、事業所内保育施設の運営実態、効果、運営上の問題点、行政に対する要望等を明らかにし、保育政策における事業所内保育施設の位置づけを明確にし、その普及のための課題について考えるための資料を得ることである。

 事業所内保育施設の設置主体は、主に民間企業と医療施設であり、本調査でも両者を対象とした。当然ながら、医療施設(主に看護師対象)と民間企業の間には働き方に違いもある。しかしながら、少子化対策として、両立支援のために職場環境の改善が求められていることは、両者とも同様である。実際に、民間企業にしても、医療施設にしても、「次世代育成支援対策推進法」に基づき、従業員が301人以上であれば、次世代育成支援対策のための「行動計画」を策定することが義務づけられている(従業員300人以下の場合は努力義務)。そのような観点から、本研究では、事業所内保育施設について広く捉え、場合によっては両者を比較しつつ、その運営状況や効果、問題点等について調査を行った。

 具体的には、全都道府県の事業所内保育施設に関する資料に基づき、原則として、民間企業の事業所内保育施設のほぼ全数(ヤクルト販売所の事業所内保育施設については無作為抽出により5施設のみ)、並びに医療施設内の保育施設は無作為抽出を行い、それぞれ238施設、141施設を調査対象とした*2。

 その他の調査概要については図表2の通りである。

事業所内保育施設の今後のあり方について
(画像=第一生命経済研究所)

(2)回答施設の業種

 回答施設の業種については、図表3の通りである。製造業、サービス業とその他を合わせた民間企業が約5割、医療施設が約4割となっている。

事業所内保育施設の今後のあり方について
(画像=第一生命経済研究所)

(3)回答施設の運営状況

1)利用対象者
 保育施設の利用対象者については、「従業員の子どものみを対象」としている施設が78.8%、「地域の子どもも受け入れている」施設は10.6%であった。

 入園可能な子どもの年齢については、「0歳から」としている施設が77.6%、「1歳から」としている施設が17.6%となっている。このように3歳未満児を多く受け入れていることは、事業所内保育施設の特徴の一つである*3。他方、卒園年齢は、「3歳」としている施設が16.5%、「4歳以上6歳以下」としている施設が55.3%、「小学生まで」利用可能としている施設が17.6%であった。

2)休日保育・24時間保育の実施状況
 休園日については、日曜日を休園している施設が54.1%、祝日は40.0%、土曜日は15.3%となっている。また、「休園日はない」と回答した施設は24.7%であった。このような日曜・祝日に開園している割合は、認可保育所よりも高く、事業所内保育施設におけるもう一つの特徴であるといえる*4。

 また、「24時間運営」と回答した施設は16.5%であり、そのほとんどが医療施設からの回答(85.7%)である。

3)運営方式
 保育施設の運営方式については、「自社直営で運営している」施設が82.4%であり、「保育サービス事業者等に運営委託している」施設は14.1%となっている。委託方式は、2000年以降に設立された施設に多くみられる傾向がある。

4)利用料金
 利用者が支払う利用料金(常時保育)については、「年齢にかかわらず一律料金を設定している」と回答した施設(全体の41.2%)では、一人当たり月額平均は約18,000円である(回答施設28)。他方、「年齢別に料金設定をしている」施設(全体の25.9%)においては、0歳児27,066円(回答施設23)、1歳児25,110円(同22)、2歳児24,201円(同22)、3歳児18,481円(同20)、4歳児17,151円(同16)、5歳児17,828円(同15)、就学児15,236円(同9)となっている(小数点以下は四捨五入)*5。

5)設立・運営費用
 設立費用(補助金を除く設置者負担費用)については、分析対象施設が限られているので、参考としての数値であるが、新築費用(土地取得費用と建設費用)の平均値が約5,200万円(最小値300万円、最大値2億円)となっている(分析対象数は14施設であり、平均利用定員は22.1人)。また、改装費用の平均値は約1,700万円(最小値50万円、最大値5,500万円)である(分析対象数は9施設であり、平均利用定員は18.0人)。設立及び改装費用については、必ずしも利用定員数が大きければ費用も大きいとはいえないようであり、様々な要素により費用が決まっていると考えられる。

 年間の運営費用(同上)については、回答施設全体の平均は約1,900万円(最小値60万円、最大値約6,100万円)である(分析対象数は34施設であり、平均利用定員は20.1人)。運営費用には、人件費、消耗品費、保険料、水道光熱費、家賃、給食費等が含まれるが、そのうち、人件費が最も多く占めており、運営費に占める人件費の割合は76.2%となっている。年間の運営費用は、常時保育の利用者数と強い相関関係があり、利用者規模が大きくなるほど、運営費用も高くなる傾向がある*6。

