<依然として出産を機に仕事をやめる母親は多い>
厚生労働省は、少子化対策等を検討するための基礎資料を得るために、現在21世紀出生児縦断調査を実施している。この調査では、2001年の1月と7月に出生したすべての子どもとその親の状況を長期にわたって追跡して調べている。これほど大規模なサンプルを長期に追跡調査することはわが国では初めてのことである。調査は開始して間もないが、これまでに出生前後における母親の就業変化と育児環境の関連について多くのことが明らかになってきている。
まず、女性の社会進出がすすんできているとはいえ、今日においても依然として出産前後に仕事をやめる女性がきわめて多いことがあげられる。調査では、出生1年前、出生時、出生半年後、出生1年半後の4時点における母親の就業状態を調べている。この4時点のデータをもとに、出産1年前の就業状況からみた母親の就業変化パターンを分類したものが図表1である。この分類から次のことがいえる。まず、出生前に有職である者は第1子のときに73.3%にのぼるが、その後就業を継続している割合(Ⅰ就業継続型)は16.9%とごく少数に過ぎず、多くは出産前後に離職(Ⅲ出産前離職型、Ⅳ出産後離職型)していることが指摘できる。また、第2子についてみると、出生1年前には約3人に2人が無職になっている。これらの結果から、女性にとって仕事と育児の両立が依然難しいことが示唆される。
<出産後も有職の母親たちの特徴>
出産後にも就業している母親は少数派である。だが同調査からは、そうした母親たちの特徴を分析することで、母親の就業を可能にする育児環境の要因も浮かび上がっている。出生1年半後に母親が就業しているタイプ(Ⅰ就業継続型、Ⅱ一時離職型、Ⅵ就業開始型)の割合についてみると、13大都市よりも郡部の方が多い(図表2)。都市よりも郡部の方が、母親が就業を継続しやすい環境であるといえる。また、核家族世帯よりも三世代世帯等において、これらのタイプの割合が高い。祖父母と同居していれば彼らが育児を手助けしてくれるため、母親が就業を継続しやすくなる。なお、都市/郡部と世帯構成を組み合わせると、核家族世帯よりも三世代世帯等の方が就業を継続している母親が多いという特徴は、13大都市よりも郡部の方が顕著である。郡部では三世代世帯等であれば祖父母の支援により大幅に母親が就業を継続しやすくなるが、都市ではそうした効果はわずかである。郡部では祖父母と別居していても互いに行き来していることが多く、祖父母が育児支援者となることも多い(図表割愛)。
以上に示した点は、就業継続型の母親だけを取り出して、出生1年半後の平日の日中の保育者をみるとより明らかになる(図表3)。郡部では核家族世帯でも、祖母が日中に子どもをみている割合が比較的高い。一方、13大都市では保育者の多くは保育士等(すなわち保育園)である。以上の点をふまえると、祖父母という人的ネットワークを多く活用して母親の就業を可能にしているのが郡部の特徴であり、保育園を活用して母親の就業を可能にしているのが都市の特徴であるといえる。
また、母親の就業を可能にする育児環境のひとつとして、父親の育児参加もあげておきたい。「Ⅰ就業継続型」では、それ以外のタイプよりも、父親が食事の世話や遊び相手をしている割合が高い(図表4)。父親の育児参加も母親の就業を可能にする重要な要因のひとつであることがうかがえる。
<母親の就業を支える祖父母、保育園、父親>
以上の点をまとめると、データからみえてきた母親の就業を可能にする要因は、育児支援可能な祖父母の存在(同居、近居)、保育園の利用、それに父親の育児参加である。日中の保育者として祖父母と保育園は代替的である。母親が就業する際に、都市では保育園に子どもを預けることが多い。これに対して、郡部では祖父母に育児を手伝ってもらうことが比較的多い(郡部の三世代世帯等では、日中の保育者の約半数が祖母で、保育園は3割である)。現在、就業する母親の増加に伴って保育園の定員の拡大が求められている。無論、保育園の拡充は都市と郡部の双方で大切な問題だが、本調査結果をみる限り、都市においてそれは喫緊の課題であるといえよう。都市では、祖父母の人的ネットワークを柔軟に活用できる余地が少ないため、保育園に子どもを預けられないことが母親の仕事の中断に直結するリスクを高くするとみられるからである。また、現状ではまだ低い父親の育児参加を増やすことも、母親の就業をより可能にするとみられる。(提供:第一生命経済研究所)
研究開発室 松田 茂樹