第一生命保険相互会社(社長 斎藤 勝利)のシンクタンク、(株)第一生命経済研究所(社長 石嶺 幸男)では、全国の事業所内保育施設と利用者を対象に、標記についてのアンケート調査を実施いたしました。
この程、その調査結果がまとまりましたのでご報告いたします。
目次
≪アンケート調査の実施概要≫
【事業所内保育施設に対する調査より】 ■ 施設を設立したきっかけ ■ 施設を設立した目的 ■ 施設の設置に対する社内の評価 ■ 施設における保育の質の管理方法 ■ 施設の設置・運営における問題点と課題 ■ 施設から行政に対する要望
【利用者に対する調査より】 ■ 利用者の就業形態別にみた利用経路 ■ 利用者の施設の利用理由 ■ 利用者の施設に対する評価 ■ 利用者から施設等に対する要望
■ 研究員のコメント
※ この冊子は、当研究所隔月発行の調査報告書、「ライフデザインレポート」3月号、及び5月号をもとに作成したものです。「ライフデザインレポート」をご希望の方は、右記の広報担当までご連絡いただくか、または下記のホームページよりお申し込みください。
≪アンケート調査の実施概要≫
※本調査の対象について 事業所内保育施設は、厚生労働省「平成15 年地域児童福祉事業等調査」によると、2003 年10 月1 日現在、全国に979 施設ある。その設置主体別の内訳は、「会社」が500 施設、医療法人・社会福祉法人に相当する「その他」が416 施設、「個人」が39 施設、「任意団体」が24 施設となっている。
本調査において対象とした事業所内保育施設は、このうち、「会社」と、医療法人・社会福祉法人に相当する「その他」により設立された施設である。したがって、母集団は、会社が500 施設、医療法人等が416 施設となる。
本調査の実施にあたり、当研究所では、各都道府県から直接事業所内保育施設に関する資料を入手し、これを基に調査票を発送した。ただし、発送にあたっては、同じ企業によって全国各地に複数設置されている保育施設については、一部を除き対象外とした。そのような保育施設は運営状況等が同質であると推測され、全てを対象とすると調査結果に偏りが生じるからである。したがって、本調査の対象は、
①「会社」による設置の施設については、入手可能な都道府県資料をもとに、上記のような保育施設の一部を除いて全施設を対象とし、238 施設に発送した。各種資料を基にした筆者の推計によると、母集団に対する本調査発送施設の割合は75%ほどである。
②「医療法人」等による設置の施設については、同じく入手可能な都道府県資料をもとに、無作為に抽出し、141 施設に発送した。母集団(上記の厚生労働省調査による416 施設)に対する本調査発送施設の割合は34%ほどである。①の「会社」による設置施設よりも発送数が少ないのは、回収率を予測し、結果的に回収ベースで①と②の均衡を図るためである。
施設を設立したきっかけ
民間企業は「経営トップの経営的な判断から」(68.9%)、医療施設は「従業員からの要請に応えて」(53.8%)が最も多い。
事業所内保育施設を設立したきっかけについてたずねたところ、全体では、「経営トップの経営的な判断から」(56.6%)が最も多い結果となりました。
しかし、医療施設と民間企業の間では、回答内容に違いがみられ、民間企業は「経営トップの経営的な判断から」(68.9%)、医療施設は「従業員からの要請に応えて」(53.8%)への回答割合が第1位となっています。
また、民間企業については、「経営トップの経営的な判断から」(68.9%)と「次世代育成支援対策の一環として」(28.9%)への回答割合が、それぞれ医療施設よりも20 ポイント以上高い結果となりました。
施設を設立した目的
民間企業は「従業員の仕事と育児の両立支援」(84.4%)、医療施設は「人材の確保・定着」(92.3%)が最も多い。
事業所内保育施設を設立した具体的な目的についてたずねたところ、全体では、「人材の確保・定着」(84.7%)が最も多く、次いで「従業員の仕事と育児の両立支援」(74.1%)、「従業員に対する福利厚生として」(63.5%)という結果となりました。このようなことから、全体的な傾向としては、事業所内保育施設は、経営トップの判断から、人材の確保・定着を目的にして設立されているということがうかがえます。