 ただし、前述のように、従業員から利用料金を徴収しており、実際の事業所負担は利用料金を差し引いた額になる。設定されている利用料金をみる限り、全ての運営費用を賄い得る金額ではなく、事業所の持ち出し分の方が大きな割合を占めているのが現状のようである。

(4)設立したきっかけ・目的

 事業所内保育施設を設立したきっかけについてたずねたところ、「経営者トップの経営的な判断から」が最も多く、56.6%である(図表4)。

 また、設立の具体的な目的については、「人材の確保・定着」が84.7%、「従業員の仕事と育児の両立支援」が74.1%、「従業員に対する福利厚生として」が63.5%という回答結果となっている(図表5)。このようなことから、全体的な傾向としては、事業所内保育施設は、経営者トップの判断から、人材の確保・定着を目的にして設立されているということがうかがえる。

 ただし、医療施設(図表3における「医療」と「社会福祉」の合計、以下同様)と民間企業(図表3における「製造」、「サービス」、「その他」の合計、以下同様)の間で回答内容に違いがみられた。すなわち、設立のきっかけについては、医療施設は「従業員からの要請に応えて」への回答割合が第1位となっている。民間企業は「経営者トップの経営的な判断から」と「次世代育成支援対策の一環として」への回答割合が医療施設よりも20ポイント以上高い。また、設立目的については、医療施設は「人材の確保、定着」への回答割合が最も高いが、民間企業は「従業員の仕事と育児の両立支援」への回答割合が最も高い。

 このようなことから、医療施設よりも民間企業のほうが「次世代育成支援」を意識して事業所内保育施設を設立していることがうかがえる*7。ちなみに、事業所内保育施設以外の両立支援策の実施率をみても、医療施設よりも民間企業のほうが高い傾向にある*8。

事業所内保育施設の今後のあり方について
(画像=第一生命経済研究所)
事業所内保育施設の今後のあり方について
(画像=第一生命経済研究所)

(5)設置の効果

 事業所内保育施設の社内での評価についてたずねたところ、「女性従業員の出産を理由とした退職が減った」と「入社希望者の応募が増えた」への回答割合が最も高く、全体の約5割を占めている(図表6)。前者は医療施設に多く、後者は民間企業に多いという特徴があるが、全体としては、設立目的通り、人材の「定着」と「確保」に寄与しており、その効果が認識されていることがうかがえる。

事業所内保育施設の今後のあり方について
(画像=第一生命経済研究所)

(6)保育の質の管理方法

 事業所内保育施設の運営にあたっては、施設の性格上、保育の質の管理に細心の注意を払う必要がある。そこで、どのように保育の質の管理及び維持を図っているかをたずねた。その結果、「保育士の研修を定期的に行っている」が50.6%、「保育士と子どもの保護者(従業員)と会社との連携を積極的に図っている」が55.3%、「保育園と会社との間で情報交換を積極的に図っている」が28.2%、「保護者同士のネットワーク(例えば、父母の会)を組織している」が20.0%となっている(図表7)。

 保育の質の確保のためには、保育士の育成や保育内容をチェックする仕組みが不可欠であり、実際に多くの認可保育所では行われていることである。調査結果をみる限り、事業所内保育施設においては、このような仕組みづくりを行っている施設が少ないようであり改善の余地があると思われる。

事業所内保育施設の今後のあり方について
(画像=第一生命経済研究所)

(7)設置・運営にあたっての問題点

 事業所内保育施設の設置・運営にあたっての問題点については、「運営にかかる費用の負担が大きい」が最も多く71.8%、次いで「設置にかかる費用の負担が大きい」が34.1%となっている(図表8)。また、「補助金の助成が受けられる条件が厳しい(合わない)」への回答も25.9%となっており、費用負担の重さを訴える声が多い。

 21 世紀職業財団やこども未来財団、さらに自治体において、事業所内保育施設に対する助成制度*9を実施しており、実際にこれらを利用している施設も多い。それにもかかわらず、運営の厳しさを訴える施設が多いのが実情のようである。従業員からのニーズがあるにもかかわらず、事業所内保育施設の設置率が低いことの背景には、このような費用負担の重さが一つの要因になっていることがうかがえる。

事業所内保育施設の今後のあり方について
(画像=第一生命経済研究所)

(8)設置・運営にあたっての行政に対する要望

 行政に対する要望に関しては、前述の費用負担の重さに関連して、負担の軽減策を訴える意見が目立つ。すなわち、第1位の回答項目は、「運営にかかる単年度ごとの助成金をもっと多くして欲しい」であり、6割以上の施設が回答している(図表9)。次いで、「事業所内保育施設を運営している事業者には、法定福利厚生費の軽減等の優遇策を図ってもらいたい」「助成が受けられる条件を緩和して欲しい」といった項目が約4割となっている。

