第一生命保険相互会社( 社長 森田富治郎) のシンクタンク、第一生命経済研究所(社長 石嶺 幸男)では、民間企業の正社員である30~54 歳までの有配偶男性432 名を対象に、標記についてのアンケート調査を実施いたしました。

 このほど、その結果がまとまりましたので、ご報告いたします。

目次

調査目的と調査の枠組み
アンケート調査の実施概要
【ストレス反応の測定(抑うつ症状測定を用いて)】
【仕事上のストレス源の現状分析】
【仕事上のストレス源とストレス反応との関係】
【配偶者・親族・友人のネットワーク(ストレス対処資源①)】
【職場のネットワーク(ストレス対処資源②)】
【ストレス反応の規定要因についての分析結果(まとめ)】
【研究員のコメント】

*この冊子は、当研究所発行の調査月報、「ライフデザインレポート」の5月号の要約です。「ライフデザインレポート」を5月号ご希望の方は、右記の広報担当までご連絡ください。

調査目的と調査の枠組み

 近年、男性就労者のメンタルヘルス(心の健康)が悪化しています。本調査では、仕事上のどのような要因がメンタルヘルスを悪化させ、どのようなストレス対処資源があればそれを緩和できるかについて調べてみました。

 本調査の枠組みは、下図のとおりです。ストレス研究の理論では、「ストレス源」とそれが心身に与えるダメージを和らげる「ストレス対処資源」のバランスが崩れたときに、抑うつ症状などの「ストレス反応」が引き起こされると考えます。これをもとに、本調査では、次の2点を解明することを目指しました。

① 仕事上のどのような要因(ストレス源)が、ストレス反応を高めているか。なかでも、本調査では、現在問題になっている「会社業績の低迷」「雇用制度(終身雇用、年功序列)の変容」「労働時間」という仕事上の要因が、ストレス反応に与えている影響を明らかにする。

② どのようなストレス対処資源が、ストレス源の影響を和らげて、ストレス反応を改善させることができるか。具体的な資源としては、職場ネットワーク、社内のカウンセリング、配偶者からのサポート、親族や友人のネットワークという<対人関係資源>の効果を取り上げる。

男性サラリーマンの 「仕事上のストレス要因とその対処資源」の分析
(画像=第一生命経済研究所)

アンケート調査の実施概要

1. 調査対象  民間企業の正社員である30~54 歳までの有配偶男性432 名(第一生命経済研究所の生活調査モニター)

2. 実施時期 2002 年11 月

3. 調査方法 質問紙郵送調査法

4. 回答者の属性
回答者の基本属性  (単位:%)

男性サラリーマンの 「仕事上のストレス要因とその対処資源」の分析
(画像=第一生命経済研究所)



ストレス反応の測定(抑うつ症状測定を用いて)

男性サラリーマンの 「仕事上のストレス要因とその対処資源」の分析
(画像=第一生命経済研究所)

 ストレス反応の度合いを計るために、今回、抑うつ症状に注目して心理的鬱状態を測定する指標であるCED-D(Center for Epidemiological Studies Depression Scale)を用いた質問をしてみました。

 具体的には、過去1週間に「ふだんは何でもないことをわずらわしいと感じたこと」など10 項目について、「まったくなかった」(1点)から「ほとんど毎日」(4点)までの4段階をそれぞれ回答してもらいました(図表1)。

 それらの回答を合計した結果、平均値は16.2 点となりました(得点分布は10~40 点)。

 なお、次ページ以降のストレス反応については、この数値を用いています。



仕事上のストレス源の現状分析

① 今後の業績の展望が「悪くなりそう」との回答は42.2%。
② 勤務先が「終身雇用である」と思う割合は7割を超える。

男性サラリーマンの 「仕事上のストレス要因とその対処資源」の分析
(画像=第一生命経済研究所)

 仕事上のストレス源とみられる会社業績(勤め先の現在の業績、昨年と比較した業績の変化、今後の業績の展望)、雇用制度(終身雇用と年功序列の状況)、労働時間の現状について聞いてみました。

 その結果、昨今の景気低迷を反映して、現在の業績が悪い(「悪い」+「どちらかといえば悪い」)と答えた割合が約60%にも達しました。企業業績の動向では、昨年と比較した業績の変化が「悪くなった」と答えた割合が46.2%、さらに今後の業績の展望が「悪くなりそう」と答えた割合は42.2%にのぼります。企業の現在の業績は悪く、かつ下降気味であるというのが現状のようです。

