<雇用環境は大きく改善>

 このところ、企業業績の回復は著しい。いわゆるV字型回復ということである。その業績回復と軌を一にして雇用環境が好転し始めている(図表1)。完全失業率をみると、男性も女性も2002年まではほぼ一貫して上昇してきたが、このところ改善傾向となっている。男性は、03年の5.5%から昨年は4.9%と0.6ポイントも低下した。完全失業者数は04年には男性192万人、女性121万人で合計して313万人にまで減少した。ピーク時の02年には359万人もいたのだから、46万人減少したことになる。05年1月期では、完全失業者数は男性182万人、女性113万人で合計295万人と、ついに300万人を割り込んだ。これは1998年以来のことである。

失業率は低下したけれど
(画像=第一生命経済研究所)

<パートだけが増加>

 総務省の「労働力調査」から得られる失業率の統計は、全国全世帯の中から、無作為に選定した約4万世帯に居住する15歳以上の者約10万人を対象に、毎月調査しており、いわば働く側からみた雇用統計である。これに対して、雇用する会社を対象とした雇用統計として「毎月勤労統計調査」(厚生労働省)がある。これは、常用労働者5人以上の事業所を対象に、賃金、労働時間及び雇用の変動を調べる調査であり、3万3,000事業所を対象として毎月調査が行われる。この調査で対象とする労働者は、少なくとも1カ月以上雇われているか、過去2カ月の間にそれぞれの月で18日以上雇われた人である。ここでは、パートタイム労働者と一般労働者の2種類に分けられて統計がとられている。図表2はこれらの労働者数を2000年を100として指数化し、時系列で表している。これで分かることは、「労働者計」は97年、98年に100.8とピークを迎えた後は、03年までは一貫して低下してきている点である。つまり、雇用者数自体は減少しているのである(ただし、03年から04年にかけてやや下げ止まってはいる)。この中で、「一般労働者」の方は特に減少幅が大きく、04年には92.9と97年よりも10ポイント以上も少なくなってしまった。これに対して、パートタイム労働者の増加は著しいものがある。2000年以降でも毎年7ポイント前後増加し、04年には124.1にまで達した。雇用者数も一般労働者が3,201万人であるのに対し、パートタイム労働者も1,082万人と、今や4人に1人はパートタイム労働者が占めるに至った。

失業率は低下したけれど
(画像=第一生命経済研究所)

<賃金は上昇せず>

 企業の効率化の努力は、業績が拡大した現在でも続いている。それは、パートタイム労働者を増加させるだけでなく、従業員の賃金引き上げに対しても消極的な姿勢を示していることにも表れている。図表3は、一般労働者とパートタイム労働者の月間の現金給与総額を時系列で表したものである。これによると、一般労働者もパートタイム労働者も97年以降ほとんど金額が増加していないことが分かる。一般労働者では、97年と比較すると、04年は9,400円も減少していることを 示している。これまで、右肩上がりで賃金が伸びてきた我が国労働者からみると、少なくとも7年間も賃金が増加しない事態は異常といえるかもしれない。パートタイム労働者も97年の9万4,700円が04年でも9万4,200円とほとんど変化していないのである。

失業率は低下したけれど
(画像=第一生命経済研究所)

<卸・小売業の賃金は減少>

 このような厳しい賃金水準の推移は、すべての産業に一律にみられるのではなく、産業によって差が出てきている。図表4は、賃金の対前年増減率を調査産業計と製造業、卸・小売業で比較した図である。製造業は92年以降、常に調査産業計を上回っている。また、03年、04年はそれぞれ1.8%、1.5%増加しており、ここ1~2年の間の製造業で輸出を中心とした業績回復の恩恵が賃金の方にも反映している結果となっている。これに対して、卸・小売業は93年以降、調査産業計をほとんど常に下回っており、特に98年からは、対前年の増減率が常にマイナスとなってしまっている。02年には-4.7%と92年以降最も大きな減少率であった。この背景としては、個人消費が冷え込み、百貨店、スーパーといった伝統的な小売業態が、ここ数年売上不振に見舞われていることがあげられよう。ただし、ここでの賃金水準は一般労働者とパートタイム労働者を合わせた数値であるから、パートタイム労働者が増えれば、それだけ賃金水準も低下することに留意しておかなければならない。

失業率は低下したけれど
(画像=第一生命経済研究所)

<経済活性化のためには>

 我が国の経済は、現在はエレクトロニクスを中心とした海外市場、特に中国への輸出の好調さが牽引しているといえる。その一方で、国内市場では価格面での競争激化により、売上や利益の増加が図れない構造となってしまっている。流通業はこの典型で、海外市場に頼ることができないことから、業績が伸び悩んでいる。その結果、労働者の賃金が上がらないのであろう。

 統計上は失業率が低下し、雇用が拡大したといえるが、パートタイム労働者の増加、賃金の伸び悩み・低下という別の雇用問題も持続している。所得の伸び悩み→消費マインドの低下→低価格志向→価格競争の激化→企業の売上・利益の低下→企業業績の低迷→人件費の削減→所得の伸び悩み、というようなマイナスのサイクルに陥っているのが我が国経済の現状であろう。このようなマイナスの連鎖をどこかで断ち切らなければならない。(提供:第一生命経済研究所

研究開発室 鈴木 征男