民間企業と医療施設の回答内容の違いについては、民間企業は「従業員の仕事と育児の両立支援」(84.4%)への回答割合が最も高いですが、医療施設は「人材の確保・定着」(92.3%)が最も高い結果となりました。
施設の設置に対する社内の評価
民間企業は「入社希望者の応募が増えた」(68.9%)、医療施設は「女性従業員の出産を理由とした退職が減った」(76.9%)が最も多い。
事業所内保育施設の社内での評価についてたずねたところ、全体では、「女性従業員の出産を理由とした退職が減った」(50.6%)と「入社希望者の応募が増えた」(50.6%)への回答割合が最も高く、全体の約5割を占めていました。
前者は医療施設に多く、後者は民間企業に多いという特徴がありますが、全体としては、設立の目的通り、人材の「定着」と「確保」に寄与しており、その効果が認識されていることがうかがえます。
施設における保育の質の管理方法
「保育士、幼稚園教諭等、資格保持者のみが子どもの保育にあたっている」(76.5%)が最も多いものの、保育士の育成や保育内容をチェックする仕組みづくりを行っている施設はまだまだ少ない。
事業所内保育施設の運営にあたっては、施設の性格上、保育の質の管理に細心の注意を払う必要があります。そこで、どのように保育の質の管理、及び維持を図っているかをたずねました。
全体では、「保育士、幼稚園教諭等、資格保持者のみが子どもの保育にあたっている」(76.5%)が最も多い結果となりました。
ただし、保育の質の確保のためには、保育士の育成や保育内容をチェックする仕組みが不可欠であり、実際に多くの認可保育所で行われていることです。調査結果をみる限りでは、「保育士の研修を定期的に行っている」(50.6%)や「保育園と会社との間で情報交換を積極的に図っている」(28.2%)と、このような仕組みづくりを行っている事業所内保育施設はまだまだ少ないようで、改善の余地があると思われます。
施設の設置・運営における問題点と課題
「事業所内保育施設の運営にかかる費用の負担が大きい」(71.8%)が最も多いなど、費用負担の重さを訴える声が多い。
事業所内保育施設の設置・運営にあたっての問題点については、全体では、「事業所内保育施設の運営にかかる費用の負担が大きい」(71.8%)が最も多く、次いで「事業所内保育施設の設置にかかる費用の負担が大きい」(34.1%)となっています。また、「補助金の助成が受けられる条件が厳しい(合わない)」への回答も25.9%となっており、費用負担の重さを訴える声が多いのが現状です。
21 世紀職業財団やこども未来財団、さらに自治体においては、事業所内保育施設に対する助成制度を実施しており、実際にこれらを利用している施設が多いにもかかわらず、運営の厳しさを訴える施設が多いのが実情のようです。従業員からのニーズがあるにもかかわらず、事業所内保育施設の設置率が低いことの背景には、このような費用負担の重さが一つの要因になっていることがうかがえます。
施設から行政に対する要望
「運営にかかる単年度ごとの助成金をもっと多くして欲しい」(65.9%)が最も多いなど、費用負担の軽減策を訴える意見が多い。
行政に対する要望に関しては、前述の費用負担の重さに関連して、負担の軽減策を訴える意見が目立ちます。つまり、全体では、「運営にかかる単年度ごとの助成金をもっと多くして欲しい」(65.9%)が最も多く、6割以上の施設が回答しているほか、「事業所内保育施設を運営している事業者には、法定福利厚生費の軽減等の優遇策を図ってもらいたい」(40.0%)、「助成が受けられる条件を緩和して欲しい」(38.8%)といった項目も約4割となっています。
「助成が受けられる条件を緩和して欲しい」については、自由回答欄にも多くの意見が寄せられており、具体的には、定員10 名未満の施設であっても、また、利用対象を地域の子どもや学童まで広げても、助成の対象として欲しいといった意見が目立ちまし た。
利用者の就業形態別にみた利用経路
