<早まる採用活動の時期、採用人数も増加>

 早くも年度末の3月を迎え、来月には新年度がスタート、新入社員が入社してくる時期となった。しかし、既に再来年度(2005年卒業予定者)の採用活動もスタートしているようである。

 図表1は、日本経済団体連合会がおこなった2003年度新卒採用者に対するアンケートの結果である。これによると採用活動を2月以前に始めた企業の割合は26.4%と4分の1以上を占める。3月も含めれば6割以上の企業が採用活動を開始している。また、採用活動の開始が「前年より早くなった」と回答した企業の割合は27.6%(「変わらなかった」66.9%、「遅くなった」5.5%)となっており、早期化がすすんでいる。

 また、採用実施企業は前年度より6.4ポイント増の85.7%。このうち、採用人数を「増加した」企業が35.1%と前年度(27.4%)に比べ7.7ポイント増加する一方、減少した企業は26.4%で11ポイント減少した。景気回復を先取りした就職環境の好転の兆しなのだろうか。

保守化する新入社員
(画像=第一生命経済研究所)

<厳しさが続く就職内定状況>

 ところが厚生労働省と文部科学省が実施した「2003年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査」をみると(図表2)、大学卒業者の就職内定率は10月1日現在で60.2%、12月1日現在で73.5%と前年度に比べてそれぞれ3.9ポイント、3.2ポイント減少している。前年度まで横ばいないし若干改善傾向で推移してきた内定率が大きく落ち込んでおり、これを見ると就職環境はより悪化していることになる。

 この2つの調査のギャップをどう考えるべきか難しいところはあるが、考えられるのは日本経済団体連合会の調査は製造業の大企業中心の調査であり、製造業の大企業においては新卒者の就職環境が改善されてきているが、中小企業等それ以外においては悪化が進展し、全体の新卒者の就職環境は悪化していると考えることができる。その製造業の大企業も同調査では採用予定数に対する充足率が前年度より悪化している。充足率が「100%」との回答は62.1%、「90%程度」が21.8%、合計83.9%(前年度95.9%)となっており、「良い人材を早く動いて採用したい」という採用意欲は増加しているが、「良くない人材をあえて採用することはしない」という選別採用の傾向が一層強くなっていると考えられる。新卒者の就職環境は、依然厳しいといわざるを得ない状況である。

保守化する新入社員
(画像=第一生命経済研究所)

<保守化する新入社員>

 それでは、その選別採用された新入社員はどのような人たちであろうか。

 図表3は社会経済生産性本部が実施した「第13回2003年度新入社員半年間の意識変化調査」の結果である。これをみると、給与の決め方として「年功的な処遇」を希望する割合が増加し、「ミーティングの席で先輩の意見に反するアイデアを思いついても、先輩の顔をたてて黙っている」とした回答が増え、「なじめない仕事をがまんして続けるのは無意味」を肯定する回答は減少してきている。しかも、この傾向は春よりもより企業文化になじんだ秋に顕著に表れている。組織に内在する序列を重視し、組織に従順な保守化の傾向が強まっていると言える。新入社員としては、厳しい就職戦線をくぐりぬけるために、企業のめがねに適う「優等生」となるべく保守化する必要があったと考えられ、逆に企業としては、そのような組織に従順な「優等生」を選別して採用したといえるだろう。

保守化する新入社員
(画像=第一生命経済研究所)

<多様な要素こそ重要>

 厳しい雇用環境の中、若年失業者の問題が深刻化して久しい。恒久的な職を得られなくても生活ができる豊かな社会の中の自由としてとらえられた「フリーター」が、今や職を得たくても得られない「失業者」に転化している。その中で、大企業において採用意欲が増加してきたとするならば、非常に喜ばしいことである。しかしながら、買い手市場の就職戦線において、企業が組織に従順な「優等生」を選別採用し、採用される側もそれに対応して「優等生化」しているとすれば、これも大きな問題ではなかろうか。

 企業側にとっても、組織に従順な「優等生」ばかりでも困るであろう。実際、先の調査でも選考にあたって重視する点として「コミュニケーション能力」(68.3%)、「チャレンジ精神」(58.0%)、「主体性」(45.7%)が上位にあげられている。多様な人材が有機的に機能してこそ強い組織が生まれると考えられ、多様な個性が必要ではなかろうか。

 他方、採用される側にとっては、「優等生」になったものは就職できるが、それ以外の能力のある「非優等生」の多くが失業者になるとすると「優等生」を目指さないものは、たとえ能力があっても企業の世界ではその能力を生かせなくなる。もちろん、企業に就職するだけが能力を生かす道ではないが、起業や自由業といった世界で自立していくことも簡単ではない。その中の少なくない割合がフリーターと呼ばれる失業者となるとすれば、その能力が何の訓練もされず埋もれてしまうことになる。各個人としても大きな機会損失であるが、社会としても大きな損失である。

 このように企業、採用される側としての個人、社会の3者いずれにとっても、単純な保守化は得るものが少ない。デフレ不況の環境下ではあるが、企業はもちろん社会全体として多様性を受け入れていける仕組みと風土をつくる努力をするとともに、採用される側としても安易な保守化をするのではなく、個性を発揮してもらいたいものである。(提供:第一生命経済研究所

研究開発室 荒川 匡史