要旨

① 日本ヒーブ協議会が実施したアンケート調査から女性の仕事に関する意識をみたところ、1985年の調査開始以来はじめて、仕事をする理由の第1位に「生計を維持する」があげられた。

② 現在の働き方には約8割が満足している。満足の度合いは、勤続年数が10年以上の女性と10年未満の女性で差はみられなかった。職種別では、特に事務系で満足度が高い。

③ 仕事面での不満内容は、勤続年数にかかわらず、社内での将来性が見込めないことへの不満が最も高い。勤続10年以上では、職位や地位が上がらないことへの不満が高いことに加え、昇進・昇給・能力評価で男女の差を意識すると答えている。

④ 現在の雇用形態で働きつづけたい女性は約8割を占め、特に勤続10年以上で希望は強い。希望する雇用形態としては、フリーランスを希望する女性が約4割と最も多い。

1.働きつづける女性が少ない現実

 厚生労働省雇用均等・児童家庭局がまとめた『平成14年版 働く女性の実情』によると、正社員全体に占める女性の割合は30.3%にとどまっている。男性に比べて勤続年数が短く、年齢構成では若年層の比率が高い。学歴は、大学・大学院卒者の割合が16.5%と男性の32.7%に比して低くなっている。OECD の調査でも、日本の高学歴女性の労働力率は国際的にみて低い(図表1)。

 一方、内閣府の『男女共同参画社会に関する世論調査』(2002年)によれば、一般的に女性が職業をもつことについてどう考えるかという問いで、「子どもができてもずっと職業をつづける方がよい」と答えた割合は、1992年から2002年の間に男女全体で23.4%から37.6%に増加した。1992年には顕著であった男女の回答の差(男性19.8%、女性26.3%)も、2002年(同37.2%、38.0%)ではみられなくなった。一方、「結婚するまでは職業をもつ方がよい」(男女全体:1992年12.5%→2002年6.2%)や「子どもができるまでは、職業をもつ方がよい」(男女全体:1992年12.9%→2002年9.9%)の回答率は徐々に減少している。

 しかし、多くの女性にとって結婚や出産、育児による離職率は高く、その後の再就職は厳しい。そのような中、本稿では女性が働きつづけることをテーマとした調査データをもとに、働く女性が抱く仕事や今後の働き方への意識についてみていきたい。

働きつづける女性の仕事への意識
(画像=第一生命経済研究所)

2.データと分析対象者の属性

(1)データ

 分析に使用したデータは、有限責任中間法人日本ヒーブ協議会が2003年1月から2月にかけて実施した「働く女性と暮らしの調査」の調査データである。日本ヒーブ協議会とは、幅広い業種の企業から消費者関連部門で働く女性が集まり、1978年に設立された団体である。会員は、生活者と企業のパイプ役として情報や意見交換を活発に行い、企業活動や消費生活に役立てている。今回の調査概要は以下のとおりである。

• 対象者:日本ヒーブ協議会の全国の会員とその同僚、関係者
• 調査方法:留め置き調査法によるアンケート、郵送回収
• サンプル数:発送数1,196、有効回収数880(回収率73.6%)

 なお、この調査は1985年を第1回調査として、1990年、1994年、1997年、2000年に実施され、今回で第6回目となる。今回のテーマは、「女性が働きつづける社会に向けて」と題し、主に仕事への意識に関する調査項目に的を絞って実施された。

(2)分析対象者の属性

 分析対象者の属性は、日本ヒーブ協議会の会員が171名、会員以外が704名である。図表2の通り、今回の調査対象者の特徴として、①年代は30代が中心で、勤続年数も10年以上と長く働きつづけている女性が約6割を占め、②高学歴の女性が過半数、③勤務形態はおもに正社員(図表2でいう社員)であることがあげられる。

働きつづける女性の仕事への意識
(画像=第一生命経済研究所)

3.仕事をする理由

 仕事をする理由について、これまでの調査を時系列にみると、1994年までは「仕事を通じて自分を成長させたい」が第1の理由であったが、今回の調査では「生計を維持する」が1994年と比べて16ポイントも増え、最も多い回答となった(図表3)。厳しい経済状況・雇用環境の中、自分の成長のためといった自己満足的な理由は低下する一方で、生計のために働くという現実的な理由にシフトしてきているようだ。