「もともと勤務→当施設利用」(出産前から継続勤務)は59.6%、「家庭→当施設利用」(再就職して勤務)は34.6%。
事業所内保育施設利用の経路としては、大きく2つのパターンがあります。
一つは、もともと出産前から勤務していて、産後休暇や育児休業を取得した後、勤務先の事業所内保育施設を利用しているパターンで、もう一つは、いったん家庭に入っていたが、事業所内保育施設を設置している会社に再就職し、その保育施設を利用しながら勤務をしているパターンです。
調査結果によれば、前者が約6割、後者が4割弱となっています。就業形態別にみると、正社員・正職員は、前者のパターンが多く、パート・アルバイトは後者のパターンが多い結果となりました。
利用者の施設の利用理由
「勤務している会社の保育園だから」(91.3%)が最も多く、“物理的な便利さ”よりも、“子どもが近くにいる”という安心感を強く意識して利用している人が多い。
事業所内保育施設の利用理由については、「勤務している会社(病院等)の保育園だから」(91.3%)への回答が9割以上となっています。次いで、「子どもが近くにいるので安心できるため」(45.2%)といった精神的な理由が約5割、「勤務時間に合わせて、預けることができるため」(34.6%)や「勤務先のそばにあり、送迎や通勤に便利だから」(31.7%)といった物理的な理由が約3割となっています。
このことから、どちらかというと、“地元の認可保育所に入れなかったから”という次善の策としてでなく、“勤務先の保育園だから”という積極的な理由で利用している人が多いことがわかります。しかも、具体的には、“物理的な便利さ”よりも“子どもが近くにいる”という安心感を強く意識して利用している人が多いようです。
利用者の施設に対する評価
「子どもを預けながら働くことができてよかった」(85.6%)が最も多く、病児対応や育児相談等、付加価値的な機能に対する評価は、相対的にみて低い。
事業所内保育施設を利用して、どのように感じているかをたずねたところ、「子どもを預けながら働くことができてよかった」(85.6%)への回答割合が8割以上を占めていました。次いで、「子どもがそばにいるので安心である」(50.0%)と「子どもの遊び友達が増えてよかった」(50.0%)が、それぞれ5割となっています。
概して、事業所内保育施設が、育児と仕事との両立支援に寄与し、働く親にとっても、また、子どもにとっても、安心して利用できるものとして評価されていることがうかがえます。
しかしながら、「軽い病気の時も預かってもらえるので助かる」(39.4%)、「保育園の先生などに気軽に子育ての相談事ができてよかった」(35.6%)への回答割合は4割弱と、病児対応や育児相談等、付加価値的な機能に対する評価は、相対的にみて限定的であるといえます。
利用者から施設等に対する要望
「子どもの看護のための休暇制度を充実してほしい」(51.9%)が
最も多い。
最後に、勤務先や事業所内保育施設、社会全体に対する要望をたずねたところ、「子どもの看護のための休暇制度を充実してほしい」(51.9%)への回答割合が最も多く、約5割を占めていました。次いで、「保育園を利用できる時間を長くしてほしい」(34.6%)、「保育園の利用料金を安くしてほしい」(32.7%)への回答割合が約3割、「子どもが軽い病気の時でも預かってほしい」(24.0%)が約2割となっています。
子どもの看護のための休暇制度については、育児・介護休業法の改正により、今年4月から義務化されたため、今後は多くの事業所においてその対応が図られると思われます。しかしながら、たとえ「看護休暇」が用意されても、仕事の都合上、そう長くは休めないこともあり、そのために、集団保育がまだ無理な、病気回復期にある子どもを預かる「病児保育」への対応も望まれていると思われます。
研究員のコメント
本調査は、企業の両立支援策における事業所内保育施設の意義と課題を明らかにするために行いました。
その結果、施設調査からは、事業所内保育施設は概ね、経営トップの経営的な判断から、人材の確保・定着を目的として設立され、その目的通りの効果が認識されていることがわかりました。
