<不安定化する若者の雇用>
経済の低迷により、雇用情勢は依然厳しい状況が続いている。なかでも特に深刻なのが、若者の雇用情勢である。図表1のように、全年齢平均の完全失業率は02年値で5.4%であるが、若年層では10代後半の12.8%をはじめ、いずれも平均より大幅に高い水準となっている。
若者の雇用が不安定化している状況は、失業率の上昇という現象だけでなく、就労形態の変化からもみえてくる。若い世代では、いわゆるフリーターなど、常用雇用以外の形で働く者が増加している。この現象は、働き方や生き方に自由を求める若者たちの意識の変化だけで説明できるものではない。経営環境が厳しさを増すなかで、企業が新規採用を抑制したり、人件費の安いパート・アルバイトや即戦力となる中途採用者を求める姿勢を強めていること、あるいはパート・アルバイトに労働力を頼るサービス産業の割合が高まっていることなど、社会構造全体の変化とも深く関連している。
<社会問題としての若年雇用問題>
雇用情勢の悪化というと、リストラや就職難に悩む中高年世代が目に浮かぶ。もちろん、家族の生活を中心的に支えている中高年世代の雇用問題が、大きな社会問題であることは間違いない。一方で、若者の雇用問題は、短期的には親などの家族により当面の生活が守られるため、中高年世代に比べてすぐには表面化しにくいという特徴がある。
若年雇用の不安定化は、中長期的にみた場合、若い世代が継続的に職業能力を高める機会を得られないという大きな問題につながる。また、少子化の主な要因として若者の晩婚化が指摘されて久しいが、未婚期に収入や職業が安定しなければ、若者が結婚や子育てを含めた生活設計を行うことはいっそう困難になる。すなわち、若い世代の職業的自立が難しくなることは、社会保障システムの不安定化など、社会経済全体にかかわる問題にも結びついていく。
平成15年度の国民生活白書は若年雇用問題を特集し、いわゆるフリーターや自立しない若者の増加を一方的に批判する見方に対し、雇用情勢の悪化など、若い世代をとりまく経済的・社会的状況に目を向けるべきであると指摘した。白書は、労働者としても、大人社会の一員としても相対的に未熟な若い世代が、停滞する社会経済のしわ寄せを受けている面があるということだけでなく、若者の就労生活の不安定化が将来的には社会経済全体を揺るがす大きな社会問題であることを改めて問題提起したといえる。
<若者自立・戦略プラン>
若者の失業問題が早くから顕在化していた欧米に比べて、日本の若者の雇用情勢はこれまで比較的良好な状況にあった。しかし、ここにきて政府もようやく危機感を強め、若者の職業的自立支援を重要政策課題の1つに位置づけようという動きが本格化している。経済産業省、厚生労働省、文部科学省、内閣府が連名で6月に発表した「若者自立・挑戦プラン」では、悪化する若者の雇用情勢を国家的課題として明確に位置づけ、教育、雇用、産業政策の連携と、政府、地方自治体、教育界、産業界等の協力により総合的な対策を進めることの必要性が記されている。このプランでは、ドイツを参考にした「日本版デュアルシステム」の導入や、「通称:ジョブカフェ」の設置などの具体的施策が発表された(図表2)。前者は、週3日を企業実習、週2日を教育訓練などの組み合わせで、若者の実践的な職業能力を育成しようとする実務・教育連結型の人材育成システムである。また、後者は、若者に対する職業や能力開発に関する情報提供、就職支援サービス等を、地域レベルで行うワンストップ型のセンターをイメージしている。
若者の職業的自立を促進するという方向性は、同月に発表された、経済財政諮問会議の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003(骨太の方針・第三弾)」にも盛り込まれている。先の「若者自立・戦略プラン」については、具体的な数値目標が明記されていない、省庁間の役割分担が不明瞭、といった問題点も指摘されている。しかし、若者の職業的自立支援を国家政策として位置づける姿勢が明確になったことは、日本の青年政策が大きな転換期を迎えたことを示している。
<批判から支援へ>
日本労働研究機構が実施した今年1月の「第11回JIL労働政策フォーラム」は、「欧州は若年失業・無業とどう戦ってきたか-わが国の若者政策へのインプリケーション-」をテーマに行われた。このフォーラムは、80年代以降、雇用政策をはじめとする青年政策を行ってきたイギリスやスウェーデンの経験から、日本が学ぶことを目的に開催された。
この会場で、複数のパネリストが引用したのが、「Youth is a resource, not a problem.(若者を『問題』としてみるのではなく、『資源』としてみる方がより有益である)」という言葉である。スウェーデンの教訓ともいわれるこの言葉が示しているのは、甘えている、自立していないなどと若者を批判するだけでは事態は変わらず、自立できない若者の増加という深刻な問題に社会が危機感をもち、社会を支える次世代として、若者の自立支援に取り組むべきであるという姿勢である。この教訓に学び、フリーターやパラサイト・シングルなど、自立しない若者を批判する見方から、支援へと視点の転換がはかられたことは、日本の青年政策における第一のステップといってよい。そして、6月以降、職業的自立の促進を目的に雇用政策と教育政策の連携を主な柱として動き始めた日本の青年政策は、第二の段階に突入したといえる。
<今後の青年政策に求められる視点>
子どもや若者をとりまく現代社会の状況は、日常生活のさまざまな局面で、子どもと大人の境界を次第に曖昧にしている。家族や教育分野における最近の研究は、彼らをとりまく社会的・経済的状況が大きく変化し、青年期から成人期への移行期が長期化していることや、学校から職業生活への移行の過程やパターンが複雑化していることを指摘している。
職業的自立支援は、若い世代が将来の生活に希望をもち、生活設計を前向きに行っていくための基本条件ともいえる。なぜなら青年期は、結婚や子育て、親元からの離家など、若者が新しい家族や世帯を形成し始める時期でもあるからである。若者の安定就労や自立した生活の促進は、厚生労働省が昨年発表した「少子化対策プラスワン」の1つにも位置づけられている。将来親となる「小さな大人」世代の生活安定や自立を支援することは、中長期的な次世代育成支援にもつながっていく。
イギリスやスウェーデンの経験は、青年政策には、就労、教育、居住、家族など生活の各分野にわたる支援を横断的に行う姿勢と、支援策の企画・実施過程に若い世代を参加させることが重要であることを示している。若年世代の生活を総合的に支援するために、日本の青年政策においても、次の段階では、雇用政策と教育政策の連携に加えて、各分野の政策情報を横断的に提供できるようなサービス体制づくりと、若者自身をその企画・決定・運営プロセスに取り込む姿勢が求められるであろう。(提供:第一生命経済研究所)
研究開発室 北村 安樹子