 勤続年数別でみると、勤続10年以上の女性では「生計を維持する」が半数以上と最も多く、ついで「仕事を通じて自分を成長させたい」となっている。一方、10年未満の女性ではその逆で、「仕事を通じて自分を成長させたい」が過半数の回答率で第1の理由となっている。また、「職業を持つのがあたりまえ」では、勤続10年以上の方が10年未満よりも多く回答している。勤続年数が長い女性にとって、仕事は生計を維持するための生活上重要なものとして位置づけられている。

働きつづける女性の仕事への意識
(画像=第一生命経済研究所)

4.現在の働き方の満足度・不満度

(1)現在の働き方への満足度

 現在の働き方に対する満足度は、“満足している”(「非常に満足している」と「まあ満足している」の合計)が約8割を占めた(図表4)。勤続年数別では、勤続10年以上で満足している割合が82.4%と高く、10年未満では75.3%となっている。職種別では、最も“満足している”割合が高いのは事務系で8割以上であった。

 既存調査をみると、日本労働研究機構研究所による現在の勤務先に対する満足度についての調査(1998年)では、20代と30代を中心とした大卒の有業女性のうち約6割が満足していた。また、回答者が主に勤続10年未満であった21世紀職業財団の調査(2000年)でも仕事への満足感があるとの回答は6割程度であった。前記の2つの調査と比べ、高学歴で勤続年数が長い者が多い今回の調査では、働き方への満足度は高い結果となった。

(2)仕事面での不満内容

 現在の仕事面での不満について、全体で最も回答が多かったのは、「自分の社内での将来性が見込めない」(36.7%)、ついで「仕事が忙しすぎる」(25.3%)となった(図表5)。勤続年数別にみると、勤続10年以上、10年未満ともに、「自分の社内での将来性が見込めない」が最も高くなっている。一方、勤続10年以上では10年未満と比較して、「職位や地位が上がらない」と「仕事が忙しすぎる」に対する不満度が高くなっている。逆に、「仕事に見合った給料が得られない」と「定型的な仕事で面白くない」が10年未満で若干高くなっているが、それ以外の項目では特に差がみられない。

働きつづける女性の仕事への意識
(画像=第一生命経済研究所)
働きつづける女性の仕事への意識
(画像=第一生命経済研究所)

(3)職場における男女差の意識

 職場で男女差を意識する女性は、全体では85.8%と非常に多い(図表省略)。男女差を意識する内容は、「昇進」(57.6%)、「仕事の内容」(40.7%)、「昇給」(40.5%)の順となっている(図表6)。

 勤続年数別でみると、勤続年数の長短で大きく差がみられた。「その他」を除くすべての項目で、勤続10年以上の方が男女差を意識すると答えた割合が高い。特に差がみられたのは、「昇進」(10年未満との差27.5ポイント、以下同)、「昇給」(20.3)、「能力評価」(17.9)の3項目である。「仕事の内容」(8.4)や「異動・転勤」(6.4)でも勤続10年以上でやや多い。職種別でみると、事務系では他の職種と比べ「仕事の内容」(45.7%)と「昇給」(43.8%)で男女差を意識する傾向が強くみられた。

 勤続年数に限らず、社内での将来性が見込めないことへの不満内容は高かったが、その背景にはこうした男女差も大きな要因となっているのではないかと思われる。

働きつづける女性の仕事への意識
(画像=第一生命経済研究所)

5.職業能力

 現在身につけている能力を勤続年数別にみると、勤続10年以上、10年未満ともに「専門分野における知識・技術・技能」が最も高い(図表7)。「社内の人脈・ネットワーク」は勤続10年以上で約6割と高い。その他の項目では特に差はみられない。

 職種別では、技術系で「専門分野における知識・技術・技能」と「コンピューター等の情報・通信に関する専門知識・技術」が、企画・開発・研究系で「社内の人脈・ネットワーク」や「社外の人脈・ネットワーク」の回答率が高い。

働きつづける女性の仕事への意識
(画像=第一生命経済研究所)