 「助成が受けられる条件の緩和」については、自由回答欄にも多くの意見が寄せられており、具体的には、定員10名未満の施設であっても、また、利用対象を地域の子どもや学童まで広げても、助成の対象として欲しいといった意見が目立った*10。

 さらに、自由回答欄には「自治体に事業所内保育施設の設立・運営に関する相談窓口を設置して欲しい」という意見もあった。多くの事業主にとって保育施設運営は初めてのことである。そのため、知識・経験の蓄積がある行政に中立的な立場で、保育施設運営のノウハウをアドバイスして欲しいということである。このような行政によるアドバイス提供は、保育の質の確保にも寄与するものであり、今後の普及のためには必要であると思われる。

事業所内保育施設の今後のあり方について
(画像=第一生命経済研究所)

3.まとめ-事業所内保育施設の意義・課題・今後のあり方

(1)事業所内保育施設の意義

 以上のように、事業所内保育施設の運営実態や効果、問題点、要望をみてきたが、最後にこれらを踏まえて、企業、従業員、そして行政の三者からみた事業所内保育施設の意義、課題、そして今後のあり方について考察し、まとめとしたい。

 本施設調査の結果から、事業所内保育施設は概ね、経営者トップの経営的な判断から、人材の確保・定着を目的として設立されていることが明らかになった。また、その社内評価として、「女性従業員の出産を理由とした退職が減った」「入社希望者の応募が増えた」への回答割合が高いことから、当初の設立目的に適い、人材確保としての効果が認識されていることがうかがえる。

 また、従業員も、事業所内保育施設を仕事と子育ての両立のために有効な施設として認識していることが、既存調査から明らかになっている(的場 2005)。

 さらに、事業所内保育施設は、3歳未満児を多く受け入れており、かつ、開所時間も認可保育所なみか、あるいは施設によってはそれ以上の体制で運営をしており、いわば、行政が整備を図っている認可保育所の補完として機能している面がある。

 事実、働く女性の増加に合わせて、その職種や職場も多岐にわたり、結果として、その働き方も多様化している(365日体制や24時間体制の職場で働く女性も増えている)。このような社会環境の急速な変化に対し、認可保育所のみでは十分に対応できていないのが現状である。これに対し、事業所内保育施設では、事業所の勤務体制に合わせた保育施設運営が可能である。また、人材の定着という観点から、職場復帰をしやすくするために、低年齢児童を積極的に受け入れている。このように、事業所内保育施設は、認可保育所ではなかなか対応できない部分を補完し、保育所整備の底上げに寄与しているといえる。

 このように、企業にとっても、従業員にとっても、そして行政にとっても、事業所内保育施設の意義が確認でき、今後これを普及させることは、両立支援策のための保育所整備に有効であることが示唆された。

(2)事業所内保育施設の課題及び今後のあり方

 しかしながら、調査の結果をみると、企業にとっては、運営上の問題点として事業所内保育施設の運営にかかる負担が大きく、質を維持しながら安定的な運営をすることが大きな課題となっている。

 また、利用者である従業員からの要望として、病児保育や延長保育の充実等の「就労支援」機能のみならず、集団保育の中での「子どもの健全育成」のための機能を充実させて、働く女性とその子どもにとっての「次世代育成支援」機能を強化させることが期待されている(的場 2005)。

 そこで、上述のような企業や従業員にとっての課題を踏まえ、両立支援としての事業所内保育施設の充実を図るために、以下の2点を提言したい。

 第一は、事業所内保育施設に対する公的支援のさらなる拡充である。現行では、国の制度として、21世紀職業財団やこども未来財団による助成制度があるが、支給対象等の制約があり、限定的な活用しかなされていないようである。したがって、一つには、助成金の支給の仕方について、施設のニーズに合わせ、その支給条件を緩和し、多くの事業所が活用しやすくすることが考えられる。もう一つには、自治体における事業所内保育施設に対する補助事業を拡充させることも考えられる*11。このように事業所内保育施設に対する公的支援を拡充し、企業との共同による保育所整備を進めることにより、低年齢児保育、休日保育、延長保育の充実につながれば、量的にも、そして内容的にも保育所整備の底上げにつながると思われる。他方、企業にとっても、人材確保のために両立支援策を推進しやすくなる。そしてそれらのことは、結果的には、国が進める次世代育成支援策の強化につながり、少子化の流れを変えることに寄与する可能性もあるだろう。

 第二は、保育の質の向上や保育内容をチェックする仕組みが十分に働いていない施設が多いという実態を踏まえ、保育の質を維持するために、事業主による自己管理もさることながら、行政による事業所内保育施設に対する監視・監督機能を強化することが必要である。その上で、事業所内保育施設を、親の勤務に派生する「託児施設」的な性格のものから、従業員のニーズに柔軟に対応し、「子どもの健全育成」を促す「次世代育成支援施設」に発展させることが望ましい方向性といえる。