他方、利用者調査により、利用者は事業所内保育施設を仕事と子育ての両立のために有効な施設として認識していることがわかりました。しかも、事業所内保育施設は、フルタイムの正社員のみならず、パート労働者に対しても両立支援として機能しているようです。優先順位の関係上、パート労働者は、認可保育所を利用できにくい場合があっても、勤務先に事業所内保育施設があれば、小さな子どもを預けてパートとして働くことができます。まさに事業所内保育施設は、女性の働き方の選択肢を広げる役割も果たしていることが指摘できます。
さらに、事業所内保育施設は、3歳未満児を多く受け入れ、かつ、開所時間も認可保育所なみか、あるいは施設によってはそれ以上の体制で運営をしており、いわば、行政が整備を図っている認可保育所の補完として機能している面があります。
このように、企業にとっても、従業員にとっても、そして行政にとっても、事業所内保育施設の意義が確認でき、今後これを普及させることは両立支援策のための保育所の整備に有効であることが示唆されました。
しかしながら、調査の結果を見ると、企業にとっては、運営上の問題点として、事業所内保育施設の運営にかかる負担が大きく、質を維持しながら安定的な運営をすることが大きな課題となっています。
また、利用者である従業員からの要望として、一つには、病児保育や延長保育の充実等、事業所内保育施設であっても「就労支援」としての機能のさらなる強化が指摘されました。また、一方では、親の勤務とは独立した保育(すなわち、親の平日の休暇日でも預かって欲しいという意見等)を望む声も多く、集団保育の中での「子どもの健全育成」としての機能にも光を当てる必要性も確認されました。すなわち、働く女性とその子どもにとっての「次世代育成支援」としての機能を強化させることが期待されています。
そこで、上述のような企業や従業員にとっての課題を踏まえ、両立支援としての事業所内保育施設の充実を図るために、以下の二点を提言したいと思います。
第一は、事業所内保育施設に対する公的支援のさらなる拡充です。現行では、国の制度として、21 世紀職業財団やこども未来財団による助成制度がありますが、支給対象等の制約があり、限定的な活用しかなされていないようです。したがって、一つには、助成金の支給の仕方について、施設のニーズに合わせ、その支給条件を緩和し、多くの事業所が活用しやすくすることが考えられます。もう一つには、自治体における事業所内保育施設に対する補助事業を拡充させることも考えられます。このように事業所内保育施設に対する公的支援を拡充し、企業との共同による保育所整備を進めることにより、低年齢児保育、休日保育、延長保育の充実につながれば、量的にも、そして内容的にも保育所整備の底上げにつながると思われます。他方、企業にとっても、人材確保のために両立支援策を推進しやすくなります。そして、それらのことは、結果的には、国が進める次世代育成支援策の強化につながり、少子化の流れを変えることに寄与する可能性もあるでしょう。
第二は、保育の質を維持するために、事業主による自己管理もさることながら、行政による事業所内保育施設に対する監視・監督機能を強化することが必要です。その上で、事業所内保育施設を、親の勤務に派生する「託児施設」的な性格のものから、従業員のニーズに柔軟に対応し、「子どもの健全育成」を促す「次世代育成支援施設」に発展させることが望ましい方向性と思われます。そうすることによって、従業員が、両立生活のストレスを緩和することができ、そのことで、事業主にとっては、従業員の潜在能力を十分に発揮させて生産性の向上に寄与できれば、事業所内保育施設の本来の役割が達成され、投資した以上の見返りも期待できるでしょう。
このように事業所内保育施設が、真に「次世代育成支援」としての機能を十分に発揮できれば、これからの少子社会において、企業、従業員、そして行政にとって、重要な役割を担う存在になる可能性があると思われます。(提供:第一生命経済研究所)
研究開発室 副主任研究員 的場 康子
株式会社 第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 広報担当:丹野・新井 〒100-0006 東京都千代田区有楽町1-13-1