シンカー:高齢化社会を考える上で、よくある間違いが次のような考え方である。1990年には、65歳以上の高齢者一人を5.8人の現役世代で支えていた。高齢者人口がピークとなる2040年には1.5人で支えることになり、社会保障を含む財政が崩壊するリスクが高い。よく見かける高齢者を現役世代が担ぐ徐々に重くなっていくお神輿の図が使われる。お神輿の図がマクロ経済としては誤解を招く考え方である理由は、高齢者の支出が現役世代の所得になるというフィードバック、そして労働生産性の向上がまったく考慮されていないことである。両者を考慮すると、将来の高齢化社会をそれほど恐れる必要はないことが分かる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

高齢化社会を考える上で、よくある間違いが次のような考え方である。

1990年には、65歳以上の高齢者一人を5.8人の現役世代で支えていた。

2015年には、2.3人で支えている。

そして、高齢者人口がピークとなる2040年には1.5人で支えることになり、社会保障を含む財政が崩壊するリスクが高い。

よく見かける高齢者を現役世代が担ぐお神輿の図が使われる。

ミクロの会計としては正しくとも、マクロ経済のロジックとしては明らかに間違った考え方である。

その間違った考え方が将来に対する過度の悲観論につながっているとすれば問題は根が深い。

では、なぜマクロ経済のロジックとして間違っているのだろうか。

まずは、分かりやすくするために、現役世代の実質消費水準を500、高齢者は400とする(家計調査でも高齢者の実質消費水準は現役世代の約8割と示されている)。

現役世代は所得を得ながら消費するが、高齢者は所得がない中で現役世代の負担による年金で消費するとする。

1990年には、高齢者一人と現役世代が5.8人で、合計実質消費水準は3300となる。

この合計実質消費水準は現役世代の実質所得になるため、一人あたりの実質所得水準は569となる。

同じように、2015年は674、2040年は767となる。

言い換えれば、高齢者を支えている現役世代の力は、1990年に対して、2015年は1.18倍、2040年は1.35倍になっていることを意味する。

実質所得増加の背景である労働生産性がこのペースに沿う形で向上することができれば、高齢化が進展しても、現役世代の負担は変わらないことになる。

高齢者と現役世代ともに、同じ実質消費水準を維持することができるからだ。

もし労働生産性の向上が弱ければ、実質消費水準を維持するためには、海外からの力が必要となり、国際経常収支は黒字から赤字に転じ、海外からのファイナンスが必要となる。

一方、労働生産性の向上が強ければ、現役世代は実質消費水準を増加させていくことができることになる。

2015年から2040年には労働生産性が年率+0.5%上昇していけば、負担に変化がない状態となる。

現在の労働生産性は年率で既に年率+0.7%のペースで改善を続けている。

このペースの改善を続けていけば、将来の高齢化社会をそれほど恐れる必要はないだろう。

労働生産性を持続的に向上させるには投資により資本蓄積が必要となる。

AI、IoT、ロボティクス、ビッグデータなどの産業革命が起こりつつあることは追い風であろう。

一方、過度の悲観論で財政緊縮を強く推し進め、内需縮小とデフレの状態を放置してしまうと、投資意欲が衰え、労働生産性の向上が弱くなってしまうリスクとなる。

お神輿の図がマクロ経済のロジックとしては誤解を招く考え方である理由は、高齢者の支出が現役世代の所得になるというフィードバック、そして労働生産性の向上がまったく考慮されていないことである。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司