 社外でも通用する能力は、勤続年数別で差はみられなかった。職種別では、技術系の「専門分野における知識・技術・技能」が、企画・開発・研究系では「社外の人脈・ネットワーク」が高い。事務系では「特にない」(44.3%)と答えた割合が高い。

 今後身につけたい能力は、全体で「英語等の語学力」(55.1%)が最も高い。勤続年数別でみると、勤続10年以上は10年未満と比べて「管理職としてのマネジメント能力」が高く、逆に10年未満は、「英語等の語学力」、「社内の人脈・ネットワーク」、「専門分野における知識・技術・技能」が高い。職種別では、企画・開発・研究系で社外の人脈やコンピューター等の専門知識以外の項目で回答率が高くなっている。

6.今後の働き方

 今後、現在の雇用形態で働きつづけたいかどうかについて、「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」を合計すると約8割にものぼり、継続勤務を希望する割合は高い(図表8)。勤続年数別では勤続10年以上で希望割合は高く、10年未満と比較して約10ポイント上回っている。職種別では、現在の雇用形態での継続勤務希望が高いのは、営業・サービス系、事務系、企画・開発・研究系、技術系の順となっている。事務系についてみると、仕事の内容や昇給で男女差を意識する割合が高かったが、全般的に現在の働き方への満足度は高く、現在の雇用形態は維持したい傾向がみられる。

働きつづける女性の仕事への意識
(画像=第一生命経済研究所)
働きつづける女性の仕事への意識
(画像=第一生命経済研究所)

 一方、「どちらかといえばそうは思わない」または「そう思わない」と答えた人では、希望する雇用形態として最も回答が多かったのは「フリーランス」(39.6%)であった(図表9)。勤続10年以上では、「起業」の回答率が10年未満と比較して高い傾向にある。職種別では、技術系の回答者17人中15人が「フリーランス」と回答している点が目立つ。

7.まとめ

 今回の調査結果をまとめると以下の通りである。調査対象者は、高学歴で勤続年数が10年以上の長期就業継続の女性が過半数であった。勤続10年以上の女性が働く理由として最も多かったのは、生計の維持である。働き方に対する満足度は、勤続年数による差はみられず、約8割にものぼる多くの女性が満足していた。しかし一方で、職場で男女差を感じる女性は少なくない。具体的には、勤続10年以上の女性では昇進、昇給、能力評価など、働きつづけることで感じることの多い項目への回答が多かった。また、自分が身につけている能力についてみると、勤続年数の長短にかかわらず専門知識をあげる割合は6割以上と高い。当然ではあるが、勤続年数が長いほど社内の人脈・ネットワークをあげる割合が高いこともわかった。しかし、こうした社内の人脈・ネットワークは社外で通用するとは考えておらず、社外で通用する専門知識を有していると回答した人は4割程度に過ぎない。

 さらに今回の結果から、高学歴の女性では勤続年数にかかわらず自分の能力に対して低い評価をしていることがわかった。ただし、技術系などでは自己の能力評価は高く、勤続年数に応じて専門的能力もより高まる可能性もあることから、フリーランスなど現在と異なる雇用形態の希望も高い。一方、事務系では、他の職種に比べ仕事内容について男女差を感じる割合が高い反面、社外で通用する能力の自己評価は総じて低いこともあって、現在の雇用形態で働き続けたい意向が高くなっている。(提供:第一生命経済研究所

【謝辞】
 今回の調査データをご提供いただいた有限責任中間法人日本ヒーブ協議会に対し、お礼申し上げます。なお、筆者は日本ヒーブ協議会の同調査の調査メンバーであった。

【参考文献】
・厚生労働省雇用均等・児童家庭局,2003,『平成14年版 働く女性の実情』・内閣府,2002,『男女共同参画社会に関する世論調査』
・ 21世紀職業財団,2000,「意思と夫の協力と企業風土が継続のカギ」『賃金・労務通信』,2000.7.5
・ 日本ヒーブ協議会,2003,「働く女性と暮らしの調査」,2003.10
・ 日本労働研究機構研究所,1998,「高学歴女性と仕事に関するアンケート」

研究開発室 研究員 下開 千春