<過去最低を更新する合計特殊出生率>
出生率の低下が止まらない。人口動態統計によると、2001年におけるわが国の合計特殊出生率(15~49歳の女子の年齢別出生率を合計したもので、一人の女性が仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に産むとした場合の平均子ども数)は1.33と過去最低を更新した(図表1)。近年の出生率低下は、晩婚化・非婚化の進行と一夫婦あたりの出生数の減少によってもたらされている。
少子化の背景要因をめぐっては、これまでさまざまな議論がなされてきた。人口問題審議会の報告(1997年10月)によると、主な要因としては、育児の負担感、仕事と育児の両立の困難さ、結婚観・子育て観の変化などが指摘されている。
<増大する景気低迷の影響>
だが、ここに来て、長引く景気低迷の影響が大きくなってきている。こども未来財団が中小企業で働く者を対象に実施した調査結果によると、「子どもを養うには収入不足」と答えた者は、男性で54.3%、女性で42.0%に上っている(図表2)。既婚で子どもがいない人では、同58.3%、60.9%である。また、独身男女で、「結婚するには収入不足」と答えた割合も高い。図表は割愛するが、これを年収別にみると、400万円未満の者で「子どもを養うには収入不足」「結婚するには収入不足」と答えた割合が高くなっている。
また、自分にとって役に立つと考える子育て支援策として、「家族手当」や「保育費用の補助」をあげた割合も比較的高い(図表3)。子育てに関して、経済的な支援を求める声は多いといえるだろう。
中小企業が昨今の景気低迷の影響を強く受けていることを念頭に置くと、収入不足から結婚や出産が困難であると考えている者は少なくないとみられる。中小企業は雇用の大きな受け皿である。その従業員たちの結婚・出産の抑制が、社会全体の少子化に与えている影響は大きいと考えられる。
<求められる対策>
これまでの少子化をめぐる議論でも、教育をはじめとする各種の子育て費用の上昇や、女性が子育て期間に就業中断した際に失う費用(機会費用)の増加といった経済的な要因については指摘されてきた。だが、本稿で取り上げた要因はこれらとは質が異なり、結婚・子育てをする本人の収入不足という要因である。前掲の人口問題審議会の報告をはじめ、これまでの議論では、この要因に対する注目は低かったのではなかろうか。
景気が低迷しているとはいえ、日本は依然として経済大国である。だが、気づいてみたら、収入が足りなくて結婚・出産できないという者が少なくないという状況になりつつあることが危惧される。日本の経済力に照らして、望む者が結婚・子育てをすることができるというのは、社会に求められる福祉水準のひとつではないだろうか。先の経済的要因に対する何らかの社会的対策が求められているように思われる。(提供:第一生命経済研究所)
研究開発部 松田 茂樹