このところ「世代間対立」という言葉を頻繁に耳にするようになった。
一つは年金をめぐってである。年金改革が政治の大きなテーマとなり、マスコミは年金特集の花ざかりである。日本の公的年金は賦課方式を基本としてきたにもかかわらず、突然450 兆円の積立不足などと言われ出した。予想以上の高齢化で支払いが増える一方、少子化による担い手の減少のダブルパンチで、高齢者はもらいすぎ、逆に若い世代は負担した額すら受け取れるかどうか、というのは不公平、世代間平等の観点から支給額を大幅に減額せよ、という議論だ。
もう一つは失業の問題である。このところの失業率は5%台半ば、最近若干改善の兆しが見えるとは言え、高止まりしたままだ。その中でも特に若年層の失業率は10%を超えて全体の倍近くと高く、フリーターも広義には400 万人超といわれている。この原因の一つは、低成長の中で、企業の人余りが顕著になっているが、日本の人事制度のもとではリストラが充分に進まず、新陳代謝が遅れ、結果、若者の職を奪っているという議論だ。団塊世代があと数年で定年退職すると、入れ替わりやリストラが進み、企業の人件費負担が大幅に減り、企業収益上大きなプラスとの試算が出たりしている。
これらの問題はどう考えていったらいいのだろうか。もちろん、なんらかの調整が必要なことはいうまでもないが、しかし一方で共に働き、少子化をくいとめる努力をしていきながら、対立を超え共生をさぐっていくことが必要である。既に各々の現場では、その必要性が増し新たな動きが始まっているものもあり、その後押しをしていくことが重要だ。
日本の少子化はとどまることを知らない。2003 年の出生数は112 万1000 人で、またまた最少記録を更新した。現在団塊ジュニアが結婚、出産という世帯形成期を迎えており、本来なら、ここで団塊第3世代の出生数の山ができるところだが、全くその兆候がない。晩婚、非婚化が進んでいるうえ、子どもを持たない、あるいは持っても一人という人が増えているためである。その理由は色々考えられるが、共働きスタイルが定着してきたのに出産、育児環境がそれに追いついていないということが大きな原因の一つだろう。育休など制度の充実は図られているが、それでもなお子育ては大変である。実際のところ親と同居or近居していて、かなりバック・アップしてくれるという状況でないと相当の困難が伴うというところであろう。そこでいわれているのが、親代わりとしての地域ぐるみの対応である。出生率の低迷を脱したフランスで効果をあげているという「保育ママ」的なものも、この対応策の一つであろうし、介護等では事例のあるNPOや特区活用による活動なども視野に入れて、時間のとれる中・高齢者活用をシステム化していく発想が必要である。
一方、失業問題の関連では企業(製造)の現場では団塊世代の退職を前にいくつかのことが言われ出している。
日本企業の高付加価値化志向のなかで、この世代以前の層が長年つちかってきた匠の技術の活用の必要性が増している。また、昨年頻発した事故を教訓として、システムだけではチェックできないリスク管理のあり方なども継承がいることの一つであろう。ソフト開発面でも引き継ぎをキチンとしておかないとブラックボックス化したソフトの修正等で混乱がおこると言われ対応が急務となっている。やはり同じ悩みから、ドイツで始まった熟練者と若者によるデュアル教育システムの日本版など考えていく必要があると思われる。
中・高年の技術者が中国、東南アジアに大量に出ていっているが、日本でこそ活用が必要という面が大いにあるであろう。
日本の経済、社会をよくしていくために分配論の前にパイを大きくしていく工夫が求められている。共生をめざした工夫もまだまだいくらでもあるということを肝に銘じて取り組んでいくことが必要だ。
さて、今月はマンスリーレポートが宮木研究員の「「ママ友」の友人関係と通信メディアの役割」、ノーツが下開研究員の「働きつづける女性の仕事への意識」である。女性の仕事、子育てに関するレポートであり、これらに思いをめぐらし考える契機にしていただければ幸いである。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 代表取締役社長 石嶺 幸男