<少子化が止まらない>

 最新の人口動態統計と出生動向基本調査の結果が公表された。依然として少子化は現在進行形ですすんでおり、まだ下げ止まる気配を見せていない。人口動態統計によると、2002年に生まれた子どもの数は、前年より1万7,000人あまり少ない約115万人と過去最少になった。母親の年齢別に出生数をみると、晩婚化・晩産化の進行を反映して、特に20代後半で出生数の低下が進んでいる。合計特殊出生率(15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、1人の女性が一生の間に生むと仮定した場合の平均子ども数)も前年の1.33をさらに下回り、1.32と過去最低になった(図表1)。人口置換水準(現在の人口を維持するのに必要な水準)の合計特殊出生率は約2.1である。70年代後半以降、合計特殊出生率が人口置換水準を下回る状態が続いているが、その差は開く一方である。

 また、2002年の出生動向基本調査の結婚と出産に関する全国調査(夫婦調査)では、夫婦の出生数を調べている。その結果をみると、ほぼ子どもを生み終えた結婚持続期間15~19年の夫婦の平均出生児数(完結出生児数)は約2.2人で過去30年間ほぼ安定しているものの、まだ子どもを生み終えていない夫婦についてみると、結婚後5~14年の夫婦で平均子ども数が低下している(図表2)。また、結婚後0~14年の夫婦では、予定子ども数(実際に持つつもりの子ども数)の低下傾向がみられている。結婚後0~4年の夫婦の予定子ども数は1.99人で、調査開始以来はじめて2人を下回った。少子化の主な要因は晩婚化、すなわち<結婚>に問題があるといわれてきたが、このように既に結婚したカップルの予定子ども数も低下してきている。少子化が一層進行する可能性がある新たなステージに入ったといえるだろう。

本格的な少子化対策が動き出す
(画像=第一生命経済研究所)

<見えてきた少子化対策の鍵>

 このように一層すすみつつある少子化であるが、少子化は止まらないものと悲観するのではなく、どこに問題があり、どういう対策をとっていけばそれを食い止められるかということを冷静に判断していくことが必要であろう。そうした視点でみた場合、本調査結果の中では、特に次の点が注目される。

 第1に、結婚持続期間が短い夫婦-すなわち若い夫婦で、予定子ども数が減少している問題があげられる。今後の少子化対策の最大のターゲットは、年齢的には子どもを生む余地が大きいにもかかわらず、予定子ども数が少ないこうした若い世代である。この世代では、子育てや教育にお金がかかりすぎるという経済的な理由から、理想とする子ども数を生めないという意見が極めて多い(図表3)。この背景には、特に若年層における雇用環境の悪化や雇用の将来見通しが不透明になっていることも影響を与えているとみられる。

 第2に、妻の就業継続は、少子化に影響を及ぼしていないということがあげられる。結婚持続期間別に、妻の就業経歴と夫婦の平均出生子ども数との関係をみると、就業継続型、再就職型、専業主婦型の区分にかかわらず子ども数の水準はほぼ同じである(図表4)。このことから、女性が就業継続したといっても、少子化がさらにすすむことはないといえる。

 したがって、第1と第2の点をふまえると、これからの少子化対策の方向性としては、女性が、理想としては男女とも、子育てをしながら就業できる環境をつくっていくことであることが示唆される。女性の就業継続率を上昇させる、すなわち夫婦が共に働き続けるようにすれば、収入は増加・安定するため、子育てや教育における経済的な問題は解消ないしは軽減することができる。そうすれば、特に生み控えている若年世代の経済的な障壁をとり払うことが可能となり、少子化対策につながるという効果が期待される。

本格的な少子化対策が動き出す
(画像=第一生命経済研究所)
本格的な少子化対策が動き出す
(画像=第一生命経済研究所)

<次世代育成支援へ>

 今国会では、「少子化社会対策基本法」および「次世代育成支援対策推進法」が成立した。同基本法は、「子どもを生み、育てる者が真に誇りと喜びを感じることのできる社会」の実現をめざし、雇用環境の整備や保育サービスの充実等の基本的施策を規定している。一方、次世代育成支援対策推進法は、同基本法の施策を具体化するものであり、自治体と従業員数300人を超える企業に2005年度から10年間の子育て支援の具体的な行動計画の策定を義務づけている。また、保育所に入れない待機児童を減らすための計画作りを市町村に求める改正児童福祉法も成立した。

 中でも就業環境整備という点でみると、自治体のみならず企業にも子育て支援の具体的な行動計画の策定を義務づけた次世代育成支援対策推進法は特徴的である。同法のもとで従業員数300人を超える企業は、企業行動計画において、①計画期間、 ②次世代育成支援対策の実施により達成しようとする目標、③実施しようとする次世代育成支援対策の内容及びその実施時期を定める義務が生じる。具体的には、企業は、次にあげるような具体的な施策とその目標数値を行動計画に盛り込むことが求められる。例えば、妊娠・出産期の従業員に対する配慮を一層すすめるために、企業内における母性健康管理についての環境の整備や子どもの出生時の父親の休暇取得の促進等を行動計画に盛り込む必要が出てくる。また、子育てと仕事が両立できる環境を整備するために、育児休業を取りやすく職場復帰しやすい環境の整備や再雇用制度の導入等も求められるようになる。その他、子育て期間における従業員が子どもと過ごす時間を拡大するために残業時間の縮減や、多様な働き方を支援するために短時間正社員制度の導入等を、それぞれ目標数値とともに行動計画に盛り込むことも求められるようになる。

 先の調査結果をふまえると、少子化対策の方向性としては、夫婦が子育てをしながら就業できる環境をつくっていくことであるとみられる。上記の法律は、それを今後強力にすすめる内容になっている。少子化対策をすすめる上での法制面の整備は充実したといえるだろう。少子化対策は、いよいよ本格的に企業までも巻き込むかたちですすみはじめた。(提供:第一生命経済研究所

研究開発室 松田 茂樹