<高齢者が求める施策>

 日本では、退職後も再就職を希望する人が少なくない。厚生労働省が高齢者に対し、60歳以上の高年齢者の就業を促進するために必要だと思う施策を聞いている(図表1)。その結果をみてみると、男女ともに多い回答は、「65歳程度までの継続雇用についての企業への働きかけ」(男性41.0%、女性33.6%、以下同)と「高年齢者対象の求人の掘り起こし」(40.4%、34.5%)となっている。ついで、「募集・採用における年齢差別の禁止」(27.7%、32.0%)の回答が多い。一方、回答が少なかったのは、「定年退職後の働き方についての講習の実施」や「能力開発・自己啓発に対する支援」、「起業・開業のための支援」である。このように、高齢者の自らによる起業や研修を受けることへの意欲は低く、定年前の仕事の継続を希望する傾向が強い。

<定年制の実態>

 それでは高齢者の希望に対し、企業側はどれほど実際に雇用延長を実施しているのだろうか。

 平成14年度の厚生労働省の『雇用管理調査』結果によると、定年制を定めている企業の割合は91.5%で、定年制を定めている企業のうち一律定年制を定めている企業割合が96.0%を占める。その定年年齢を60歳とする企業割合は90.3%となっており、65歳以上という企業は6.8%と少ない。

 ただし、一律定年制を定めている企業でも、勤務延長制度や再雇用制度を設けている場合がある。勤務延長制度のみを設けている企業割合が14.7%、再雇用制度のみを設けている企業割合が42.6%、両制度併用の企業割合が13.7%となっている(図表2)。

 勤務延長制度または再雇用制度を設ける企業は少なくない。しかし、『平成13年版高齢社会白書』によれば、一律定年制度採用企業を100%とすると、希望者全員が65歳まで雇用される企業はわずか16.1%に過ぎないということも示されており、現実は厳しい。

<起業や研修への支援>

 一方、就業を望む高齢者に就職への道を開くためには、継続雇用の努力を企業に求めるだけでなく、起業や研修を受けた後の再就職・転職という選択肢を充実させていくことも重要である。

 起業に関しては、平成11年から国民生活金融公庫の女性・中高年起業家資金や中小企業金融公庫の女性起業家、高齢者起業家支援資金などによって低利融資が受けられるようになった。

 研修については、厚生労働省管轄のシルバー人材センターや雇用・能力開発機構等が実施している。総務省の調べによると、雇用・能力開発機構の就職支援コースを修了した55歳以上の者の就職率について訓練科別にみると、常設科では41.4%であるのに対し、随時科では66.9%と高い(図表3)。その理由は、随時科は訓練希望者について希望職種を確認した上で、主として訓練生を従業員として採用する意志のある訓練委託先を開拓し、コース(訓練科)を開設するためである。このように随時科は効率的な就職支援であるといえるが、現在の雇用・能力開発機構の17あるセンターのうち6センターで未開設となっている。訓練生の数もまだまだ少ない。総務省も勧告しているが、厚生労働省はこうした就職支援コースの設置・充実に積極的に取り組むべきである。(提供:第一生命経済研究所

高齢者の再就職
(画像=第一生命経済研究所)
高齢者の再就職
(画像=第一生命経済研究所)
高齢者の再就職
(画像=第一生命経済研究所)

研究開発室 下開 千春