 このように事業所内保育施設が、真に「次世代育成支援」としての機能を十分に発揮できれば、これからの少子社会において、企業、従業員、そして行政にとって、重要な役割を担う存在になる可能性があると思われる。(提供:第一生命経済研究所

【謝辞】
 事業所内保育施設に関するアンケート調査にご協力下さいました事業所内保育施設の皆様に、心より感謝申し上げます。

【注釈】
*1  事業所内保育施設は、児童福祉法に規定されており、認可外保育施設に該当する。詳しい法制上の位置づけについては、的場(2005)を参照されたい。
*2  ただし、一部の都道府県並びに政令指定都市、中核市における事業所内保育施設を除く。
*3  厚生労働省の調査によれば、在所児童に占める3歳未満児の割合は、事業所内保育施設では54.6%であるが、認可保育所では25.2%である。
*4  厚生労働省の調査によると、認可保育所における2004年度の休日保育実施率は約3%である。
*5  このような料金体系は、他の認可外保育施設や認可保育所に比べて安い。また、年齢が低い方の料金が高いのは、厚生労働省が定める児童福祉施設最低基準により、保育に従事する者の人数を低年齢児ほど多く配置しなければならないことが定められていることによる。ちなみに、遵守しなければいけない保育士配置の最低基準は、乳児は3人、1・2歳児は6人、3歳児は20人、4歳以上児は30人につき保育士1人となっている。
*6 年間の運営費用と常時保育の利用者数の相関をみると、Pearson の相関係数が0.756となっており、強い相関関係があることが示されている。また、常時保育の利用者数(人)を独立変数(X)、年間の運営費用(万円)を従属変数(Y)として、回帰分析を行ったところ、Y=837.321+52.670X の関係が導き出された(調整済みR2 =0.557)。実態としては、利用者15~20人で、年間運営費が2,000万円前後となることが示されている。
*7  業種別に設立年をみると、1995年以降に設立された事業所内保育施設は、医療施設では27.0%、民間企業では47.7%となっている。医療施設の保育施設は古くから設立されているものが多いのに対し、民間企業の保育施設は時代の要請により、最近設立されたものが多い。医療施設においては、看護職員等の確保という政策上の歴史的経緯がある。民間企業については、1994年に策定されたエンゼルプラン以降、事業所内保育施設の設置が促進されたことが背景にある。
*8  例えば、短時間勤務制度の実施率は民間企業35.6%、医療施設28.2%、所定外労働をさせない制度は同31.1%、同25.6%、フレックスタイム制は同15.6%、同5.1%、子どものための看護休暇制度は同13.3%、同5.1%となっている。
*9  21世紀職業財団には、「事業所内託児施設助成金」(設置費補助は2,300万円を限度に費用の2分の1。運営費補助も2分の1で、年間支給限度額は施設の規模、運営の形態によって異なり、例えば、15人以上20人未満の現員規模で1日11時間未満の運営の場合540万円。ただし、支給期間は運営開始から5年間)や「育児・介護費用助成金」(年間360万円を限度に、中小企業の場合、負担額の2分の1、大企業は3分の1)がある。こども未来財団では「保育遊具等助成事業」(40万円を限度に、実際に要した額から10万円を控除した額)を実施している。また、多くの自治体では、医療施設に対する「保育施設運営費補助事業」を実施している。また、自治体によっては、国の助成要件に満たない小規模な保育施設(定員が概ね10人未満)について、設置費、運営費の一部を助成する事業(富山県等)もある。
*10  21世紀職業財団の事業所内託児施設助成金の支給対象は、「乳幼児の定員が10人以上であること」、「事業所内託児施設の利用者は原則として、その雇用する労働者であること、ないし、小学校就学の始期に達するまでの子について利用できるものであること」となっている。
*11  現状でも、自治体においては、医療施設に対する補助や、財団による助成制度の支給対象外への補助を行っているが、将来的には、東京都等一部の自治体で実施している認可外保育施設に対する公費補助制度が普及し、事業所内保育施設も、このような制度を利用して安定的な運営を図る道を追求することが望ましいと思われる。

【参考文献】
・ 今田幸子・池田心豪,2004,「仕事と育児の両立支援策の拡大に向けて」JILPT Discussion Paper Series 04-012.
・ 日本労働研究機構,2003,「育児や介護と仕事の両立に関する調査」結果.
・的場康子,2004,「事業所内保育所の現状と課題」『Life Design Report(2004年3月号)』第一生命経済研究所:16‐23.
・的場康子,2005,「事業所内保育施設の利用実態について-事業所内保育施設の利用者に対する調査結果から-」『Life Design Report(2005年3月号)』第一生命経済研究所:16‐23.

研究開発室 副主任研究員 的場 康子