 また、雇用制度については、終身雇用である(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」)割合は70%以上であり、調査対象者の特徴として、業績が悪い割には比較的雇用は安定しているといえます。しかし、年功序列である(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」)割合は半数を切っています。さらに、労働時間(通勤時間を含む)は平均で1日11時間で、約3人に1人は1日12 時間以上という結果になりました。



仕事上のストレス源とストレス反応との関係

① ストレス反応に最も高い相関があるのは「今後の業績の展望」
② 勤務先が終身雇用であるか、ないかはストレス反応と関連は薄い。

男性サラリーマンの 「仕事上のストレス要因とその対処資源」の分析
(画像=第一生命経済研究所)

 まず、ストレス反応と仕事上のストレス源との関連をみるために、両者の相関係数を分析してみました。

 この結果、ストレス反応と高い相関がある仕事上のストレス源は、「現在の業績」と「今後の業績の展望」でした。なかでも、相関係数の大きさから、「今後の業績の展望」の影響が最も大きいといえます。

 「昨年と比較した業績」と「労働時間」も抑うつ症状と関連はありますが、その影響は弱いようです。また、「終身雇用」や「年功序列」とストレス反応の間には、有意な関連はみられませんでした



配偶者・親族・友人のネットワーク(ストレス対処資源①)

① 配偶者からの情緒面のサポートはストレス反応を低下させる。
② 親族ネットワークはその規模が多くなれば、ストレス反応は低下する。

男性サラリーマンの 「仕事上のストレス要因とその対処資源」の分析
(画像=第一生命経済研究所)

 職場外のストレス対処資源の第一は、家庭における配偶者からのサポート力といえます。そこで、配偶者における情緒面のサポートについて、回答者本人と配偶者との関係が、“心配ごとや悩みごとを聞いてくれる”“能力や努力を高く評価してくれる”“助言やアドバイスをしてくれる”の3項目のそれぞれにどの程度あてはまるかを尋ねてみました。

 その結果、各項目について「あてはまる」または「どちらかといえばあてはまる」と回答した人ほど、ストレス反応は低下しました(図表略)。

 職場外のストレス対処資源の第二は、親族*1や友人のネットワークといえます。そこで、“日ごろから何かと頼りにしたり、親しくしている”親族と友人の数を尋ねてみました。その結果、親族ネットワークは平均4.58 人、友人ネットワークは平均4.29 人となりました(図表4)。これらをストレス反応との関連で調べてみた結果、親族ネットワークの規模(=人数)が多ければ、ストレス反応は低下することがわかりました。一方、友人ネットワークについては、ストレス反応を低下させる効果はあまりみられませんでした。

*1 アンケート設問では“別居している自分方・配偶者方の親族(親・きょうだいを含む)“としている



職場のネットワーク(ストレス対処資源②)

① 緊密な職場ネットワークは、ストレス反応を最も低下させる。
② 終身雇用制度は、緊密な職場ネットワーク作りに大きく関係する。

男性サラリーマンの 「仕事上のストレス要因とその対処資源」の分析
(画像=第一生命経済研究所)

 ストレス対処資源の二つ目として職場ネットワークがあげられます。そこで、この職場ネットワークをみるために過去半年間に“同じ勤め先で、重要なことについて話をしたり、意見交換をした人”に当てはまる人を5人まであげてもらい、彼らの年齢、性別、部署、上司/同僚/部下の区分について尋ねてみました。

 さらに、あげられた各個人の間の交流を、「親しく交流している」「親しくはないが面識はある」「互いに交流はない」の区分も聞いて、その密度を調べました。これらをもとに、職場ネットワークのかたちをとらえる規模(=人数)、構成(同年代割合、同性割合、同部署割合、同僚割合)、密度を集計しました(図表5)。

 その結果、職場ネットワークの規模は、全体平均で3.5 人でした。その構成についてみると、同年代割合は43.7%で、50 代でその割合が高まります。同性(=男性)割合は90.2%であり、ほとんどは男性同士のネットワークのようです。同部署割合は72.4%と高く、日ごろの仕事上の相談や意見交換は、同じ部署内で行うことが多い様子がうかがえます。50代や管理職のネットワークでは、同部署割合が低いのは、部門間をまたがった業務の調整などを担っているためとみられます。また、密度は、若年層で高くなっており、若い層ほど、緊密なネットワークを保有しているといえます。

 上記のデータを分析して、ストレス反応との関連を調べてみた結果、職場ネットワークの密度が高い、すなわち緊密なネットワークを築いていると、ネットワークのメンバーがサポートしてくれるため、ストレス反応は低下します(図表略)。

