<定年後の選択肢、「働く」>

 最近のセミナーでは、受講者に定年後の家計収支を実際に計算していただき、課題をより身近に体験していただくケースが増えてきた。結果は、大多数の方は資産を取り崩しても資金不足となり、うまくいかない。正に、定年後の生活が経済的に“何とかなる”という時代から、“何とかなるかどうかわからない”時代にさしかかってきた、ということを強く実感する瞬間である。課題の解決には、定年後も確実な収入となる「働く」という選択肢が極めて重みを増してきた、といえる。

 これまでのように、生きがいや社会参加を主な動機とした就労だけではなく、「収入確保」という切実な事情から、働かざるをえない定年退職者が今後増えてくることは間違いない。そこで、「働き方」の選択により社会保険の負担や給付額がどのように変わるのか、主な2つのケースでみてみたい。

<常勤でフルタイム勤務>

定年後も常勤で「フルタイム勤務」の場合は、厚生年金・健康保険・雇用保険に加入する必要がある。このため、保険料負担は継続するが、給付の留意点は以下のとおりである。

 ①老齢厚生年金は一定収入以上になると、在職老齢年金として減額、または全額支給停止される。また、②継続雇用で新給与が60 歳時点に比べ75%未満では、一定の条件を満たせば65 歳まで雇用保険から高年齢雇用継続給付金が支給される。ただし、③雇用保険からの高年齢雇用継続給付金は全額受給できるが、年金との併給調整が行われ、在職老齢年金は削減される。なお、④在職老齢年金は年収、高年齢雇用継続給付金は月給をベースとして金額が算出されることも押さえておきたい。従って、この勤務形態を選択すると、収入源は最大「給与・公的年金・雇用保険給付」の3つとなる。

<パート等で短時間勤務>

 「短時間勤務」については、①週20 時間未満勤務、②週20 時間以上30 時間未満勤務(厚生年金では日数か時間のいずれかが一般社員の3/4未満)の2区分で考える必要がある。

 ①は、いずれの職域保険にも加入しない働き方である。このケースでは、社会保険の保険料負担は発生せず、「老齢厚生年金」も全額受給できる。②は、雇用保険には加入する必要がある。雇用保険の保険料負担は発生するが、定年後の新給与によっては雇用保険から高年齢雇用継続給付金が支給されるので、会社を通じて忘れずに手続きをする必要がある。また、老齢厚生年金は全額支給される。

 以上、主要なケースを取り上げたが、最近は働き方も多様化してきている。例えば、定年後起業(個人事業主)や講演・原稿料等で収入を確保する方も増えてきた。この場合は、所得に関係なく厚生年金は全額支給されることになる。このように、働き方の選択により社会保険給付も変わってくるが、可処分所得の把握には、社会保険給付の課税も含めた制度の理解も不可欠となることを指摘しておきたい。(提供:第一生命経済研究所

セミナー推進室 茅島 伸年