 しかし、職場ネットワークの規模や構成はストレス反応には関係していないことも明らかになりました。

 また、今回の分析でストレス反応と直接の関連が低いとされた終身雇用制度は、緊密な職場ネットワークを育むうえで、大きく関連があり、長時間労働や過度の会社行事も緊密な職場ネットワークを損なうことがわかりました(図表略)。



ストレス反応の規定要因についての分析結果(まとめ)

男性サラリーマンの 「仕事上のストレス要因とその対処資源」の分析
(画像=第一生命経済研究所)

 今回、近年男性就労者のメンタルヘルスを悪化させている直接の要因として最大のものは、勤め先の業績の将来展望が悪いことであることが明らかになりました。確かに、「現在の業績」も悪ければストレス反応は高まりますが、「現在の業績」が悪い企業では「今後の業績」の展望も悪いため、その結果ストレス反応が高まるという因果連鎖が生じていることがわかりました。現在よりも将来展望の方が、働く者にとってはより重要な問題になっているようです。

 一方、男性就労者が持っている有効なストレス対処資源は、職場内では「職場ネットワーク」、職場外では「配偶者からのサポート」と「親族ネットワーク」と考えられます。なかでも、「職場ネットワーク」は最大のストレス対処資源であることがわかりました。

 また、「終身雇用」や「年功序列」の変容がメンタルヘルスを悪化させていると言われていますが、それらは直接ストレス反応を高める要因になっていないようです。ただし、終身雇用制度が崩れると緊密な職場ネットワークは築きにくくなることになります。その結果、社員のストレス反応は高くなるので、終身雇用制度の変容は間接的にストレス反応を高める要因となっているようです。



研究員のコメント

 現在、男性就労者のメンタルヘルスの悪化が、社会問題になっています。本調査では、その背景要因と対処方法を探りました。

 注目される結果の第一は、現在男性就労者にとって最大のストレス源となっているのは会社業績の悪化、中でも「今後の業績展望」の悪化であることが明らかになったことです。今の業績は悪いかどうか以上に、会社から力強い将来展望や経営ビジョンが示されているか否かが、働く者にとってはより重要な問題のようです。その他に、終身雇用制度の崩壊と長時間労働は、ストレス対処資源である職場ネットワークを弱めることで、ストレス反応を高める間接的な要因になっていることもわかりました。

 注目される結果の第二は、「職場ネットワーク」の高いサポート効果です。男性就労者がもっているストレス対処資源には様々なものがありますが、そのうち最大のものは、日ごろ仕事上の相談や意見交換をする職場のネットワーク(=職場の仲間との人間関係)です。職場ネットワークが緊密であると、強いサポートを受けることができ、ストレス反応は和らげられます。専門的には、これは緊密な職場ネットワークの「強い紐帯の力」がもたらす効果といいます。

 職場ネットワークを扱った従来の調査は、主にその「弱い紐帯の力」に注目してきました。すなわち、「疎(=緊密でない)なネットワーク」を築いた方が、色々な人から情報やチャンスを獲得することができて、昇進・昇格などの人事面などで有利になるか否かという問題を調査してきました。これに対して、本調査ではネットワークの「強い紐帯の力」に注目して、「緊密なネットワーク」を築くことがストレスなどの情緒面で高いサポート効果を発揮することが明らかになりました。

 その緊密な職場ネットワークは、日本型雇用の特徴といわれた終身雇用が育むことがわかりました。終身雇用制度の最大の目的は長期間にわたる社員の能力開発にありますが、同時に終身雇用は緊密な職場ネットワークをつくり、組織内のストレスを緩和する効果も発揮しているようです。日本型雇用は崩れつつありますが、崩れ出してはじめて、隠されていた力の一端が見えるようになったのではないでしょうか。

 今回の調査結果から、企業側のストレス対策としては、労働時間の管理、職場ネットワークの醸成が重要であることが示唆されます。長労働時間は職場ネットワークを弱体化させて、結果としてストレス反応を高めます。また、業績が良いときには多少労働時間が長くても社員のストレス反応はあまり高まりませんが、業績が悪いときには長時間労働は直接ストレス反応を高める要因になります(図表は割愛)。さらに、緊密な職場ネットワークを築くことは、社員個々人のストレス対処力を高めることに寄与します。一方、就労者個々人についてみると、職場ネットワークを拡充させるとともに、職場以外のサポート関係の拡充が、対処方法としてあげられます。自分を支えてくれる仲間や家族の存在が、ストレスへの防波堤となるのです。(提供:第一生命経済研究所

副主任研究員 松田 茂樹

株式会社第一生命経済研究所
ライフデザイン研究本部
研究開発室広報担当/岸
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